二十話 屈せぬ探索者達
ボーッとしてたら1ヶ月経ってた……
ゴメンヨ(・ω<)★
『おい早くこっちに戻って来い!』
俺は叫ぶ。とにかくあの魔物から皆が離れなくては。そう考えた故の叫びだった。
最初に反応したのがクネス。近くにいたルエを立たせ、一緒にこちらへと向かってくる。
次にラウナとエスだ。だがもともと斥候役のラウナは素早いが、エスは遠距離担当なためどうしても走る速度はラウナよりも遅い。
そんなエスを巨像は優しく見逃してくれる筈もなく、両手を大きく振りかぶりエスを叩き潰そうとしてくる。
『ッ!カイネ!エスに素早さをあげる魔法だ!早く!』
「!《下位敏捷力上昇》」
その声を同時に俺も前へと走り出す。
恐怖で全身鳥肌状態だが、そんなことで止まってはいられない。今全力を出さねば目の前でエスが潰されるのだから、そう思いから来る焦りと緊張で体が勝手に動く。
『《二兎追うものは一兎も得ず》』
俺は秘密の切り札を早速使う。正直出すのはまだ先にしたかったが背に腹はかえられない。
付与魔法のおかげで速さが増したエスとすれ違うと、俺は振りかざされる岩の拳と対面した。
『《土精霊の腕》!』
振り下ろされた両拳と魔法陣から出た土の拳骨がぶつかり合う。衝撃が辺りを震わせたのも束の間、決着はすぐについてしまった。
俺の《土精霊の腕》にヒビが入り、砕け始めたのだ。
『まっ、嘘だろっ!?』
弾き返す、とはいかないものの充分に攻撃に耐えれると思っていたのだ。
勢いの衰えない岩の拳は砕け散った土片と共に俺を押し潰す。
「いやぁぁぁ!!?」
「ネキロム!」
「ネキロム!?」
今の光景を見ていたディー、クネス、ルエの悲鳴にも似た声が部屋中に木霊する。
そんな悲鳴に釣られ、ラウナやカイネも苦い顔をしながら皆のもとへと集まる。エスに至っては涙と鼻水で酷い顔だ。
「ご、ごべん、ぼぐがおぞがった、がら、ネ゛、ネギロムが........」
『馬鹿野郎!謝って欲しくて助けたわけねーだろ!ほら!しゃんとしてさっさと逃げるぞ!』
俺はエスの頭の上に飛び乗り叱った。
エス以外はぎょっとした顔で俺のことを見つめてくるが、エスはまだ気付いていない。
「う゛、うん。わかったネキロム........うぇ?ネキロム!?」
『そうだよ!』
「ななな、なんで生きてるの!?」
『俺の秘密の切り札を使ったんだよ!誰にも見せたことのない新魔法、幻そ........いや、“夢幻魔法”をな!』
夢幻魔法。
先程俺が使ったこの世界に新たに生み出された魔法の一つだ。
この世界には、火、水、風、雷、土、光、闇、身体への強化、回復、時空を司る魔法がそれぞれ存在してあり、対応している言語が一つ一つ違う。
なら、違う世界から来た俺が使っていた日本語は?
他の魔法には使われていなかった。ならば新しい魔法を俺が創れる、そう気付いた時はとても興奮した。
そして編み出されたのが対象の感覚、意識を誤魔化す夢幻魔法だった。
先程の《二兎追うものは一兎も得ず》も、自身の体重、匂い、色、魔力をそっくりに似せた幻影を少し離れたところに出現させ、俺への攻撃を外させる魔法だ。
まあ、幻影が潰される時点で一兎も得ずっていう表現はおかしいかもしれんが、本体の俺が無事だから本物の兎は得られていないってことでセーフ、だと思う……。
「新魔法!?凄いです!どうやって創ったんですか?!」
エスの目はキラキラと輝いている。先程まで泣いていたとは信じられないほどのワクワクとした顔だ。
『知りたいならこっから逃げるぞ!そしたら教えてやる!あ、でも他の奴らには喋るんじゃねーぞ!』
「あ、ずるい!私も知りたーい!」
「あ、俺だって!」
教える、という言葉に他の皆も食いつく。
