第211話:休日の学舎では
今日は休日だ。彩花とも遊ぶ予定はないので、一日暇である。ダンジョンに潜ってもいいし、潜らなくてもいい。講義内容の復習をしてもいいし、そうしなくてもいい。実に有意義な時間の使い方をできる日でもある。
さて、何をしようか……と、特にこれと言って思いつかない。部屋の中を顎に手を当ててウロウロしていると、アカネがそれを見かねて声をかけてきた。
「何もすることがないなら、今のうちに大学探検でもして来たらどうなの? どうせまだ見回ってない場所とかお気に入りのポジションとか見つけてないんだろうし、四年もお世話になるんだからそういう場所を見つけて、自分を見つめ直せる場所を見つけておくのは大事よ? 」
「そうだな。何もしないとかただひたすらに時間を浪費させるよりはそのほうが確実に良いだろうし、アカネも付いてくるか? 今のアカネにとって知ってる場所は俺と彩花の家だけになるだろうし、それよりはいくらかマシになるとは思うが」
「そうね、それも面白そうだわ。幹也についていくことにしましょう」
アカネを含めて一人と一柱で休日の大学まで出かけてくることになった。土日はほとんどの施設は開いていない。食堂も休みだし、全学部生が利用する共通校舎も原則として閉まっている。一部の学部……医学部の自習室であったり、情報系の自習室は開いているが、それでも普段とは違うスケジュールで動いているので、普段から比べたらいける所は格段に少なくなっている。
その分他の生徒に目撃される可能性も低いので、のんびりとできるお勧めスポットを探すにはちょうどいい感じかもしれないな。
「意外と人が少ないわね」
「休日だからな。普段はもっと学生でごった返している。人の多いところは苦手か? 」
「苦手ではないけど、私の姿が見えやすい人がいるかもしれない可能性があることを考えると得意ではないわね。たまにいるのよ、天然物が」
どうやら場合によりけり、というところらしい。購買が閉まっていることを確認して、そのまま静かに学内を散歩していると、人がいる時は気づかなかったがなかなかゆっくりできそうなところを見つけることができた。
普段の講義が行われているときは気づかなかったが、とてもいい雰囲気を感じる。平日にここを訪れてみて、本当にゆっくりできるところなのかどうかを調べてみよう。もしかしたら四年間お世話になる俺内部での大人気スポットになるかもしれない。桑員高校の屋上に匹敵するゆっくりポイントだといいな。
そのまま他の学部の学舎を見回り、医学部の自習室が休日にも相変わらず稼働していることを確認する。あっちは大変そうだな……まだこっちが本格起動をしてないせいなのか、それとも一回生だからか。医学部の学生は皆自習に熱心だ。それだけ自分の人生や親のプレッシャーに耐えながら学んでいる、ということなのかもしれないな。
ぐるっと一通り回って、ダンジョン学部の学舎にたどり着いた。ここは元は工学部の研究室があったところだったらしいが、現在部分的にダンジョン学部が間借りしている。
いずれ何かしら実績を立てた際はダンジョン学部専用の学舎と研究室を整えてもらって、肩書きも准教授から教授にランクアップして是非とも目立ちたいところだね! とは大泉先生の弁。
「ここが幹也と彩花がイチャイチャしながら授業を受けているところね」
「講義中はイチャイチャはしてないぞ。確かに隣の席にはいるが」
「じゃあ、やはりイチャイチャしているわね。普通周りに気を使ったり、講義に集中できるようにあえて離れて座るものよ」
「彩花の場合、講義に集中すると俺からいたずらしない限り講義に聞き入るから隣にいてもいなくても変わらないんだよな」
そこがありがたいのかちょっと寂しいのかはさておき、彩花の集中力は健在であり、講義中のノートのとり方も横から見ていて文句なし。大事なものが大事な分だけ書かれているので、もし同期や新しい友達ができた時にノートを見せてと言われても、必要以上に整理された合理的なノートを回していくことができるだろう。
「そういえば、彩花の集中力は凄いものがあったわね。幹也が股間をまさぐるまで気づかなかったこともあったわね」
「そこまでのことをした覚えはないぞ。精々耳を舐めた程度だ」
「似たようなものよ。私がいない時だけイチャイチャするんだからずるいわ。もっと私にも見せつけなさい。獣のように盛り合う場面をもっと私に見せつけて。さあ、今度の休みにでも」
大学に進学して求められるのがAV男優のようなものだとはだれが想像がつくだろうか。その内【精力絶倫】をお互いに覚えた二人で隣の部屋から苦情が来るレベルで頑張ってやるからそれまでの辛抱だと言いたいし思いたいが、それはそれで彩花の同意がないのでどうしようかな? というところだ。
「今、エロいことを考えたわね」
「ちょっとだけな。ただ、お見せできるのはしばらく先になりそうだから安心してくれ。少なくとも近日中じゃない」
