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作者打たれ弱いので、作品への誹謗中傷は一切見なかった事にします。酷い場合は警告無しに対処したりもしますのであしからず。
誤字脱字や引用の間違い指摘などはとてもありがたいので、知らせてやろうという奇特な方は宜しくお願い致します。
また、全ての作品において、暴力や流血などの残酷な描写、性的な表現がある可能性があります。不快に感じる方、苦手な方は読まないでください。
2013/07/02:誤字訂正
全く圧が掛らないリ魔ジンは中に乗っていると、どんな速さで自分が移動してるのか分からなくなる。それもあって時々明り取りの窓から外を覗く様にしていた。地球の感覚がだいぶ鈍って来ているけど、ガラ空きの高速道路をぶっ飛ばす程度の速度感はある。
その窓は私の顔くらいのサイズしか無く視界が狭いので、景色を眺めるには適して無いけどね。
だからだろう。最初に気付いたのは臭いだった。報告の魔導石を出した時には無かった臭いがする。
魔力を吸った藁や草は、たぶん腐る状態に近くなるんだ。説明無しにそう本能が理解した程度に、腐臭が混ざった焚き火の臭い。草木が燃える臭いを取り除いたら、至近距離で魔獣と対面した時に嗅いだ臭いととても近くなる気がした。
この時間もまだ燃やしてるって事は、昨日の内に全部一気に燃やせなかった理由があるんだ。空気中に放出されているこの臭いが、それと無関係には思えない。
きっとこの煙を吸ったら毒になる。
そう思って慌てて窓を閉めたら、伯爵様に「正解だ」と褒められた。その臭いの正体について少し説明して貰って、異世界だろうが初の戦場だろうが人間の動物的本能も案外有効だと、気を引き締め直す。
そんな風にあれこれと、現場が迫るに従い暴れそうになる心臓へ取り乱さない様に何とか言い聞かせた頃、いつの間に速度を落としたのか、周囲の音が馬蹄音や風切音に遮られずに車内へ届いて来た。先導してくれている騎士様達の声だ。伯爵様のお通りだー的な事を言っている。
周りに黎明師団の人達が居るんだろう。時折名前を呼び合って、無事を喜び合う様子も伝わって来た。
「流石の私も強制はしないよ、カレン」
不意に伯爵様が半身を起してそう言った。いつもの読ませない微笑で。到着したんだろう。柔らかトランクを手に取りながら、何のつもりか土壇場で逃げ道を用意してくれた伯爵様へ礼を言っておく。
「ありがとうございます。でも、無理です」
一歩でも逃げたら、たぶんもう留まっていられなくなる。
言いたい事を察してくれたのか、それとも最初から分かってて言ったのか、伯爵様は「そうかね」と気の無い感じで返した後、少し迷う様な素振りを見せた。珍しいその様子にはてと思う間も無く、立ち上がりながらついでの様に言われた。
「・・・さて、アレはどれほど憔悴しているだろうね。精々からかってやろう」
私達はきっと似た様な祈りを今、胸の奥で唱えている。
昼過ぎに降り立った森は巨大な木々に囲まれて木漏れ日しか無く、戦闘の痕跡もそこそこに薄らと暗い・・・筈だったけど。
戦闘の跡に関しては、覚悟した程では無かった。やはり大方片付けられたのだろう。特に遺体等は即座にきちんと対処されていて当然だし、戦闘が終了してもう丸一日以上経つんだ。色々残っている方がおかしい。
だから森の色合いがはっきりと違う事に意識を全部持ってかれて、地球出身の私は呆然としてしまいがちになる。ストールで顔を隠していなかったら、伯爵様に叱られただろう。
王宮の森は緑だった。匂いが少なく、動物も虫も無く、幹は檜色で葉はどこまでも濃淡様々な緑色だった。色彩だけなら、日本人の私にも馴染みがある物だった。あの大草原と街道を隔てていた森林帯もそう。
やっぱりあれはただの森じゃなかったのかも知れない。
馬車の窓から流れるこの森の景色を見た時にも思ったけど、実際外へ出てその中に身を置くと、何と言うか、本当にここは地球じゃないんだと痛感させられた。
