▶️またお前か。
「……っ、つーーー……。
つーか、寒っ。マジで寒っ、どこだよここ……!!」
夜風は容赦なく体を包み込む。ガタガタ震えながら目が覚めた。
見上げた空は、真っ暗。
……は?
嘘だろ?昼間だったじゃん。今はもう完全に夜。時計なんて持ってないけど、体の芯まで冷え切ってる感じからして、多分これ、ざっと10時間くらいはあのまま倒れてたっぽいな。
のろのろと上体を起こして、泥だらけの手で地面を触る。アスファルト。綺麗に舗装された道だ。
で、辺りを見回すと――ちょっと離れた場所に、図書館と書かれた大きな施設。その反対にはなんか不気味にデカい学校の校舎。
「……もしかしてここ通学路か?っていうか、人っ子一人いねぇじゃん」
静まり返った暗闇。
じわじわと、いや、一気に怒りが込み上げてきた。
「……あのアマ。マジで、俺をここに放置して消えやがったな? ガチでクソアマすぎるだろ」
未練?
1ミリもあるわけない。あるのは純粋な殺意だけ。こいつの失恋のせいで死ぬほど痛い目にあわされて、挙句の果てに夜の道端に完全置き去り。しかも、ここの生徒は俺をそのまま放置ときた。どんだけ嫌われてんだよこいつ。
…はぁ、…まじ、元の世界帰りてぇよ、なんでこんな所にいるんだよ、どうやったら帰れんだよ……寒っ。
一先ず生きなきゃな。このまま凍死しちまったら本末転倒だ。
とりあえず、こいつの家に帰ろう、と立ち上がった。
立ち上がった、のはいいんだけど。
「……いや、家どこだよ」
こいつの体に入ったはいいものの、記憶が全然リンクしてない。
頭の中にモヤがかかったみたいで、右も左も分からない。なにこれ。詰んだ?
途方に暮れて髪をかきむしっていると、学校の正門から誰か歩いてくるのが見えた。
ちょっとふくよかで、優しそうなおばちゃん。残業終わりって感じの雰囲気。もしかして先生か……!
背に腹は代えられない。俺はわざとらしく頭を押さえて、ふらふらと駆け寄った。
「あの……すみません。ちょっと頭を強く打っちゃったみたいで、自分の家の場所が分かんなくなっちゃって……」
「あらあら、大丈夫!? 高山くんじゃない。そんなに泥だらけになって……。ほら、あっちが学生寮よ。一緒に行ってあげるからついておいで」
おばちゃん先生、めちゃくちゃ心配して親身に案内してくれた。マジで神。
なるほどね、こいつは──いや、高山ってやつは家じゃなくて学校の「寮」に住んでるわけか。先生が優しくてよかったー。会話から情報を必死に拾い集める。
先生に連れられて着いたのは、それなりにデカい寮だった。
お礼を言って先生と別れた後、今度は心臓をバクバクさせながら受付へ。
「あの、部屋番号をど忘れしちゃって……えっと、高山、です」
受付の男に一瞬「は?」みたいな顔をされたけど、名簿をめくって「高山は302号室だよ」と教えてくれた。
「あ、ありがとうございます……!」
心の中でガッツポーズ。
階段を二段飛ばしで駆け上がり、302号室の前に立つ。
やべ、鍵どこだろ…こんなか入ってないかな。バッグを漁ると、中から小さな鍵が出てきた。あぶねー、詰み回避した。それを鍵穴に突っ込んで、回す。カチャリ。やっと、やっと休める。
部屋に入ると、そこは一人暮らし用の、なんてことないシンプルな学生寮の部屋だった。
半日以上続いたパニックと、あの激痛。
メンタルも体力も、とっくに限界を超えてる。
「ここがどことか……もう知らん。考えるのは明日」
服が泥だらけなのも、もうどうでもいい。俺は制服を脱ぎ捨てる気力すらなく、そのままベッドにダイブして、気絶するように深い眠りに落ちた。
ちゅんちゅん、なんかの鳥の鳴き声。
……うわ、最悪。体バッキバキだし。
泥だらけの制服のまま寝たのだから当然か。のそのそとベッドから這い出て、部屋を見回す。一人暮らし感満載の狭い部屋。
