十九話 洞窟迷宮の悪意
1000PVたっせー!!・:*+.\(( °ω° ))/.:+*.
あの後、俺達は一旦家へと帰り、昼食を食べてから装備を整えて迷宮の入り口までやってきていた。
「それではこれより、我ら〝竜と剣と本と花と人形と魔法〟による迷宮攻略を開始する!」
剣を掲げながら探索宣言を行うクネスに合わせ、皆はおー!と拳を空へと突き刺す。
クネス以外にもラウナは二本の短剣、エスは弓矢と短杖、女子達はそれぞれ別々の杖を手にしている。
え?俺?未だに真っ裸ですけど?何か???
「あ、ちょっと待って。せっかくネキロムも仲間に入ったんだから団名にもネキロムの好きなものを入れようよ!」
「そうだね、その方が俺たちの仲間だっていうことがいっそう実感出来ると思う」
ルエが提案し、ラウナもそれに賛同する。
「ね!ほら、ネキロムの好きなものは?」
『俺の好きなもの?うーん……』
俺の好きなものってなんだろうな。真面目に考えてみると中々に分からない。
昔は知っているものが少なかったからパッと答えられた筈だが、大人になると選択肢が多過ぎて困る。
金!……はこの姿になってから必要性が無くなったから当てはまらない。
権力!……も別にいらね。責任を押し付けられなくなるからな。
女も当分いらん。信用性ゼロ。
となると残ってくるのは、
『俺自身かな』
やっぱり我が身が一番可愛い。容姿、性格、声。どれをとっても俺自身のものが一番好きだ。
「わかった!兎だって!クネス!」
『あ、いや、兎じゃ』
「わかった!じゃあ今から俺らは〝竜と剣と本と花と人形と魔法と兎〟だ!」
再び皆が掛け声を合わせるとそのまま洞窟迷宮へと入っていった。
『あー、まいっか........』
特に訂正したい程でも無いわけだし、みんなが楽しいならそれでいい。
俺はそのまま後を付けるように洞窟迷宮へと入っていく。
迷宮に侵入してから五分後、俺たちは下の階層へと続く階段を探す為に歩いているのだが、これといって魔物に遭遇したやお宝を発見したといったことは無かった。
強いていえば洞窟へと入っていったのに中が光源も無いのにはっきりと見えている、ということだろうか。
『なぁ、なんでこんなにハッキリと壁とかが見えているんだ?』
俺は疑問に思ったこと呟く。そしたらエスがいの一番に答えを返してくれた。
「それはですね、迷宮の中は基本的に気温や明るさが適度な値に調整されるようになっているからなんですよ。だから砂漠や雪山で遭難した時には迷宮の入り口で助けを待つこともあるらしいです」
『へー、それはありがたいこって。でもなんでそんなことになってんだ?』
おかしいよな。人を襲う魔物の巣なのに人にとっては快適な環境が準備されている。
「うーん、それは僕にもわかんないですけど、本による一説だと人を呼び込むためじゃないかって書いてありましたね。その為に宝箱とかも迷宮にあるとも。そうやって呼び込んだ人間を迷宮の栄養とする、この仮説が多分一番有力と思います」
人を栄養にする、ねぇ。
まるで迷宮に生命があるような言い方だ。
ま、生命があっても無くても俺には関係ないからどうでもいいんだけどな。
その後もエスと当たり障りのない会話を続けていると、ラウナが急に手で俺たちを制してきた。
「止まってみんな、右から何かが来る」
目の前はT字路になっており先が見えない。
だが、兎になった今なら分かる。俺も右側の通路からひたひたと何かが近付いてくる足音が聞こえた。
皆が用心して自身の武器を握り締めていると、ついに足音の主が壁から顔を出した。
醜い歪んだ顔に淀んだ赤色の肌、手には木の棍棒や錆び朽ちた短剣を持っている小さな人型が三体。
