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作者打たれ弱いので、作品への誹謗中傷は一切見なかった事にします。酷い場合は警告無しに対処したりもしますのであしからず。
誤字脱字や引用の間違い指摘などはとてもありがたいので、知らせてやろうという奇特な方は宜しくお願い致します。
また、全ての作品において、暴力や流血などの残酷な描写、性的な表現がある可能性があります。不快に感じる方、苦手な方は読まないでください。
出発当日。
カレン・コーザックとしても出発するので、最初の目的地は王都郊外の月光宮と呼ばれる、ロレンシア家所有のお邸だった。お邸って言うから超豪華な邸宅を想像してたけど、実際はお城でした。規模だってたぶんバッキンガムレベルだと思う。まあナマバッキンガム宮殿見た事無いですけど。
元は王家の離宮。あの王城が無ければここをバルバトリア王宮と思ったに違いない規模と、美しさだった。
壁だって白い。良く見れば、等間隔で淡く輝く銀色の彫刻が施されてるけど。
「あんまり開けていると「あずき」を放り込んでしまうよ?」
伯爵様が数歩前からそう声を掛けて来る。それで漸く開いた口が塞がった。でもだって、しょうがないよ日本人的には。
日本どころか、地球にはCGでしか存在しないような、名の如く、美麗で幻想的な建造物なんだもの。
一睡も出来ないまま迎えたこの日、1隔の始まりと同時に部屋の扉が音も無く開いた。
「おはよう、カレン。ご機嫌は如何かな?」
用意は出来てるか、と言うべき所で妙な事を言った伯爵様は、今までと寸分狂わぬいつもと全く同じ真っ黒ローブ姿と暗黒笑顔で現れた。目の下に隈のひとつでも作っていたらまだ可愛げもあったが、人間離れした余裕を振り撒いている。
「おはようございます。機嫌は良いですが、気分は悪いですよ。伯爵様は如何ですか?」
最後に使った洗面道具と化粧道具を手提げ用に貰った鞄に入れながら、戸口で待ってくれている伯爵様に問い返した。
鞄は柔らかい革製の旅行用トランクみたいな形だ。サイズは私の胴体くらいの大きさ。箱形で分厚く丈夫そうなのに、触ると軽く滑らかで柔らかいので、念の為割れ物には布をグルグル巻きにしました。怖い。
「なるほど。されてみると難しい質問だねえ」
でしょう?と返しながら振り返ると、いつの間にか私の上着を手にし、広げて待ち構えていた。はて、魔法でも使ったのか。普段は本当に魔導師なのか疑わしくなるほど、魔法を使う姿を見せないのに。
それとも、私が緊張の余り注意力が散漫になりすぎているのか。
「お師匠様に着せて頂くなんて、身に余ります」
言いながら苦笑を堪え切れず、ちょっと眺めてしまった。頭の天辺から足の爪先まで漆黒のローブ姿な長身が、燭台1つ分の明りの中、茶色の女性物の長衣を両手でひらひらさせている。何かの抽象画のようだなあ。タイトルは「呼ぶ悪魔」に決定。
「光栄だろう? さあ、おいで」
空気を歪ませる様な魔法使いのテノールに呼ばれ、踏み出した一歩は思いの外軽かった。
用意して貰った上着は、トレンチコートを一層薄く柔くしたような素材で、踝まですっぽり隠れる長さだった。中の服も実は今までの物とは違いスカート丈が足首までなので、前合わせを閉じて5か所に付いている帯紐を全部結べば、すっかり茶色い人の出来上がり。
この帯紐、大して何も考えずリボン結びにしたら、伯爵様が凄く感心した様子でガン見してきた。めんどくさいので「可愛いでしょ?」と適当にぶっこいて放っておいた。だってこの上着も一切装飾が無く、のっぺりしたデザインだったからね。おっきいリボンが5つぐらいあったって若作りにはなるまいよ!ふんっ!
