二十一話 いつまでも一緒に
待たせたな!(約1ヶ月)
「行くよー!ネキロムー!」
今日も今日とてルエと一緒に街へ遊びに行く。
『今日もクネス達と遊ぶのか?』
「ううん、今日は商店街でお買い物!」
走るルエは可愛らしい財布を鞄から取り出して、頭の上にいる俺に見せつけてくる。ジャラジャラと硬貨が擦れる音が、その財布に結構な大金が入っていると俺に教えてくれた。
『へぇ、そんなに沢山のお金を持ってきて何を買うつもりなんだ?』
「今日はねー、お母さんとお父さんの結婚記念日なの!だからお祝いの贈り物を買おっかなって!」
『親孝行だなー』
「ネキロムも選ぶの手伝ってよね!」
贈り物か。
俺は親に贈り物なんて一回もしたことは無いな。あ、でも県外のお土産はあるか。でもやっぱりルエみたいにプレゼントという形で贈ったことはないな。
しかし俺は気軽く了解の返事をする。
子供が選んでくれたものなら親ならば何でも嬉しいものだ。うん、子供もどころか結婚もしていない俺の意見だけど。
最初に立寄ったのは「ケルベロス」というお菓子屋さんだった。なんと恐ろし気な。
しかし店名とは裏腹に子供たちが買えるほど安いお菓子から、パーティーで出るような高いお菓子まで取り扱っている、ゼットリーの老若男女に人気なお店である。
クネスがここにお菓子を買いに行かせられていたのは懐かしい思い出だ。
「うーん、どれがいいかなぁ」
宝石のようなお菓子を前にしてルエは悩む。
ちなみに俺はルエの鞄の中に隠れて商品を覗いている。
『ノーサさんとネオクロさんはどんなのが好きなんだ?』
「お母さんは甘いのが好きなんだけどー、お父さんは甘いのはひかえめが好きみたい」
『なら……、こっちと向こうのはどうだ?』
そういって俺は二種類のケーキを差す。片方は果物がふんだんに使われた鮮やかなケーキ、もう片方はシシドラという木の実を使ったシンプルさが売りのケーキだ。
「おぉ~、それならどっちも喜びそう」
『だろー?俺はセンスもいいからな』
「せんす?」
『あーっと、古代語で、か、感覚?っていう意味だ』
話が逸れていこうとした時、聞き覚えのある声が入り口の扉が開く音とともに聞こえた。
「……いて、いててて!引っ張んなって!」
「うるさい、ならちゃんと自分で付いてきなさいよ!」
「やだよ、荷物持ちにするだけだろ?」
「男子とはそういうものよ、ちょっとはラウナを見習えば?……あれ?ルエ?」
こちらに気付いたディーとクネスに、ルエは手を振り近付く。
「今日は一人か、珍しいな」
「ううん、ネキロムもいるよ、ほら」
『よっ』
ちらっと鞄の口を開けながら俺も二人に挨拶をする。
「ネキロム来てからお前らはいつも一緒だよなぁ」
『保護者だからな俺は』
「むっ、わたしがネキロムの面倒をみてあげてるんだよ!」
「はいはい。で、二人は何を買いに来たの?」
そう尋ねてくるディーに俺達は贈り物のことを話した。もしかしたら二人から良いアドバイスを聞けるかもしれない。一人より二人、二人より四人だ。
「贈り物かぁ、俺は剣とか防具が良いと思うな」
「それ、喜ぶのはあんたじゃない。まあ、剣っていうのはどうでもいいとして、形が残るものを贈るってのは私も賛成よ」
「形が残るもの、かぁ……」
とても参考になる意見を貰えたと思う。
確かにケーキみたいな食べて無くなってしまうものよりは、渡された時のことが思い出されて記憶にも残りやすいだろう。
「そっか、それもあるよね。ありがと二人とも!」
礼を言うとルエはすぐさま店を飛び出す。
扉が閉まる直前、店の中からクネスの嫌な悲鳴のような声を聞いたがそれは俺の素知らぬことなので合掌だけしておいた。
次にルエが向かったのは雑貨屋だった。
先程のお菓子屋と比べると年季が入って入るが、雑貨屋の名に恥じぬ品揃えで品物だけで店内が埋め尽くされているのは、これから贈り物を探す俺達には圧巻の一言しかない。
「う~ん……」
『難しいな……』
一通り商品を見て回ったが、先程よりもルエの顔は難しいものとなってしまった。
俺自身も中々意見が纏まらず、答えを出しずらい。小物でも男性と女性では欲しいものも変わってくるだろうし、何より本人の趣味が一番関わってくる。
「どうしよっか?」
『やっぱこういう時は人に聞くのが一番じゃないか?……なーんて言ったらちょうどいいところに。おーい!師匠ー!』
「ん?ネキロム?」