体には薄汚れた布を着る、いや巻いていると表現した方が正しいか。それだけしか身に着けておらず、とても野蛮な印象が目に残る。
「gehyahyahya!」
「[醜悪二生キル小鬼]だ!みんなかまえろ!」
俺達を見つけると歪んだ笑い声を発しながらこちらへと突き進んでくる。
それを合図にクネスは皆に戦闘の準備を促す。
「俺は真ん中!ラウナが右でカイネはラウナの支援!左はエスとルエ!ネキロムはディーの守りを頼む!」
素早く指示を出したクネスは真っ先に敵へと突っ込む。
ラウナもその後へと続き、エスは弓に矢を番えて左の小鬼へと放つ。
「gyaga!?」
エスが放った矢は相手の右肩に刺さり、クネスとぶつかるタイミングを遅らせる。
「……《下位敏捷力上昇》」
「ありがとう、カイネ」
カイネはラウナに向けて付与魔法を放つ。カイネの真言を機にラウナが青白い光に包まれ、クネスの後を走っていた筈が、すぐさま抜き去り小鬼と対面する。
「せいっ!はぁっ!」
「Gaaa!」
速度が速くなったラウナに思わず対応しようとした小鬼は、棍棒を振り上げるがラウナの二本の短剣によって手首ごと切り落とされる。
「ふっ!」
止めと言わんばかりに短剣を相手の胸に刺し蹴り離すラウナ。
胸を刺された小鬼はそのまま崩れ落ちるように倒れた。
「やるなぁラウナ!だが俺だって!」
ラウナの戦闘に魅せられたのか、先程よりもやる気になったクネスは小鬼と対峙する。
小鬼はクネスに向けて錆びた短剣を振り回すが、クネスは自身の小盾で攻撃を往なす。
「そらよっ!」
小盾で自身の攻撃を弾き返された小鬼は、バランスを崩しよろめいた。その隙をクネスは見逃さず、右手の剣で小鬼の頭を切り飛ばす。
「おっし!こっちは終わったぞ。そっちは?」
「こっちももう終わり!《土塊》!」
ルエもお得意の大地魔法でサッカーボール並の土塊を創り出す。
土塊はそのまま小鬼目掛けて一直線に飛んでいき、向こう側の壁まで小鬼を押し飛ばして潰した。
「いぇーい!」
ルエたちは仲良くハイタッチを交わして自分たちの勝利を讃え合う。
「おっと、魔石はとっておかないとな」
そういうクネスは馴れた手つきで小鬼の腹を割く。
そこから取り出したのは小さな紫色の結晶。あれが魔物の体内だけにある石、魔石らしい。
魔物が持っている魔力が心臓で結晶化したもの、と道中でエスから聞いた。
魔力が凝縮されているらしく、色々な物の燃料代わりとなっているそうだ。
「ははっ、簡単だったな!」
「もう馬鹿!何が簡単よ!ほら、ここ傷がついているじゃない」
クネスを窘めるディーの言う通り、クネスの頬にはうっすらと切り傷の赤い線があった。
「はい、こっち向いて《下級治癒》」
ディーが放った回復魔法により、クネスの傷はみるみる塞がっていく。
「ありがとな、ディー」
「まったくもう!気をつけてよね!」
無自覚にいちゃいちゃしている二人に他のみんなも混じっていく。
それにしてもルエたちは、子供ながらとても戦い慣れているように感じられた。
やっぱり身近に危険が感じられる環境で過ごしていると心が一段と成長するのだろうか。先程のクネスの指示なんて、地球の同世代の子供たちだと絶対に出来ていないと思う。
『あー、俺は戦いそびれたなぁ』
ま、そんなことはさておき俺はぼやく。
この世界でも地球でも戦いだなんて経験したことが無かったから、さっきの小鬼が初めてだと思ったのに。
「わりぃなネキロム。でもディーは俺たちの大事な治癒士だからよ、守ってくれる奴がいないとな」
すまん、と片手でジェスチャーを行うクネスに俺は仕方ないと思った。
どっかから、じゃあクネスが守ってくれればいいのに、なんて呟きも聞こえた気がしたが俺は心の中だけで応援しといた。
「まあ、次が来たら今度はネキロムにも任せるぜ」
