第247話:聞き耳と合コン
最近は講義のない土曜日の朝、軽く彩花とイチャイチャしてから十層から十五層をうろついて一日を終えて、一週間おきに日曜日にしっかり同じだけの深さまで達してドロップ品を換金、という流れを取り始めた。おかげで、俺も彩花もレベルが3ずつほど上がり、順調に人間を辞めている。
換金した費用でついでにここでは手に入らないスキルスクロールも都合してもらっているため、ベーススキルを上げて探索者の能力ピラミッドの底を分厚く広くして、いろんな分野に手を出せるようにしている最中でもある。何より、購入したスキルスクロールは全額経費にでき、その分税金対策になるという話らしいので、それも期待してのことだ。
聞き耳もレベル4になったおかげで、講義中にイヤホンしてる奴が聞いてる音楽や講義をしている教授の独り言、こっそりイチャついてるカップルの嬌声なんかも聞こえるようになった。
以前テレビで誰かが言っていたが、シンガポールで四か国の人間が一緒に仕事をすることになり、共通言語は英語だった。しかしそれぞれが別の言葉を話すので、全てを聞き取ろうと勉強して覚えた結果、英語以外のそれぞれ聞こえてきていた言葉はお互いのチームメンバーの悪口だった、というものがあった。これに近いような話を今体感しているところだ。聞き耳はレベル1のままで良かったんだな、と今更ながら反省している。
他の学生にしても、聞こえるように言ったつもりはなかったのに何で聞こえてるんだろう? と思われてもおかしくないのだが、聞こえてくる話には俺と彩花の話も当然聞こえてくるため、俺が一方的に恥ずかしくなり、彩花は聞き耳を取ってないので聞こえてこない話題とかもいろいろある。やはり、聞き耳はレベル1あれば充分だったんだな。
「ねえ、そんなに聞き耳って面倒くさいスキルなの? 」
そう彩花に問われると、聞き耳で方向を探って聞き耳で探った方向を向いては一つ一つ説明していく。
「あそこの男女のカップルは女性の大事な所に異物を入れながら講義を受けさせているし、その後ろの女性二人はお互いに指で触れあいながら講義を聞いている。この二カップル以外にもよそ事しながら講義を受けてる奴がいるし、そんないろんな微かな声を全力で受け取りながら講義を受けるハメになるから、講義中はできるだけ聞き耳をオフにしている」
「それはあまり聞きたくなかった話かもしれないわ、ご愁傷様」
聞き耳スキルの難しいところに、スキルのオンオフしかないというあたりも改善提案ができるならしておきたいところ。聞き耳スキルにもよわよわ聞き耳とかつよつよ聞き耳とかがあればもっとマシだったんだけどな。
講義が終わるとレポートと、出席記録を確認してきちんと居たぞということを確認してから次の講義へ。一回生は必修が比較的多めなのと、それに加えてダンジョン学部生はゼミの講義もある……もっとも、ほとんどが午後からなので比較的楽に講義を受けられるのが良い点ではあるが。
特に今所属している大泉ゼミの場合、全員一回生で必修もほぼ同じという間柄な以上、昼食時食堂で顔を合わせてそのままゼミの講義に移動することも少なくない。何ならゼミの主宰である所の合法ロリこと大泉准教授も「おばちゃん、いつもの! 」という食券を渡す行為から始まってこっちを目ざとく見つけ、結局ゼミ生合わせて四人で昼食を取ることも珍しくない。というか日常になってきた。
「いやあ、今日もみんな顔をそろえて元気そうで何よりだね。これも日ごろの行いの差という奴かな。うちのゼミ生はみんな日頃の行いが良いから……というわけでもないだろうが、健康でよろしい」
このまま夏休みまで突入して、半期が終わって単位認定を受けた後、また別のゼミと掛け持ちをするのか、それとも同じく大泉ゼミを選択し続けて、自分がかかわった事業がどこまで進んでいくのかを見届けるのも悪くないと思っている。
あとはまあ、乗りかかった船というのもあるが、このまま乗り切って無事に船が港にたどり着くまで見守るのも悪くないと言えるし、何よりもこの事業はうまくいけば莫大な利益をものにすることもできる。その莫大な利益の中に一口のらせていただければ、俺自身も大泉准教授も多少小遣いが増えるというものだ。
実際は小遣いレベルじゃなくお金が増える可能性もある。大泉教授が三勢電力の株式を譲渡されるような話になっていれば、この先三勢電力はこの技術の特許を取って他の魔石系電力会社から特許料をせしめつつ、会社も大きくすることが可能になるのだろう。
「それで、君らはいつ結婚するのかね? その様子だともう秒読みなのかね? 」
「結婚までは……まだ考えてないですね。嫌だとかそういう意味ではなくですが」
「そうね……私はそれでもかまわないと思っているけれど、幹也のほうからフラれるなら仕方ないかもしれないわね」
「おっと、聞いた私が悪かったよ。こんな所でラブラブオーラ全開にされてしまってはせっかくのソースカツ定食がザラメだらけの激甘カツに変化してしまう」
