表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
兎にかく、あるべき生は要らぬ  作者: 健安 堵森
第一章 自分のことは自分だけが知っている
7/66

六話 類のない世界

 とりあえず俺たちは、暖炉の前の椅子に腰掛けた。俺は乗っているだけだが。


「……」

『……』


 気不味い。まさか意思疎通出来たなんて思ってもいなかったからな。

 彼女も彼女で兎が喋るなんて思ってもいなかっただろう。


「と、とりあえず、自己紹介から始めるか!こう黙っていては何も始まらんだろう!」

『そそ、そうだな!自己紹介から始めるか!』


 とにかく何か話さないと始まらないのは同感だ。


「じゃあ、私からいくぞ!私の名前はエマ。エマ・ガーデニアだ。数年前からこのリリディアの森で一人で小屋を建てて生活している。」

『へぇー、数年前から森で生活してんのか。しかも一人で。凄いな。』

「ふふっ、そんなことで褒められたのは初めてだ。ありがと。」

『でも女性一人大変じゃないか?』

「そんなこともないぞ?というか逆に誰もいないから落ち着いていて快適だ。」


 エマは優しく笑う。本当にこの生活が気に入ってるようだ。


「さ、今度はそちらの番だ。自己紹介をどうぞ」

『ああ』


 とりあえず元は人間ということは隠しておこうか。

 無闇矢鱈に話す内容では無いだろう。


『あー、兎だ。現在名前無し、職無し、家無しの放浪者。気付いたらここにいた』

「……兎じゃなかったら悲惨な状況だな」

『同感』

「他に覚えている事は無いのか?」


 他に覚えている事ね…


『ああ、あれだ。ここにいる前は青い狼に追いかけられて谷底へと落ちていったはずなんだが…』

「谷底に?んー、兎が言ってる谷底っていうのは多分北にある大地の裂け目のことだろうな。彼処の底は山から流れ出てくる水によって小川になっているんだ。その小川の下流でちょうど流されている君を見つけ拾ってきたから多分間違いないだろう。」


 そうか、あの裂け目の下は川だったのか。

 落ちている途中で気絶したから全然覚えてないが、落下した場所が水場なら助かったのも納得出来る。


『そっか。まあ、その、なんだ。……ありがとな。色々と助けてくれて』

「ははは、気にしなくていいさ。夕飯に一品増えたかどうかの違いだし」

『あー、ちょっと用事思い出したわー。んじゃまた!』


 からからと笑いながら夕飯と口にするエマを尻目に部屋から退出する。


「わー!わー!冗談!冗談だって!本当は食べる気なんてないから!」

『まったく、言っていい冗談と悪い冗談だってあるんだぞ』


 エマは優しく横から俺を持ち抱えてくれると椅子の上に戻してくれた。


「話がそれちゃったな。それにしても青い狼か…。この辺りで青い狼といったら、魔物の〔十子孕ム牝狼(アセナ)〕だろうな。よく逃げ切ったものだ。やっぱり君は“能力”持ちか、こうして話も出来るんだし」

『ま、魔物?能力??おいおい、また冗談は止めてくれよ。話が全然進まないじゃないか』

「冗談とはなんのことだ?」

『はあ?魔物や能力のことに決まってんだろ。んなもん妄想の中だけにしとけよ』


 なんだろう。話が噛み合ってない気がする。


「いやいや、普通に魔物はいるし能力も持ってる人は持っているんだが……。もしかして、その、兎の世界というか世間体では言い方が違うのか?」

『兎の世間体とか言われても知らんぞ俺も……』

「うーん、でもいるものはいるんだよなあ」


 エマはうんうんと唸りながら悩んでいる。

 その様子からエマは嘘は吐いてないと俺は感じてしまう。

 ならどうしてここまで俺とエマの間で認識が違うのか。もしかして……、


『なあ、話が変わるんだが、ここリリディアの森って言ったよな?この森ってどこの国の物なんだ?』

「ここか?ここはオール大陸のどこにも属しない部分だが……まあ、強いて言うなら人族のラエドル王国かな?」


 オール大陸、ラエドル王国……一切聞いたことがない。

 国名は聞いたことがなくてもまだ自分を誤魔化すことが出来たが大陸は無視できなかった。

 さすがにオール大陸なんて場所が地球にある訳が無い。

 ここは……自分がいた世界とは全くの別物だ。


「おーいどうした、黙り込んで?腹痛いのか?」

『…いや、ちょっと考え事してた。すまん』

「そっか。まあ兎の悩みなんて人間には解らんだろうから訊かないよ。で、どうなんだ。魔物や能力のことは信じるのか?というか信じて貰わないと色々と話が進まんぞ。」

『あ、ああ信じるよ。信じてくから話を進めていこう』


 現実が受け入れられなく動揺が収まらないが停滞していても何も始まらない。

 兎に角、今知ることが出来る情報は集めておかなければ。


「よし、えーと確かから逃げ切ったから能力持ちだろ?という話だよな」

『そうだな。その能力ってなんなんだ?』

「うーんと、簡単に言うと万物が持つ特異の力のことだな」

『特異の力……』

「ああ、能力は持っているそいつ次第だ。手から火を出せたり金属を砂に変えたりすることが出来る。だが必ずしも能力を持って生まれてくるわけじゃない、無い奴だっている。というか無い方が普通なんだ。例外的に後から才能が芽生えることもあるが基本それはない。だが能力持ちの中には性根が悪い奴もいて能力を持ってない人間や品物を、無能者や無能品とか言って馬鹿にしたりする奴もいる。」


