屑だったオレ
高校生による喫煙の描写がありますが、犯罪行為を助長している物ではありません。
オレは薄暗いリビングのソファの上で膝を抱えていた。判決を下される罪人さながらに色をなくした面持ちで親父が家に帰って来るのを待っていた。
一時間がまるで永遠の時のように重く感じた。
時計の秒針さえも、十三段の階段を上る足音のように聞こえて来る。
今オレは自分が犯した罪が、どれだけ取り返しのつかないことだったのかと言う罪悪感に苛まれていた。
鍵が差し込まれ、重々しい玄関のドアが開かれた時、オレは一体どんな顔をしていたか憶えていない。
ただ憶えているのは、家に帰って来たばかりの親父に、思い切りグーで殴られたことだけだ。
親父に殴られたのは、これが生まれて初めてだ。
今までどんなことがあっても、親父は決してオレに手を挙げることはなかった。
オレの体は広い部屋の隅へと吹き飛ばされた。
四つん這いになったオレは情けない事に、すべてを親父に委ねる事にした。いつものように。
「お、親父…オ、オレは一体どうしたら…」
あの少女だってもう、オレの顔さえ見たくもないだろうから。
オレの心のつぶやきが声となって出た。
「私は、今ほどお前が私の息子ではなかったらと思った事はない。尚。お前はあの子から光を奪ったんだ」
親父の言葉はオレを奈落の底へと突き落とした。オレが、あの子から? 光を奪った? オレの顔さえ見たくないんだろうからと思っていたオレの考えがどれだけ自分よがりで勝手だったか。
あの子は、もう見たくなくても見れないんだ。
オレはジンジンと痛む頬に手をやると、呵責に急き立てられた。
こんなロクデナシのオレにも、ミジンコほどの良心はあったらしい。
あの日が来るまでは、オレはどこにでもいるような、普通のバカな高校生だった。
ただ普通じゃないのは、オレの家が大がつくほどの金持ちだと言うことだけだ。
オレの名前は日高 尚
ショウ
日高財閥の一人息子。
生まれた時から、オレは周りの大人にチヤホヤされて来たドラ息子で。
昔から類は友を呼ぶって言うが、オレの仲間もオレと同じような上流階級の人間ばかり。ただ違うのは、オレは奴らを友とは思っていないだけだ。
部屋から見える景色は、事件が起こった『あの日』と同じように澄み切った青空が広がっている。
辺り一面が濃淡の桜色に色づいたあの日、オレが通う聖南十字学院では高校の入学式が行われた。
幼稚舎からずっとこの聖南十字学院(別名サザンクロス)で過ごして来たオレにとって、高校に入学しようが別にどうってことなかった。
ただ同じ敷地内にある建物に全てが揃っているだけだ。それこそ幼稚舎から大学院まで。
何処かの国のスローガンじゃねーが、ゆりかごから墓場までみたいな感じだな。
見慣れた教室には中学の頃と代わり映えのない顔ぶれ(クラスメイト)が揃う。
学校はどんなに金持ちの学校でも、教室は同じだ。
生徒の机があって、教壇があって、黒板がある。
ただ違うのはオレ達は黒板は使わない。
巨大なスクリーンに教師がスライドを使って授業を進めるだけだ。
《入学式を始めます。生徒の皆さんは講堂にお集まり下さい》
「かったりぃな」
中学を二週間前に卒業して、高校の校舎に来ても同じメンツしかいないんじゃな…。
雑誌やテレビでは高校生活がいかに素晴らしいかを語ってくれるが、何もかもが決められていて、何が夢の高校生活だ。
ふざけんなって。
一日中ずっと机に這いつくばらされて、くそ面白くもねー教師達の授業をただ延々六十分、ずーっと黙って聞かされるこっちの身にもなって考えてみろよ。
ありゃあ、拷問としか言いようがない。
勉強は学生の本分だ?
んなことは言われなくても分かってるさ。
それなら、もっと生徒が食らいつくような授業をしろよ。
ったくそれでなくても頭からつま先まで、がっちがちの校則に縛られたオレ達が、少しでも校則違反をしよう物なら、鬼の首を取ったかのように大げさに立ち回る教師達。
あいつらに文句を言えば、オレ達はお前たちの方が自由で羨ましいと言ってきやがる。
んなら替わってやっても良いんだぜ。
ただ、これからほぼ毎日のように繰り返される補習テスト、模擬テストがあるってこと、知ってんのか?
