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兎にかく、あるべき生は要らぬ  作者: 健安 堵森
第二章 ただそれだけで
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二話 いい加減な探索

転勤辛し……0(:3 )〜



『ふべ!!』


 空から舞い降りたる、いや、ただ落下してきたのは一羽の白兎。

 ロマンス溢れる情熱的なキスを地面と果たしたネキロムは、そのまま無様な声を上げて大地へと降り立った。


『くっそぉ、あの野郎ォ........』


 悪態を付きながらもネキロムは周囲を見回す。

 木、木、草、草、そして木。

 以前と変わらない森の中ということに、ネキロムは安堵すればいいのか不安になればいいのか分からず、溜め息を吐く。


『こちとら三年前から魔力しか伸びてないのによ........こんなところに放り出しやがって』


 愚痴が零れているが、それは自業自得だろう。

 確かにネキロムの魔力は、三年前と比べると何倍にも伸びている。

 兎という人と比べると不便な身体では、日常的に補助として様々な魔法を行使していたので、三年も使用していればそれなりに伸びたのだ。

 しかし逆を言えば、魔法を使って食っちゃ寝の生活をしていれば、体力や筋力等が伸びるはずが無いので当然の結果なのだ。


『しかしこれからどうするか........』


 太陽を見ればだいたい真上。もう少し時が経てば東西が分かるだろうが、それでも元の場所に戻るのは困難である。



『リリディアの森ってたしか大陸のだいたい中心だったからなぁ........ううむ』


 森林地帯の多い東部と見るか、はたまた何処かの見知らぬ小さな森に転移したと考えるか。

 悩めば悩むほど動けなくなってしまったネキロムだが、 妙案を思いついたのか何やら行動に出た。


『《二兎追うものは一兎も得ず》』


 編み出された魔法陣から出てくるのは、寸分狂わないもう一人のネキロム。

 一つだけでも憎たらしい顔が二つに増えてしまったようだ。


『よう、俺』

『やあ、俺』


 しかも幻のネキロムまで喋り始めてしまった。


『ククク、心を持つ幻を創れてこそ一流の幻影使いよなぁ?』

『もちろんだとも』


 何やら自惚れた事を言っているが、ネキロムはこの三年間で幻に心を持たせることが出来るようになったらしい。


『まあそれは置いといて。今、俺達は何処にいるのか分からない。そこで幻であるお前には、この辺りを偵察して来て欲しいのだが』


『は?嫌だけど』


『は?』


 どうやら幻でもネキロムはネキロムであるようだ。幻でも自身の身が一番可愛いらしい。


『アホか!幻のお前なら何かあっても大丈夫だろ!』


『はぁ!?幻だからって拒否権くらいあるだろ!死んでもいいってか?はぁー、俺がこんな非道なヤツだとは思わんかった!』


 面倒臭い奴らである。どっちでもいいからさっさと行け。


『馬鹿!俺が行って死んだらお前も連帯的に死ぬだろうが!』


『む。........それもそうか』


『ほら、分かったら行け行け。なんかあったら連絡くれよな』


 どうやら話し合いで解決したようである。

 しかし、非道だとか馬鹿だとか、自分同士で言い合っている姿はとても虚しいものだと思う。

 そしてその事にネキロム自身気付いていないのがまた虚しい。


『さてと........』


 幻を送り出した本物は、幻とは別に何か行動に移すようだ。

 自身の安全が確保出来ていない状況だ。何かするというその判断は正しい。


『寝よ』


 前言撤回。

 この兎は何もしなかった。少しあった期待を返して欲しい。

 木の根元でぐーすか眠る姿はまさに怠惰そのもの。働いている幻の方がマシという悲しい現状がここにあった。


『........んむぅ』


 こんなところで寝れる程、寝つきが良いのは普段なら羨ましいことなのだろう。

 だが今回に至っては、近付く足音に気付けないのは不運であった。



 △▼△▼△▼△▼△▼△▼△



『ぬんぬぬんぬぬーん♪』


 一方、本体が寝ているとは露知らず、適当に森の中を彷徨う幻ネキロム。

 追い払われるように散策に来た幻ネキロムだが、幻であっても中身はネキロムである為、連絡を取れる手段である“繋がる心”の範囲は理解している。


 その範囲を越えない辺りを今、幻ネキロムは彷徨いていた。


『........しかし、もし敵に襲われたらどうすりゃいいんだ?』


 所詮は魔法で創られた幻。頼みの綱である魔法も放つことも出来ず、逃げることしか出来ないことに幻ネキロムは気付いてしまった。


『せめて筋力は欲しいよなぁ、男として』


 幻ネキロムはユウキの言葉を思い出しながら自身のステイタスも思い出す。




 種族名 [逃ゲ走ル角兎(アルミラージ)] レベル14

 名前 ネキロム


 体力 32/32 魔力 3667/3667


 筋力 16 防御力 36

 理力 3456 精神力 225

 敏捷力510


 〔能力〕

 自己防衛

 無意識の治癒

 繋がる心


 〔技能〕

 幸運 レベル9

 毒耐性 レベル6

 麻痺耐性 レベル7

 隠蔽 レベル7

 火炎魔法 レベル3

