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為せば成るのがナルのスタイル

男と女を隔てる壁は

進化の過程 真価の否定

オスだメスだと線引いちゃって

僅かな隙間もそこにはないの?


ボクは真ん中 どちらでもない

そんな風には社会で生きれず

ぽつんとひとりも随分慣れて


それでも独りじゃ眠れぬ眼には

夜の世界が眩しく映る

寝れない日々が増えるにつれて

ネオンの灯りに吸い寄せられた


ボクはボクだと言える強さが

周囲の人を遠ざけていく


ボクはボクだと言える強さが

ボクを孤独に包んでいった


……


「う……ん……」

 カンカン、とアパートの階段がなる音でボクは目を覚ました。

 時計の針は十時を回っている。史明君が仕事を終えて帰ってきたのか。

 だけど、足音はふたつ聞こえた。

 茂美ママの雷が鳴るみたいなハイヒールの音でもない。

 気になってキッチンの小窓に目を向けると、史明君と見慣れない女の子が連れたって歩いている姿が見えた。

「……なんだよぉ……誰、あれ?」

 途端にボクの気分が悪くなる。

 なんでここに女のひとが来るの?

 例え史明君の彼女だったとしても、ここはドクターストップで借りているアパートでしょ。公私混同は望ましくない。

 っていうか、ボクがイヤだ。知らない人は大嫌い。

 入ってこないでよ、ここはボクが見つけた領域なのに。


 隣の部屋のドアが開く音がした。史明君の声が壁越しに聞こえる。

「じゃあ……使って……夜に……」

「へえ、綺麗……ねぇ……」

 会話はいまいちよく聞こえない。

 すぐに史明君が部屋から廊下に出てきた。

 ボクはそっとドアから手を伸ばして、史明君の袖を掴んで部屋に引っ張りこんだ。

「ちょっと史明君、あの女誰? っていうかこのアパートに女を入れないでよ」

「ようナル、おはよう。寝起き姿も可愛いぜ。足音で起こしちゃったか? あいつは女じゃない、うちの新入りだ。……ああ見えて、男だ」

「えっ!? 男ぉ!?」

 思わず大きな声が出ちゃった。

 だって、一瞬見えた横顔はちょっと化粧の濃い女子高生だったんだもん。

 しかも、結構可愛かったし!

「茂美が昨晩拾って来て、ドクターストップに雇うと決めた。仲良くやれよ。可愛いだろ?」

「そう、茂美ママが……。ふぅん。まぁ可愛いていったって、ボクほどじゃあないけどね!」

「ふふ、聞いて驚くなよ。あれで女装初日だからな、彰人は」

「しょ、初日であのレベル!?」

 ううう……、新入り――その彰人っていうやつ、あんな可愛くて女装初心者!?

 しかも史明君もニヤニヤしちゃってさ。なんか気にいってるっぽいし。もう!

「ふてくされた顔するなよ。結構気が合うと思うぜ、お前ら」

 そう言うと、史明君はさっさと自分の部屋に歩いていってしまった。仕事明けだし、無理に引き留める訳にもいかない。

 そっと隣の部屋の様子を伺うと、何やらドタバタしている音が聞こえる。

「まだ寝ないのかな。よし!」

 ここはひとつ、先制攻撃!

 ボクは大急ぎでメイクをして、勝負服のひとつであるミリタリーゴシックに身を包む。

 黒に近い、濃いカーキ色の軍服の首元には赤と金色の縦じまリボン。同じくカーキ色のミニスカートには白いレースがほんの少しだけあしらわれている。黒のニーハイを履いて、スカートをあげる。

 スカートとニーハイの隙間、ほんの少しの露出が大事。白い太ももがいい感じ!

 ちらみせ絶対領域は断然正義だもん!

 軍帽の赤いラインとボクの自慢の金髪がいい感じ。

 淡いピンクのメッシュが数束、甘めのアクセントになっている。

 甘すぎずキメ過ぎず。よし、今日もボクは断然カワイイ!

「ナル、可愛い! いってきます!」

 鏡に向かって敬礼をして、軍靴を模したブーツで出陣。

 向かうは隣の新入りの部屋、さあノックを――。

 と思ったけれど、先輩としてはここでいきなり乱入しちゃうのもありかも?

