四話 果物選手権
やったぜ100PV!
ありがとうございますっ!
あーるーこー、あーるーこー、私は〜兎ぃー。
どうも、人間から兎となった兎です。名前は白居春永、二十五歳、現在仕事放棄まっしぐら。
そして今、とてもお腹が減ってる。生命の危機が間近に迫ってる。
簡単に言うと死の一歩手前くらい。嘘言ったわ、実はまあまあ元気。
朝からトンネルから出るまで約八時間、トンネルから出て南に向かって彷徨く事約四時間の計十二時間何も食べずに歩いているのだが何も口にしていない。
理由は簡単。現代っ子の俺には何が食べれてどれが食べれるのか全く分からない。心情的には、ヤバくなった時には手当たり次第に何でも口にしてみるつもりだが、元気があるうちは食す気はない。
…しかし本当に食べれそうなものが見当たらない。というか、見たことがある草木が全くない。
歩いてて周りを観察していたがどれも不思議なものばかりだった。黒と白の花弁が何重にも重なり合って咲いている花や結晶のように角張っている木の実のようなもの、見た事がないものを数えればキリがないほど例を挙げられる。
しかしこの奇っ怪な植物たちを目の当たりにして、少なくともここが日本ではないことが予想出来てしまう。こんな奇抜な植物たちは見つかり次第、すぐさまネットやニュースに取り上げられ国中に広まっているはず。未発見、という可能性もあるがこんなにもの植物たちが未発見というのは日本国内ではありえないであろうと思う。
異世界に来てしまった、という発想もあるが、そんな夢物語を可能性の一つとして考えるほど馬鹿じゃない。常識は人並みにはあると自負している。
そんな事を考察していたら日が暮れてきたようだった。木々には影が塗られ太陽は大地に沈みかけ、空には月がうっすらと浮かび上がっている。
グゥ…「そろそろキツくなってきたな…」
空腹が酷くなってきてお腹が痛くなってきた。足元も少し覚束無い。
ググ…「どこか休める場所…」
どこかに落ち着ける場所がないか探していると大きな木が目に付いた。
どれくらいの時を過ごしたのだろうか。幹には苔が覆いつき、蔦が捻り絡みついている。
星にしっかりとしがみついている根は今の俺の五倍以上の大きさはあり、大きく湾曲している。
俺はその湾曲している根の下に注目した。
クキュ「おっ、あそこなら休めそうかな」
根の下はちょうど俺一人分くらいのスペースが空いており、根が屋根替わりとなっているため雨が降ってきても、夜は過ごせそうだった。
クゥ「あー、結構イイんじゃね?ん?」
寝床の良さを前足で触りながら確かめていると、コツンと何かにぶつかった。
クー?「んんー?」
顔を近づけて、前足に当たった物体をよく見てみるとそれは、トマトが干からびたようなシワシワの固形物だった。
ちょんちょんとつついてみるも反応はなく、体重をかけてみても潰れない不思議な物体だった。
クー「ま、それより今日の食事を探さないとな」
物体に興味を失った俺は、大樹の周辺で食べられそうなものを探すことを決める。
————数分後、食べられそうなものは少しだけだが集まった。
集まったのは三種類。
一つ目は丸い茄子のような果実。紫色でつるんとした手触りが特徴的だ。中身も皮と一緒の紫色で少しだけ毒々しいが、果汁はとても甘い匂いがして希望が持てる食料No.1として俺のランキングに刻み込まれている。
二つ目は黄色い三叉の草の実だ。形はバナナとも言えなくとも無く、それが先端の部分で重なり合っている。臭いは無臭で危険度は少ないと思っている。
そして最後、これが一番気になっている食料だ。形は林檎に酷似しているが色が赤や黄緑ではなく金色。まるで本物の金で造られたかのようにその表面が自分の姿が写っている。正直に言って鏡面状のせいで金属のように感じられるので食欲がわかない。
グゥ「やっぱこの中だと茄子かなぁ」
三つの中では一番甘くて美味しそうだし、何より俺の知っている食べ物に近いのが一番の決め手だった。
茄子(仮)に決めた俺は残りを根の近くに寄せておく。
ククゥ「よし、それじゃあ戴くか」
意を決して俺は茄子(仮)に齧り付く。
ク、グ、クゥ「ん、んっ、甘っ」
予想通り甘かった。皮は少し苦味があるが、その苦味が気にならないほど甘い。果肉も柔らかく、果汁は噛み付く事に泉のように溢れ出てくる。
