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作者打たれ弱いので、作品への誹謗中傷は一切見なかった事にします。酷い場合は警告無しに対処したりもしますのであしからず。
誤字脱字や引用の間違い指摘などはとてもありがたいので、知らせてやろうという奇特な方は宜しくお願い致します。
また、全ての作品において、暴力や流血などの残酷な描写、性的な表現がある可能性があります。不快に感じる方、苦手な方は読まないでください。
知っている人の無事な姿を見ると、心底ほっとする。
知っている人の暗く凍った目を見ると、心底ぞっとする。
事前に頼んでおいたワケじゃないんだけど、まるで最初からそう決まってたみたいに伯爵様はそう言ったきり作業に取り掛かった。私に道具を広げるよう手振りで命じ、自身は魔獣の死骸や周辺の草木を、手袋を脱いだ素手で触って観察している。傍から見るに、それ以上分かる事は無い。何をどう吟味してるのかさっぱりで、本物の弟子だの助手だのには到底成れる気がしなかった。
ので、さっさとそっち方向は諦め、すぐ傍でしゃがんでトランクを開けて、あらかじめ馬車で預かっていた物を出す。ゴムガラスな蓋付き空瓶とか医療ドラマに出て来る手術用のハサミみたいなのとか、分かる様な分からない様な道具を幾つか敷き布に乗せて地面へ並べながら、伯爵様の指示通りじっと待ってくれている見事な巻き毛が印象的な騎士様へ訊ねる。
「それではお忙しいところ申し訳ありませんが、状況についてもう少し詳しくお尋ねします」
「どうぞ。師団長の許可が出ている範囲内なら、全てお答え致します」
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
あれ?そういや出迎え3人組どこ行った?
ストールぐるぐる巻きで視界が悪いので、いつの間にか色々見落としている。首を巡らせて見れば、辛うじて小さく見える場所に停車したリ魔ジンの傍で、数名の他の騎士様やその愛馬達に混じってオグロ君達と一緒に居てくれていた。
お馬さん達皆嬉しそう。少し前まで彼らは同士だったのだから当然、私より余程気心許しているに違いない。ちょっと寂しい気もするが、安心だ。地球ではお馬さんは臆病な側面もあると有名だから、魔獣の死骸に怯えないか心配だったんだけど。
ああ、でもあの子達って元軍馬なんだっけか。私よりよっぽど度胸ありそう。
いやいや仕事仕事、と意識を切り替え、道具を出し終えた鞄を片しつつ、巻き毛騎士様へ出来るだけ淡々とした感じを意識して話し掛けた。
「ではまず今回の戦闘で亡くなった方の数と所属、その処置を教えて下さい」
「は。戦闘における戦死者数は黎明師団0名、カルヴァート市警備軍警邏隊4名、敵軍38名です。市警軍4名の遺体は防腐処理の後同軍生存者へ引き渡し、敵軍は火葬後、灰を樽に詰め、残した1名に担がせ森の外へ放逐しました」
うっ・・わ、そっか・・・。
明確に答える騎士様の声にも、狭い視界に見える手足にも、一切変化が無い。凛として明朗だ。
「・・生き残りの方は?」
「市警軍生存者12名中7名は遺体と共にすぐ、市都へ向かった模様です。残り5名は重傷の為、緊急措置的に竜骸へ搬送しております。敵軍は遺灰運搬用の1名以外に生存者は居ません。他、不審者1名は別所にて拘束中です」
「貴方方は?」
「我が方は1名重傷、6名軽傷です。この軽傷者らに重傷者を搬送させました。残りは各自任務を続行しております」
そうですか、と表面上変わらぬ声質とテンポを心掛けて言った。顔が見えないこの格好はこういう時便利で、癖になりそうだ。唇が戦慄きそうになるのさえ耐えれば、どんなにしかめっ面になったってバレない。
傭兵部隊は皆殺しにしたのだ。
今回の戦闘には、見せしめの意味もあったのだ。その方向は全く考えていなかった。当たり前だ。こちとら日本の一般のOLだ。見せしめ?皆殺し?無縁極まる言葉だっつーの。
・・・やっばい。どうしよう。上手く装える気がしない。
敵味方双方へ、黎明が近くに来たのにそうそう好きに出来ると思うなよ的な脅しを掛ける為に、今回の騒動を利用したのだ。英雄のおなーりーパフォーマンスの一環だ。
本当はどちらの国が雇った傭兵か知っていて、その上でみんな殺して、殺した事を利用した。
今目の前で研究者然として地面へしゃがみ込んで作業中の、この妙チクリンなキャラクターみたくなってる黒い塊のヒトも、きっとこの作戦を知っていたか、もしくは一緒にこの作戦を立てたかしたのだ。
それが後に戦死者を減らす事に繋がるから?