フン! 大人なんて勝手だ。
オレ達子供が通知表で少しでも悪い成績をとれば、すぐに文句を言って来る。少しでも大人に反論しようものなら、『こんな子に育てた覚えは無い』とまで言われる。
こっちだって、育ててくれとは言った覚えもなければ、頼んだ覚えもない。
逆にテストでいい成績を貰えば、褒めてもらえるのかと思いきや『これくらい出来て当たり前だ』と言われる。
半分子供で半分大人のオレ達を大人たちは扱いに拱いている。
何か突拍子もないような事をしようとすれば、子供のくせにと言いだす。
オレ達が大人の指示を仰げば、『あんたたちはもう大人なんだから、それくらい自分で考えなさい』と言って来る。
一体どうすれば良いんだよ。
高校に入ったらすぐに将来の事を決めろと言って来る。
オレ達はまだ、16年しか生きてないんだよ。
どうやって将来の事を考えろって言うんだ?
だれも答えなんかくれない。
これが本当の灰色の高校生活
ハイスクールライフ
ってやつだ。
それがこれから始まろうとしている。
やってらんねーよな。
いつもみたくポケットからタバコを…探す前に、他の奴らからタバコを一本貰うと、口にくわえた。
オレが立ち上がるとヤワな教師がオドオドしながらもオレに注意とやらをして来る。
「ひ!日高 尚君…が、学校での タバコは…や、やめるよ、ように…ひぃ!!」
オレが睨んだだけで逃げやがった。 仕方ねぇ…いつものことだからな…。
今さっきあのオドオドした教師から注意を受けたが、あの教師後で〆られるだろうな。
別にオレの目つきが鋭いわけじゃねえが、教師や他の生徒達がオレのことを怖がっているのは、オレが日高財閥の一人息子だからなんだろうな。
この学院の理事長がオレの叔父貴、校長がおれの叔母、そして有数の企業を束ねているのがオレの父親が会長として君臨する日高財閥ってことだ。
親父の日高雅俊に似て茶髪にトパーズの瞳をしているオレは、どこにいても目立つ。
それは良い意味でも悪い意味でもだ。
この茶髪も染めろとか言って来たから、初めは染めてやったさ。それに気を良くしたのか、教師達はオレが何もしなくても、自分の存在価値を見いだすためだけにオレに難癖をつけて、ことあるごとにオレを問題児扱いしてきた。
初めは大人しかったオレも、中学になった頃からぶち切れた。
それならご期待に添えましょうか!ってな。
他校生との喧嘩はもちろん、授業を抜け出しては同じような境遇の奴らとつるんでパチスロに通ったりした。
麻雀も。
初めはオレに対して威圧的だった教師達も、試験の成績が悪かったらオレを退学にさせるとか脅してきやがった。
出来るもんならやってみな、ってなってことで迎えたテスト結果。
オレはオール満点。
それ以来、教師陣はオレに対して何も言えなくなった。
成績さえ良ければ何をしても許されるんだからな。
内申書の事を言い出した教師もいたが、オレから「あんたも自分のクビの心配をするんだな」と言われれば、それでハイ、終了!
講堂へと続く道をクラスのやつらと一緒に行かされてた。
列の真後ろから歩いているオレから言わせてみれば、まさに兵隊だな。
いや…制服の上着が白いから…水兵か…。
にしても気味悪りー。
ちらりとすき抜けるような青空を校舎の窓ガラスから見た時、思ったのさ。なんでこんな天気の良い日にオレ達はモグラみたいにデカイ講堂の中に入んなきゃなんねーのか。
理由?