「それは僕もちょっと勘弁かな」
「じゃあ、この話はここまでだ。いつも通り粛々とご飯を食べることにしよう」
俺が場を抑えると、一同は頷き、彩花だけはちょっと納得できない顔をしつつも食事は進む。今日の午後からはゼミの講義だ。前回の三勢電力の久保田さんだったか、彼が会社内に意見を通して、その意見が了承されたのかどうかや今後の研究の課題についてまとめて話し、そしてどうすれば課題を達成できるのか、という点について発表がされる可能性が高いな。
別に今ここで発表しておめでとうを言いつつ全員にコロッケを奢ってくれても問題はないんだが、そうなってないということはまだ大きな課題が残っている、ということなのだろう。おそらくは、というかやはり、人の手が入らないと、具体的にはエネルギーボルトを使える探索者が起動シークエンスを担わないと回路の始動ができない、という部分についてだ。
具体的な作業工程の洗い出しや、どうしても必要な場合どのようにして人材を見積もるのか、という議論がなされる可能性は高い。ここに関してはどう考えているのかな、というのが今知りたい部分だな。
昼食も終わり、昼休みを適当に取ってコーヒーを……合法ロリお勧めの重たいストロングコーヒーを胃に入れて、胃痛とカフェインの効果によりしっかりとした覚醒効果でおめめぱっちりにした後、そのまま研究室に到着して中で軽く目を閉じて疲れだけでも取っておく。
今日は彩花も別行動なので一人だ。彩花のほうも自分で友人を作り、同期生ということでお互いのゼミや科目の話や世間話などをしながら情報を入手してきてくれているんだろう。俺は……そういえば俺は友達は朝日奈ぐらいしかいないな。朝日奈も友達と思ってくれていれば、だが、それ以外にあまり近寄ってくる男子も女子も居ない。
女子は彩花がぴたりとマークしてるから仕方ないとしても、男子は俺の顔の良さを……自分で言うとこっぱずかしいな、俺の顔の良さを使って他の学科の女子と合コン開くのに釣り餌としてばらまくには申し分ない出来をしてるとは思うのだが、そういうお誘いもないな。
椅子を二つ使って丸くなって眠っていると、朝日奈らしき足音が聞こえてきた。どうやら早々と昼休みを切り上げてゼミのほうに来たらしい。
「本条君はまた……器用な寝方をしてるね」
「構ってくれる相手が居ないからな。ちょっと拗ねてるところだ」
「具体的には? 言い方から察するに大泉准教授のことではないんでしょ? 」
朝日奈が少し親身になるようにして話しかけてくれる。構ってくれる人一号には俺は優しいのだ。
「なあ、俺そこそこ顔良いよな? 」
「そこそこどころか、かなり顔は良いと思う。生まれつきなのかダンジョンに通ってるからなのかは分からないけどね」
「なのに、合コンの申し込みとか、参加の願いとかが全く流れてこないのは何故なのかなって」
朝日奈はそれだけ聞くと、長めのため息を吐くと、諭すように話しかけてきた。
「本条君、まず君自身からそういう相手に近寄ったりはしてないよね? それもまず原因の一つだ」
「うん、あまり友人を作るのが得意じゃないからな」
「第二に、君の顔の良さと、同時に結城さんという彼女がいることも有名だ」
「そうなのか、そこまで知れ渡ってるということはもう大学公認カップルとみられてもいいぐらいだな」
そこまで俺と彩花の関係が噂になっているとは予想外だ。やはりレベルアップの効能は高いな。
「その結城さんも顔が良いし、本条君にベタぼれなのはバレバレだから、君から彼女を引きはがして無理矢理乗り換えさせようとする輩……女性だけど、そういうのも近づきづらい空気になっているんだ」
「なるほど、つまり彩花という鉄壁のディフェンスが居ることで俺の貞操は保たれていると」
「そんな状態の二人に、釣り餌とはいえ合コンの人数埋めに付き合ってくれ、と誘いをかけるのはかなり難易度が高いと思わないかい? 」
「確かに……そしてそういう効果がないなら、わざわざ俺を誘う理由はないってことか」
「まあ、大まかにはそういう感じだと思うよ。ちなみに僕が君を誘わないのも、僕が同世代に興味がないからでもあるね。よほどのストライクゾーンの女性が出てくるならまた別だけど、今の所大泉先生よりも好物件というのは珍しいからね。あの見た目で金も持っててしかも男性経験が少ないときた。是非とも一緒にいけない階段を駆け上って足を踏み外し、奈落へ落ちていきたいね」
あ、朝日奈のやばいスイッチを押してしまったかもしれない。話題を逸らさないと。
「とりあえず、俺が合コンだのナンパだのに一切かかわらずに生きていけていることの理由は分かったよ。ありがとうな、わざわざ察しの悪い俺に教えてくれて」
「構わないよ。どう転んでも君は結城さんの隣を誰かに譲るつもりはないだろうし、結城さんもそれは同じだろう? おしどりカップルで羨ましいぐらいだよ」
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