なんという偶然。向こうの商品棚の後ろから紙袋を持った師匠が生えるように出てきたではないか。
師匠はノーサさんたちとは旧知の仲だし趣味も知っているだろう。これほどまでに最高の相談相手はいない。
「姉さんとネオクロ先輩が好きな物?姉さんは猫が好きだし、ネオクロ先輩は懐中時計が好きだった筈だが?」
『おお、ならそれに類するものを贈り物にしたらどうだ?』
「そうだね!」
そう意気込む俺らだが、師匠は何故か微妙な顔だ。
「あー、実はだな……」
そういって師匠が紙袋から取り出したのは珍しい形をした懐中時計と猫の形をした綺麗なペンダントだった。
どうやら師匠も二人の為にプレゼントを買いに来ていたらしい。
「むぅー、被っちゃうのは面白くない……」
「すまないな、役に立てなくて。でもルエが選んでくれたものなら、私のよりも絶対に喜んでくれるさ」
「……本当?」
「ああ、絶対だ」
優しくルエを撫でる師匠の声は、落ち着きながらも芯が通っておりルエを安心させる。
「今日の記念日の集まりにはまだ時間がある。店も沢山あるんだ。ルエが本当に贈りたいってものが見つかるまで、ゆっくりと探せばいい」
「……うん!」
元気良く返事をするルエには、いつもの明るさが戻ったようで、笑顔とやる気に満ち溢れていた。
その後俺とルエは、師匠にお礼と別れを告げるとまた商店街へと戻っていった。
服屋、魔法具店、素材屋、武器屋、玩具屋と師匠に言われたように他の店を見て回ったが、なんか最後はもうルエが行きたい所に行っていただけだが充分に堪能する事が出来た。
「んー、中々見つからないね」
……そう、楽しんだだけであって贈り物は決まってはいない。
もちろん贈り物のことを第一に店を巡っていたのだが、どうにも俺もルエもピンとくるものが無かったのだ。
そんなこんなで一通り見て終わった俺達は、昼食と休憩を兼ねて街の広場でサンドイッチを食べていた。
『やっぱり最初のケーキにしとくか?』
「ううん、それはそれで買おうと思ってるからやっぱり何かは買いたい」
『じゃあそれ食べ終わったらまた見て回るか』
最後の一口を食べ切った俺はルエに提案する。ルエも午後からの行動に賛同したらしく、手に持っていたサンドイッチを頬張ると座っていたベンチから立ち上がった。
「よし、それじゃあ……ねぇネキロム。あそこにあんなお店ってあったかな?」
そう言われて視線をルエの指先を辿っていくと暗い路地に店が一つ。
影の中に隠れるようにあるその店は、手入れが行き届いていないのか蔦が壁中を覆い、ごく僅かに見える壁もヒビ割れだらけだ。掲げている木の看板も年月が経ち、店の名前が書いてあったのだろうという予測も難しい程に風化している。
はっきり言って人が住んでいるとは思えない。そんな雰囲気が漂ってくる店、らしき建物がルエの目に留まったようだ。
「ねぇ、あそこ行ってみようよ」
『うぇ!?やだよ、薄気味悪い』
誰があんな所に行きたいと思うだろうか。……あ、ここにいた。
「ちょっとだけ、ね?」
『はぁ……、ちょっとだけだぞ』
こうなったルエは止めるのが面倒だという事を分かっている俺は、しぶしぶ付き合うことにした。
店に近付き、小さな窓ガラスから店内を覗こうとしたが、明かりが灯っていないのかよく分からない。
俺とルエは仕方なく入口の扉をそっと開き覗いてみることにした。キィ、という軋んだ音とともに扉から入った僅かな光が店内を照らし、俺達に品物を見せてくれる。
「うわ……」
『ひぇっ』
そこに広がっていたのは歪な光景だった。何かの獣の皮、派手な彩色の仮面、宝石のように輝く石と物の種類には纏まりが無く、そして部屋の暗さがより一層不気味さを引き立てている。
『やべぇ……。さ、他んとこ行くぞルエ』
「え?もうちょっと見ていこうよ」
『はあぁぁあぁ!??』
何言っちゃってるんだろうこの娘。今一緒に店内を見たはずなのにあの恐ろしい光景を覚えていないのだろうか。
「はい、行くよ」
『待て待て待て待て!』
抱き連れて行こうするルエに、壁際の柱を掴んで俺は抵抗する。
『マジで?』
「当たり前じゃん、他の店だとないものがあったし、なにより面白そう!」
『……マジかぁ』
アレを怖いと思わずに面白そうと思っちゃうのか……。
あ、いや、俺だって別に怖いとは思ってないし。楽しそうだと思うし。でもルエはまだまだ子供だから?怖いのかなーって心配しただけだから!別に幽霊が出そうな店内だなって思ってねーし!!