戦争って、そういう事なんだろう。
「っ・・・」
人と人が殺し合った場所、という実感が急に足の裏から這い上がって来る。
ほんの2日前に、この場所で、ここで、人が人を殺したんだ。何人も、何人も。注意深く観察すれば、草木や地面に跡が残っているかも知れない。
美しいクラッシィブ。美しい生き物達。美しい伝説。人が全部穢す。
孤児の一件で既にパンク気味の神経は完全に飽和し、逆に平素っぽい顔や態度を維持し易くなってるけど、表情筋を動かす余裕が無いだけだ。人の機微に敏い人には通用しない。
ダメだ。しっかりしなくては。最低限の仕事もせず足手纏いに甘んじていても、近い将来の自分が更なる地獄を見るだけだ。
「・・周辺への被害はなさそうですね」
「はい。今回は森の内部で、夜中に起こった戦闘でしたので」
それだけが救いだ。彼らがこの騒動を処理する場所を、民間への被害が出ない森の中にしてくれた事だけが、救いだ。
ここで亡くなられたという方達の為に少し祈り、唐突な沈黙に訝られる前に切り上げ、口を開いた。声が震えない様、細心の注意を払って最初の一音を喉から押し出す。
「・・・捕縛された不審者の方はどちらにいらっしゃるのでしょうか」
「捕虜は現在」
「聞いてどうする」
足音とかしない人で、重く鋭い声質の人だから、急に話し掛けられると心臓、止まりそうになる。
しゃがんだ姿勢のまま尻もち付きそうになったけど、なんとか堪えて立ち上がり向かい合った先、部下を遮って会話に入って来た英雄は、相変わらず威圧的なご立派な体躯でご健在だった。
その事にほっとするより先に、ストールをずらして顔を見上げるより先に、背後で作業中だった筈の伯爵様が音も無く私の隣に立ち並んで言う。そのテノールは竜の森で、大気を震え上がらす様に冷たく、低く広がった。
「良い顔だな黎明の。余程満足に殺せたらしい」
ストールをずらそうとした手が止まる。狭い視界の正面に居る師団長野郎の、少し汚れた軍服と手袋から目が逸らせなくなった。
何の汚れか、こんなに明確な物は無い。
「・・・・・・」
・・・けど・・・。
でも、腰に提げられている長大な剣は、あの時私の命を救ってくれもしたのだ。
軍人さんが血を流すのは、皆を守る為なのだ。
・・・怖がるべきものじゃ無い筈だ。
ストールの裾を握る手に念じる様に力を込めた私の眼前で、英雄は如何にも軍人然として動じない。
「ああ、予定通り一方的に蹂躙した。問題無い」
伯爵様に弱い筈の人が、完璧な間で、完璧な冷淡さで答えた。苛立ちも、淀みも、何も無い。完璧な無感情。
私と伯爵様の秘密の祈りは、どこへも届かなかったのか。
あ、コレ、ヤだな。
そう思ったのと、口が動いたのは同時だった。
「ご無事で何よりです、黎明様。またお会いする事が出来て、私、嬉しい。きゃっ、言っちゃった」
本当に無事で良かった。これは本心だ。再会の喜びも、決して偽りじゃない。命の恩人が、恩を返す前にどうにかなるなんて、寝覚めが悪いどころの話じゃない。
でも、無謀にも反射的におバカっぽく割って入ったのは、2人が険悪になるのが嫌だったからだ・・・って、やってから自覚したよ。
兄弟の仲違いを見せられる様で、嫌だよ。
「あ、でもお師匠様も、あれ以来二言目には黎明様のお話ばかりで、とても心配なさっていらっしゃったのですよ?」
あぶないあぶない。ちゃんと普通な事も言っとかなきゃただの馬鹿になっちゃう。むつかしい。
ぶりっぶりにぶってみた私に何を思ったか、伯爵様も周囲の騎士様も、超級の深刻さを背負って現れた師団長野郎までも、押し黙る様な沈黙になった。すっごい微妙な空気。よっしゃ、今の内だ。
一歩に満たない半歩、師団長野郎へ近付く。パーソナルスペースぎりぎりで、今度こそちゃんとストールを取って目を見上げた。
「っ・・」
・・・ああ、こんなにも・・・。
グラッシィブの淡い光に、彼の色素の薄い瞳は染まって、とっても綺麗だ。同時に、どこか人間離れして見える。心無い、冷酷な獣の様。髪や眉と同じ色の睫毛が瞬くのすら、作り物めいた動きに思えた。
「・・お休みに、なっていらっしゃらないのでは?」
こちらを見ている様で、見ていない。感情を排し、人を人として見ない眼差し。
弟分のこんな目を見た伯爵様がどんな気持ちになったのか、手に取る様に分かる。
同時に、伯爵様は今回の皆殺し作戦には反対的なお考えだったのでは、と閃いた。確証は無いけれど、そう思わせる言動を振り返るに期待めいた気分を抱かされる。真実、人死にを良しとしない人であって欲しい、と。
「哀しいです、黎明様。貴方に何かあったら、私、哀しいです。 あ、ついでにお師匠様も哀しまれます。ね?お師匠様?」
振り返りながら救いを求めて手を伸ばした先、私の支配者は眉を八の字にして笑っていた。それを見て、変に力んだ体がほっと落ち着きを取り戻す。うん、そうこなくっちゃ。
「はいはい、分かったよ、カレン。私が悪かったのだろう?」
そこまでは言ってません。でも、その通りだぞ。
目で訴えると、益々苦笑を深めた伯爵様は、私の手の中に入って来た。私よりずっと大きな一歩で、師団長野郎の間合いにするりと入り込む。師団長野郎の表情に変化は無いが、伯爵様が近付いた瞬間、微かに、息を飲む様な仕種をした。
と、思う。良く分からない。でも、逃げたり避けたりしないで、受け入れた。
大丈夫だよね?心の弱い人だったら英雄なんて出来ないよね?