『お、よっしゃ!ばっち来い!』
俺は意気揚々と返事を返す。少年時代にあったワクワクの冒険心にまた灯がともったようだった。
「お、そんなことを言ってたらまた来たみたいだぞ」
そうラウナが呟いて前方を指す。
そこにいたのは、先程の醜い魔物とは違い、ふさふさとした茶色の毛並み、くりっとした可愛い目、そして一番目を引くのが頭部から突き出た一本角。
そんな魔物——兎が俺達の前にいた。
『同族じゃねーか!』
「いや、あれは[駆ケ巡ル角兎]ですよ」
俺の叫びに冷静に答えるエス。
『いや、分かってるけど!角とったら兎じゃん!俺と一緒じゃん!同族殺しじゃん!』
さすがに俺と似たような姿は気が引ける。
「あっ、でもでも!もしかしたらあっちも仲間だと思って仲良くなれるんじゃない?」
『えぇ...マジ?』
魔物は同じ魔物同士でも争うらしいのに、なんとメルヘンなことを言うのだろうかこの娘は。
「物は試し!行く行く!」
俺はルエに背中を押されて前に出る。
しゃーなしに“繋がる心”で俺は角兎との会話を試みた。
『........よう』
「mukyu?」
........ダメだ。兎の言葉なんて分かる訳が無い。
『あー、そう、今日は良い天気だよな!洞窟の中だけど!』
「........」
角兎が言葉を返してくれる筈もなく、ただただ俺の言葉だけが一方通行に通過するだけだ。
「........」
『も、もしも~し?』
返事は無い、ただの魔物のようだ。
『........ダメだこりゃ、無理だ~ルエ~!』
そう諦めて俺が後ろを振り返った瞬間、
「kyuuu!」
『ふおおおおぉお!?《落し穴》!』
いきなり突っ込んで来たので無詠唱で魔法を発動してしまった。
俺も角兎もいきなりであったため、角兎はそのまま落下。俺も
魔法の発動を中断出来ず、《落し穴》の追加効果で空いた穴に土が埋められていく。
こうして僅か数秒で生き埋め事件は発生してしまった。
「........同族殺しですね」
『!?』
「ああ、完璧な同族殺しだな」
『!!?』
今の光景を見て、エスとラウナが俺に同族殺しの称号を付けようとしてくる。
『ちゃ、ちゃうねん。今のは不可抗力で........』
「いやぁ凄かったな!ネキロムの魔法!一発じゃねーか!」
純粋なクネスは俺の魔法を褒めてくれているが、暗に俺が角兎を殺したと言っているようなものだ。
『くうぅぅ、みんなして!こうなったら角兎は一匹残らず相手にしたらぁ!!』
ヤケになった俺は殺戮のマシーンと化すことに決めた。
同族なんていない。俺は唯一無二なのだ。そう心に誓い迷宮を突き進む。
「おっ、やる気だなネキロム。よし、俺たちも行くぞ!」
「あ、こら!待ちなさいよ!ネキロムも!勝手な行動は駄目なんだから!」
窘めるディーとはしゃぐクネスの光景に、皆も呆れながらも続いていく。
その後も、俺たちの迷宮探索は続いた。
道中でも何回か戦闘はあったが難なく撃退も出来たし、宝箱も見つけることもあった。
まあ、中身は空っぽでクネスとルエが特に落ち込んでいたんだが。
そんなこんなで楽しくはあったが、特に異常なことがある訳ではなかった。
「........後は、この先だけ........」
カイネがお手製の地図を広げながら教えてくれる。マッピングはカイネの担当らしい。
「よし、じゃあ俺が少し見てくる」
そう斥候役のラウナが申し出ると先へと進んでいった。
数分後、先の通路からラウナが走って帰ってくる。
何やら少しだけだが慌てている様子なのが伺える。
「はぁ、はぁ、み、みんな。おち、落ち着いて、聞いてくれ」
「お、おいどうしたんだよ。とりあえず一旦お前が落ち着け」
クネスはラウナを宥めるように喋る。カイネも無言だがラウナに水筒を渡して落ち着かせようとする。