「それはそれで残念ね。早いところもうすっごいのを見せてもらって私がモリモリ成長して隔世の美少女にまでレベルアップするところをお見せできるところだったのに」
「彩花が嫉妬しない程度で収めててくれると助かるけどな。後、触れるようになると本格的に浮気を疑われそうだからその前段階で止まっててくれると嬉しい」
「あら、じゃあ触れたら手を出しかねない、ってことよね。嬉しいこと言ってくれるじゃないの」
それは……彩花の手前上言えるわけねえだろうが。わかれよ。
「わかったわよ」
わかるなよ。それはそれでなんか悔しいぞ。
「ふふっ、でも、幹也も彩花一筋ではなくて私を抱え込む度量があることはわかったわ。普通一途でそれ以上のことができそうにないなら、そんなこと考える余裕すらないものなのよね」
「そういうもんか……と、あれ、なんか電気点いてるな。誰かまだ研究して……あの部屋は確か」
合法ロリの研究室に明かりがついている。休みの日にまで研究とはご熱心なことだな。と思ったら、中からフラフラになりながら出てきた。そのまま膝をつき、ゼミの前でエネルギー切れして停止したロボットのように動かない。
「あれは……エネルギー切れか、それとも何かの儀式か、あれを毎回やるとドロップ率が良くなるおまじないとかなんだろうか」
「普通にお腹空いて倒れ込みそうなだけなんじゃないの? 介護してあげたら喜ぶと思うわよ」
「介護……ああ、これあれだな。曜日を忘れて研究室に出かけたはいいものの、お腹が空いて食堂に行こうとしたら、今日が休みの日で開いてないことに気が付いて、絶望してその場で立ち尽くしてるようなパターンだな」
「だったら、なおさらメンテナンスが必要よね。ゼミの部屋の中に一時的にカロリーが取れるようなものはないの? 」
「うーん、学内のコンビニなら開いてるはずなんだけどな。とりあえず再起動分の燃料は補充させてみるか。何か食べるものは……俺は持ってないから中にあるかどうかだな。話ができる程度のものがあればいいんだが」
アカネはゼミに来たことがないからその辺の都合がわからない。俺が知ってるのは、この人がコーヒーに砂糖を入れない派……つまり在庫の可能性が低いことぐらいだろう。でも、来客用にミルクポーションとスティックシュガーぐらいならあり得るのか? ちょっと探してみるか。
「先生、横を失礼しますよ」
「ガガ……本条君……ピー……」
本当に壊れた機械のようにうめいている合法ロリの横を通り、ゼミの大泉先生の私室の付近にあるコーヒーポットの周辺を探し、スティックシュガーを手に入れる。ちゃんとあってよかったな。
「はい、先生、エネルギー送りますから鼻つまんでくださいね」
「何を……あ、甘い」
◇◆◇◆◇◆◇
スティックシュガーから糖分を直接取り入れて、数分のエネルギー充填時間を経て、大泉先生は復活した。
「ふぅ。いやあ、本条君が通りかかってくれてよかったよ。もう少しで明日餓死した私の姿が発見されるところだったね」
「それより、口と体が動くうちにご飯食べに行かないと、またエネルギー不足で止まりますよ」
「それもそうだね。学食は休みだから外のコンビニまで……持つのか? 私のエネルギー」
「……何が食べたいですか? 」
これは俺が買いに行ったほうが早いだろう。リクエストにお応えして俺が買いに走ったほうが早いし、途中でエネルギー切れを起こして俺が背中に背負うことになったら俺も恥ずかしい。
「……おにぎり、梅干しと、ツナマヨと、おかかチーズ」
結構食べるなこの人。頭を使ってる分炭水化物に偏ってるということだろうか。
「サラダは良いんですか? 美容に効果的ですよ」
「美容に気を使ったことはないけどこの美しさだから今は、いいや」
なんか俺みたいなことを言い出したので、とりあえず自分の分も含めて二人分のご飯を購入して戻るか。俺は何を食べようか……キノコは最近たっぷりとったしな。今は旨味よりも美容やビタミンのことを考えたほうが良さそうだし、サラダをつけて……パスタは止めてサンドイッチにする……いや、サンドイッチも最近は高い。値段を気にするところでは気にしていきたいので、スパイスカレーと春巻とサラダ、ということで、栄養価と満腹感を同時に満たせるようにしておこう。後、ブラックコーヒーも一応買っておくか。
「すいません、これだけ会計別でお願いします」
ちゃんと先生の分のレシートを別にしておくと、会計を支払って大泉ゼミの前へ戻る。大泉先生は……ゆっくりと自分の部屋に入っていったのか、かろうじて動いた形跡が見える。そして、部屋に入ったところで自分の席に座りそこで息絶えたらしく、また電池の切れかかったロボットみたいな音をたてながらプスプスと煙を上げていそうな雰囲気を醸し出していた。アホ毛もシュンとして垂れ下がっている。
「やあ、本条君お帰り……ご飯は買えたかい? 」
「ちゃんと買ってきましたよ。食べさせる必要はありますか? 」
「大丈夫。そのぐらいのエネルギーは残ってるからまだ大丈夫」
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