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兎にかく、あるべき生は要らぬ  作者: 健安 堵森
第二章 ただそれだけで
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二十一話 理想の姿

久しぶりで忘れたら


読者に、かくあるべき説明は要る


(https://ncode.syosetu.com/n3529fw/)を見てネ

 

『だラあああぁぁぁアアアッッ!!!』


 岩の拳が敵を撃ち砕く。蟻人ミュルミドン達は壁に激突して生命活動を停止させた。


「また蟻人ミュルミドンだな、この迷宮……」


 ティグリス達が山越えに挑戦している頃、ネキロム達は未だ迷宮を彷徨い続けていた。蟻巣の迷宮と呼ばれるこの場所。その名の通り、蟻の魔物が巣食う迷宮なのだがネキロム達はそれを知らない。知らぬが故に、働き蟻の役割を果たしている蟻人ミュルミドンばかり遭遇しており、ネキロムのストレスが溜まりに溜まっていた。


『どこに突き進んでも、蟻蟻蟻アリアリアりありあり……』


 さよならだ、とでも言いそうなほどネキロムは蟻に苦しめられていた。苦戦する程ではなく、かといって油断すれば殺される強さ。集中が途切れる事を許さない単純作業は、ネキロムの怠け癖にとって致命的弱点であった。


『あぅあうぁう……』


 ついに壊れてしまったネキロムは、その場にへたり込む。


「お、おいおい。こんなところで寝るなって。また魔物が来たらどーすんだよ」


『お前が戦ってくれ』


「……んぐっ…………」


 ネキロムの返事に、コオドは言葉が詰まる。

 俺にはあの蟻人ミュルミドンを倒せません。だから起き上がって戦って下さい。

 その言葉を口にするには、男と、狩猟者としてのプライドが邪魔をした。ここでその言葉を言えば、自身の実力に蓋をしてしまう。そんな気がしたからだ。


「はい、そこまでにしましょう?師匠も、そんなところで寝そべらないでちゃんと起きて下さい」


『ムリ、ヤルキ、デナイ』


 そんな険悪な雰囲気を察してか、クーラウが口を挟む。優しくネキロムを抱え立たせて、心持ちを修復する言葉を送る。


「師匠が今〝一番頼り〟になるんですから。師匠の〝強く〟て〝カッコイイ〟ところをもっと見させてくださいよ」


『…………』


 ネキロムは立ち上がった。やらねばならぬと心が、プライドが叫んでいるのだ。


「……お前、魔物使いの才能あるよ」


「うん?なんか言った?」


「いや、何も──」


「そう?」


 そういってクーラウは前に歩いていく。コオドはその場で溜め息を吐いた。


 ──何やってんだろうな、俺。


 昼か夜かも分からないこの地下の迷宮で、何日経ったのかも分からないが、クーラウは強くなっていた。いや、成長したと例えた方が正しいのかもしれない。

 迷宮に億さず前へ前へと進み、魔物であろうと師事したり意見もする。

 対してコオドはどうだろう。知らぬというだけで小鬼ゴブリン一匹に怯え、倒せぬというだけで前衛は任せきり。かといって、ネキロムに全てを任せる一時の恥さえ持てぬ始末。

 どちらが成長しているかと聞かれたら、コオドであろうとクーラウを選ぶ。


 果たして、コオドがなりたかったのは今の自分なのか。それとも吟遊詩人の詩で夢見たカッコいい狩猟者なのか。


『ぎょワ!?』


「きゃ!?……って敵じゃなくてさっき師匠が吹っ飛ばした死体じゃないですか、もう」


「……はぁ」


 それはもちろん、カッコいい狩猟者に決まっている。自分で飛ばした死体に驚いているような奴にだけ、何もかもを任せていられない。今の溜め息を最後に、足を前へと踏み出す。


「──なあ!おいネキロム!考えたんだけどさ!槍創ってくれよ、槍!」


『槍〜ぃ?』


「槍だったらさ!近付かなくても戦えんだろ!俺、避けるのだけは得意だし!」


「いいですね。そしたら前衛も増えて、師匠も楽になるんじゃないですか?」


『む』


 楽になると言われてネキロムは真剣に考え出した。確かに短剣で危うい接近戦をするよりは、槍で牽制をしてもらう方が危険性も無く良いのかもしれない。

 まあ、本人がやる気あるようだしいいかと、最終的には楽観的思考に落ち着いたのでネキロムは槍を創ってみた。


『《鉄槍ディダムラ》。ほれ、こんなンでいいか』


 ネキロムは鍛治に詳しい訳では無い。長い柄に鋭い刃物が付いたものという認識くらいしかない為、出来上がった品は何とも無骨なものであった。刺突武器というよりは、鈍器として扱う方が幾分かマシだと思える程の模造品。