『はぁ、ちょっと待ってろよ……《兎に祭文》』
どうにもならないと感じた俺は夢幻魔法の魔法陣を発動させる。
《兎に祭文》。俺の新たなる夢幻魔法だ。この魔法は細かい調整が出来る魔法陣専用の魔法で、一つの物事を理解出来なくする効果がある。
理解を出来なくする、と言葉の意味合い的には大層な効果に聞こえるかもしれないが、実際はそんなに強力なものでは無い。
共感しない、ド忘れといった時に感じるもやもやとした不安感を与えて、理解するという結果を邪魔しているに過ぎない誤魔化しの魔法なのだ。
そのため魔法を終わらせてしまうと、不快感が晴れて、理解出来なかった物事を理解出来るという結果になってしまう。
『よーし、準備は終わったぞ』
展開した魔法陣は俺の胸の地肌に張り付く。これならば俺の自慢の毛並みで魔法陣があるということが隠せるし、魔法陣の持続に必要な魔力も効率良く供給出来る。
「ごめんくださ~い」
俺とルエは周囲を見渡しながら店内を突き進む。しかし入り口から見えていた光景と同じ、乱雑に置かれた商品しか俺達の目に映らない。
「お店の人いないのかな……?」
『やっぱ潰れてんだろこの店』
「まだ潰れてはおらんぞ」
「うわっ!」
後ろから声を掛けられたルエは、驚きで飛び上がってしまう。
振り返るとそこには、いつの間にか皺だらけの爺さんが立っていた。袖から出ている手は枯れ木のように細く、今にも風が吹けば倒れそうな佇まいなのに、何故かこの爺さんからは生気が満ち溢れているのが感じられた。
「お爺ちゃん、ここのお店の人?」
「ふぇっふぇ、そうじゃよお嬢ちゃん。何をお探しかね?」
ルエの疑問ににこやかに笑って答える爺さんだが、存在から放たれる怪しさが隠しきれていない。
悪者、というよりは謎という面での怪しさなので、襲われるということはないだろうが警戒は必要だろう。
それに……、
『おいルエ、この爺さんさっき俺の言葉に反応したぞ』
さっき俺はこの店を潰れていると決めつけた。そこにこの爺さんが現れ否定したのだ。
俺の〝繋がる心〟で出来る念話は、俺が能力で繋がりを作った相手としか聞こえない。なのに俺の言葉に反応したってのは……何か能力を持っている、と考えるのが妥当だろう。
「えっ、本当?」
「ん?さぁ、なんのことやら分からんのぉ」
爺さんは楽しそうに笑いながら誤魔化してくる。いや、この反応からして能力を持っていることは否定しないようだが、詳しく話す様子は無さそうだ。
『チッ、まあいいか。ルエ、贈り物のことでも聞いてみたらどうだ?』
「あっ、そうだね。ねえお爺ちゃん。私たち結婚記念日に贈るものを探しているんだけど何かいいの売ってないかな?」
とりあえず害は無さそうだし、本来の用件に戻ることにする。
「ほぉ、家族への贈り物か。それならば........」
話を聞いた老爺は店の奥へと入っていった。数分もすると奥から一つの木箱を手に持ち、こちらへと持ってくる。
「これなんてどうじゃ?」
そういって木箱の中に入っていたのは桃色の宝石を嵌めた二つの金の指輪だった。
シンプルなデザインだが、装飾も綺麗に施され素人の俺でも結構な価値があると予想出来る。
「わぁ、とっても綺麗!」
「ふぇっふぇ、そうじゃろうそうじゃろう。だが驚くのはまだ早いぞ?」