 うちのアパートは基本的に外出の時以外は鍵閉め禁止。

 お酒を出すお店だし、スタッフはお客さんにたくさん飲まされちゃうこともある。部屋で動けなくなってもドアから助けにいけるように……。という茂美ママの配慮だけど、ここはそれを利用しちゃおう。

 ドキドキするなぁ。

 ううん、ボクは可愛いから大丈夫! よし、いくぞ!

 ドアノブに手をかけて、勢いよくドアを引いた。

「古賀? って、あれ? えっ、君は?」

 してやったり。新入り君は不意をつかれて、驚いた顔をしている。

 ふぅ~ん。背は百七十センチはいかないってとこかな。骨格は華奢で女装向き、顔立ちは綺麗というより可愛い系か。

 スカートから伸びる足にムダ毛は見えない。女装初日ってことは、元々生えないタイプか。腰回りは細くて、肌も綺麗。声も作ってないだろうに高めの声質で素質充分。

 なるほど、これは強敵である。

「はじめまして、新入り君。ボクは君の先輩の成瀬ナル(なるせ なる)。よろしくね」

「せ、先輩? あ、藤岡彰人です、よろしく。……あれ、でも君は、女の子?」

 戸惑い立ち尽くす新入り……彰人に詰め寄り、顔をのぞき込む。

 ヒゲのあとも全然見えない。肌荒れもほとんどないし、ぜんぜんヒゲも生えないみたい。もともと体毛が薄めなのかな。

 茂美ママのメイクだろうか、雑なメイクでちょっと損してる。きちんとメイクすればもっと可愛くなるかも。なるほど、史明くんがニヤニヤするわけだ。

「ええと、成瀬さん?」

「ナルでいいよ、皆そう呼ぶから」

「ナル、さん。あの、貴方女性ですよね?」

 ああ、来た来たこのセリフ!!

 初めて会う人が口をそろえてボクの事、女の子って言うこの瞬間!

 性別なんて壁を飛び越えていくようなこのときが、最高にキモチイイ!

「えへへ、彰人ぉ。ボクねぇ、こう見えても男の娘だよぉ」

「はい!? そんな、ええっ! うっそぉ!? だって、見た目も声も女の子!」

「ビックリした? ビックリするよねぇ~。こんなに可愛いのに、男の娘なんだもんね」

「うん……びっくりした。へえぇ、すっげぇ、これで、男の娘……すっげぇ!」

 ……なんだこいつ?

 ボクをのぞき込む目がすんごいキラキラしてるんだけど。

「男でも、こんな可愛くなれるんだ……!」

 彰人の口から零れでた言葉には、好奇も嫉妬も感じられない。

 ただただ、純粋に感動したという雰囲気である。

 張り合ってやろうと思っていたボクからすると、ちょっと肩透かしだ。

「ちょっとぉ、そんな目で見るなよぉ」

「ごめん! つい、その、ナルさんがあまりにも綺麗で」

「っ!?」

 頬赤らめて、真顔で何言ってんだこいつ。言われたこっちが恥ずかしいよ!

 ううう、なんかこいつと話してると、ボクの調子が狂う。

 ボクは咳払いをして、冷静を装って話しかける。

「こほん。彰人も、女性の格好する人?」

「成り行きでここで働くことになってまだ一日目だから、女装とかはわかんないけど……自分が可愛くなれたら、何か変われたみたいで嬉しいなって」

「ふぅん」

「ナルさんは、女装が好きでしているの?」

 はぁ、きちゃったよ。この質問。まあ、服装の話をふったのはボクだしなぁ。

 ちょっとだけ語ることになるなぁ、ボクの考えってやつを。

 ボクは「聞いて」と言って自分の考えを彰人に語り始めた。

「男なのかとか女なのかとか、どっちかでしか決めつけるのはくだらない。ボクはボクだ。男でもない、女でもない、何物でもない唯一無二の成瀬ナル。そりゃあ女装はしてるけど、それはボクがボクのまま、一番輝ける格好がたまたま女性の服とメイクだったってだけ。