このエミリオの森に群生している木はクラッシィブと言う名で、幹が若い物でも直径10メートル以上はある淡い黄色。高さは・・・良く分からないけど記憶にあるケヤキ通りよりまだずっと高く、どんなに首を捻っても天辺は見えない。1本1本が縦横どちらもちょっとしたビルぐらいの大きさはある。うん。中で人が住めると思うよ、余裕で。
葉は桜の葉に似た形状で、落ち葉を見てみると1枚1枚が私の上半身くらいは余裕であるんじゃないかって大きさで、薄紫色だった。低い位置には枝が無く、遙か上空に葉が密集している所為で空は殆ど見えない。
その木が全て薄らと、ほんのりと、でも確実に光っている。陽光の反射じゃなく、個々が自ら発光していた。
下草はくすんだ薄紫色で発光しておらず枯れていて、半透明なのか地面の茶色がほんの少し透けている。という事は水が光ってるんだろうか。他の草花は形も色も様々だが、時折腰くらいの高さの、クラッシィブと同じ色で同じ淡い煌めき方をする、百合の花みたいのが咲いてる。
「っ・・・」
・・・っごい綺麗。
そして、草花系とフルーツ系をブレンドしたアロマの様な、心の棘が萎れるとても香り高い微風が常にストールの裾を擽っていて、時折そこへ日本の田舎にある畑等と酷似した土の匂いが含まれる。
自分の足音の合間に別の音がして足元を見下ろすと、藍色のテントウムシそっくりなのが私の靴先を通って行くところだった。サイズがテニスボール大で一瞬ぎょっとしたけど、背中の水色の斑点と歩き方が可愛いくて暫く並走するのを見守ってしまった。
しながら耳を澄ますと遠く、リリともララとも付かない透き通った鳥の声の様なものも聞こえる。絶え間無く届く、葉と葉が風に擦られる清涼な音を伴奏に。
「・・・・・・・・・」
頭上で踊る様に飛ぶ半透明の小さな羽虫みたいな群れ、クラッシィブの幹を横切るピンク色のトカゲもどき、私達の来訪を知らせているのか犬の遠吠えに似た声も届いた。
こんなに幻想的な風景の中に、ちゃんと命が存在している。掛け値無しに美しい、絶景中の絶景だ。
ほんの数時間前、イーザスの暗い路地で見た光景との落差に、目が眩む思いがする。
魔力で腐った藁を燃やす悪臭が無ければ、棒立ちで見惚れたに違いない。泣いてしまってたかも。
「・・っ」
あーダメダメ!
浮浪児達の事はまだ深刻に思い返したらダメ。また取り繕えないレベルでへこんでしまう。今はまだ、無理やりにでも蓋しておかないと・・・。
よし、私史上美しいものランキングの、建造物部門は月光宮だが、自然風景部門はここに決定でーす。おめでとー!あ、ちなみに人間部門はクリスたんです。
そして日本人の価値観を崩壊させる美しさと壮大さを有するこのクラッシィブは、エヴル世界でも十分以上、建築物や工芸品の材料として価値のある樹木らしいのだが、この森では残っている伝承の為、大規模な伐採をする人は殆ど現れていないらしい。
まあ、それが更に伝承の信憑性を上げてるんだろうけど。
馬車の中で聞いた伝承は、この世界でも伝説上の生物である竜に纏わるお話だった。
古の時代の、病気の所為で独りぼっちになった人間の少年と、その少年が慕って追い掛け続けた年老いた竜の物語。
心を通い合わせる前に病の身で追い疲れた少年が先立ち、目の前で死なれて初めて、少年を我が子の様に思っていた己に気付いた老竜の嘆きが、死した後の魂を通じ合わせた。
エミリオという名の少年の遺体を抱いて永眠した、淡い黄色の鱗と薄紫色の翼を持つ老竜の死骸の上に、この森が出来たのだという伝説。
ファンタジー小説等では良くある話。特に目新しい感じは無い、ただの少し物悲しい物語。しかも永きに渡って伝承しているお伽噺だ。物語を朗々と語って聞かせてくれた伯爵様自身が、最後にそう言い足して鼻で笑ったくらい、特筆すべき点の無いお話。
それでも淡く光るこの幻想的な森の景観には、心とか魂とか、そういったものを説き伏せる様な魅力がある。カルヴァート市周辺にエミリオという名の男性が多い理由も、分からないでは無い。カルヴァート領主が代々エミリオだというのには、若干やり過ぎ感を覚えたけど。