 エマは少し機嫌が悪くなったようだ。性根が悪い奴に嫌な思い出があるのかもしれない。


『エマは何か能力を持ってるのか?』

「ああ、私は〝火炎の隣人〟という能力があってだな。炎の扱いが上手くなる才能なんだがそのお陰で……《火球(ファイアボール)》」


 エマがファイアボール、と口にすると右手の指先から小さな火の玉が五つ、一瞬にして浮かび上がる。


『おいおいおいおい!何だよそれ、魔法みたいだな!?』

「そうさ、これは<火炎魔法>の《火球(ファイアボール)》。本来なら一つ出せる程度だが〝火炎の隣人〟のお陰で数を増やせたりすることが出来るんだ。」


 正直に言おう。ここがオール大陸だとか、地球じゃないとかどうでもよくなった。

 そんなことよりも、目の前に存在する魔法という非現実的な現象がとても輝かしく見える。

 自分の大好きなゲームや小説の続編が発表された時のようなワクワク感が俺の心を埋めていた。


『な、なあ!俺にもそれが使えるのか!?』

「待て待て待て!話がまた脱線していく!魔法については後で教えるから今は能力についてだ!」


 どうやらとても興奮していたらしい。エマは手で俺を静止させている。


『す、すまん……』

「話は順番通りにしていこう。とにかく、私はお前が能力持ちだって思ってる。」

『でもどうやってそんなの分かるんだ?俺だって持ってるっていう自覚さえないのに』

「それについては私が持っている技能、<鑑定>を使ってお前のステイタスを読み取る」

『技能?ステイタス?』


 なんだ?また新しい単語が出て来たぞ。それにさっきの魔法でも「ファイアボール」と英語を使っていたが何でちょくちょく英語が出て来るんだ?


「技能っていうのは能力とは違う、自力で覚える力のことだ。私が使った<火炎魔法>も技能の力のおかげだ。そして技能にはレベルというものがあり、レベルが高ければ高いほど強い力を発揮できる。今までに確認されている中で最高位のレベルは9でその上は誰も知らない。その上があるって言う奴もいれば9が最高だって言う奴もいる。ちなみに私の火炎魔法はレベル7だ」

『んで、ステイタスってのは?』


 最後のドヤ顔レベル7宣言は無視して話を進める。


「……ステイタスってのはそいつの体力や力の強さ、持ってる才能や技能が記されている文字の配列のことだ。技能の<鑑定>はその文字列を読み取ることが出来る力がある」


 やべ、ちょっと拗ねた…。


『なるほどな。それにしてもレベル9の内7の火炎魔法を持ってるなんて凄いなー』

「!ふふふ、お前もそう思うだろう?」

『ああ、凄いぜ、凄すぎる』

「そうかそうか、ふふふっ」


 凄いしか言ってないがエマの顔が結構ニヤけてる。

 ちょろいぞ、エマ。本当に凄いのか微塵も分からんぞ……。


『それで、鑑定してくれるのか?』

「ん?ああ、それじゃあ今からお前のステイタスを見るぞ」


 そう言うとエマは俺のことをじっと見つめてくる。



 ……。今俺の全てが見られてると思うと、なんだか怖く感じる。ちょっと嫌だなぁ……。


「んんん?」

『どうした?』

「いや、お前の能力だが……、どこにも見当たらない」

『見落としてたりしてないのか?』

「そんなことはない。全部に目を通しているがどこにもないんだ」


 エマは眉をひそめ、難しい顔をしている。

 どうやら本当に能力は無いらしい。無いとは思っていたが、それはそれでちょっと悲しい。


「んー、絶対持ってると思ったんだけどなぁ」

『なあ、自分自身でステイタスって見れないのか?』

「あー、そうだ、見れるぞ。ちょっと待ってな」


 何か思い出したエマは部屋から出ていく。

 数分後、戻ってきたエマの手には鮮やかな黄緑色の結晶が入った小瓶が握られていた。


『なんだ?その宝石みたいなのは』

「これはな、〝自己の結晶〟って言って私達人間が自身のステイタスを自分自身で見れるようにするために飲むものなんだ。」

『これを飲むのか?すげえ体に悪そうだな』

「でも私達は物心ついたころに飲んでるが特に何ともないぞ」

『うーん、でもこんな高価そうなもの貰っていいのか?何も返せんぞ』

「いいっていいって!それに自己の結晶はそこらへんにどこにでも生えてるからタダも同然だ」


 逆にそれは怪しすぎないか?