 しかしコオドとて、槍への造詣が深い訳でも無い。知らぬが仏、両者互いに満足のいく結果で収まりつつあった。


「.......よし」


 コオドは受け取った槍の柄に、滑り止めとして青い布を巻く。槍を構える様は、短剣の時よりは安心感があるかもしれない。


「どーだ?意外と様になってんだろ」


『まあまあ』


「無難ですね」


 嬉しくも悲しくもない感想が心に響く。いや響いた時点で悲しかったのだろう。分かってはいたものの、お世辞でもカッコいいと言って欲しかったコオドだった。


「gizigizigizi」


『うわ、また来やがった』


 しょぼくれているコオドに構わず、蟻人ミュルミドンはやって来る。数は二体。向かう先の丁字路から姿を現す。


『ほらコオド、出番出番』


「お、おう。見てろよ……」


 槍を握り、前へ出る。図らずも蟻人ミュルミドンも一体前へ出てきて一対一の状況となった。


「gizi、gizi」


「──」


 蟻人ミュルミドンは顎を鳴らし威嚇している。腕も持ち上げ、身体を大きく見せようとしているようだ。けれどもコオドは怯まない。槍の長さが相手との距離を保ち、安心感を与えてくれているのだ。


「Gi!」


「──よっと!」


 腕の前振りを躱し、そこに槍を叩き込む。マルディの得意な反撃カウンターだ。コオドは見様見真似でそれを行っていた。槍の刃が鉛刀なのも功を奏していた。技術の無いコオドが、硬い外骨格を切断するのは容易では無い。しかしそこは鉛刀の槍。一刀両断というよりも叩き潰すといった使い方の方が、相応しい。

 外骨格にヒビが入る程に槍を強く打ち付けて、前足を破壊する。文字通り相手の手が出せなくなれば、次は足を破壊する。


「……zi、gi」


 最後は地に伏した蟻人ミュルミドンの頭に、トドメの一撃を叩き込んで絶命させた。この戦いをもう一度。脳漿を撒き散らして、槍での初陣はコオドの完勝で終わった。


「ハァ……ハァ……」


 集中力が切れた途端、ドッと汗が吹き出てくる。しかしコオドの胸には達成感が溢れていた。


「カッコよかったですよ!」


『やるじゃん』


 お世辞みたいな称賛の言葉。それでもコオドの心には深く滲みていた。弓以外の得物が見つかり、高揚感と自信に満ち溢れていた。


「ふぅ、じゃあ先行こうぜ」


 ひと息入れると、コオドは進行を促した。ネキロム達もそれに同行しようとしたが、再び魔物が丁字路から現れる。それも先程までの錆びた色の蟻では無く、煌びやかな、藍緑の蟻であった。


「またかよ!」


『なにあれ!?』


 驚くネキロム達を他所に、藍緑の蟻は後から合流して来た、果物らしきモノを咥えた赤い蟻と一緒にそのまま右から左へと素通りして行った。


「無視かよ!」


『なにあれ!?』


 驚愕の声だけが穴に響き渡る。しかしその声に応えてくれたのは紙を捲る音。コオドは収納袋から一冊の本を取り出し眺めていた。


「蟻、蟻、アリ……あった。綺麗な方が〔消エユク艶蟻(ムリアン)〕、赤いのが〔運ビ集メル赤蟻(アスカトル)〕だって」


 どうやら魔物図鑑で詳細を確認していたようだ。続けてコオドは記載されている説明文を読み上げる。


赤蟻アスカトルは他の魔物の為に食料を集める習性がある。戦闘能力は低く、十級狩猟者でも討伐可能……」


『なるほど?蟻人ミュルミドンが兵隊蟻で赤蟻アスカトルが働き蟻ってとこか?』


 なら女王蟻もいそうだなと思うネキロムだったが、次の説明文でそんな予想が吹き飛ぶ程の衝撃を受ける事となる。


「そして艶蟻ムリアンは、戦闘能力こそ低いものの、姿を変える能力を持っている。その能力を使用すればする程、体が小さくなっていく為、綺麗な外骨格は大きければ大きい程高値で取引されているほど貴重──だって」


「つまり?」


『レア魔物……ってコト!?』


 希少、稀覯、貴重。その言葉は人類の弱点とも言える程に甘美な言葉だった。大金が手に入り綺麗な服を着る想像をしたクーラウ。大金で豪遊してみたいコオド。そしてただ普通に、限定品やレア物という言葉には弱いネキロム。

 三人の思惑は別々だが、気持ちは一つとなっていた。相手の目を見ただけで頷ける。

 皆の気持ちが。言葉では無く、心で理解出来ていた。


『《二兎追うものは一兎も得ず》!行け!追いかけろー!』


 幻のネキロムは急いで丁字路を左へと曲がって行く。安全確認は忘れない。しかし相手を見失わぬよう、小走りで三人も左へと曲がっていった。


「アイツを中央で売れば俺達もティースみたいに……」


「そしたら可愛い服とか色々買えちゃえますねぇ……」


『ククク。コレでまた、驚く間抜け顔の狩猟者共が見れる……』


 冷静に判断出来る者はいなかった。もし此処に、地上組の三人の内一人でもいれば気付いたであろう。

 ──赤蟻アスカトルは、食料を咥えて右から来た。

 それはつまり、右の通路にこそ食料がある地上へ通ずる出口への道がある。


「「「たいっきん!たいっきん!」」」


 欲は身を滅ぼす。そのことに未だ気付かない三人は、迷宮の奥へと知らず知らずのうちに進んでいった。




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