第207話:詳細は、変わらず
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二層を抜けるまでしっかり戦った彩花が後ろへ下がって戻ってくる。
「私ばっかり運動しててずるい。なんだかダイエットをさせられているみたいで不愉快だわ」
「じゃあ、地図持ち交代。ここからは俺が前を張る」
彩花と前衛をチェンジして、三層のウルフマンからは俺が主体となって戦うことになった。
しばらく歩いていると、ヒタ……ヒタ……と【聞き耳】に足音の反応がある。今まで聞いたことのない特徴のある足音だ。
「早速お出ましかな、ウルフマン」
「私も向こうにいる間に【聞き耳】スキルを取っておくべきだったかしら。索敵性能に差があるのはこの際少し問題かも」
「まあ、どちらかが気づけばいいってことでいいさ。曲がり角曲がったら出てくるよ」
宣言通り、曲がり角の先にはオオカミの背筋をまっすぐにしてそのまま二足歩行にしたような、スラリとしたスタイリッシュなオオカミが現れていた。身長は……俺と同じぐらいか。だが、武器は持っていないな。噛みつきで来るタイプだろうか。
「武器はないわね」
「爪と牙かな。解説には何て? 」
「その通りに書いてあるわ。だから……【威圧】でさっくりと倒してしまうのが早いんじゃないかしら」
「なるほど……な」
ウルフマンに【威圧】を放つと、ウルフマンは二足歩行から両手を地面に着き始めた。どうやら威圧には精神的プレッシャーを与えるとともに、退化させるだとか、地面に額をこすりつけさせるような屈辱的行動をとらせるような内容が含まれているらしい。
首をこちらに差し出したウルフマンを時間の無駄だとさっくりと切り落とし、そのまま黒い霧にして飛び散らせる。
「オークより楽かもしれないな。耐久力や太さみたいなものがない分倒しやすい。これはさっくりといけそうだ」
「四層は……変わらずリザードマンみたいね。五層もレッサートレントみたいだし、大きく変わるのは浅い部分だけってことかしら」
「そうだな。エネルギーボルト一発で始末できる点でもブラッドバットが出なくてビッグバットだらけだという話だけど、それもあんまり変わりはないかなあ」
「しいて言うなら五層で中ボス退治が出来るかどうかと、レッサートレントが樹液をくれるかどうかが気になる所ね。こっちには持ってきてないし、家に一本あって困るもんじゃないし」
まあ、レッサートレントの樹液なら最悪自宅からでも取りに行けるから問題はないが、もし禁断症状が出始めたなら一本専用ダンジョンで入手しておくほうがいいか。
自宅の専用ダンジョンだが、テストも込み、ということで一度潜って、十二層までは一人で潜り込むことに成功しているし、十層から逆走して九層でマイコニドを相手にキノコを色々と仕入れて色々キノコのバターソテーパスタとして旨味を凝縮した一品を作り上げているので、動作のほうは問題ないとみていい。どうしても金が必要になった時とかに考えて探索していくことにしよう。
今はまだ……そうだな、マジックミサイルと威圧、それからエネルギーボルトのスキルスクロールあたりは入手しておいても問題ないだろうな。その辺は主に使いそうなところでもあるし複数枚入手して隠し財産として持っておくのも悪くないだろう。換金してなければそれは持ってないのと同じ、という理屈の上で成り立つ話だ。しっかりと資産としては活用させてもらうことにしよう。
そう思えば、今俺のベッドの下……そう、相変わらずベッドの下にある隠し財産箱には300万円分近くの資産が既に溜めこまれていることを考えると、今年は早い時期から節税対策をしなくてはならない……やっぱしなくちゃならないんだろうな、という気持ちが胸の底から上がってきた。
そのままウルフマンを倒しに回る。どうやらドロップ品は【体捌き】のスキルスクロールぐらいのようで、他のモンスターに比べて魔石が落ちやすいとかそういうわけではないらしい。
ただ、【体捌き】のスキルスクロール自体はドロップ率がそれなりに高いようで、それを狙ってウルフマンをひたすら倒して回り、スキルスクロールで儲けるというサイクルが確立されているようだ。
実際に、出るかどうかはまた別として、三層を巡る間にウルフマンを倒して回ってみたが、流石に一枚も出なかったが、魔石はそこそこ落ちたのでよしとしておこうか。手ぶらで帰ることはこれでなくなった。
四層に入り、いつもの湿気とリザードマン。こっちのダンジョンの四層は足元が常に水で覆われているので雷魔法を迂闊に使うと感電しかねないという注意書きがされている。四層を抜けるまではずっとこんな感じらしい。
早速現れたリザードマンを威圧からの斬首コンボで確実に仕留めていく。正直腰を曲げるだけで良いので楽でいい。そして時々魔石もくれるのでなおいい。ちゃんと収入があることは良いことだな。精神的にも安らぎを与えてくれる。
「足元に水場か。下手したら水分でびちょびちょになるのは専用ダンジョンや駅前ダンジョンより上だな」
「防水靴で良かったわね。でも、これで絶縁靴だったら逆に雷使い放題ってことよね。そうやって次々とモンスター倒していく方法もあるんじゃないかしら」
彩花がいいこと思いついた! みたいに言う。
