Ep1 敗者の名
歴史は勝者によって作られる。
そんな言葉を聞いたことがある。
だが、本当にそうだろうか。
勝者が歴史を書き、敗者が忘れられる。
もしそれが事実なら、私たちが知る歴史は真実なのだろうか。
名前を消された者たちは。
記録を焼かれた者たちは。
語られることのなかった者たちは。
本当に存在しなかったのだろうか。
この物語は、歴史の隙間に残された小さな違和感から始まる。
もしある日、誰もが知っているはずの名前が世界から消えていたら。
そして、そのことを自分だけが覚えていたら。
あなたは何を信じるだろうか。
慶長20年
大坂夏の陣の後。
徳川の陣。
戦は終わった。
豊臣は死んだ。
天下は家康のものとなった。
しかし空気は重たい
理由は一つ
真田幸村
わずか数千の兵で徳川軍を混乱に陥れた男。
家康は黙って報告書を読んでいる。
「敵将、真田信繁」
「徳川軍本陣まで肉薄」
「多数の戦死者」
家康の顔は暗い。
家臣が言う。
「されど打ち取りました。」
「勝ったのは我らです。」
家康は静かに首を振る。
「勝ったのか?」
沈黙。
家臣たちは答えれない。
確かに勝った。これからは徳川の時代。
しかし家康の頭にあったのは、これから語り継がれることは、豊臣滅亡ではない。徳川勝利ではない。負けると分かっていてもなお戦った、真田幸村の奮闘の話だろう。
家康は立ち上がる。
「消せ」
家臣たちが口を揃えていう
「は?」
家康は言う
「記録を」
「名を」
「血筋を」
「真田の全てをだ」
場が凍る。
「天下は徳川のものだ。敗者が語られてはならぬ。」
最後に家康はいう。
「これからの未来、その名を知らせぬようにせよ。」
同刻
信濃国。
ある城。
夜。
一人の男が城門の前に立っていた。
腰には刀。着物は泥と血。
「門を開けてくれ」
門番が槍を向ける。
「何者だ」
男は言う。
「我が主君幸村から渡されたものを届けに来た。門を開けてくれ。」
門番の表情が少し柔らかくなる。
「殿?」
門が開く。
男は城の奥へ進む。
男は柿の木の下に穴を掘っており、その穴の中に何かを埋めていた。
二つの箱があった。一つの箱は一枚の紙。墨で短く記載されている。
「忘れるな」
その下には六文銭。そしてもう一文
「名は消えても、事実は消えぬ」
これは戦の直前に真田幸村から託されたものだった。
「我らはこの戦さで死ぬだろう。それと同時に真田の名前は歴史から消されるだろう。もしそうなったらこれを未来に残せ。いつの日か必ず真実を探すものが現れる。」
男は一度文章を読んでから穴に埋めた。いつの日か見つけられることを信じて。
風が枝を揺らす。柿はそろそろ食べごろだろう。
その男の名前は、猿飛佐助。
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400年後、2015年4月21日長野県上田市
先生「徳川家康は生涯ほぼ無敗の武将として知られています」
僕 「先生真田はどうなんですか?」
先生「。。。真田?」
最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました。
この作品を書こうと思ったきっかけは、一つの疑問でした。
歴史上の人物は、本当に私たちが知っている通りの人だったのだろうか
歴史には多くの記録が残されています。
しかし、その一方で失われた記録も数え切れないほど存在します。
もし誰かが意図的に歴史を書き換えたら。
もし名前だけが消されたら。
私たちはそれに気づけるのだろうか。
もちろん、この作品はフィクションです。
実際の歴史や人物とは異なる描写も多くあります。
それでも、この物語を通して少しだけ歴史に興味を持ったり、教科書に載っていない人々へ思いを馳せてもらえたなら、作者としてこれ以上うれしいことはありません。
歴史は過去のものではありません。
今を生きる私たちが語り継ぐことで、初めて未来へ残っていくものだと思います。
そしてどこかで、忘れられた名前を探し続ける誰かがいることを願っています。




