悼の章-5
ここから少し、作中の"七つの子"の本のストーリーダイジェストが続きます。
これは七人の子どもと狂ったお母さんのお話。
みんなどこかおかしいけれど、誰もが願ってしまうお話。
その家にはお父さんとお母さんがおりました。既に二人には六人の子どもがおりました。
一番年上のお兄さんとお転婆な年子の姉妹、その下にとても引っ込み思案の頭がいい女の子、無口で無愛想な双子の兄弟で六人です。
嬉しいことに、六人にはもう一人兄弟が生まれることになりました。
お父さんもお母さんも大喜びです。もうすぐ生まれます。ただ、お母さんは元々体が弱いので、予定の一週間ほど前からかかりつけの病院に入院しました。
その間に悲しいことが起こりました。お父さんが急な病気で死んでしまったのです。
子どもたちはお父さんを助けようといっぱいいっぱいがんばりましたが、あまりにも急だったので、助けることができませんでした。救急車も急いで呼びましたが、間に合いませんでした。
子どもたちは嘆き悲しみます。お父さんが死んじゃった。お父さんが死んじゃった。しかもお母さんはこのことをまだ知りません。お父さんのことが大好きだったお母さんに、果たしてこのことをどう伝えればいいのでしょう。
子どもたちはただただ泣くしかありませんでした。
無事に七人目を生んで帰ってきたお母さんに六人は泣く泣く説明しました。
お母さんは大変嘆きました。おいおい、おいおい、何日、何週間、何ヵ月と泣き続け、生まれたばかりの赤ん坊の世話も手につかぬほどでした。
子どもたちはお母さんが悲しいのが痛いほどわかったので、自分たちでお母さんの代わりに末っ子の面倒を見ます。
お母さんは何ヵ月、何年、と泣き続けました。
やがて、末っ子も大きくなり、学校に通うようになりました。
それでもまだ悲しみから抜け出せないお母さんを見て、兄弟たちは心を痛めます。
「お母さんはどうして泣いているの?」
一人、お父さんのことを知らない末っ子が言いました。
「お父さんが死んじゃったから泣いているんだよ」
一番年上の子が優しく説明しました。
「なんで? なんでお父さんが死ぬと悲しいの?」
「お父さんが優しくていいお父さんだったからだよ」
「いいお父さん? ぼくのお父さんっていいお父さんだったの?」
「そうだよ。お母さんだけじゃなくて、兄弟みんなが大好きだった、素敵なお父さんなんだよ」
上の子の説明に末っ子は目をきらきらとさせます。
「そんなお父さんなら、会ってみたい!」
末っ子が無邪気に言いました。他の六人は返答に困ります。
「お、お父さんはね、死んじゃったの。死んじゃったって、こ、ことは……もういないっていう、ことなの。もう、会えない……っていうことなの」
引っ込み思案の子がおどおどと伝えます。えー、と末っ子は不満そうな声を漏らしました。
「そんな、お兄ちゃんとお姉ちゃんたちばっかりずるい。ぼくはぼくの素敵なお父さんを知らないのに、みんなばっかり知っててずるい」
「そうは言ってもねぇ」
「死んじゃった人はもう会えないんだよ。蘇ったりしない限りね」
年子の姉妹が説明しながらぴんと人差し指で末っ子を小突きます。
「蘇らせればいいじゃん」
そう反論した末っ子に年子の姉妹の妹の方が軽くげんこつしました。
「お馬鹿。それができたらお母さんは泣いてない」
「そうだよ。死んじゃったら蘇ったりしないから、本当に二度と会えないから、悲しいんだよ」
「そうなんだ」
末っ子が納得した傍らで、ずっと沈黙を保っていた双子の兄の方がちょんと手を挙げた。
「どうしたの?」
年子の姉の方が問うと、双子の兄はぽそりと答えます。
「それ、できる」
「それって?」
「父さんを蘇らせるの、できるかもしれない」