どうやら巨像への恐怖は薄れたようだった。これなら怯えながら逃げずに済む、そう考えた俺は甘かった。
魔物が俺達が逃げるまで待ってくれるなんて有り得ないのだ。
「OooOooo!」
声無き咆哮が辺りを震わせる。
気付いた時には遅かった。宝箱の台座を無理矢理抉り取ったのであろう大岩を、あの巨像が投げてきたのだ。
『っ!伏せろ!!』
そういって俺は大岩を壊すための魔法を発動させようと準備をする。
だが、大岩は俺達には当たることはなく頭上を通り過ぎる。ほっとしたのも束の間、大岩の着地した衝撃とともに新たな絶望が俺達を襲った。
退路が大岩で塞がれたのだ。宝箱も砕け散り、中身も何が入っていたのか分からない。
「うそ……」
誰の言葉かは分からない。もしかしたら俺だったのかもしれない。そう思える程の事実だったのだ。
帰れない、殺される。子供でどれだけその真実を受け止めきれるのだろう。
先程の新魔法を楽しみにしていた顔はもう無い。事実を認めたくない、そんな顔しかなかった。
「う、うわあああああ!」
「クネス?!」
その声にはもう希望は入っていなかった。自暴自棄な、倒すという無い可能性に縋り付くような声で、剣を握り締めクネスは突っ込んでいく。
「Ooooo!」
クネスの叫びに呼応するように巨像もまた右手を振り抜きながら吼える。
「クネス!待って!」
ディーの悲痛な叫びが俺の身体を動かす。俺もまた巨像に向かって走り出し、魔法陣を形成させる。
『《土精霊の腕》!』
今度は殴るのではない。手の平で巨像を掴み、壁に押さえつけるように拘束させるのだ。
そして動きが制限された巨像は後にして、俺はクネスを止めるため体当たりをする。
「ぐっ、いってぇ!何すんだよネキロム!」
『落ち着けって、あのデカブツは今はまだ大丈夫だ』
そういって巨像を見るように促す。巨大な手の平で拘束されている姿は幾分か落ち着かせる効果があったらしく、クネスの呼吸も穏やかになった。
「わ、悪い。ありがとな」
『ああ、それよりも皆の元に戻って作戦をたてるぞ。時間もなさそうだしな』
暴れる巨像のせいで少しづつだが土の腕が壊れ始めている。
俺とクネスは急いで戻ることにした。
『なあ、エス。あの巨像のことについて何か知っているか?』
俺は皆で集まった後、子供にしては知識が豊富なエスに聞く。
「う、うん。あれは多分[仮初ノ生命持ツ人像]だと思う」
「マジかよ、人像なんて小鬼が出るような迷宮に出ていい魔物じゃねぇだろ........」
エスの答えを聞いてクネスが嘆く。
それほどまでに人像は強い魔物なのだろう。
『何か簡単な倒し方とかは無いのか』
「ううん、人像の倒し方は左胸にある魔石を砕くか抜くことだけ。それ以外方法は無いよ........」
『そうか........』
その答えにみんなの表情は一気に暗くなる。
先程の俺の魔法でも人像の体には負けてしまった。
クネスやラウナの剣、エスの弓矢でも傷つけることは不可能と言っていいだろう。
何か、何かないのか。ヒビでもいい。少しでも傷つける方法さえあれば........。
そんな思考を巡らす暇も与えないかのように人像は暴れ、土の腕の亀裂を大きくしていく。
「ああもう!こんなことなら親父にもっといい剣を鍛冶屋に作ってもらうようにするだったぁ!」
「何いってんの、剣が良くてもアンタの腕じゃあ無理に決まってるでしょ」
喚くクネスに厳しい現実を突きつけるディーは呆れた様子だった。
剣か........。俺もこんな姿じゃなかったら自作の剣で戦ってみたかったな…...。
そんな思いが頭に過ぎる。熱した金属を叩きながら水で冷ます。そして色々やって最後は綺麗に研いで........。
『あ........あー!』
思いついた!人像の体を壊して魔石を砕く方法が!!
