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タイシとシナリ  作者: @naka-motoo
第1章 1人目の敵
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第23話 地獄よりマシ・・・じゃない

「おい、退学ってどういうことだよ」

「退学じゃないよ。休学だよ」


 2組で話しかけてくれたのは樹だけだった。

 女子は僕を見る目が明らかに白いし、そういう取扱を受ける僕に他の男子も関わろうとしない。


「樹、僕と話さない方が良さそうだぞ」

「知るか。こいつら、仲間だと思ってたけど、こんなくだらない奴らだったのかよ!」


 昼休み、5組に志成を迎えに行こうとすると、樹もついて来た。嬉しいけれども、後のことが心配だ。

 5組に入るといたぶりはもうフリーだった。


「お?ダンナが来たよ」

「何か匂う?」

「どんな体位でやったの?」


 女子の一部はバカ笑いしている。聞くに堪えない、という顔の生徒もいるけれども、クラスの空気全体がスラムのようだ。彼女・彼らの何人かが東大に入って世の中の中枢に居座るのかと思うと鬱々とした気分になってくる。

 広田さんも、性根をむき出しにして罵りを吐く。


「先代君って、趣味悪いね」


 教室を出て3人で歩き始めると、ふっ、と後ろに誰かついて来ていることに気付いた。


「田中さん!?」


 彼女は黙って歩く。


「だめだよ。僕と一緒に居たら。田中さんまでやられるよ」

「ううん、いいの」


 校外に出てスーパーまで歩く。イートインでそれぞれの昼食を開いた。

 4人全員無言だったけれども、田中さんがぽつりとつぶやく。


「本当のこと、教えて」

「え?」

「だって、そんな訳ないもん!大志くんが加ノ上さんを妊娠させる訳ないもん!本当だったとしても、わたしは絶対認めない!」


 田中さんは突然涙を流し始めた。樹は迷った挙句に口に出した。


「田中さんって、大志のこと・・・」

「うん、ずっと好きだったよ、大志くんのこと。一年の時から」


 もう一度4人に沈黙が訪れる。

 信じてもらえるかどうかは分からないけれども、事実を伝えたい。それで田中さんの心が救われるのならば。けれども、”戦いのことについては他言するな”、とお告げで厳命があった。”戦い”、の核心に触れずにここ数日のことを説明するなど僕にできる芸当ではない。


「わたしが話すね」


 えっ、という感じでみんな志成の方を向く。

 田中さんは目を赤くしたまま志成の眼を見据える。志成の話は澱みがなかった。

 大志がいじめの相談に乗ってくれたことがきっかけで、DVを振るう父から母と自分を引き離してくれた、と語った。土曜日に加ノ上家で起こった出来事を時系列でほぼそのまま説明した。”戦い”、のことについては一切喋らずにこれだけのことを伝えている。僕が父を取り押さえたことも、シズルさんが警察に通報したことも核心に触れずに見事に伝えている。身を隠すためにシズルさんが県外に出、志成は先代家で面倒を見ることになったことも。

 嘘はついていない。しかも語っていること全てが事実だから当然なのだけれども、志成の口から出る一語一語は現実以上のリアリティがある。不思議だ。


「加ノ上さんが嘘をついてるようには見えないし、本当のことなんだと思う。でも、どうして大志くんまで休学しなきゃいけないの?加ノ上さんだけでいいじゃない」

「大志とわたしは一緒にいるって決めたから」

「何、それ?それにどうして大志くんのこと呼び捨てにしてるの?」

「大志、お前もちゃんと話してあげろよ。田中さんがかわいそうだ」

「大志くんは、加ノ上さんが好きなの?」

「・・・好きとか嫌いとかそういう事情じゃないよ」

「学校、続けて」

「・・・ごめん、それはできない」


 休学の手続きそのものは順調に進んだ。けれども、2組と5組での時間は苦しかった。

 僕は、まあいい。女子なのか、ホワイトボードや机に陰険な落書きがされてる程度だ。最初の1、2回は消したけれども、面倒くさくなったので、もうそのままにしてある。授業を始めようとした数学教師がホワイトボードを見てつい口に出してしまった。


「バックで百発百中?」


 どっ、とクラスが笑う。隠語と気付かずに読み上げてしまった彼は自分が馬鹿にされたように感じだのだろう。顔から耳たぶまで赤くしてうろたえながら言った。


「これは誰のことだ。関係者、消しなさい。先代!」


 普段生徒を絶対呼び捨てにしないくせに、”先代”、と声を荒げた。そうでもしないと自分の威厳を保てないと思ったのだろう。生徒たちは更に大笑いする。


「嫌、です」


 僕がそう言うと、ややざわつきが鎮まる。


「消しなさい」


 数学教師はもはや判断能力を失っている。もう一度言う。


「嫌です」


 彼はおとなしそうな女子に言いつける。


「三田さん、すみませんが消してください」

「え・・・わたしですか?」


 立ち上がりかけた三田さんを僕は制する。


「三田さんは消さなくてもいい」


 僕は教室の後方に目を遣る。

 僕自身自分の能力に気付き始めていた。


小山こやまさん、加藤かとうさん、かみさん。君らが消して」


 3人の女子が明らかに動揺する。


「何で私らが?」

「書いた人が消すのが一番すっきりする」

「私らじゃないんだけど」

「あの、”バックで百発百中”、って、いかにも小山さんらしい言い回しじゃない?」

「は?セクハラだよ」

「見てたんでしょ?」

「見てない、けど、そう訊くってことはやっぱり君たちだよね」


 僕にはどうやら他者の、”行為の残像”、が見える能力を授かりつつあるようだ。5組で誰が志成をいたぶっていたのか直感で大体分かった。それもこの能力の一部だったようだ。

 さっきはホワイトボードに、ふうっ、と小山さんたちの残像が見えた。


 がたっ、と小山さんが立ってずかずかとホワイトボードの前に進む。残りの2人も後に続き、3人で落書きをけした。


「小山さん、ありがとう」


 数学教師が張本人の3人に媚びたお礼を言う。

 この人は、駄目だ。


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