「嫌な事を言ってごめんなさいゲイル君」
母親に叱られて謝らされる子供みたいな言い方をした伯爵様は、言い切る頃にはすっかりいつものイヤンな笑顔になっていた。よくできました。
対していきなりおちょくられた格好の師団長野郎は、2度不自然な瞬きをした後、疲れ切った声で吐き捨てる様に言った。
「遊びに来たなら帰れ、魔導院。我々は忙しい」
疲れてるって見せてくれた。イラ付いてる姿も晒してくれた。
戦争をするという事が、人を殺すという事が、人の心にどんな影響を与えるのか、私は全く知らない。知りたくも無い。
だから見当違いで、傍迷惑で、鬱陶しいだけかも知れないけど、どうか、少しでもこちら側に引き留めたい。彼を想う人が居る側に。意識の片隅だけでも良い。
私が伯爵様で、師団長野郎が玲衣なら、私は彼の心を失わない為になら何でもする。嫌われたって、憎まれたって構わない。酷い言葉を投げ付けて、酷いやり方で、酷く傷付けても、それで引き留められるなら幾らでもやる。だってその傷はいつか、家族や友人や恋人が癒してくれる筈だから、私はきっと伯爵様の様に躊躇わず爪を立てるだろう。私は引き留めるだけで良い。
今度こそ・・・。
今、私が彼らにしてあげたいのは・・・いや、したいのは、引き留める為に付ける傷を最小限にする事。伯爵様の爪は鋭いから、うっかり深く入り過ぎない様に。
この時、自分の中でもごもごしていた気持ちのひとつに、そう整理が付いた。彼らに対して捨てきれずに居る恐怖心と、やはり不思議と同じ場所で。
その拍子に、私は彼らに自分との共通点を、「私といっしょなんだ」って近しく感じられる部分を探してたんだ、って事も自覚してしまった。他人なんてしんどくて面倒って思ってるくせに、特別親しくなりたくは無いくせに、異世界なのに、怖いのに。
そのくせ私は彼らと同類では在りたいんだ。
これはもう、理屈が限界の領域だ。情って、案外不条理に湧くらしい。
もちろんこの情も、突き詰めればきっと自己防衛本能とかなんだろう。分かってる。所詮私の事だもの。
でも、だからって止められるんなら、とっくに止めてる。
「・・・黎明様・・・」
祈る様に口の中で唱える私の前で、彼は感情の戻らない眼差しのまま素気無く踵を返し、けれど背を向けながら言い足した。
「仕事だと言うなら来い。捕虜に会いたいのだろう」
冷ややかにしか聞こえなかったそれへ、本当に嬉しそうに目元を緩めた伯爵様が即答する。うん、だって、完全に無視する事も出来る筈なのに、そうはしなかった。
「仲直りの証に抱き締めても良いかね?」
「要らん!寄るな!」
「「っ!」」
ツッコミキター!
伯爵様とアイコンタクトしてしまった。師団長野郎の声も、背中も、まだ全然暗く重苦しいけれど、でも、ちゃんと伯爵様に振り回されてくれた。
ああ。うん。結構真面目に、嬉しい。
はじめましての方もお久しぶりの方も、読んで下さってありがとうございます!
以下小ネタ・小話
色々仄めかしの回の様ですが、結構大事なメッセージを込めたつもりの回でした。
人を殺すという事、戦争。。。人をして避けては通れない話。
そんな深淵にも足る問題を提示してるフリで諸々の描写力を誤魔化す技術はそこそこあるつもりです(キリ
誤魔化せてなかったらご愛嬌。
お気に入りはお察しの通り巻き毛騎士です。まきげきし。語呂の問題。
ちりちりとは違います!