ちなみに旅用に支給された服は、いつも通りのワンピのスカート丈を伸ばしただけの物です。どうしても黒を着せたいらしい。もう良いけどね。慣れましたとも。
緊張を解す為に無駄な思考や動きを入れながら、降りる。
そう、とうとう降りました。階段を。
エヴルに来た次の日、アンマリちゃんと監視兵に連れられて初めて師団長野郎の執務室へ上がって以来、黎明棟の5階から降りるのは今日が初めてだった。
あれから2週間以上。あの時はまさか、こんなにこの世界に長居するとは思っていなかったし、こんなに早く王宮の外へ出されるとも思っていなかった。それ以前に夢オチを本気で願ってたんだっけ。あ、何にも考えて無かったってことか。存外大物。
他の荷物は全部、黎明棟の外に繋いでいる馬車にもう乗せてくれているらしい。私の手荷物を当然のように持ってくれた伯爵様が、鼻歌交じりにするすると階段を降りるのに続く。
ドキドキし始めて足元が覚束無い気がしたけど、最後の1段まで何事も起きませんようにと祈りながら、ハイペース気味に足を動かす。
まだ夜の暗い階段を、魔法使いの鼻歌を頼りに。
結局何も起こる事無く、誰とも会う事無く、階段を降りられた。息が上がった所為か、妙な達成感があった。
ほんとはずっと、こうしたかったのかも知れない。毎夜薄暗い廊下を掃除しながら、その先の階段を駆け降りて小さな月の輝く外へ、と深層意識で夢想していたのかも。
押し殺していた何かが全部、一気に噴き出すような気がして慌てて自制する。
この先にあるのは日本じゃない。自宅でも会社でもないのよ。
私の葛藤を知ってか知らずか、伯爵様は歩む速度を緩めない。長い脚を活かしてローブを翻し、しかし音も無く滑る様に進む。振り返る素振りも無い。ちゃんと着いて行かなくては置いて行かれる、と不安になって必死に速度を上げたら私はもう走っていた。親を追う子供の様。
長細い黎明棟の1階中央は、廊下の両側ともホールも何も無くいきなり外への扉だった。この時私達が使ったのは西側の正面玄関。北西へ王宮の中心部である本宮や中央広場へ繋がる道が、南西へ王宮正門とその先の王都へ続く道が伸びている。どちらも良く補正された石畳だ。コンクリじゃない。
方向的にこっそり出るなら反対側じゃないかと危惧したんだけど、余計な心配だった。外へ出てすぐ向かい正面、目の前に巨大な森が広がっていたから。
黎明棟の敷地内は土の地面で、均されたグラウンドの様な広場になっている。たぶん東側はもっと大きな馬場とかあるんだろうけど、こちら側も馬車の停留場や何らかの作業をするスペース等もあって、暗い中の目測でも実家の近所にあった河川敷サッカー場2面分は有る様に見えた。
そしてそこを含む黎明棟を囲む様に広がっている森が深く、デカかったのだ。
とにかく木の1本1本が大きいの何の。部屋の窓から見ていたのと別物に思えるくらい、とんでもなく大きな森だった。
冷静に思い返せば、私が窓から見える景色を地球感覚の先入観で見ていた所為だったんだけど。ここの5階は日本の5階じゃないんだって、脳裏から時々すっぽ抜けるんだよね。とすると、この森の向こうに見えていたあのでーっかい白い壁は、私が想像している大きさよりまだ遥かにでっかいという事か。
・・・バルバトリア王城って、ちょっとした街くらいの規模あるんじゃないの?
怖くて聞けませんでした、はい。大きな木に遮られて肉眼で王城を見る事は無かったから、実際のところは分からず仕舞い。というか分かりたくない。知りたくない。怖いって。
ただでさえ、生き物の気配が全くしない森の、異様な静けさが足を竦ませるというのに。
クロガネさん達がまだ起きないこの時間は、彼らの匂いもこちら側へは届いておらず、木々の匂い以外は何も鼻腔を擽らなかった。その木々の匂いも、日本で嗅いだ物とは少し違って躊躇いばかりが湧いてくる。
匂いの種類より、森の大きさと近さの割に草木の匂いが薄過ぎるのが気になった。もしかして魔法が掛った森なのかしら?
でもそんな事に感けている余裕はもちろん、すぐ無くなりましたとも。
黎明棟の建物を出て、グラウンドを斜めに南西へ歩くとすぐに、巨大馬4頭立ての馬車が視界に飛び込んできた。
壁に耳有り障子に目有り。ここまで誰にも会わず来れたが用心に越した事は無い。とにかく全部保留して乗り込み、座り込んで、先に乗っていた伯爵様からトランクを受け取ってから胸中吐き出した。
「馬車っつってんのに車輪が無いってどういう事ってそりゃ魔導なんでしょうけどここで地べた座り形式とかってゆーか御者の姿が無かったのに伯爵様まで中に乗り込んだら誰が操縦するんです?!」
「珍しく可愛らしい混乱の仕方をしているねえ」
よしよし、と頭を撫でられてしまった。一瞬不覚にも、全力で振り払いそうになってしまったけど、ぐっとトランクを抱き締めて遣り過ごす。ええもう既に解放感が抑え切れませんが何か?