ようやくオレンジ並みの果実を二つ食べ終えた俺は一息つく。
ウッグ「げっふ、やべ、食いすぎたかも…気持ち悪ぃ」
暴食のせいか、はたまたまだこの体に慣れていないのか。どちらにしても気分が悪い。
誰か助けてくれーと叫んでみるが、来る人などいるはずも無く。
食べ終えた俺は根の下で横になり、気分を休ませる。
ウウウ「ううう」
なかなか寝付けない。横になった俺は頭の部分が虚しく感じることに気がつく。
クゥ…「ま、枕ぁ…」
辺りを手探ると先程の干からびた物体がぶつかった。
俺はすぐさまその物体を頭の下にいれる。
ンゥ「あ、ちょうど良い高さ…」
虚しさが満たされた俺はそのまま眠りについた。
▲▽▲▽▲▽▲
次の朝、俺は鳥の鳴き声とともに起床した。
クキュゥ…?「んあ…?あら……」
起床と同時に、昨夜感じた虚しさがまた襲ってくる。
どうやら寝ている間に枕は家出してしまったらしい。周りを探しても愛用の枕は見当たらない。
グゥ「まったく、困った枕だぜ」
俺は独り言をつくと、重い腰を上げ根の下から這い出る。
空は蒼く澄み渡り、雲一つない快晴だ。
ンウーッ「んー!よし! 行くか!」
伸びをした俺は出発の準備に取り掛かる。
昨日採取した三叉バナナと金林檎はそこら辺に生えていた大きな葉っぱで包み、蔦でこぼれ落ちないよう簡単に縛り上げる。
そして縛り上げている蔦にもう一度長い蔦を通して口に咥えて引き摺るようにして運ぶ。
お粗末なものだが無いよりはマシだろう。
そうして俺は南下の旅二日目を始める。
ンフー「ふーっ、ふーっ」
それにしてもこの途方も無い旅はいつまで続くのだろうか。ふと、そんなことをしょっちゅう考えてしまう。
まだ二日目だが一日中歩くのは肉体的にも精神的にも堪えてくる。疲れてくるとどうしても終わりが欲しくなってくるのだ。
しかし、そんなことを考えても今の兎の姿でいる俺に、「生きる」ということ以外に目的は見当たらない。
目的というのは自分自身で決めるものだが、他者と出会い触れ合わねば目的を決める切っ掛けが生まれないと考えている。
そんな他者と出逢うことがないこの森で目的を見出すのは俺にとって難しいことだった。
グーッ!「あーもう!やーめた!」
俺は引っ張ってきた食料を放り出し、寝っ転がる。
途方も無い思考と歩みを停止して俺は欲に従い、食料を漁った。
今回食べるのは三叉バナナだ。金林檎は今日の夜に残しておこう。
俺は勢いよく三叉バナナに齧り付く。
「・・・・・・」
…味がしない。もう一回齧ってみる。
「・・・・・・」
やはり味がしない。何だこれは!?
グゥ、クウ「まるでお麩を生で齧っているような・・・、いやこれはお麩に失礼だな」
それがお麩の味なのだろう。だがしかし!
この三叉バナナは本当に味というものが存在しない。
味はもちろんのこと、匂いも食感もない。
先程はお麩を生で齧ると例えたが違った。これはまるで空気を齧っているようだ。それ以外に表現しようがない。
グゥ「まあ、腹に貯まるだけマシか…」
そう思いながら残りを食べ切る。
積極的には食べようとは思わないが非常食としては優秀だろう。
ファー、グゥ「ふぁ〜、ひょっほへよ」
食べたら眠くなる。人間でも兎でも生理現象には敵わない。
俺は木陰に入り、少し眠ることにした。
……クゥ?「……あら?」
目覚めた時、辺りは夕日により赤く染まっていた。
どうやら本格的に寝てしまったらしい。太陽は今にも姿を隠そうとしている。
ウゥ…「マジか…寝過ぎた」
無駄に1日を過ごしてしまった。
いや、体力の回復という点で考えれば無駄とは言えないのかもしれないが、寝ていた時間でどれだけの事が出来ていたのかと考えてしまうと後悔の念が絶えない。
ククゥ「ま、考えるだけ無駄か」
後悔するより飯だ飯。
寝ていただけだが腹が減っている。ちょうど晩飯時だし残りを食べてもいいだろう。
俺は近くにある金林檎に目を向ける。
正直言ってこれまでの中で一番食べ物離れしてる見た目なのでとても不安だが…
グッ!「どうにでもなれ!」
意を決して金林檎に噛み付く。
ングゥ!?「…んお?おおお!?」
美味い!これまで食べたどの果実よりも美味いと感じる!