『おい!思い付いたぞ!人像を倒す方法が!』
「ほんと!?」
「どんなのだネキロム!」
『ああ、今から説明する。あ、その前にルエ、ドリルってわかるか?』
「どりる?何それわかんない」
『あーっと、ほら昨日の夕食で巻き貝があっただろ、ああいう感じので————』
皆に注目されている俺は手早く説明をし、皆に役割分担をして準備に取り掛かった。
△▼△▼△
「OOOoooOo!!」
人像が暴れて自由になった腕で、胴体に残っている《土精霊の腕》を叩き壊す。
『くるぞ、作戦通りにな』
「任せて!」
「おうよ、まあ今回はネキロムたちに任せるしかねーけどな」
「何いってんだよ、俺たちも大事な役割だろ?」
「そうよ!ちゃんと守ってよね!」
「……守られる……」
「うぅぅ、結構責任重大な役割なんだけど僕……」
それぞれ普段通りな雰囲気で会話している。先程の暗い雰囲気は嘘のように感じられない。
やる気に満ちているみんなを眺めていると、ついに人像が解放された。
『よし、行くぞ!《二兎追うものは一途も得ず》《竜を真似た息吹》!』
魔法陣を形成しながら俺は人像へと突き進む。人像もまた、俺達に向かって突き進むが、そこは俺の火炎魔法《竜を真似た息吹》により、高温の炎が相手の胸元を中心に熱しながら動きの勢いを鈍らせる。
ダメージがある方が俺的には嬉しいのだが、観察する限り鬱陶しそうにしているだけで弱っている様子は無い。
しかし今回は意識がこちらに向いているだけで充分だ。
俺はそのまま振るわれる人像の腕を掻い潜りながら、火炎魔法を当て続ける。
「ひぃ~、あっちぃ~」
「うぅ、汗で気持ち悪~い」
まあ、こんな密室で炎出しまくってたら汗だくになるのは当然だ。だが温度以外にも、閉じ込められた部屋で炎を扱っている分、酸欠にも気を付けなければならない。
幾ばくかの時間が経った頃、俺は魔法を中断させて他のみんなに合図を出す。
『よしいいぞ!やってくれ!』
「……《下級理力激化》……」
「りょーかい!《冷水》」
カイネの付与魔法によって効果が上がったルエの操水魔法は、水の入った桶を頭上でひっくり返したみたいに人像をずぶ濡れにさせる。
「OOOOO!!」
「やっぱりこっちを向いたか、逃げるよカイネ」
「うん……」
「ほら!エスいくよ!」
「わわわ、待ってくださいよ!」
注意が自分たちに向いたと理解したラウナはカイネを守るように、エスはわたわたしながらもルエにしがみつく様に逃げる。
先程まで佇んでいた場所に岩の拳は振り下ろされるが、そこにルエ達はいない。しかし拳を叩き込まれた岩の床が、破片となってルエ達に向かうのは止まらない。
「わ、《風の膜》!」
「くっ!」
「大丈夫……?」
「ああ、かすり傷だよ。ありがとう」
短杖を翳しながら疾風魔法を唱えたエスの御陰によりルエは無事だったが、ラウナはカイネを庇ったために、こめかみから赤い滴が流れ出てきてしまう。
「ラウナ!そのまま走ってて!《下級治癒》!」
ディーの回復魔法でラウナの傷は癒える。しかしそうなると今度はディーが注目される番になる。
そこでまたクネスがディーを守るように逃げ去り、俺が火炎魔法で注意を逸らしながら岩の身体を熱す。
これを繰り返していくのが今回の作戦だ。
高温となった岩が急激に冷やされる。
熱膨張って知ってるか?……あれだ。熱で……物が膨張するんだ。
あら?これだけだと説明が足りない?
……まあ、とにかく!熱して冷ますと大体の硬いもんはひび割れるってテレビでやってたんだよ!
これがクネスの鍛冶屋発言を聞いて思いついた作戦内容だ。
幾度となく降りかかる火炎と冷水は、僅かだが岩である人像の体を伸ばし、縮める。
そして何回か攻撃を浴びせかけた頃、ようやっと変化が訪れた。
「《冷水》!」
ルエの操水魔法が人像の体を冷やす時、聞こえたのだ。ひび割れる音を確実に。
『よっしゃあ!割れたぞお前ら!最後の締めだ、ルエ!』
「任せて!」
俺の合図と共にルエは人像の後ろへとまわり込み、他は壁際まで退避する。正面は《二兎追うものは一兎も得ず》で逃げれる俺だ。
水が流れ終わった後では、はっきりと分かる亀裂が人像の胴に一線。
確信を得た俺は止めの魔法を発動させる。
編み出すは螺旋の槍。回転も加えるようにし、最大の破壊力を与えるために全魔力を呪文に乗せ、この魔法へと費やす。
「【穿つは大地の槍!穿たれるは岩の人像!旋回の助勢を以て敵の生命を砕き壊せ!】《螺旋の土槍》!!」
「【大地の貝よ、廻り廻って敵を貫け!】《土の巻き貝》!」