今も森の底で眠る竜の魂が、エミリオと呼ばれる少年にはうっかり間違って加護を与えるのだ、と。
うっかり間違って授けられた加護で良いのかって疑問は言わないお約束だし、竜と神様ごっちゃにしたら少年漫画臭いってのも禁句だろう。そんなのは私の主観でしかない。宗教の話題は危険です。
でも伯爵様はこうも言った。
「確かに、この森のクラッシィブは魔力の自然保有量が他の森の数十倍も有って、未だ謎の森なのだがね」
魔獣騒動の地にここを選んだ理由はこのクラッシィブの魔力保有量もあるだろう、とのご見解だ。この森に棲息している動物は居らず、今目にしている生き物達は皆渡りの習性の者ばかりである程だから、と。
長くは居られない竜の森は、きっと今でも少年を守ってるんだろう。
だのに、汚してしまった。
美しい景色とどうしても無視出来ない悪臭の中、夢と現実を行ったり来たりするかの様な気分を何とか振り払いつつ真っ黒ローブの後に付いて歩いてくと、大量の魔獣の死骸が積まれている一角へ辿り着いた。
死骸達は比較的形状が保たれている、損傷の少ない物を残されていた。どれも一目で何の動物か分かるくらい地球の動物と似ているが、大きさは各々一回りかそれ以上デカい。
ラーゲフェルトでも遭ったライオンサイズの狐も、その狐よりまだ大きい狼も、軍人さんの胴体と同じ太さの胴回りをした蛇も、中型犬くらいある兎も、皆発狂したまま絶命している。
「・・・・・・」
明らかに別文化の合掌を大っぴらにして面倒な事になるのも怖いし、元より無信心者なので、数秒こっそり黙祷を捧げるだけで済ました。
安らかに眠ってください。
そして死体というものが放つ独特な怖ろしさから、甘えて目を逸らしてしまわない様にしながら、周囲に居る黎明の軍服を着た人達と伯爵様の会話を盗み聞く。
「待たせたね。これ全てこちらの好きにしても?」
ここの責任者であるらしい騎士様とは名乗り合いもせず、さっさと話を進める。責任者の騎士様の表情にはどこか、嬉しそうな雰囲気すらあった。軍人と研究者、と言うと関係が悪そうなイメージがあったんだけど、どうも違った様だ。警察や科学捜査絡みのドラマとかと一緒にしちゃダメだよね。
「ご足労痛み入ります、導師ヴァレンティヌス様。現在、我々が周辺を完全に掌握しております。ご安心ください。 また、未処理の死骸もこれが最後です。もちろん全てご調査の為に残しておいたのですが、ご不要ならすぐに処理致します」
「ご苦労。全て使わせてもらう。処理もこちらでしよう。 で、黎明閣下は何をしているのかね」
十数体の様々な種類の死骸を前に、至極冷静な伯爵様はさっさと手袋を外しながら、明後日の方へ視線を投げてそう尋ねた。赤い瞳は私には見えない何かを見ている。そっちに師団長野郎が居るのかな。
「捕虜を見に行っておられますが、すぐにでもお戻りになるかと」
「そうかね。 では手間を掛けるが、弟子の質問にも答えてやってくれたまえ」
えっ?あー・・・ご配慮どうも。
稚拙極まりない本作にお付き合い下さり、誠に有難うございます。
以下小ネタ・小話
植物や動物の生態的なものに対するツッコミも不要です。
ふぁんたじーですので!という免罪符で片付けちゃうつもりですから。
でも余程据えかねる矛盾点がありましたら、お知らせ頂けると凄く嬉しいです(ほんとは不安)。
ちなみに、この木の名前は某ロシア語とは無関係ですのであしからず。
にしても黄色の体で羽が薄紫でほんのり煌めく超巨大なトカゲ(?)ってどうなんだ・・・と趣味を疑われるのを覚悟の上でやりました。後悔はありません。
私のイメージでは意外と目に優しい感じのバハムート系な竜ちゃんですが、読者様の脳内では如何様にでもして頂きたく。。。
ピンクのトカゲは趣味です。ドギツいピンクです。有毒です。
可愛いからってつんつんしたらビリビリしちゃうぞ(はあと




