堰の章-4
「今日のお昼はカレーライス〜♪」
「ごはんほかほかカレーライス〜♪」
「みんな仲良くカレーライス〜♪」
「いんちょの美味しいカレーライス〜♪」
「あー、あー、しあわせ〜♪」
子どもたち即興の"カレーの歌"をルカも一緒に楽しげに歌う。その顔には笑顔が戻っていた。
「何? その適当な歌」
「"てきとー"じゃなくて"すなお"なのー。"すなお"はとってもいいことだって、いんちょ言ってたー。シラン兄"すなお"じゃないー。シラン兄悪い子ー」
「なっ!?」
「だよなー。女の子泣かすし」
「そうだぞ! 三ヶ月で十センチも伸びるなんてずるいぞ!」
「お前は何の話をしてるんだ」
シランは子どもたちにいじり倒されていた。そんな様子にルカはくすくすと微笑む。次第に歌に飽きたのか、子どもたちはルカから離れ、シランいじりへと"遊び"を移行した。
それを見計らって、ルカは部屋を出る。芳香の漂う方向へ歩みを進め、"給食室"に辿り着く。
その中では虹の瀬と職員が食事の準備をしていた。
「わたしも手伝います」
ルカが中に入っていくと、虹の瀬が驚いて出てくる。
「あらあら、ルカちゃん。子どもたちは?」
「シランとじゃれてます」
「ふふ、シランくんも久しぶりだったから、みんな嬉しいのね。もうすぐ出来上がるから、運ぶの手伝ってもらおうかな。待ってて」
虹の瀬は皿を用意した。職員の一人が虹の瀬に声をかけ、虹の瀬が頷く。出来上がったらしい。炊飯器のところの職員がごはんを、鍋のところにいた職員がカレーを、虹の瀬が福神漬けをといった手順で盛り付け、ルカはそれを運んだ。
そうしているうちにごーんごーんと"配膳室"の古時計が正午の鐘を鳴らす。配膳が終わる頃、ちょうどよくシランたちがやってきた。
「よっしゃあ、いっちばーん! シラン兄ちゃんに勝ったもんね!」
「何の勝負だ。ってか走ったら危ないぞ」
「ぼくルカ姉の隣に座るー」
「それはあたし!」
「あ、ずるいぞ、おれも混ぜろ」
席とり合戦が始まる。
「ルカは院長先生の隣。その隣は俺の特等席」
「えー? シラン兄ずるい」
シランの若干大人げない一言で子どもたちの仁義なき戦いに終止符が打たれる。矛先はまたしてもあっという間にシランの方へ。
誰もがシランへの不平不満をぶつける中、一人が躊躇いがちにシランの裾をちょんと引っ張る。
シランを見上げて小さく一言。
「シラン兄ちゃんの反対隣、わたし座ってもいい?」
「うん、いいよ。"すなお"は一番」
「わっ、抜け駆けずるいぞー! おれが兄ちゃんの隣に座るんだ」
「だからあたしが!」
「えー、ぼくだよぉ」
「あれ? お前たちはルカの隣がいいんじゃないっけ?」
「それとこれとは話が別!!」
異口同音に放たれた言葉に苦笑いをこぼすシラン。人気なのか不人気なのかわからない。気ままな子どもたちだ。
そんなこんなで席順が決まり、みんなでカレーライスを食べた。
「ん。やっぱりカレーは院長のが一番美味しい」
そんなシランのコメントに。
「シラン兄ちゃんそんなこと言っていいのー? 市瀬のおばちゃんに怒られるよー」
「いいか? 人間"すなお"が一番なんだよ」
「一番"すなお"じゃないお兄ちゃんが言うと説得力ない!」
何故か爆笑の渦に。
その傍らで虹の瀬の隣に座るルカは小さく話していた。
「そう、シオンくんは……」
「お葬式、まだなんです。塔藤のお父さんお母さんは逃げちゃって。やってくれる人もいない……」
涙目で語るルカに虹の瀬は静かに頷く。
「わかったわ。うちでやりましょう。シオンくんはうちの子でもあるから」
「ありがとうございます」
虹の瀬の温かい言葉にルカがまた涙を流す。
「あっ! またルカ姉泣いてる」
「またシラン兄ちゃん泣かしたー」
「濡れ衣だ。ずっとこっち向いて話してたよね!?」
「シラン兄隣に座ってるのに話しかけてくれないから、ルカ姉寂しくて泣いたんだよー」
「そ、そうなの……?」
自信をなくしたシランが恐る恐るルカを見る。普段よりも数段生き生きとした彼の表情にルカは笑って言った。
「違うの。院長先生のカレーはやっぱり美味しいなぁって、泣いてたんだよ」