外だ。今、ここ、外なんだ。
考えない様にしても脳裏にそれが煌いて、ついつい気が散ってしまう。深呼吸深呼吸。
走った所為もあって、息が整って落ち着く頃には、額に汗が滲んでいた。階段を降りる最中に始まったドキドキはまだ、少し引き摺ってるけど。
「・・で、まず、この馬車の仕組みを教えて頂きたいのですが」
落ち着いたのが分かったのか、伯爵様は私の頭を撫でる手を放し、寝転がって欠伸をした。コノヤロ。
「まさか私の乗る馬車が一般用の物とは思っては居るまい?」
つまり、御者の無い、車輪の無い、座席の無いこの馬車は、宮廷魔導院専用の特別製なのだ。地球で言う所の、VIP専用高級車だ。リムジンだ。
一つずつ、眠そうに説明されたところによると、普通の馬車は地球のそれとほぼ大差無い様式のようだった。とは言え、私が知っている馬車ってのは映画等で見掛けた中世や明治の物でうろ覚えだし、この世界基準の馬車がどこまで地球と同じかも分からないけど。
この馬車、脳内改めリ魔ジンは、超巨大トレイのような物の上に、大きなキャンプテントみたいなのがぽーんと乗っけられていた。材質は全て重厚な木製。同じ材質で誂えた御者台もちゃんとあるのだが、そこと馬の体を繋ぐ革製っぽい極太ベルトの間に人は居ない。御者台に設置している魔導具が、自動で行き先まで馬を操作してくれるらしい。夢のオートパイロットだ。
木製テントの底辺部は、長身の伯爵様が両手両足を伸ばして寝転んでもまだ余裕があるほど広い。たぶん直系3メートル近いと思う。ふっくらした円錐型で、外から見たらピザを焼く釜戸に近い形をしている。
トレイとテントの床の間にはスペースが有り、そこへ荷物の殆どを入れていて、取り出し口は前部の御者台の下に有りセキュリティは万全ですって。
内部は一部屋で椅子的な物は一切無く、ふっかふか絨毯が敷き詰められていて、全ての床と壁の境目を埋めるように膨大な量のクッションが置いてあった。この絨毯とクッションとカーテンは赤ワイン色で、他は巨大森に生えている木と同じ檜色だ。
ちなみに後部の床は一部が床下収納になっていて、車内で必要な物を手軽に出し入れ出来る。飲み物とかね。
そして他には何も無く、ぐるりと首を巡らしても目に入るのは明り取りの窓1個と、その向かいの入って来た扉だけ。
壁やカーテンを良く見ると、淡く浮かぶように細やかで控え目な意匠をこらしてあったが、彫刻なのか塗装なのか判別が付かない不思議な模様は、さり気無い上品さが目に優しく、すぐに気にならなくなった。
やはり黎明棟は特別簡素で質素だったのだ。最初に見た王妃の寝室も、派手派手しい感じは全く無かったが、一目で中世ヨーロッパをイメージしたほどには華美だったし。
・・・今頃クリスたんは王城の最上階の窓から、この馬車を見送ってくれてたりするんだろうか。
クッションの1つを手繰り寄せて伯爵様の後ろ頭に添え、それがあった場所へ手の中のトランクを置いた。周辺観察が済んで人心地が付いた私に、本当に疲れているのだろう、伯爵様が抑揚を欠いた口調で言い足した。
「ちなみにもう動いているから、扉を開けてはいけないよ。 眠っていないのだろう?月光宮までは1日掛る。ゆっくりしておいで。おやすみ」
言い様、ローブも手袋もブーツでさえそのままで、異世界人のすぐ傍で寝入ってしまったお師匠様。私は暫く呆然と、う○い棒みたいなそのシルエットを眺めて過ごした。
・・・やっぱ超疲れてんじゃないの。
が、その寝顔が女神のように美しかったのは言うまでも無い。髭どころか毛穴すら碌に見当たらない。睫毛長っ!女の敵!でも眼福。
色んなものに諦めが付いて顔を上げると、高い位置にある明り取りの小窓の、濃いワイン色のカーテンの隙間から淡く、朝の陽が差し込んできていた。その光はカーテン以外の何かに遮られる様、チラチラと揺れてか細い。あの巨木達の間を走っているので、これはきっと木漏れ日というヤツなのだろう。
異世界生活16日目の朝はこうして、広大な宮殿の巨大な森を掛け抜ける、魔法の馬車の中で迎えた。
と言うか、この日はトイレの時以外この馬車から出られなかった。私の姿はまだ、出来るだけ見られない方が良いからね。
トイレ?実はグレードアップしたトイレ壺、略しておまる壺Gを持参しているのだ。全自動魔導具ですよ奥さん。致した端から、一瞬で完璧に処理されます。失魔症の方にも安心してお使い頂ける安全親切設計。ただし現品限り。世界でコレたった一つ。製作者は彼の有名なリヒャルト・イル・ヴァレンティヌス閣下です!じゃーん!
結局のところ野糞ですがね。たぶんチャランスが見てますがね。毎回半泣きですがね。けっ。
そして17日目の朝、寝惚け眼でぼんやり馬車から出て、すぐ眼前に広がった月光宮の偉容に愕然としたのでした。
お読み下さった全ての方に感謝致します。ありがとうございます。
以下小ネタ・小話
うま○棒知らない方がいらっしゃったらごめんなさい。
とにかく伯爵様のシルエットは妙である、と表現したかったのですが。。。
大振りに動いたりすると裾が広がって頭の小さいてるてる坊主みたくなりますが、じっとしてると案外スリムなシルエットです。
イメージはかお○しが一番近いかもです。顔面も白と赤ですし。
スタイリッシュ且つミステリアスな色の濃い派手動作か○なし、みたいなモノを想像しながら書いてます。
イメージが濃く、動作も言動も緩急が激しいキャラなので一番書き易いです。
ファンタジックで何でもアリだし。。。ラクチンキャラ。




