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兎にかく、あるべき生は要らぬ  作者: 健安 堵森
第一章 自分のことは自分だけが知っている
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五話 あなたは誰?ここは何処?

 パキパキと木が燃えるような音が聞こえる。

 音の方から感じられる熱も熱すぎる、ということはなく布団で寝ているかのように心地良い。


 クゥ…「ん…ここは…」


 目が覚めるとそこは小屋の中と思われる場所だった。

 明かりは暖炉の炎だけで部屋の全体を把握するのは難しいが、天井からは縛られた草や果実らしきものが吊り下がっていたり、謎の液体が入っている瓶や本が棚にぎっしりと詰められていることが分かる。



 …うん、怪しい。

 まるで映画に出てくる魔女の部屋の中みたいだ。


 グクゥ?「だが待てよ?何で自分がこんなところにいるんだ?あの時、俺は谷底へと落ちたはずなのに…」


 今の俺の状況を訝しんでいると、背後で突然ガチャリ、という音とともに誰かが入ってくる足音が聞こえた。

 ビクリ、と音にビビりながらも恐る恐る振り向いてみると、そこには魔女としか言い表せない人物がいた。

 黒いブラウスとロングスカート、胸元には橙色のブローチ、そして何より謎の人物を魔女たらしめているのが、頭に被っている鍔の広いとんがり帽子だった。とんがり帽子からは赤毛の長い髪の毛しかはみ出しておらず、その表情は伺えない。しかし、髪の長さや、胸の膨らみからいって女性だと予想出来る。


