Ep2 無敗の将軍
2015年4月21日
5時間目。昼食後の教室には、どこか気の抜けた空気が漂っていた。
窓の外からは体育の声が聞こえてくる。今僕たちは歴史の時間。
教師は教団の前にたち、黒板へ白いチョークを走らせた。
「さて今日は江戸幕府成立までの流れをやります。」
先生は教科書を開く。何人かの生徒は今にも寝そうだ。
だが僕は違った。戦国時代の授業だけは好きだった。
「徳川家康は戦国乱世を息抜き、最終的に天下を統一した人です。」
先生は黒板を軽く叩く。
「戦においても非常に優秀で、生涯ほぼ無敗だったことで知られています。唯一の敗北は三方原の戦いでしょうか」
僕の手が止まった。
ほぼ無敗。
何かがおかしい。
家康は強い。それは知っている。だが無敗ではない。
確かーー
気づけば手を上げていた。
「先生」
先生がこっちを見る。
「どうした?」
僕は言った。
「真田はどうなんですか?」
教室が静まり返る。先生は瞬きをした。
「、、、、真田?」
「はい。真田です」
教師は首を傾げる。
「誰のことだ?」
後ろの席から笑い声が聞こえた。
「また歴史ゲームの話じゃねw?」
「武将の名前とか詳しすぎだろw w」
笑い声がひろまる。
ただ僕は笑えなかった。
真田。
知っている。
絶対に知っている。
先生は教科書を捲る。
「家康が信濃と大阪で苦戦したと言う記録はある。」
僕は思わず身を乗り出した。
「ですが、」
先生は続ける。
「相手の名前はわかっていません。」
頭の中が真っ白になった。
わからない?
そんなはずがない。
「誰と戦ったんですか?」
先生は肩をすくめた。
「記録が残っていないんだ」
チャイムがなる。授業終了。
周囲の生徒は立ち上がり、授業の準備を始める。
だが僕だけは動けなかった。
何かがおかしい
何かが欠けている。
僕は教室を飛び出した。
階段を駆け降りる。
そしてポケットからスマホを取り出した。
検索欄を開く。
『真田幸村』
結果
『検索結果は見つかりませんでした』
眉を顰める。
誤字かもしれない
もう一度入力する。
『真田信繁』
結果は同じ。
『真田昌幸』
結果は同
『真田家』
結果は同じ
背筋に冷たいものが走る。
風が吹いた。
その瞬間だった。
スマホの画面が一瞬だけ乱れた。ノイズだろう。
砂嵐のような線。
密かに現れる文字。
『忘れるな』
僕は息を呑んだ。
その瞬間、文字は消えていた。
画面にはいつも通り、検索結果は見つからないとある。
僕は立ち尽くすことしかできなかった。
なぜだ。
僕だけが知っている。
そしてーー
なぜ、その言葉を見た瞬間。
どこか懐かしい気持ちになったのだろう。
その時はまだ知らなかった。
400年前に埋められていた箱のことも。
真田家を未来に残そうとした男たちのことも。
そして、自分自身がその物語と深く繋がっていることも。
第二章では、主人公が初めて「真田」という存在に違和感を抱く場面を描きました。
当たり前だと思っていた歴史に、小さな穴が空いていたら。
そして、その穴に自分だけが気づいてしまったら。
物語はここから大きく動き始めます。