 生別欄なんて無視してジェンダーの真ん中に丸、ズバリ性別ボク。それがボクのスタイル。周りはボクを見て、時に女性としての振る舞いを求め、時に男性の在り様を求めた。ほんと、勝手な話だよね。

 一粒で二度美味しいとか、そんな風にしかボクを見ちゃいない。ありのままに見てくれる……そう、茂美ママや史明くんのように接してくれる人は、滅多にいないんだ。だからボクはここにいる。性別に捕らわれて、振る舞いや服装・言葉遣いや世間の目を押し付けられるなんてごめんだね。男ならこうあるべき、女ならこうするべきみたいな話は大嫌い。だって、男とか女とかの前にひとはひとじゃん。それ以上でもそれ以下でもない。性別による差別も区別も、ボクにはいらない。そんな世の中の選別は、ボクには届かないんだ」

 色んなひとに何度も話した、理解されないボクの考え。

 ついついドクターストップの新入りくん、彰人にも語っちゃった。

 先輩の威厳を見せようと思っただけなのに、なんでこんなこと話しちゃってるんだろう。

 彰人の表情が、なんというかその……解かりやす過ぎてさ。こっちの警戒までとけちゃうんだよね。変な感じ。

 当の彰人はと言うと、ボクが語るたびに大きく頷いては目を輝かせていたりする。

「ナルさん、すげぇ!」

「……へっ? 何が?」

「オレ、女物の服きてメイクして、可愛くなってはしゃいじゃって。でも、それでいいのかなって思う部分もあって。ナルさんの言葉聞いて、ああそうか、男女であるまえにオレはオレなんだ! って思えたんだ!」

 彰人は早口にまくし立てると、ボクの手を取った。

「ナルさんの言葉で目が覚めた! オレ、自分に似合う格好をする! 男とか女じゃなくって、オレ自身に似合う格好を!」

 えっ、ちょっと……なにこれ? バカというか、素直というか。

 こういう奴は初めて会ったし、まだ全然わかんないけど。

 ……こいつ、嫌いじゃないかも知れない。

「ナルでいいよ。『さん』付けはいらない。言葉づかいもタメ語でいいよ」

「でも、先輩だしさ」

「その代わり、ボクは君を『アキ』って呼ぶ。いい?」

「アキ? ああ、もちろん!」

 アキが嬉しそうに笑った。

 本当に、単純なやつ。でも、笑うともっと可愛いかも。

 あっ! 言うまでもなく、ボクの次に可愛い、だけどね!

「わかった。よろしくナル。色んなこと教えてくれたら嬉しいな」

「よろしく、アキ。仕方ないから、色々教えてあげる。ほ、ホントは嫌だけど、ナルはアキの先輩だしね!」

 先日注文した軍服ワンピース、ボクには少し大きかったけど。

 アキならサイズ、ちょうどいいかも。そしたら、ミリタリー合わせも出来るし……って!

「あーもう! 何を考えてんだ、ボクは!」

「どうした、ナル?」

「な、なんでもない !なんでもないよ! なんでもないけど、あのさ。ボクには大きくて合わない軍服ワンピースがあるんだけど、アキなら合うと思うんだけど……」

「えっ、軍服ワンピース!?」

 ボクの言葉に嬉しそうな顔をするアキの顔を見て、気付いてしまった。

 ボクは、こいつのことがちょっとだけ気に入りだしているのかもしれないってことに。

 だってさ。

 ボクが渡した黒の軍服ワンピースを着て恥ずかしそうに微笑んで見せたアキは、思ったよりもずっと可愛くって。

 ボクは産まれて初めて、胸が落ち着かない変な感覚に襲われた。

「ナル、どう? この服、似合うかな?」

「ふ、ふん! まぁまぁかな。その……似合ってるよ、アキ」

 ちぇ、どう見てもすんごいカワイイでやんの。

 もう! ほんと、調子狂うよ。

 でも、これからのアキも加わったドクターストップの日々は、今までよりも楽しい時間になりそうで。それは、うん。嬉しいよ。

 だから、ありがとう。これからよろしくね、アキ。

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