ふと机を見たら、ポツンと朝ごはんが置かれてた。パンと、なんか変なスープ。
「この寮は朝ごはんを届けてくれるのか。」
腹がかなり減っていたので、まだ少し暖かいスープを胃に流し込む。急いで食べたせいで味はよく分からん。
文句言っても始まんねぇよな。ひとまず学校へ向かうことにした。
◇
で、学校に着いたはいいんだけどさ。
「は? なんだよこれ、意味分かんねぇ」
掲示板の前で、俺は頭を抱えてた。
この学校、時間割が最初から決まってる日本の高校とは違う。大学みたいに、自分で受けたい授業を登録してとるシステムだった。
周りの生徒たちは、手帳みたいなものを見ながら、時間割表に杖を向けている。
近くの奴らの会話を盗み聞きして、さらに絶望した。
「おい、お前もう『便利魔法』で履修届送った?」
「あ、忘れてた。今やるわ」
便利魔法。
……いや、何それ。
高山の記憶を必死に手繰り寄せる。だが何も思い出すことが出来なかった。その間にも、周りはみんなサクサク手続きを終えていくのに、俺だけ完全に置いてけぼり。
「クソ、まずは魔法が何なのか調べないと何も始まんねぇな」
便利魔法ってやつの習得方法も含めて、調べるならあそこしかない。
俺は履修登録を諦めて、重い足取りで図書館へ向かった。
◇
図書館は、引くほどデカかった。
ハリー〇ッターの世界かよ、ってくらい本棚が天井まで伸びてる。
「えーっと、魔法の基礎、基礎……って、本が多すぎてどこにあるかサッパリ分からん」
お目当ての「魔力の基礎」とか「初心者向け魔法」みたいな本を探して、広い館内をウロウロ彷徨う。完全に不審者だ。
「……あの、何か探してるの?」
不意に、横から声をかけられた。
びっくりして振り向くと、そこには女の子が立ってた。大人しそうな雰囲気だけど、こっちをじっと見つめる目は妙に好奇心に満ちてる。
「あ、いや……その、魔力についてとか、この世界の常識が書いてある本を探してて……」
「それなら、あっちの奥にある『基礎魔術・歴史』の棚にあるよ。上から3段目くらい」
「あ、そうなんだ。ありがとう、助かったわ」
「ううん、気にしないで」
彼女はそれだけ言うと、また自分の読んでいた本に目を戻した。
教えてもらった棚へ向かう。特別なイベントが起きるわけでもない、本当にただの、よくある日常のワンシーンみたいな出会いだった。
◇
「よし、これとこれだな」
教えてもらった棚から、それっぽい本を数冊引っ張り出す。
一回部屋に持ち帰ってじっくり読もうと思って、受付のカウンターへ本を持って行った。
受付のお姉さんに本を差し出すと、お姉さんはにこやかに言った。
「はーい、じゃあカードに便利魔法で貸出データを記録してくださいね」
「…………」
俺はフリーズした。
便利魔法。
またお前か。
「あの……使えないと、借りられない感じですか?」
「え? ええ、まあ、データの管理魔法と連動してるので……」
お姉さんが不思議そうな顔をする。
だめだ。本を借りるのすら、あの魔法が必要らしい。
「あ、じゃあ、ここで読んでいきます……」
すごすごと本を持って席に座る。
いくらなんでも便利魔法の壁が厚すぎる。
俺は大きくため息をつきながら、本を開いた。
「はぁ……。これ、しばらく毎日ここに通う羽目になりそうだな……」
窓の外の青空を眺めながら、俺の異世界生活の、地味で気の遠くなるような戦いが始まった。
自分が設定担当、相方が地の文担当という形で共同作成をしています!相方は現在カクヨムにて活動中です!!
『古代語の文法について』の更新について
更新頻度についてのお知らせです。
本作は、2週間に1話程度の更新を目標に投稿していく予定です。
不定期更新となりますが、楽しみにしてくださっている方は、しばらくお待ちいただけると幸いです。