分かってるさ。
これから、オレ達の高校の入学式と言うありがたくもない、どっちかって言うとはた迷惑な式に強制参加させるためだ。
あーあ良い天気。
外イキテ~。
こんなことを考えてたのはオレだけではなかった。それを証明させるため、持っていた携帯で同じクラスのやつらに《フケヨウゼ》と言う立った一言の短いメールを一斉送信した。
これで何人かは集まるだろう。
ま、集まったとしてもいつもと同じメンツだろうがな。そんなことを考えてたらポケットの中の携帯が震え出した。
トイレに行くフリをして列から抜け出せば、後はオレ達の自由さ。
チラリと金色の携帯電話の液晶板を見れば、やっぱりな。いつもと同じ奴らからの返信。
《さっすが尚! オレも同じこと思ってたんだけどさ、言いだせなかったんだよな…》
これは宮田だ。こいつとは幼稚舎からクラスは一緒で自信なさそうにオレの後ろに隠れてたっけ。今はコバンザメに昇格したがな。調子の良さは昔からだな。
《やっぱり尚だよな~》
これは阿部。オレと同じニオイがする希有なヤツ。父親は国会議員で母親は弁護士。ステータスだけは高いが家族はコイツを要らないモノとして扱っている。優秀な兄貴と弟がいればどうしようもないな。
《こんな天気が良いのにさ~、オレ達モグラじゃねーっての》
これは美潮。コイツってば中学の時は生徒会長もやってた真面目人間だったが、両親のW不倫で壊れた。家に帰った時母親が寝室で他の男と寝ているのを見せつけられたとオレに愚痴って来た。
オレのメールを読んだ宮田達も同じこと考えてたらしい。
さすがはオレ達『幼稚舎からの腐れ縁』ってとこだな。
まあ、他の奴らにもメールは行っちまったが、チクりたければチクれば良いさ。後で千倍返しが待っているだけだしな。
上手いこと校舎を抜け出したオレ達。後は子供だって知っているこの有名私立の制服の上着を脱ぐと、締めていたタイを緩めて外せば…公立高校と同じの平々凡々の姿になる。
この悪目立ちする白いブレザーと言う特徴のある上着と学年ごとに色分けされているタイさえ外せば、どこの高校の生徒か分かるわけない。似たり寄ったりの服装になる。こうなれば、どこの学校の生徒かさえ言わなければ分かりやしない。
オレ日高 尚と宮田貴文、阿部 満、美潮 司 の4人は幼稚舎からの付き合いだ。
有名私立の幼稚舎から通えるオレ達は、政財界でも影響力がある家に生まれた。
所謂選ばれた人間ってやつだ。
学校だってオレ達が問題を起こそうが、オレ達を退学に出来るわけがない。
オレ達の親がタップリの寄付金を学校に払い続けてるからな。
学校も多少の事なら目を瞑ってくれる。
この日は退屈な高校の入学式をフケる事にした。
「なぁ~ 尚。始業式フケてどっかいかね?」
制服を駅のコインロッカににじこめば、後はオレ達の天下さ。
「あー? かったりーな。パチスロでも行くか」
このメンツで行けば、また楽勝だろう。
ま、生徒手帳さえ落とさなきゃな。
「尚、この間店員に見つかっておいだされたばっかじゃねーか」
美潮に痛い所をつかれたオレは、苦虫を潰した顔で二週間前の事を思い出した。
「そりゃ~、お前らが中学の生徒手帳を店ん中で落とすからだろうが」
チッ!
嫌な事を思い出させやがる。
あの時は、阿部が中学の生徒手帳をパチスロで落とした事から、オレ達がまだ中学生だと言う事が暴露てしまった。
当然学校にも通報が行ったが、オレ達はすでに卒業した身。
停学?
そんなわけない。
オレ達の行動など執事から聞いて知っていた親達が、先回りして高校に寄付金を収めてたから当然、学校側からはお咎めなし。
まあ、言いたいことがあっても言わせないけどさ。
あ、タバコ切らしてた。
「宮田、例のタバコ(あれ)持ってるだろ? 一本寄こせ」
オレは宮田に向かって手のひらを見せるとあいつも胸元のポケットをがさごそと探し出した。
今回のタバコは、オレ達が自家栽培させたマリファナの第一号だ。
「んー」
ダチの手からタバコの箱ごと奪うように放った来ると、急いで取り敢えず一本。
「火ーねーなー」
っかしーな。いつもなら制服のポケットに入れてるはずのライターが、この日に限ってない。
「ケッ! またババアか」
癒そうに鼻にシワを寄せるとギャーギャーと煩い母親
ババア
の顔を地面に思い浮かべたオレは、へっと唾をはいた。
「火くれ! 火だよ! 火!」
漸く一服出来たオレは可笑しくて笑い出した。
一度、ムーンさんで出していましたが、色々と加筆したり改稿して出す事にしました。




