堰の章-5
シランはかなり子どもに"遊ばれている"。
なんというか、ものすごい舌戦を繰り広げていて、ルカは子どもたちの将来が少し心配になった。
それでも、子どもたちが楽しそうなので表情は和らいでいた。
自分が表に出していないつもりでも小さい子というのは敏感で、悲しみや寂しさといった感情にはよくよく反応する。シオンのことを言われ、動揺してしまったが、そのことが悪い影響をもたらさないだろうかと心配だった。けれど、この様子なら、大丈夫だろう。
今、シランと子どもたちは鬼ごっこを始めたところだ。
「シラン兄ちゃん鬼ね」
「じゃんけんとかじゃないの?」
「シラン兄ちゃんはお兄ちゃんなんだから、鬼くらい一番最初にやってくらさい」
「それ院長先生に言われるならわかるけど、年下のやつに言われんのなんか屈辱」
「シランおにいだー!!」
「わー、逃げろー!!」
「おいこら待て!」
「お兄ちゃん、十数えてから」
「あ、はい。いーち、にい……」
なんだかんだ言いつつノリのいいシランにルカが笑みをこぼす。その傍らで虹の瀬も笑った。
「やっぱりシランくんが来ると違うわね」
「そうですね」
「ルカちゃんも来てくれたから、みんな尚更元気よ」
「そうなんですか?」
ええ、と虹の瀬は大きく頷く。
「みんな、ルカちゃんのこと大好きなのよ? ルカちゃんが双見さんに引き取られた後、大号泣しちゃった子がいっぱいいたんだから。残ってるのはまだ学校に通う年じゃない子の方が多いでしょう? だから尚更ね」
「シランの方がみんななついているというか」
「みんなにとって、シランくんは遊んでくれるお父さんで、ルカちゃんは見守ってくれるお母さんなの。だから要所要所で甘えてくるでしょう?」
「……そうかも」
みんなにはそう見えているのか、とルカは納得した。
そういえば、と虹の瀬が呟く。
「シランくん、兄弟は見つかったのかしら?」
「へ?」
虹の瀬の唐突な呟きにルカはきょとんとする。シランに兄弟?
「いるんですか?」
「ええ。結構な人数いるらしいわ。私がどうにか調べられた部分を教えたら、"調べてみます"って。一人くらいは会えたのかしらね」
初耳だった。シランは自分の"本当の家族"について話をしない。興味がないのかもしれないし、自分を捨てた家族のことが嫌いなのかもしれない。心情はわからないが、赤ん坊の頃に拾われ、ずっと一緒に虹の瀬孤児院で育てられてきたシランが実の家族を気にする素振りを見たことはなかった。
年の割にドライな空気を持つ彼だが、その心境はどうなのだろうか。ルカは少し気になった。
「シランに兄弟がいるって、本当?」
帰り道、ルカは問いかけてみた。
「ああ、院長から聞いたの?」
「うん」
「そうだよ。六人いるって」
さらりと告げるシラン。その人数にルカは衝撃を受けた。
七人兄弟。昔なら十人兄弟などざらだっただろうが、少子高齢化のこの時代に七人兄弟とは大所帯である。
「多いでしょ? 一番上と下じゃ、結構離れてるよ。ちなみに俺は下から二番目らしいよ」
「へぇ。その情報はどうやって?」
「んー、まあ、色々」
知られたくないのか、シランは茶を濁した。
「会えたの?」
虹の瀬が気にしていたことを口にするとシランは頷いた。口元には苦いものが混ざった笑み。
「兄弟には会えたよ。望む望まないに関わらず、ね」
「……会いたくなかったの?」
含みを持たせた言い方にルカは首をこてんと傾げた。
シランはどうだろうなー、と空を見上げる。
「まあ、家族がいるって知ったら、そりゃ安否ぐらいは気になるよ。でも同時に知りたくないことも色々知ることになったし……俺は今の生活で満足してるから、正直、どうでもよかったかも」
やはりシランはドライなのであった。
ルカを送ってから、一人家まで歩くシラン。夕焼け空を見上げ、一人ごちる。
「兄弟かぁ……なんだかんだで全員に会ったのかな、俺。まあでも、知らない方がよかったとは思うなぁ」
他六人の顔をそれぞれ思い浮かべる。
「……似てるようで、似てないのな」
そう苦笑いするうちに辿り着いた家の中に入った。
「ただいま」
「おかえり、シラン。悪いけど手伝い入って」
「了解」
ここが今のシランの家だ。