「確かにありだと思うが、自分達だけがこの場にいるなら、という条件付きになるかな。他の探索者に迷惑をかけることにもなるからあまりお勧めされてないんじゃないかな。もしそれが条件でここで乱獲がされてるなら、このダンジョンのローカルルールみたいなものが出来上がっていて、四層を通り抜けるなら絶縁靴で歩くこと、みたいな話があるはずだし、それについても地図に書いてあると思う。書いてないってことは、そういう稼ぎ方をしている人はいないってことでもあるな」
「なるほどねえ。たしかにそうかも。そして、四層でそんな稼ぎ方が出来る人はもっと深いところでより確実に稼ぐ手段があるからここではそんなことはしないってことでもあるのね」
「そうだな。槍の専門発掘業者でもない限りはリザードマンにそこまで執着する必要はないだろうな。そしてその槍自体も、頻繁に持ち歩いている人を見ないのを考えるに、出現率がかなり低いか、拾っても大して使えないかどっちかだろう。専用ダンジョンでも出ないぐらいなんだから出にくさは折り紙付きなのかもしれない。ドロップ品の引き取り換金価格がそう高くない所を考えても、やっぱり何かしら使い所が悪いものがある、というところなんだろうな」
本当に大人気で誰もかれもが取得経験がある物なら、中古屋に一本は用意されているだろうし、隆介も自分の武器として選んでいた可能性もある。それがないということは、そこまでのものでしかないのだろう。
四層を足先を濡らすことなく落ち着いた足取りで進み、靴下やズボンのすそに少しだけ跳ね返りを感じ取りながら歩くと、四層を抜けて五層までやってきた。ここまでは魔石が複数個手に入っているので無収入で来たわけではない。それなりに手ごたえはあった、というところだろう。
五層に入り、モンスターがレッサートレントに替わってくれたことよりも、歩いて足が濡れることがなくなったというほうが嬉しく感じる。集中していない、という意味ではそうなのかもしれないが、足首や靴下が濡れたままでいるとどことなく気持ち悪さを残したまま歩き続けることになるので、それは絶対嫌だなあと思っていたが、今回はそこまで濡れなくて何よりだった。
早速現れたレッサートレントにマジックミサイルレベル5を撃ちこむと、マジックミサイルにより体をへし折られたレッサートレントがそのまま黒い霧に変わっていく。どうやら、五層でマジックミサイルレベル5はオーバーキルらしい。そんなに威力が高いスキルには見えないんだが……まあ、どこまでマジックミサイルレベル5で通用するかも計算していきたいし、しばらく使い続けてみることにしよう。
彩花のリーディングを基に進み、とりあえず中ボスの部屋まで案内してもらう。中ボスの部屋の前では一パーティーが休憩中だった。時間を見ると、そこそこいい時間。早めに休んでボス狩りとするか、ボス狩りしてから休憩するか、どっちでも時間的には問題ない感じだ。
「すいません、ボスの湧き待ちですか? それとも休憩ですか? 」
今後しばらくお世話になるダンジョンだ、人についても同じく四年間会い続ける人になるかもしれないので、柔らかな物腰で話しかける。女性ばかりの三人パーティーはこちらを見て、それから彩花を見て、もう一度俺を見て、ッッッ! という感じで言葉を詰まらせた後、話し出した。
「いえ、あの、どうぞ。私たち休憩してるだけなんで! ボス待ちではないので! 」
俺をガン見しているあたり、おそらく目の保養をしているんだろう。どうしてこんなイケメンがダンジョン探索者なんてやっているんだ? と目が語っている。彩花についても、お連れ様もお美しい限りで、と言った感じだろう。
「そうですか、では行かせてもらいますね、ありがとうございます」
「はい、どうぞ、ズズイっとお進みくださいませ」
了解は取れたので、早速二人でボス部屋の中へ入り込む。ボスは……湧いていた。ここもご多分に漏れずオークチーフが湧いている。場所によっては五層の中ボスもオークチーフ以外のものが出るのだろうが、とりあえず俺の知ってるダンジョン三ヶ所については全てオークチーフで構成されていた。
おそらくはゴブリンやコボルドの上位種が同じくラインナップに並んでいて、どれを選ぶかはダンジョン製作者の好み、と言った感じなのだろう。帰ったら全国中ボス出現マップとかを探してみよう。きっと誰かが集合知としてまとめてくれているはずだ。
さて……ドアを閉めて、前へ進むと、いつも通り吠えて威圧をしてくるオークチーフ。しかし、こっちも【威圧】を発動させて無言の圧力をかける。俺の威圧とオークチーフの威圧のぶつかり合いの結果、こっちの威圧が勝ち、オークチーフの声が止まってその場に膝をつく。
そしてその瞬間にファイヤボールを打ち放って火だるまにさせる彩花に出遅れる形でこちらもマジックミサイルを二発撃ち込み、オークチーフを沈めにかかる。二発の魔法を無防備に受けて燃え上がり、そして物理的にぶん殴られたオークチーフがその燃え盛る体の火を消そうとしてる。
しかし、俺の威圧で動けないままファイヤボールの効果でそのまま燃え盛っていく。きっと全身焼かれていたいだろうに。彩花が二発、三発目のファイヤボールを連射したところでオークチーフはそのまま黒い霧になって消えていった。さすがにオーバーキルだったらしく、後にはしっかり魔石と……スキルスクロールを残していった。また【精力絶倫】じゃないだろうな。さすがに……そろそろ使うぞ。
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