▶️パキン、と。
「かいと!! 明日学校なんだから早く寝なさいよ!!」
いつも通りの母の声。俺は何とも思わず適当に返事をして眠りについた。
これが転生前の最後に聞いた言葉だとは思わず。
◇(異世界) パキン、と。
頭の中で、何かが硬質な音を立てて割れた。
「……もう、あなたのそういうところ全部嫌い。別れて」
仲良くやれていると、ずっと思っていた。大好きな彼女が冷たい声を残して背を向ける。
高山ゆうきの魂は、その精神的ショックに耐えきれず、削れ、ボロボロに割れて崩壊しかけていた。
――そこに、寝ていたはずの相川かいとの魂が、猛烈な引力で吸い込まれるように入った。
「え、あ、がっ……!?」
自我を乗っ取ったかいとが、ゆうきの体で最初に感じたのは、視界の急激な変化だった。
いつもより地面が近い。手足が短い。元の175センチの体から、すこし小さな体になった違和感に脳がパニックを起こす。
だが、戸惑う時間は一瞬すら与えられなかった。
「な、ん……これ、痛っ、がぁああああああっ!?」
去りゆく彼女の後ろ姿が視界に入った瞬間、ゆうきの肉体に刻まれた胸の痛みに襲われた。
心臓を素手で握り潰されるような、凄まじい衝撃が胸を襲う。それだけではない。激痛は右上半身へ、右肩へ、そして右腕の先へと電撃のように駆け抜けた。
内側から体を引きちぎられたような凄まじい物理的激痛。
「は、が、あ……っ!」
かいとは叫ぶこともできず、右腕を抱えて冷たい地面に崩れ落ちた。息ができない。頭が真っ白になる。他人の失恋の苦痛が、あまりにも理不尽な暴力的苦痛となって襲いかかる――かいとはそのまま、地べたでのたうち回った末に意識を失った。
◇
「……っハァ、つっ……!」
どれくらい時間が経っただろうか。
かいとは、激しい動悸とともにハッと目覚めた。視界に映るのは、見知らぬ異世界の空。
意識が戻った瞬間、かいとは恐怖に突き動かされるように、無意識に左手を動かしていた。
ガシッ、と自分の右肩を強く掴む。そのまま二の腕、肘、そして指先まで、すがるように何度も必死に触ってさすった。
激痛の残像に震えながら、ようやく荒い息を吐き出す。
だが、手をまじまじと見つめ、かいとは眉をひそめた。
「っていうか……やっぱり俺の手じゃないな…小さい気がする」
一回り小さくなった自分の手。そして周囲を見回し、我に返る。
「……あのアマ、マジで俺をここに放置して消えやがったな?」
よく知りもしない女のせいか、右半身が千切れるほどの激痛を味わい、おまけに泥だらけで道端に置き去り。
最悪すぎる異世界生活の幕開けに、かいとは小さくなった右手を強く握りしめた。
自分が設定担当、相方が地の文担当という形で共同作成をしています!相方は現在カクヨムにて活動中です!!
『古代語の文法について』の更新について
更新頻度についてのお知らせです。
本作は、2週間に1話程度の更新を目標に投稿していく予定です。
不定期更新となりますが、楽しみにしてくださっている方は、しばらくお待ちいただけると幸いです。




