第74話 きれいな女《ひと》だよね
「とりあえず、あっちの木陰に」
触れるのも失礼なので、”立てますか?” と促して涼しそうな芝生に座らせた。
「大志、どうしたの?」
志成が追い付いて来た。志成もいつものように親水公園でトレーニング中だ。
”今日は走るぞー!” と張り切っていただけあってまだまだ元気だ。
「いや、この人が急に倒れて。多分軽い熱中症だと思うんだけど」
「え? じゃあ冷やさないと」
志成が背負った小振りのデイパックから保冷剤を取り出し、花柄のハンカチを巻いて女の人に渡す。
「気休めですけど、おでこ、首筋、脇の下を冷やしてください」
「ありがとうございます」
女の人も素直に従う。
「志成、いつもそんなの持ってるの?」
「もちろん。わたしは大志のトレーナーでもあるんだから、万一に備えてるんだよ」
「へー。魔法のデイパックだね」
その女は少し落ち着いたらしいので、駐車場まで送ってあげることにした。
「わたしも行く」
「?」
志成もどうしてもついて来るというので、炎天下の駐車場まで3人で歩く。
「あそこです」
赤のコンパクトな外車が停めてある。
「すごい、アウディですね」
思わず口に出してしまった。
「すねかじりですよ。お恥ずかしいです」
シートにバスタオルを掛けて、汗がうつらないようにするのが女性らしい。
「本当にありがとうございました」
ウインドウを開けて挨拶し、その女は車を静かに出して行った。
「そういえば、喉乾いたな」
自分のペットボトルに口を付けようとすると、
「ダメ!」
志成が鋭い声を出す。
「こっち飲んで」
志成が自分のボトルを差し出す。
「何で?」
「だって・・・さっきあの女が口つけたやつでしょ」
「? 別にあの人、そんなに不潔な感じじゃなかったよ」
「そうじゃなくて・・・わたしが嫌なの」
何だかよく分からん。
「あの人、何歳くらいだろうね」
「さあ。車持ってたし、25~26ぐらいじゃない?」
「きれいな女だよね」
「? うーん。まあ、ショートカットで、きりっとして、ちょっとかっこいいかな」
「大志はショートカットが好きなの?」
「え? 特に意識したことないけど」
「ふうん。ならいい」
志成は右手で長い髪をくるくるしてる。こんな仕草は初めて見た。




