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カレン  作者: f/1
お仕事
34/62

33

作者打たれ弱いので、作品への誹謗中傷は一切見なかった事にします。酷い場合は警告無しに対処したりもしますのであしからず。

誤字脱字や引用の間違い指摘などはとてもありがたいので、知らせてやろうという奇特な方は宜しくお願い致します。

また、全ての作品において、暴力や流血などの残酷な描写、性的な表現がある可能性があります。不快に感じる方、苦手な方は読まないでください。




 伯爵様が私にお昼寝を提案していた頃、本宮では29代国王によって終に正式な開戦宣言がされ、シェルツェリア帝国への侵攻が、公式上では25年ぶりに再開される事となった。

 無論この25年間、大小様々な規模の小競り合いが国境沿いで発生していたが、表向きはあくまでも民間人の暴動であり、明確な侵略行為は無く、戦争としては史上には残らないそうだ。

 バルバトリアがはっきりと、侵略します、と公言したという事は、これまでの曖昧なものとは変わるという事なのだ。

 列記とした戦争が、始まったのだ。



 夜の師団長野郎への報告をキャンセルされたと、師団長自室を掃除中の私の元へ伯爵様が態々いらして教えてくれた。日報が完全に無かったのはこれが初めてだ、と。聞けば、王様君が臣下の人達に相談も無く爆弾発言しちゃった所為で、すっかり夜も更けた今のこの時間もまだ、本宮での会議が白熱しているのだとか。

「爆弾発言、ですか」

「そう。何でも陛下ったら、前線への黎明早期投入を勝手に決めて、勝手に開戦宣言に盛り込んじゃったらしいのだよ」

「まあ、それは大変ですね」

「大変だねえ。しかも出発日がたった6日後だとかで、そりゃあもう各方面大騒ぎだ」

「それはそれは。陛下は剛毅なお方ですね」

「・・・・・・」

・・・あれ?

 掃除の片手間にそれっぽい相槌を打っていたつもりが、急に伯爵様に黙られたので手を止めた。顔を上げると、師団長野郎がいつも食事をするテーブルセットに優雅に腰掛け、妙な真顔でこっちを見たまま固まっている。はて、何か藪蛇ったか。

 昼間の王妃ご来訪事件で脳みそ過労状態だった私は、もう考える事を放棄していた。精々出来たのは小首を傾げて促す事くらいだ。

「6日後なら伯爵様達のご予定通りですよね?」

 実は古い親友だった3人組の彼らが立てていた予定を思い返し、日数を数える。うん。間違い無い。

 王様君は恐らくそれを知ったか知らされたかで、協力してくれたんじゃなかろうか。というか、私はてっきり伯爵様が王様君に全部言ってるものと考えたんだけど。それ以前にそもそも、黎明師団の遠征は決まってたんだし。

なんだか色んなモノが絡み合ってる感じだなあ。

 間も無く伯爵先生が「そうなんだがね」と深い溜め息と共に呟いた。その様子が珍しく疲れてる感じ全開で、ちょっと驚く。

「やり方がね、まったく、貴女の言う通り剛毅に過ぎる。あの短絡思考は時々真剣に殺意が湧くよ」

うわわわわ!国王暗殺計画が今ここに!・・・・・・笑えません。

 いやだから疲れてんだってば。今日はもうこれ以上何も入りませんよー。こちとら柔軟な若い脳細胞じゃないんだから。

 私の心の声が時折丸聞こえのはずの伯爵様は、余程腹に据え兼ねているのか、この時は全く聞こえない様子で更に毒を吐いた。絶好調。

「根回しをする時間は与えてやったのだがね。何だろうね、あの高慢ちきは。王命は正義という言葉の意味を、誰も教えてやらなかったのかね。 ああ、そうだね。私も懇切丁寧に言葉を尽くして語って聞かせたりはしなかったな。もちろん私が正式なアレの教育係であったならあんな愚王にはしなかったろうがね」

 忠告してやった傍から敵を増やしおって、と、物凄く綺麗な笑顔で吐き捨てた。怖過ぎる。でも、内容的にやはり、王様君もこちら側に近い事は間違い無いらしい。

 味方、という言葉を使うには、私はここの誰にも近しく無いけれど。

「・・やはり王宮は疲れる。次から次へと仕事が増えていくばかりで敵わん」

ふーん・・・。

 心も疲れていて無感情に近くなってるみたい。らしくない伯爵様の様子に不安は覚えるが、まっとうな感情は浮かばなかった。たぶん自分の事しか考えて無い状態なんだね、私。後ですっごく後悔するケースだ。

 だから自分へのフォローのつもりで言った。今の彼へ労いの言葉を掛けておけば、後の自分が精神的に楽になるから。決して善意からでは無かった・・・のだけど。

「お疲れ様です。お休み前にお酒等召されては?ぐっすり眠れ・・ます、ように?」

 ぴくり、と黒いローブが不自然な身動ぎをしたので、言い終わらない内に悟った。どうやら何か間違えたらしい。視線を転じれば、廊下側扉の両脇に控える侍女と騎士が、これ以上無いくらい目を見開いて私を凝視していた。

 そしてアンマリちゃんは目が合うとすぐ、責める様な嗜める様な眼差しになる。

あらららら。何?ぐっすり?眠れ?