 大地魔法 レベル4

 疾風魔法 レベル2

 付与魔法 レベル2

 時空魔法 レベル2

 夢幻魔法 レベル10



『レベルはたしか――〝自身の強さの総合評価〟なんだっけか』


 レベルの限度は100。それはステイタスを生み出した勇者ユウキが決めたルールである。

 体力、魔力等を元にステイタスを管理する装置が演算し、判断した数値がこうしてネキロムに“14”というレベルを与えているのだ。


『そして、〝筋力とかは限界値だから自身より高い数値の相手でも勝てる可能性はある”か........』


 シュッシュと空気を裂く音がしない、ちゃちなシャドーボクシングをし始めた幻ネキロム。

 それは置いといて、筋力の数値の話だが生物は常に全力で動いている訳では無い。休む時は休むし、気持ち次第では本気を出せないこともある。

 そういった隙が格上を倒すチャンスとなる。


『でもこの筋力じゃーなぁ........』


 別に筋力に限った話ではないのだが、まあネキロムの、というより兎の筋力で勝てる相手は皆無に等しいだろう。


『筋力を鍛える........筋トレ........?』


 本来の目的が何処かにいっている。

 だがしかし、偵察じゃなくて筋トレをし始めたこの兎を止めれるものは誰もいなかった。


『腹筋!』


 頭が足に、ではなく足も頭に向かっているなんちゃって腹筋。


『腕立て!』


 腕は曲がらず、頭だけ上下している姿は赤べこのようで。


『背筋!』


 手足をバタバタと、まるで駄々こねているように。


『さてと........』


 ちらりと自身の筋力を見直すネキロムだが、そんな簡単に数値が上がるものではないだろう。

 当然のように、筋力の値はピクリとも変動していない。



『........ダメだこりゃ』


 そもそも人間のトレーニング方法で兎の身体を鍛えることが間違っていると思うのだが。

 体力も使い果たし、偵察の事など頭からすっぽ抜けていたネキロムであったが、その時、無駄に良い聴覚がとある音を拾ってくる。



「――か?」

「いや、――――は?先輩?」


 人の若い声である。ネキロムの耳に馴染むように入ってくるこの音は、この三年間、ユウキの声しか聞けていなかったネキロムにとっては新鮮であった。


 こっそりこっそり匍匐前進のようにネキロムは声へと近づいて行く。


「いやいや俺に聞いたら駄目だろ。これはお前達の試験でもあるんだから」


「う、それはそうですが........」


 茂みの奥からバレないようにネキロムは覗く。

 その目には青年の後ろ姿が二つ、中年の男の渋い顔が一つ映っていた。


「お前達もよ、帝国一の狩猟者を夢見る若者なら、このくらいの依頼なんて簡単にこなせないとやってけないぜ?」


「うっす」


「はい!」


(ん........ははーん。ここは帝国の領土だったか)


挿絵(By みてみん)


 聞こえてくる男達のやり取りから、ネキロムは自身が飛ばされた場所を帝国だと予測した。


 グ・エイス帝国。

 オール大陸の東部に位置し、東と南を海、北と西を山に囲まれた天然の要塞国家。

 しかし三百年前に起きた眷属討伐を期に北部を放棄したりと、少しづつではあるが衰退の一途を辿っている国である。


「特に気配を感じたり痕跡を探す力は、狩猟者にとっちゃ一番大事な力だ。この試験だってそれを確かめるものでもある」


「はい!」


「うっす!」


(帰るのめんどくせー)


 狩猟者達が真剣な話をしている中、ネキロムは帰路について考えていた。

 帝国は周りを山と海で囲われているため、唯一の交易路として砂漠と荒地しか道はない。

 そしてネキロムが向かうのは砂漠と荒地を越え、王国のだだっ広い平原野を抜けた先にある、リリディアの森である。

 人間にとっても長い道のりを、兎の身体を持つネキロムに至っては気が遠くなるほどの道のりであった。



「はぁ、返事が大きいのはいいんだがな。後ろにいる魔物にも気が付かないようじゃ、まだまだだな」


「「――ッ!?」」


 背後に魔物がいる、そう言われて驚かない人など極僅かだろう。

 青年二人は咄嗟に距離を取り、自身の武器である剣と弓を構える。

 それは狩猟者として大事な行動であり、自身の命を守る為の無意識的行動であった。


 一方、気付かれた事に気付いたネキロムは、あ、やべ!と言い残して消え去っていた。


「……」

「……」

「........武器を降ろしていいぞ。どうやら逃げたようだな、賢しいヤツだ」


 中年の男の声に従うように、青年二人はホッとしながら武器を降ろす。


「そんなに緊張するな。多分草木の揺れからして、角兎(アルミラージ)だろう。しかしだからって油断はするな。今は相手が逃げてくれたが普通は襲ってくる。気付いていないお前達は、もしかしたら背中に一突きで死んでいたんだ。そのことはちゃんと肝に銘じておけ」


 中年の男の言葉に元気良く返事をした青年達は、痕跡を探す作業に戻っていく。

 しかしその姿は先程までとは違い、しっかりと周囲を警戒しながら行っている姿に中年の男は少し笑みを浮かべた。


「さてさて、お嬢様はどこにいるのかなっと――」

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