第63話 一市民
あらあらの事情を説明すると志成は
「一緒に行く」
と言ってきかなかった。
結局、本当について来た。
いわゆる、”取調室”、を想像していたのだけれども、僕たちが通されたのは応接スペースといった感じの小部屋だった。
圧迫感も特にないし。それに担当の種田さんはまだ20代後半ぐらいにしか見えないスーツを着た女性だったので、僕も志成も少しだけほっとした。
志成の同席もあっさりと認められた。
「問題は、”法律なんてどうでもいい”、という言葉なんです。先代さんがこう発言したのは間違いないですか?」
「はい。確かにそう言いました」
「先方はその言葉をもって、”脅迫された”、と主張しておられるんです」
「そう、ですか・・・」
「先方が、”今後も継続的に脅迫を受けるおそれがある”、として、対応のご依頼がありました。詳しい状況や事情をお話いただけませんか」
面倒なので、僕に備わって来ているらしい”能力”を使って、あの時のことを一字一句違いなく全く同じ文言で再現した。
「スマホのボイスレコーダー機能でも使われたんですか?」
「いえ。彼女たちの使う言葉や行動が余りにも衝撃だったので、深く印象に残っただけです」
志成が横から僕を援護する。
「わたしにはその女の子たちのいじめの方こそが大きな問題たと思いますけど・・・」
種田さんは冷静にリアクションする。
「”ふざけ”だったって言うんです。今、先代さんがおっしゃったような暴力的な言葉も使っていないし、蹴ったり暴力を振るったりもしてないっておっしゃるんです。小学生の子供たちが、”大人の男”、にすごまれて怖い思いをした、と保護者は主張しておられます」
子は親の鏡、か。
「警察は民事不介入です。ですが、先方が今後ストーカー行為の危険もあると訴えられるので、要請を受けた次第です。大変申し訳ないのですが」
「はい?」
「先代さんに警告文をお渡ししてよろしいでしょうか」
「警告文?」
「今後先方に接触したり脅迫行為を行わないこと、と先代さんに対して警告を発する内容です」
「そんな!」
志成が声を上げた。
「大志はいじめられていた女の子を助けたんですよ。それなのにどうして悪人みたいに扱われるんですか?」
「”いじめ”、なのか、”ふざけ”、なのかは私共では判断できないんです」
「じゃあ、この後、その女の子が”いじめ”を受けないように警察で見張ってあげてください」
「すみません、それは当事者からの要請がないとできないことなんです」
「仕返しが怖い側が要請できる訳ないじゃないですか!」
「・・・”いじめ”、という言葉だけで警察は動けないんです。”いじめ”をした人間を何の根拠もなく犯罪者扱いすることはできません。それが世のルールというものです」
「種田さん」
「はい」
僕は自然に言葉を発していた。
「種田さんはとても冷静に公正に僕たちを扱ってくださっています。でも、それ以上は言わないでください」
「はい?」
「彼女もいじめられていたんです」
種田さんは、はっ、とした顔になる。
「ごめんなさい」
警察官ではなく、一市民としての言葉だった。