果肉の部分は林檎や梨と同じようにシャキッとした歯ごたえがあり、噛み砕いた瞬間口の中でスッキリとした酸味が広がってとても爽やかな味わいだ。金の皮も苦味は少なめで、果肉の甘さを程よく引き立てていると思う。
ムグムグ「んまんま」
寝起きなのにどんどん食べてしまう。
あっという間に金林檎を食べ尽くしてしまった。
クゥ…「た、足りねぇ…」
林檎一つじゃ物足りない、他に何かないものか……
金林檎がここら辺にも生えていないか、ガサガサと茂みの中を探ってみる。
「………」
俺は茂みからそっと顔を出した。
そしてそのまま反対方向に全速力で走り抜ける。
…なんというか見てはいけないものを見てしまったような気がする。
具体的に言うと青い毛並みが全身に生え渡っており、四足歩行。口からは鋭い犬歯が飛び出していて涎もダラダラ。
多分、俺の知っている動物の中ではあれを、「狼」って表現出来ると思うんだ。
「Guruaaaaaaaaa!!!!!!」
グウウウウウ!!!「やっぱり気付いてたああああああああ!!!」
俺は脇目もふらず滅茶苦茶に木々の間を走り抜ける。
グゥ!キュウ!ククゥ!「お座り!ストップ!ハウス!」
「「「Bau!Vau!」」」
動物同士なら会話出来ると思ったが、犬畜生は犬畜生だった。
そしてなんか増えてるし!二匹どっから出てきた!?
グゥウゥ!「ああもう!」
いくら走っても青い狼は追ってくるし、数は増えるわで最悪過ぎる。
後方確認をすると狼が木をなぎ倒して迫ってきていた。
ブゥ!グゥ!「何で狼が木々に当たっても何で木の方が折れるんだよ!鉄で出来てんのかあの身体は!!?」
文句を叫びながら走っていると苔むした岩が進路方向に現れる。
俺は岩に飛び乗ろうとジャンプをした。が、しかし
グッ!?「おわっ!?」
岩の上に乗ることは出来たもの苔で滑り転んでしまった。
勢いは止まらず、そのまま反対側の倒木の上に転がり込んでしまう。
クォォォ!?「おうおうおおお!?」
そして俺が倒木の上に乗っかったことにより重さでシーソーのように傾いていく。
「VAu!!Kyain!」
しかし、そこに運良く岩の上から一匹の狼が顔を出し下顎に倒木が当たる。
さっきまで煩く吠えていた声が弱弱しい声に変わる。
クゥ!「やったか!?」
……人っていう生き物は、時として言ってはいけない言葉と分かっていてても口に出してしまう生き物だと思うんだ。
反省している…。「やったか!?」なんて言葉は俺の辞書から永久的に消滅させることをここに誓おう……。
下顎を打ち抜かれた狼はゆっくりと顔をこちらに向けて、目が合ってしまう。
あ、ヤベ、と思った時には俺は宙を舞っていた。
狼が怒りで倒木を踏み抜いた時、俺はまだ倒木の上に乗っていたために、今度は逆に俺の方が持ち上げられ、勢いよく空へと射出されたのだ。
キュィィィィ!「ひいいいいいい!」
空に打ち上げられた俺は、夜空に浮かぶ月の光できらきらとそれは綺麗に輝いていたそうな。
クィ?「あれ、でもこれで逃げ切れるんじゃ?」
なんて思えたのもつかの間。自分の目先には大地が大きく口を開けて待っていた。
鳥でもないただの兎の俺はそのまま谷底へと落ちていくのだった。
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