呪文により最大まで威力が上がっている俺たちの大地魔法は、挟み込むようにして人像の胸を突く。
というか、巻き貝って。
いや、本当はドリルを教えようとルエの身近なもので簡単に例えてみた俺が原因なんだけども。
巻き貝が背中に突き刺さろうとしている姿はいささかシュールな絵面だ。
だが人像も黙って突かれている訳じゃない。槍を止めようとその岩の腕を掴み伸ばしてくる。
「《炸裂》!」
『いいぞ!エス!』
しかしエスの疾風魔法がそれを許さなかった。
破裂した空気は僅かだが腕の軌道をずらし、大きな結果をもたらしてくれた。
槍を掴むことが出来なかった腕は、虚しく空を切り空振る。そして最後の機会だったのであろうこの時間でも、俺の《螺旋の土槍》とルエの《土の巻き貝》は岩の身体を壊し進み、遂に紫色の結晶を撒き散らしながら人像の胸を貫き通したのだった。
「OoOoo……」
「……や、やったぁぁあああ!!」
比較的元気だったディーが歓声を上げ、その歓声を聞いた皆にも笑顔が広がっていく。
『か、勝てたか……』
俺は安堵した気持ちと魔力の枯渇もあってその場にへたり込んだ。ルエも同様に、服が汚れるのを気にしないほどに座り込んでいる。
離れていたクネスたちは俺達の状態に気が付くと、すぐさま駆け寄りルエには肩を貸し、俺のことは抱き抱えてくれた。
「ありがとね……」
「いいのいいの!なんてったってルエとネキロムは一番頑張ったんだから!」
「そうだぜ!それに子供と兎だけで人像を倒すなんて絶対誰もやったことがねぇって!みんなに言ったらびっくりするぜ!」
「馬鹿クネス!そんなことしたら怒られるに決まってるでしょ!」
クネスが調子に乗り、ディーが怒って注意し、他のみんなが苦笑する。
何気ないいつもと同じ光景だが、それこそが俺達を殺し殺されの世界から日常へと戻してくれた。
その後、ひとしきり休んだ後は砕け散った魔石の破片から、ある程度の魔力を回復させ、邪魔な岩を壊しながら出口へと向かった。
外に出ると、頭上にあった太陽は西の木の影に隠れようとしていた。俺達はそのまままっすぐ街へと帰ると今回のの事は皆の秘密と約束をし、家へと向かった。
「ただいまー!」
『ただいまー』
「あらおかえり二人とも。まあまあまた泥だらけになって。ご飯の準備は出来ているから先にお風呂に入ってきなさい」
「はーい!」
ノーサさんに促され、ルエと一緒に風呂でさっぱりすると、食堂へと行き食卓を囲む。
「あら?ルエ、何かいい事でもあったの?」
「うぇ?なんで?」
「だって、顔が笑っているよ」
ノーサさんとネオクロさんに言われ、俺もルエの顔を見ると言われてみれば笑っている、と思えるかもしれない。
やはり、親というのは子供のことをよく見ているのだろう。
「うーん、いい事というか大変だったっていう感じだけど皆で一緒に頑張ったことがあったからかな……」
「へぇ~、なになに?お母さんにも聞かせてよ!」
「んー、ダメ!内緒なの!ねー、ネキロム」
まあ、こっそり迷宮で行ってて死にそうになりました、って言ったら怒られるものな。
俺も怒られたくはないのでここは口裏を合わせておくことにした。その後は別の話題で盛り上がり、ルエの部屋へと戻る。
今日は大変な一日だったが、俺としてはなんだかんだで良い一日だったと思う。
大変だが飽きないこの日々が気に入っている。こんな日常がいつまでも続いてくれれば。そんな思いが少しだけ、頭の中を過りながら俺は眠りについた。
だが、そんなに現実は優しくはなかった。
迷宮から帰った後のクネス宅で、酷い刃こぼれをした剣が見つかり、父親に問い詰められたクネスが素直に白状をしてしまっていたのだ。
おかげで後日、〝竜と剣と本と花と人形と魔法と兎〟の全員はしこたま大人たちに怒られることとなり、クネスは1週間の間、白状した罰のため俺達の使い走りをすることとなったのはまた別のお話。
「ひぃ、ひぃ……」
「ほらっ!ボサっとしてないでお菓子を買ってくる!」
「は、はい!」
「あ、クネス。俺はライラトのタルトがいいな」
「わたしはネキロムの果実水!」
「……[悪戯好キナ妖精]のぬいぐるみ……」
『俺はー、ボルティナのクッキーとエスミのケーキとネキロムの果実水で』
「僕は最新刊の魔物の本をお願いしますね」
「くっ、お前ら頼みす…」
「あんたがバラすからでしょ!」
「ぐっっ!!」
退屈しない日常はまだまだ続きそうだ。
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