「・・・ああ。もしかして、お酒、ですか?」

 ご明察、と伯爵様がすぐに応じてくれた。同時にこちらを向き直した美顔にも、もういつも通りの死ぬほど意地悪そうな笑顔が浮かんでいる。

「この国では、夜酒を勧めるのはこれ以上無く情熱的な行為なのだが、貴女の国ではどうだろう」

 私は殆どお酒を飲まない性質なのでそれほど気にしてなかったが、確かに、こちらへ来て今まで一度も、お酒をお酌した事が無い。給仕で注ぐのは水か茶だけだった。夜酒がセックスに直結するなら、昼酒はどうなのかしら。朝酒の立場も気になる。

「それは至りませんで、失礼な事を申し上げました。すみません」

 頭を下げて言いながら、日本でも「お酒に誘う」という行為が場合によっては微妙なモンだと考える。さて、どう説明したら良いものか。めんどくさいなあ。目をキラキラさせてる伯爵様には悪いが、端折ります。

 でも、伯爵様がちょっと元気になったみたいだから、少しだけ付き合おう。

「直結はしませんね。微妙な相手だと微妙ですけど。あくまでも嗜好品ですから。 ちなみに、これ以上無く、ってどのくらいでしょうか」

「それはもう、限り無く、だ。男に生まれたからには、生涯で1度は言われてみたい台詞だね。私は今言われてしまったがね!」

 わはは、と愉快気に声を上げる真っ黒な人に、真っ黒な私が便乗する。真面目な侍女と私をキショがる騎士は完全にドン引き中です。

「具体的には?後学の為に教えておいてください」

「貴女まで噛み砕いて説明しろと言うのかね!」

 途端苦々しく怒鳴られた。そう言えばこの人は素面が既に酔っ払いっぽいのだった。

「殆どの人は伯爵様ほどの察しの良さは持ち合わせてませんよ」

 言って宥めれば、わざとらしく眉間に皺を寄せて足を高く組み替えた。そして目元や口元に底意地の悪い笑みを隠しきれていない偽真顔で言う。

「まあ良い。 具体的には「飲み干して」だの「飲み干したい」だのという意味だよ。昔は「舐め尽したい」の隠語だったらしいがね」

「まあはしたない」

「はしたなかろう!」

 良かった。楽しそうだ。下ネタにこんなに助けられた気分になるのは、4年前の忘年会以来だ。社長が悪酔いしたあの時も大変お世話になりました。エロネタよありがとう。


 敬愛する人が倦厭する女と下品な話題で盛り上がっているのを、半目になって眺めていたチャランスが不意に、開け放している扉の向こうへ顔を向けた。それへ気を取られる私の目線を、眼差しに力を込めて引き止めた伯爵様が「大丈夫だ」と言った。

「黎明棟へ不法侵入出来るような腕利きは私ぐらいのものだ。安心しておいで」

 こういう時のこの人は、本当に優しい目をするから困る。思いながら頷いて見せ、出来るだけ下がる。この言い方だと人が来るのだ。私の姿を見られては拙かろう。が、余計な心配だった。チャランスはその辺り、無能なタイプでは無い。

「そこで止まれ。所属と要件を」

 扉の前へ出て、来訪者が室内を見れない立ち位置をさり気無く取る。ここまで一切無駄が無い。彼へ背を向ける位置に立っていたら、この瞬間まで人が近付いて来ているとすら私は気付かなかったろう。

 やっぱりこういうところ、ちょっと怖い。日本の日常生活にはそうそう無い緊張感だ。

「第三連隊リーバー十一級騎士であります。今、正面玄関にレティーツィア・フリード様が参られております。師団長閣下にお目通りを、と」

レティーツィア・フリード?・・・ああ!婚約問題のお相手様だ。

 あら大変、師団長野郎に夜酒でも勧めに来たのかしら。脳内で新しい言葉を早速使ってみた。合ってるかしら。

 とか何とか考えてる私を眺めていた伯爵様が、ふと苦笑した。自嘲絡みのやつ。

・・・?なんだろ?

 しながら、師団長野郎の不在を伝えているチャランスを、濃厚なテノールで遮る。

「私が出よう。そろそろ戻ろうかと思っていたところだ。ついでに追い払っておいてやる。 若狸、貸しにしておくから、追々しっかり返したまえ」

 高笑いと共に黒いマントを翻し、大仰に魔導師様は去って行った。と思ったらひょっこり扉の枠から顔だけ覗かせて、最後に捨て台詞を残して行った。

「カレン、おやすみ。貴女も良く眠れると良い」

おやすみなさい。

 私も伯爵様も。クリスたんも侯爵様も、王様君も。師団長野郎も。

 誰も今夜は、眠れないだろう。



 つい数日前まで、彼らと私は「違う人間」じゃないかと本気で疑っていた。体の造りだけじゃなく、精神や心と呼ばれるものも、根本的な部分で異質なのじゃないかと。

 でも、クリスたんの瞳に打ち砕かれてしまった。

 不安と恐怖で防御を固めようとしていた自己欺瞞は、真っ直ぐな青い眼差しに打ち砕かれて。

 チャランスの発言に素直に神経が尖るほどには、私はこの世界の人を「同じ人間」として受け入れる様になってしまった。

 まだ何の保証も無い世界で、心の一部が剥き出しになる。

 その事に堪らない恐怖を感じながら、一方で、説明の付かない安堵感に似た感情も覚えた。矛盾するそのふたつは不思議と、同じ場所に仲良く根を張った。

 それはきっと、暫くはこのまま根付いている予感がした。






 自己満足な駄文にも拘わらずお読み下さった方、本当にありがとうございます。



以下小ネタ・小話

 とは言え、まだ全く物語が動いてないので、下手な事を書くとネタバレになる気がして、小ネタも小話も書けないというオチを迎えています。

 主人公は師団長自室をお掃除する時トイレ掃除もしてますよー、的な、本文では端折った1行ネタが幾つかあった筈ですが、意味無し過ぎて存在を忘れてしまいました。

 何とかここには一定数以上の文字を書いときたいんですが。。。

 後書、本当にただの愚痴スペースになってますね。ごめんなさい。

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