ラウナは水筒を受け取ると一口飲み、深呼吸をすると通路の先に何があったのか語り始めた。
「........この先に宝箱があった。みすぼらしい木の箱のやつなんかじゃない。ちゃんと装飾された綺麗なやつだ!」
語るラウナは最後の方になると興奮で声が大きくなっている。
その声に釣られ、皆のテンションも高くなる。
「マジかラウナ!」
「本当ですか!?こんなところの迷宮で豪華な宝箱なんて!」
「何が入っているのかな!」
「きっと綺麗な宝石とかよ!」
「........これでお金持ち........」
宝箱発言により一層騒がしくなるが、次のラウナの言葉が嬉しさの火に燃料を注いだ。
「道中の罠も無いかちゃんと確認して解除してきた!後は宝箱を開けるだけだ!」
「よっしゃああ!なら早く行こうぜみんな!」
クネスの発言に反対する者はおらず、皆小走りになりながら最奥へと進んでいった。
迷宮の奥へと辿り着くと、そこは広々とした円状の部屋となっており、その中心にラウナが言っていたであろう煌びやかな宝箱が置いてあるのが視野に入る。
「ほあぁ!マジだよ!本当に宝箱がある!」
「ははは!何だよ!疑ってたのかよ!」
宝箱を見て騒ぐクネスにラウナは突っ込むが、その顔は笑っていて不快そうな表情は伺えない。
「あーもう!待ち切れない!私が一番最初に開けるね!」
「あっ、待て!俺が先だ!」
待てなくなったルエが飛び出し、クネスもそれに続く。
「おいおい!宝箱にも罠があるかもしれないから一番最初は解除出来る俺だろ!」
「ぼ、僕も近くで見たいです…...」
そういってラウナとエスも飛び出す。
「はぁ、まったく男子は落ち着きが無いんだから」
『そういってるディーも本当は近くで見たいんだろう?』
「そ、そんなことないわよ!」
さっきは宝箱に宝石が入っていると期待していた人の言葉とは思えない。
そんなディーの照れた顔を可愛らしいと思いながら見ていると、どこからかガコッという何か大きなものが外れたような音が聞こえた気がした。
『........何か今、音がしなかったか?』
「ん、そう?何も聞こえなかったけど。カイネ、何か聞こえた?」
「........何にも........」
……俺の気のせいだったか。
そう思い、宝箱を開けようとするルエたちに目を向ける。
その時、たまたま天井を見てしまった。いや、見て良かったと言える。
巨大な人型の石像が天井から剥がれ落ちてこようとするのが俺の目に映ったのだから。
『お、おいお前ら!そこから早く離れろ!』
「え?」
ルエたちは何だと理解出来ていない顔でこちらを振り向く。それと同時に石像もルエたちを押し潰さんとばかりに落下を始めた。
『ッ!《炸裂》!!』
間に合わない、そう感じた俺は無詠唱でルエたちに向けて魔法を放つ。
真言だけで発動された疾風魔法は、石像がルエたちを押し潰すよりも早く発動し、ルエたちを四方へと弾き飛ばした。
「ゲホッ、砂埃が酷いな…...」
「いったぁ~い!」
「いてて........」
「ああっ!くそ!何が起きたんだ!」
どうやら文句を言い垂れる元気はあるようだ。俺は少しホッとし石像が落ちてきた場所に目を向ける。
そこに存在したのは、ゴツゴツとした岩が集合して出来たような人型の像。
「は?な、なんだよこいつ........」
クネスの恐怖に震えた声と同時に、巨像が砂埃を掻き分けながらこちらへと振り向く。
「Ooooooo!!!」
目も鼻も口も無い顔から出た咆哮が部屋中を鳴り響かせる。
その咆哮は明らかに親しみでは無い、敵意が宿ったものだった。
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