笑う老爺は二つの指輪を合わせる。すると淡い光が宝石から放たれて一つの言葉が浮かび上がった。
「えっと、“いつまでも一緒に”だって!」
『へぇ、ノーサさんたちにピッタリじゃん』
中々にセンスがある爺さんじゃないか。
たしかにこんな一工夫ある贈り物だとより一層嬉しくなるだろう。
「実はな、これは若い頃の儂が送ろうとした結婚指輪だったんじゃ」
「え、いいの?そんな大事なものを売っちゃって........」
「なに、構わんよ。結局渡せずじまいで埃をかぶっておったんじゃ。それに今、幸せな生活を送っているお嬢ちゃんの夫婦に貰われた方がその指輪も嬉しかろうて」
にこやかな顔の老爺だったが、その時だけは悲しさが顔を覆っていた。
これ以上の詮索はどちらにとっても良くない、そう思った俺は指輪の値段の話に切り替える。
『ところでこの指輪はいくら何だ?』
「おお、そうじゃのう。昔の時にした値段を今の値段に換算すると、だいたい1,000,000オルくらい——、」
『ひゃ、百万!!?』
「えっと、えっと、果実のネキロムが一個10オルだから........じゅ、十万個........あわわわわ!」
「——は、流石に子供には無理じゃろうから10,000オルで良いぞ」
その言葉にホッと溜め息を吐く俺達。良かった、人としての常識はあったらしい。
流石にそんな大金をルエが持っている筈がない。
「えっとね、ちょっと見てみるね」
『どれどれ、ひぃ、ふぅ、みぃ……あちゃー』
財布の中身を確認する俺達。
しかし悲しいかな。可愛らしい財布には10,000オルには少し足りない9,320オルしか入っていなかった。
『なあ爺さん、もうちょっとだけ負けてくれないか』
「駄目だよネキロム!お爺ちゃんにはもう安くしてもらっているんだから、これ以上は悪いよ」
帰るようにお金を負けさせようとしたがルエに怒られてしまった。
いやまあ、元の値段から百分の一も値下げをしてくれてるからな。ルエの言う事も一理ある。
『じゃあ足りない分は?』
「それはー、考え中……」
俺の問いに腕を組み考えるルエ。うんうん唸っているが、どうやら足りない分を補う案は思い浮かばない様子だ。
『しゃーねぇ、ルエ、ちょっといつもの原っぱまで行くぞ』
「え?どうして?」
『俺もお金出してやるよ、ノーサさん達には世話になってるしな』
お金が足りないのもルエに昼食買ってもらったせいもあるしな。ここは一つ、大人の俺も出さねば示しがつかないというものだろう。
『というわけで爺さん。その指輪、綺麗に包装しといてとっといてくれよな』
「ほっほっほ、そんなこと言わんでもわかっとるよ。ゆっくり待っとるからの」
『さっすがぁ!よっしゃ、行くぞルエ』
爺さんの言葉を機に俺は店を飛び出す。善は急げだ。
俺は一目散に街の端っこにあるいつもの原っぱへと向かった。
「あっ、待ってよネキロム!ごめんねお爺ちゃん!すぐ戻ってくるから!」
「元気があるのはいいことじゃ。……あぁ、お嬢ちゃん」
「ん?何?」
「——友達は大事にの」
「?うん、大事にするよ!じゃあまた来るね!」
*
ルエが飛び出して行った入り口は虚しい音を立てながら閉まる。
店に残っているのは皺だらけの老爺だけだ。
「……儂が言えたことじゃないがの、ほっほっほ」
またまたブクマ、評価、感想お待ちしてまっすー




