第94話 麻酔学の、准教授
「こりゃまたたくさん借りてきたのう」
エコバッグにぎゅうぎゅう詰めで借りて来た本を前に、ばあちゃんはホクホク顔だ。本をまさぐり始めた。
「お、あったあった」
ばあちゃんは1冊の分厚いハードカバーをひょいっと持ち上げ、示す。
「”薬学入門”」
僕がタイトルを読み上げるとばあちゃんがニヤッとする。
「4人目の敵はこいつじゃ」
そう言って表紙の共著連名の1人を指で指し示す。僕と志成が顔を近づける。
「種田 秋人?」
2人揃って声を出した。巻末の共著経歴を開く。
”種田秋人。大阪医薬大学薬学研究センター准教授。専門は麻酔学。共著に「麻薬の効用」がある”
「え・・・と、36歳」
「若いじゃろ」
「まあね」
「おばあちゃん。もしかしてこのために図書館に行けって言ったんですか?」
「そうじゃ」
「まわりくどいなあ・・・」
ぶつぶつ言う僕にばあちゃんは、ははっ、と笑う。
「そう言うな。物事には順序があるんじゃ・・・その種田はな、こっちの薬科大で週一回非常勤の講師をしとる。そこでその「麻薬の効用」という自分の本をテキストにしとる」
「へえ・・・どんな授業なんだろ」
「安楽死じゃ」
「安楽死?」
志成が眉を顰めて訊き返す。
「そうじゃ。年寄りだけじゃないぞ。聞きようによっては若い者に麻薬を使って自死を促すようなことも言っとる」
「自死って自殺のことですか?」
「そうじゃ。極めて危険な男じゃ」
「分かった。じゃあ、薬科大にもう1回行けばいいんだね」
「いや。多忙な男じゃからの。薬科大では授業が終わったらとんぼ返りじゃ」
「じゃあ、どうすれば」
「大志と志成ちゃんとで大阪へ行ってくれんか」
「え? 大阪?」
「でも、アルバイトは・・・」
志成がやけに現実的な心配をする。
「大丈夫。1泊2日でけりがつく。バイトのシフト調整して行っておいで」
ばあちゃん。それ、ホント?