 ク、キュウ…「あの、えとその…」


 突然の人との出会いに戸惑っていると、彼女が顔をこちらに向け目が合ってしまう。

 彼女は意味有り気に微笑むと、


「@@、☆&%^~$+」


 ……多分、何か言葉を喋ったのだろう。

 とりあえず、日本人出ないことが分かってしまったがどうにかして意思が通じ合えないだろうか。



 謎の言語に戸惑っていると彼女は一歩、俺の方へと近づいてきた。

 俺は無意識に一歩後ろへと後退してしまう。また一歩彼女が近づくと、俺の方もまた一歩後退してしまう。


「♪♡☆&474?k#97iw¥」


 ……なんというか、怖いのだ。

 謎の言語も不明な点で怖いが、それよりも自分自身より大きい生物が近付いてくるのが怖い。



 頭ではどうにかして対話を試みたいと思っているのに、心が怖がって自分の身体が思うように動いてくれない。

 彼女は困ったように口を噤むと今度は両手を広げて進んできた。

 その行動に、俺の心は限界を迎え、今いるテーブルの上から飛び出すと、近くの棚の下に隠れてしまった。


 グゥ…「ああ、やってしまった…」


 後悔の念が口から流れ出てしまうが、どうしようもなかった。

 とりあえず、ばくばくと鳴っている心臓が落ち着くまでここにいさせてもらいたい。



 棚の下から彼女の足だけ(それしか見えない)を観察していると、また扉を開け出ていってしまった。

 幾ばくかの時間が過ぎると、彼女はまた戻ってきて俺が隠れている棚の前にこんもりと野菜らしきものが載せられた皿が置かれた。


 ……クゥ?「……食べ物で釣ろうとしてるのか?」


 どうしよう……。彼女の意図が読めない。



 そのままじっとしていると、彼女は近くにあった椅子を引き寄せそのまま座ってしまった。









 ……どれほどの時間が経っただろうか。あれからずっと変化はない。

 時たま彼女が他の棚の方へと移動したり、暖炉に薪をくべたりする程度だろうか。

 目の前の野菜らしきものは気持ち少し、萎びてきたように見える。



 彼女がまた立ち上がり、今度は何をするのか様子を観察していると扉を開けて部屋から出ていってしまった。



 少し待ってみたが帰ってくる気配はない。

 これを機に俺は棚の下から這い出てみた。長時間同じ体勢だったために体が凝ってしまった。

 俺は凝りをほぐすために伸びをしたり、体についた埃を出来るだけ払ったりする。

 一連の行動を終えた俺は、最後に野菜らしきものが盛られた皿に目をやる。


 クゥククゥ「罠なんだろうか、食べてもいいんだだろうか。や、罠だろうとなんだろうと食べて欲しいから目の前に置いたんだろうけども」


 うーん、と悩み込むが俺のお腹はグゥと鳴ってしまった。


 グゥ…「ま、食べてみますか…」


 腹減っては何とやらと言いますし。



 俺は野菜らしきものに齧り付く。


 ンークゥ「んー、金林檎程ではないが…まあ、普通かな」


 やはり、あの果物は特別だったか、また食べたいな……。



 金林檎に恋焦がれながら食べていると皿の上はいつの間にか空になっていた。


 グゥ…「ふぅ、食った食った…」


 食事に満足していると、こちらに近付いてくる足音が聞こえた。

 俺は反射的に棚の下に滑り込むと先程と同じように部屋内が見渡せるような姿勢をとる。

 近付く足音に耳を傾けていると、扉が開かれ彼女が入ってくる。

 扉を閉めた彼女は少し歩くと、急に小走りになってこちらに近付いてしゃがみ込み、空の皿を手に取る。


「0〜、tv%tv%」


 そのまま彼女は皿をどこかにやり、また椅子に座り始めた。

 時は流れるが自分の体に異変は起こらないし、彼女も何かする気配はない。



 ……フゥン「……ちょっと心配し過ぎだったかな」


 少しだけ気を許した俺は、棚の下から顔を出してみることにした。

 俺が顔を出したことに気付いてた彼女は読んでいた本から目を逸らし、今度はその場から動くことはせずに話し掛けてきた。


「0t、ゞ▽tw¥69kr@pm?」


 やっぱり何を言っているのか分からなかったが少しだけ彼女への恐怖心が和らいだ気がする。

 俺は出した顔を引っ込めるとそのまま棚の下で眠りにつくことにした。


「%♡♡、♪→~¥」




 ▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽




 そんな日常が一週間続いた。

 彼女が野菜を持ってきてくれて、彼女がいない時に俺が野菜を食べ終える。

 後は棚の下で部屋の中を観察する俺と椅子に座って本を読む彼女。

 たまに彼女が棚の下にいる俺に向かって話し掛けてくる。

 最初は初めて会った時と同じように何を言っているのか分からなかったが、日が経つにつれて懐かしいような気持ちとともに段々と理解できるようになり、五日も経てば俺自身も謎の言語を話せる(伝わらないだろうけど)ようになっていた。


 クゥ「でも一週間もこうして姿を見せないっていうのは人としてアレだよな……兎だけど」


 そして一週間も経てば彼女に対する恐怖心は消え失せ、逆に彼女に対する申し訳なさでいっぱいだった。

 飯をタダで貰っていながら姿を見せない。

 ニートと何ら変わりない生活をしているという現実が一社会人の俺に重く伸し掛っていた。


 ……グゥ「……今日からはちゃんと姿を見せますか」


 決意を固めた俺は彼女が野菜を持ってきてくれる時間の前に棚の下から這い出て待つ事にした。

 ガチャリ、といつもと同じ扉を開ける音が聞こえる。


「おーい兎~ぃ、ご飯持ってきたぞぉ~」


 彼女が現れる。



 いつも変わらず上下真っ黒で橙色のブローチを胸元につけた姿に、ボサっとした赤毛の長い髪。

 他に服とかは持っていないのだろうか。気飾れば普通に綺麗になると思うのに。


「……って言っても棚の下から出て、いる!?」


 そりゃそうだよな、引きこもりが部屋から出て来たら驚くよな。俺も同じ立場なら驚くわ。


「いや~、やっと出てきたかぁ。私のこの一週間も無駄じゃなかったなぁ〜」


 その嬉しそうな笑顔で辛い。ものごっつ辛い。


「 なぁ、こっち来てくれないか?」


 彼女は皿をテーブルの上に置くとしゃがみ込み、手を広げながら待ち構える。

 俺は罪滅しのために出来るだけ彼女の言う通りにしようと思い、素直に近付く。


「おぉ、やっぱりふさふさだな〜」


 近付いた瞬間、横からわしゃわしゃと触られた。

 少し荒っぽくて頭の中がグワングワンする。


『ちょ、ちょっと待ってくれ!』

「?」


 激しい手の動きに耐えかね、思わず喋ってしまった。

 何とか鳴き声で彼女に気持ちが伝わったみたいで手の動きが止まる。


「あっ、そういえば兎のご飯持ってきたんだったよな!すまん、ふさふさで忘れてた」


 あー、そういやそうだったな。俺も忘れてたわ。


「はい、どーぞ」


 目の前に野菜が盛られた皿が置かれる。

 一応鳴き声にしか聞こえないだろうが、ちゃんと礼は言っとかないとな。


『いつも、ありがとな』

「え?」


 ん?



 彼女と目が合う。


「うさぎ……?」

『おうよ?』

「『……』」


「『話が通じてるうううううう!!?』」


 二人してびっくりした。














『…あー、とりあえず席座りましょうか』

「そ、そうだな…」


ブクマ、感想、評価宜しくお願いしますっ!

なんでもござれ!

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