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第十一話

「わかった。西だ! 行くぞ!」


 道などあるはずもなく、木々をかき分けながら進む。運動していてよかったと思った。道なき道を進むのはただでさえ疲れる。さらに魔獣の脅威に晒されながら、周囲を警戒し歩くのはこの身体では耐えきれなかっただろう。


 オーウェンが両手を翳すと、土が鋭く盛りあがり魔獣を串刺しにする。エンベルトの適性は火らしく、森で火魔法を使うわけにはいかないようで剣で戦っていたが、聖から見てもかなりの強さだった。


(おじいちゃんを見てるみたい)


 おじいちゃん、などと言ったら、まだ三十代くらいのエンベルトは傷つくかもしれないが、身のこなしは歴戦の強者といった雰囲気がある。


 それにオーウェンも魔法よりも剣で戦うのが好きらしい。魔法で仕留め損なった魔獣を次々に切り倒していく。とはいえ、聖に魔獣を近づけるのを危険と判断したのか、オーウェンもディーナもカミラも魔法での攻撃が多かった。


 これだけ強ければ聖女など必要ないのでは、とも思うが、根本を立たねば魔獣は限りなく生まれてくる。


(まだ、結構遠い……数キロってところかな)


 この一ヶ月、魔獣を捕まえてもらい、何度も祓ってきた。同じようにすればいいだけだ。


 いつ元の世界に帰れるのかはわからない。ただ、なにもせず待っていると、もしかしたら一生帰れないかもしれない、そう考えるたびに不安に押しつぶされそうになった。聖女という役目は聖にとって気分転換になるのではないかと言ったのはオーウェンだ。


 聖は恐怖を紛らわすように、オーウェンの背中を見つめた。


(偉ぶったところもないし……侍女の話によるとかなり優秀だって言うし、王族なのにどうして私の護衛みたいな仕事をしてるんだろう)


 ほかの王族、オーウェンの三歳下の弟である第二王子や、八歳下の第三王子は王城の中でぬくぬくと育てられており、時折、騎士団の演習に顔を出す程度だと言う。


 聖はこの二人に会ったことすらない。


 それに比べてオーウェンは、聖を守るために命を顧みず剣を持ち魔法で戦う。


 第一騎士団である聖女部隊は聖女の行くところすべてに付き従う。いくら転移陣や馬車があると言っても、転移陣から離れた場所で瘴気が発生すれば、何週間も王都に帰れない場合もあるそうだ。


 魔獣の討伐は当然命の危険も伴う。王国にとっては大事な第一王子であるはずなのに。


(王族は守られているものって、私の価値観の方が間違ってるのかな。この国は聖女をなによりも尊ぶって言ってたし)


 その割には、王城ですれ違うほとんど貴族は、聖を重んじているとは思えないのだが。


 もちろん態度では聖を敬うように見せてはいるが、胸の内はその反対だとすぐにわかった。こちらはそういう目には敏感なのだ。


「セイ様! 疲れたらすぐに言ってくださいね! 無理しないで!」


 元気いっぱいに声を張り上げ声をかけてきたのは、聖女部隊の女性隊員であるディーナだ。ブラウンの髪と目、元の世界の自分を思わせるようながっしりとした体躯をしている。


 聖の二つ上の十八歳であり、女性ということもあって、行軍のときは聖の身の回りの世話役でもあるようだ。かしこまった話し方が苦手なようで、距離感も近く、年上ではあるがこの世界に友人ができたようで嬉しかった。


「ありがとう。でも、元の世界じゃけっこう鍛えてたから、体力はある方なんだ」


 腕を曲げて力こぶを見せようとするが、細腕にはまったく筋肉がついていない。腕立て伏せを毎日しているが、なかなか元の身体のようにはならないらしい。


「あら、そんな細い腕でですか?」


 続いてそう言ったのは、カミラという女性隊員だ。護衛はもちろん、ディーナと交代で聖の世話をするらしい。カミラは二十五歳で、聖にとってもディーナにとってもお姉さんという感じだ。しっかり者で、ディーナの話し方をよく叱っている。


「もともとはディーナくらいがっしりしてたの!」


 この世界での聖は、周囲が羨ましがるほどの美少女で、運動とは無縁そうな体躯をしている。この身体でどれだけ動き回れるかはわからないが、元の身体より疲れやすくなっているのはたしかだった。


「まぁ無理はなさいませんように。いざというときに走れるだけの体力は残しておいてくださいね」


「カミラの言う通りだ。俺たちがいるとは言え、瘴気の吹き溜まり近くにいる魔獣は非常に強いし、数も増える。体力は温存しておいてくれ」


「オーウェンまで……わかったってば」


 がっくりと肩を落としながら歩くと、前にいるオーウェンがくすりと小さく笑った。釣られて聖も笑ってしまう。


「なに?」


「いや……多少は元気になってよかった。でも、無理をして笑わなくてもいいからな。元の世界では人が死ぬところなど滅多に見ないのだろう?」


 先ほどの凄惨な光景を見てしまったため、案じてくれているのだろう。


「うん。そういえば……前の聖女様も私と同じ世界から来た人なの? なら最初はやっぱり大変だったんじゃない?」


 その人は帰りたいと望まなかったのか。望んでも帰してもらえなかったのか。亡くなったと聞いたが、まさか魔獣にやられたのだろうか。


 聖は先ほどの光景を思い出し、自分がああなる想像をしてぶるりと身を震わせた。聖女部隊の面々が守ってくれなかったら、今の自分ではあっという間に肉塊に変わるだろう。


「……あぁ、そうだな」


 オーウェンはやや言葉を濁しながら頷いた。


「亡くなったって聞いたけど、病気?」


「あぁ」


 オーウェンはこれ以上は話したくないとでも言うように目を逸らした。


 オーウェンの言葉にも態度にもいやな雰囲気はない。が、なにか聖には言いたくないことがあるのは間違いなさそうだ。


「オーウェンは、前の聖女様のことも守ってたの?」


「いや……俺はその頃、聖女部隊にはいなかった。第五騎士団の団長をしてたんだ。第一に来たのは、新たな聖女が召喚されると知ってからだ」


「それは、どうして?」


「セイ……悪いが話している余裕はなさそうだ! 吹き溜まり地点は見つかったか?」


 剣を交えながら、オーウェンが聞く。オーウェンが大きなクマのような魔獣を一刀両断にすると、あたりに真っ赤な血が飛び散った。

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