第206話:潜入、大学ダンジョン
大学に通い始めてから二週間ほどして、かなり大学生活にも慣れた。自宅では両隣から壁ドンされることもなく安心して住んでいられるし、挨拶以来、両隣さんとも顔を合わせる機会に何度か恵まれた。
どうやら片方は俺と同じ大学生、もう片方は社会人として働きに出ているらしく、大学から帰ってくるときにどちらも見かけることになり、おしゃべりをする機会が少しあったため良好な関係を続けられている、と考えていいだろう。
大学の講義のほうは無難に進んでいるが、今まで溜めこんでいた分の知識の再学習と、新しい分野の学習ということでまた別の情報が与えられることになり、これはこれでなかなか楽しいぞ、と彩花と新しい課題に取り組みつつある。
ゼミの講義では、ひたすら座学をする中谷ゼミとは対照的に、魔石発電の残滓のリサイクル方法ということで色んな理論や発電所の発電システムの解説、それから魔石からエネルギーを取り出すという行動の論理をまず理解した上で改造し、その改造を実用化するための実験器具の製作や実験、結果の報告とそのサイクルをひたすら繰り返していく大泉ゼミでそれぞれ切り口は違うものの、楽しく講義は行えている。
そして、また土日が来たので、ここで一つ二人で試しておきたいことがあるので、ゴールデンウィークを前にして早々とやり込んでしまうことにした。大学構内に設置されているノーマライズダンジョン、通称大学ダンジョンの十階層までの到達という目標達成である。
自宅ダンジョンと駅前ダンジョンでは既に十層まで潜り抜けることが出来ているし、十層に初めて入り込んだときよりも俺も彩花も、レベルもスキルも、それぞれ上昇させておいてあるので突破はそれほど難しいとは考えていない。
ただ、何もなく歩き抜けるだけでも純粋に時間がかかるため、どうしても一日作業になってしまう、というのが気がかりだったが、丁度一日クリティカルに時間が空いたので今日どうだ? ということで早速ダンジョンへ入り込むことになった。
装備に関しては彩花も専用ダンジョンに潜ることから、今回も俺の部屋のウォークインクローゼットの横に二人分の装備が立てかけるように置いてあるので、それを専用ダンジョンに潜る時はここで、そして大学ダンジョンに潜る時はここから着替えて行って探索に行く、という形になる。今回も、彩花にはちょっと早めの時間から来てもらって荷物と食糧と物資を用意してもらっている。
更に、俺が引っ越し代の余った分から金を出して、二人分の探索専用のバッグ……これは素材入れが二カ所と弁当や水分を入れる場所が一カ所の、合計三カ所の別のポケットが付いているそこそこ便利なバッグが作られていたのでこれを機に購入する、ということで買っていたものだ。少し武骨なデザインだが、実用性は今まで使っていた通学用カバンに比べれば天と地の差。
なにより、ドロップ品の山や生肉に手を突っ込みながら弁当を探さなくていい、というこの上ない利便性がある。これは買うしかないだろう、ということで彩花にもスマホで連絡しながら実物を見てもらって、便利だということで購入したものだ。
これは経費で落ちるということらしいから、出費した分だけ余分に稼いでも怒られなくなるらしい。その内経費なのか経費じゃないのか、ということについても学ぶ必要が出てくるだろう。
弁当のパスタじゃないちゃんとしたおかずの入った米の弁当と水分、それとお互いの装備品を持って、大学ダンジョンまで自転車で出かける。自転車で出かける部分については高校時代と一緒だな。彩花も俺も、自分の自転車を引っ越しする際にこちらへ持ってきて、大学に許可を得て通学用として登録させてもらってある。
さて、大学構内のちょうど真ん中あたりに位置するこのダンジョンは、大学関係者以外の一般人も立ち寄れる形にしているため、比較的ガードが緩いし24時間利用することが可能になっている。大学としては溢れ出しが起こる可能性を出来るだけ小さくするための処置、ということになっている。
また、換金業務を担当するギルド側も、24時間空いていることの利便性を駆使して人が少ない間にドロップ品の移動や支払金の補充などができるので、便利だということでお互いの相互理解を深めた形での運用がなされている。
その大学ダンジョンに、大学に入ると決めてからおよそ半年。待ちに待った入場である。入場届を書いて探索者証を見せる前に、ギルドの建物に立ち寄って地図を購入。とりあえず十層まであれば今日の所は充分だろう。もし十層で足りないと感じたらその時は改めて追加の地図を購入して下の方まで潜りに行けばいいだけだ。
地図もちゃんとそこを意識してか、一層から十層までのセットで500円とリーズナブルな値段で販売されていた。ちなみに十一層から二十層の地図はセットで1000円らしい。大学ダンジョンでは三十層までは地図が販売されていることも納得しておこう。
ちなみに二十一層から三十層のお値段は3000円だった。探索者からすればはした金かもしれないが、それでもいくらかはギルドの売り上げになっていることを考えるとおろそかにできないし、探索者としても無駄に迷って時間を使う分だけ時給効率が上がるので買わなきゃ損、というのは間違いないらしい。