 まあ何かあれば話題になっているだろうし、信じてみるか。


『じゃあ一つ貰うな』

「ああ、そら」


 俺はエマが摘んでいる自己の結晶に近付きパクリと飲み込む。


『…特に何とも無いな』

「ステイタスが見たいって念じて見るといいぞ?」


 ステイタス、ステイタス、ステイタス………。


『おっ』

「どうだ?見えたか?能力や技能の能力に関しては意識したら自然と分かるはずだ」


 文字が目の前に見える。

 色々な数字や文字が目の前に浮かんでいるが、どうだ?とエマが聞いてくるあたり普通は他人には見えないのだろう。





 種族名 兎 レベル2

 名前 無し


 体力 30/30 魔力 10/10


 筋力 10 防御力 30

 理力 3120 精神力 158

 敏捷力460


 〔能力〕

  自己防衛 夢中の治癒 繋がる心


 〔技能〕

 幸運 レベル9

 毒耐性 レベル6

 麻痺耐性 レベル7

 隠蔽 レベル7





『んんふふふ』


 無いと言われた能力が四つもある。どうしよう、嬉しくてニヤけてしまう。

 技能もこれまた四つあり、最低でもレベル6という先程の説明からすると結構高い。

 体力や筋力の数値は低いが兎の体だとそんなものなのだろう。

 しかし理力がずば抜けて高く三千もある。やはり天才だと兎でも高いものは高いのだろうか、ぐふふふ。


「おい、どうなんだ?さっきからずっと真顔で笑ってるぞ気持ち悪い」

『おお、悪い悪い』


 エマにつつかれて浮かれた気分が薄くなる。


 しかしなぜエマには俺の能力が見えなかったのだろう?


 俺はステイタスから能力と技能の能力を感じ取ってみる。

 そこから分かった事でまずは俺だけで予想を立ててみた。

 まずエマと喋れたのは〝繋がる心〟の力。簡単に言うと念話の力だ。言葉を伝えたい相手に声を使わずに言葉を届けることが出来るらしい。

 次になぜエマが俺の能力を見れなかった理由は……、技能の隠蔽か“才能”の〝自己防衛〟だと思う。隠蔽は色々なものを隠せるようになるらしいがどこまでかは分からなかった。〝自己防衛〟は自身が危機に陥った時に自動で守ってくれる力らしいが、危ないことは特になかったはずだから違うとは思うのだが……。


『とりあえず能力はあったぞ。それでなんだが……』


 俺が予想したことを伝えてみた。エマなら何か分かるかもしれない。


「なるほどね。多分、兎の予想で合っていると思うぞ。そして最後の私が見れなかった理由は隠蔽の方だな。隠蔽は物を隠す他にステイタスも隠せる力がある。兎の話だとレベルが7らしいが私の鑑定はレベルが6だ。だから見破れなかったんだな。」

『なるほどな』

「それにしても能力が三つもか……。こりゃあ磨けば光る原石だな、うふふふ」

『おい、笑みが黒いぞ気持ち悪い』


 もっと俺みたいに清らかな心を持って欲しいものだ。


「いやぁ、妄想が膨らんでしまっていたよ。すまないすまない。ところでお前には何かこれからの予定や目的はあるのか?」

『ん?いや、特にそんなものはないが……』

「そうかそうか。予定や目的はないのか」


 エマはすごく嬉しそうな顔をしている。


『なんじゃい、その笑みは』

「ふふ、これからの予定はないんだろ。それなら私の研究に付き合ってくれないか?」

『研究ぅ?』

「おいおい、そんな面倒臭そうな声を出さないでくれ。楽しいものだぞ、未知を探るのは」


 俺が感じた面倒臭さが思わず言葉に乗ってしまったが、エマは笑って誘ってくる。


『研究っつっても何を研究するんだ?』

「おっ、興味を持ってくれたか。私がこれまで研究しているのは二つあって一つが私の得意な火炎魔法なんだが、兎とやるのはもう一つの方、魔法の存在についてだ。」

『魔法の存在?』

「ああ、この世界には魔法という力があるがそれを扱えるのは人間だけなんだ。動物や魔物は魔法が使えた試しがない。そこでお前だ」


 エマが俺を指差してくる。


『俺?』

「ああ、お前は人の言語を理解出来る知能があるし、理力も三千とそこらへんの兎たちと比べれば異常なほど高い。魔法の威力等は理力に関係してくるからな。それに何より能力を四つも持っているんだ。能力が複数なんて滅多にいない。お前は特別な存在だと私は思っている」

『い、いやぁ、それほどでもあると俺も思うけど……』


 エマに本当のことを言われて少し気恥しい。


「な?お願いだ。私に協力してくれ」

『うーん、でもなぁ』


 悩んでいる俺にエマは近付いて来て、耳元で優しく囁いた。


「成功したら、魔法、使えるぞ?」


 フッ、エマもまだまだだな。安い誘い文句だ。


『これからよろしくな』


 俺は小さな前脚でエマの手と熱い握手を交わした。


感想、ブクマ、評価を宜しくお願いしますっ!

モンハンからの魔の手には勝てなかったよ……

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