とりあえず地図を見ながらの歩きになる。早速入場届を出して一層から順番に十層まで下りて行って、ワープポータルから帰ってくるのが本日の課題だ。なんとも、歩き抜けるだけで良いなんて簡単な課題ではないか。
できるなら七層はスマートに抜けて、八層でみっちりとしたモンスターと戦って魔石を持ち帰りたいところではある。
そのための地図でもあるので、ぜひとも頑張っていきたいところ。さて地図を……
「どうしたの? 地図眺めて固まって。何か衝撃的なことでも書いてあったの? 」
「そういうわけではないが、どうやらここの三層にはオークもケイブストーカーもコボルドチーフも湧かないらしい。ウルフマンという二足歩行のオオカミが出るようだ」
作る人によって変わるとは聞いていたものの、やはり大学ダンジョンと駅前ダンジョンは作った人が別、という認識で良いらしい。こんなモンスター聞いたことなかったからな。
「まあ、目立った攻撃方法をしてこないなら問題はないと思うけど。むしろそうね……レッドキャップがいないだけここのダンジョンは楽かもしれないわね」
「いない? ……あ、ほんとだ。レッドキャップゾーン無いな、ここの二層。そんでもって、ゴブリンアーチャーも居ないみたいだ。盾持ちゴブリンと剣持ちゴブリンがそれぞれ出てくる以外は一緒みたいだけど」
「遠距離で攻撃してくるモンスターがいないというのは楽でいいわね。全部物理でなんとかできるって点は非常に楽でいいわ。もしかしたら後半までスキルの出番もないかもしれないわ」
彩花ってこんなに脳筋だったっけ……まあいいか。実際俺も遠距離からの攻撃に気を回さなくていい分楽なのは確かだ。他には……違いはあるようでないな。三層にオークが出なくて代わりにウルフマンが出ることと、レッドキャップとゴブリンアーチャーがいない、後は……後半の部分に関してはほぼ同じか。ただ、八層のモンスターがビッグバットとしか書かれてないから、ブラッドバット、つまり小さい蝙蝠は出てこない、ということなんだろう。
「さ、いくか。入り口でごちゃごちゃしてても日が暮れる。スマートに潜ってスマートに帰ってこよう」
二人で大学ダンジョンの中に入る。入口は駅前ダンジョンよりやや狭さがあるが、専用ダンジョンよりは広い。入口の大きさはダンジョンの規模によって左右されるものなのかどうか。これも知見が集まっているはずなので、そのうち専門座学で学ぶことになるだろうな。
一層は相変わらずの若干広々とした広間に、スライムがぽよんぽよんと跳ねている。どうやら、どんなダンジョンでも一層は必ずスライムが出るらしい。これは全世界共通で、どこのどんなダンジョンであっても一層はスライムが存在する、という法則が成り立っているらしい。
これについての理屈や論理、なぜスライムなのか? という法則やルールについてはよく解っていない。これはアカネの言うところのダンジョンの製作者に聞かなければわからない所だろう。多分アカネに聞いても明確な答えは返ってこないんだろうな。
スライムを蹴飛ばしながら進むと、早速二層に入り、ゴブリンが少しずつ出始めた。今は威圧を一切使っていないので、ゴブリンも普通に出てきては目の前に立ち寄って攻撃を繰り返してくるが、レベルのおかげか一切のダメージを認められない。
「ねえ、【威圧】使わないの? そのほうが早く目標までたどり着けると思うんだけど」
「あんまり早くたどり着き過ぎても困るからな。強いて言えば六層まで素早く動いていって、六層で暇つぶしをしてからお昼、それから後半戦、という形で行きたいところだが、それまでただ歩き続けるのも精神的によろしくないんじゃないかと思って。多少の運動もしておかないとな。最近運動不足気味ではあるし」
「それもそうね。じゃあちょっと動きながら行くってことにしましょうか」
彩花が得物を振り回しながらゴブリンに突っ込んでいく。ゴブリンをあっさりと撃破しながら次のゴブリンをターゲットにすると、ファイヤーボールで焼き焦がし、一撃で黒い霧に変えていく。
あー、これしばらく俺の出番ないな。地図を読みこんでおいて、迷わないようにする方が効率的か。ヨシ、前衛は彩花に任せて俺は背中を守る役に徹しよう。
そのまま三層方面へ向かうと、ゴブリンが両手に武器と防具を持ちながら襲ってくるようになった。いわゆる剣ゴブリンと盾ゴブリンだ。連携こそ甘いものの、油断していると盾に攻撃を防がれている間に剣で切りつけられることもあるそうだ。地図の空きスペースにそこまで書き込んである。
ここまで書き込んであるとは、地図の代金以上のお得さがあるな。ドロップ品として剣も盾も落とす可能性はないが、【剣術】と【盾術】のスキルスクロールは落とすらしい。この弱さなら、数を頼りにドロップ母数を上げる形でのスキルスクロール乱獲、というのも頭に入れておくこともできそうだ。
彩花が奮戦している中、のんびりした気持ちでダンジョン探索に向かっている。今日はこのままのペースで行くのかな。流石に同じところを回っているのと同じだから、そうそう苦戦する可能性もないだろうし、落ち着いていこうじゃないの。
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