第203話:初日の実験
ガラスの置きものみたいに空っぽになった魔石くずから、完全に魔石成分が抜け、ただのくずになったその魔石の抜け殻を机の上にコトリと置くと、次の実験に入る。
「じゃあ彩花やってみよっか。できるだけ人がいない何もない方向に向けて火魔法を普通に撃って、その後で魔石の中のエネルギーを、体の動脈から吸い取るようなイメージを頭に描きながら撃ってみてくれ。多分それで魔石の中のエネルギーを使いこなせるようになると思う」
「やってみるわ」
彩花がまず試運転にと、窓から外へ向けてファイヤボールを打つ。ファイヤボールは適当に飛んだ後、地面を軽く熱く焦がしながら転がっていき、しばらくすると消えた。
そういえば、彩花のファイヤボールをまともにじっくり見るのは初めてのような気がする。なんだかんだ受験だ合格だの後はまともに時間も取れなかったし、引っ越すか引っ越さないかで色々気をもんだりした時期もあったので、まともにダンジョンには通えていないだけではなく、二人だけの時間もゆっくり取れていない。そろそろなんとかしないとまずいだろう、というところにすら来ている。
「おー」
ファイヤボールを再び、今度は魔石の力を借りて実演してみると、さっきの二倍から三倍ほどの大きさのファイヤボールを発生させ、それを空中に投げ上げた。
空中に投げ上げられたファイヤボールが地面に落ち、地面の草を焦がしながらゴロゴロと転がって、しばらくしたのちにさっきよりも長い経過時間を過ごした後、ファイヤボールは消えた。そして彩花の手元には、先ほど俺が変化させたのと同じような空洞の魔石くずだったものが綺麗にガラス化した状態で残されていた。
「すごいねえ。それだけのスキルスクロールを手に入れるには眠れない夜もあっただろう。さすがは新入生真の総代の女房役だねえ」
今何か、聞き捨てならないことを言われた気がしたが気のせいだろうか?
「真の総代ってなんです? 新入生総代なら医学部の小泉君だったか、彼が勤め上げたと思うんですが」
「なんのことかなー? 私にはぜんぜんわからないなー」
誤魔化すように棒読みで答える合法ロリ。しかし、珍しく朝日奈君のほうが興味があったらしく、追及の手を強める。
「人に漏らしたことは黙っててあげますから是非とも内容を聞きたいところですねえ。でないと襲い掛かるかもしれません、性的な意味で」
朝日奈が言うと冗談に聞こえんが、その圧力に屈したのか、合法ロリがあっさりと白状する。
「わかった、言う、言うからこのことは秘密にしておいてくれたまえ。実はな、そこにいる本条君が首席合格者だったんだよ。ただ、まだ何の実績も上げてないダンジョン学部から新入生総代が出る、というのはぽっと出で何の社会的利益もまだ生み出せていない学部なのに、そこから総代を出して入学式で一言話させるのはまずいんじゃないか、という話になってね。総代は別の学部で立てていいから、その分多少の政治的配慮を求めた、という話なのさ。ちなみにそこに居る結城君が成績順に言えば二番目だね。この二人が今年の入学生1、2フィニッシュということになる。いやあ、学力的な平均値で言えば我がゼミはトップクラスに頭がいい生徒を抱えたということになる。なかなかうれしいことだねえ」
なるほど、そうか。俺が一位だったのか。手ごたえの割に声もかからなかったからよほどの秀才がいたのかと思っていたが、そういう政治的取引の結果で総代が入れ替わった、という話になるならばそれはそれでよしだな。むしろ、入れ替わりで総代になった小泉君のほうが真実を知った時のダメージが大きそうだ。
「その……あれだ、本条君。本当の所は君が総代だったという話は本人には秘密だという話で進めたかったのだが。申し訳ない、もしかしたら君のプライドみたいなものをずたずたに切り裂いて数回の燃える日のゴミに分けて捨ててしまったようなことをしたかもしれない。が、私もまだ外部講師みたいな立場から抜け出せてないのも確かで、大学内に発言権を大きく持てているわけでもない。そこはできるだけフォローをしたいところだが」
わたわたしながら子リスのように震えて言葉を選んでフォローをしてくる合法ロリの頭をそっと撫でて、いい子いい子する。
「こらっ、一回り上の女性を子ども扱いするな、留年させるぞっ! 」
「怒ってないですし、むしろ小泉君のほうが気になる所ですから、今回のことはこのなでなでで水に流しましょう。でないと大学に大泉先生からリークがあったと大事にします。なので諦めて撫でられててください」
「いいなぁ……」
朝日奈が羨ましがっているが、そのままぐりぐりと一分ぐらい大泉先生を撫でまわし、そろそろいいだろうというところで手を離す。その間、彩花は待機中。
「そろそろ次の作業に移ってもいいかしら? それと、幹也は後でお説教ね」
大泉先生で遊んでいるのが気に入らないらしい。素直に怒られよう。
「とまあ、エネルギーボルト……つまり電気の形でなくても魔石くずからエネルギーを取り出せることは解りましたが……とりあえず、電気以外の形でも取り出せる、ということは今証明できたことになると思いますが、これをどう使うか、というあたりでしょうね」
「そうなるね。君らの協力のおかげで一つ実験に進展が見られた。これからもちょくちょくやっていくが、魔石くずを通したスキルの行使は何故できるのか、そして、なぜ普通の魔石からではスキルの行使ができないのか、というのも考えていってやらないといけないところかな」
「たしか、前の話だと未使用の魔石……一切手を加えていない魔石からスキルを行使して中身を取り出すことはできない、と言っていましたよね」
「そうだね。だからこその悩みでもあるんだけど……もしも魔石がそのままエネルギーとして使えるのなら、外付けのMPタンクとしては膨大なエネルギーを蓄えることができるし、それだけで探索も随分進むことになるんだろうね。そこが何故うまくいかないか、というところも含めて考えていかなくてはならないと思っているよ」
アレだろうか。穴が開いていないからダメ、とかそういうことなんだろうか。エネルギーとして一度取り出す際に魔石に穴のようなものを開けて中身を取り出すが、一定の分までは取り出せるがそれ以上は取り出せず、それ以上はスキルというクッション行動を通してのみエネルギーを捻出することができる、とかそういうのかもしれないな。
「さて……最後に俺のだが、火魔法で無事に使えたってことはマジックミサイルでも問題なく使えるってことでいいんだろうか。それとも、マジックミサイルでは使えないとか、新しい理屈が生み出されることになるのか……見ものだな」
「見ものだねえ。是非とも一発景気良い奴を頼むよ。そして出来ればさっきみたいに地面を焦がさない奴で頼む。多分バレたら怒られるからね」
さっきの火魔法はやはりやり過ぎだったらしい。ということは、マジックミサイルも物体が残る以上あまり褒められたものではないな。そして、部屋の中に魔法が溜まって大変なことになっても困るので、窓から外に出ると、まず、一発マジックミサイルを放つ。
俺の背中から充填された数本の魔法で作られた物理的な矢のようなものが順番に発射されては、着地点にコトンと音を立てて転がる。しばらくすると、マジックミサイルはシュワーっという音がしそうな感じで消滅していった。
「今のを、魔石込みで打ってみます。出力は同じで、持久力を優先するのと、出力を優先してとにかくでかいのを一発撃ちこむのと選択できますが、どちらにしますか? 」
一応の魅せプレイなので、オーディエンスの期待に応えなければならない。他の三人の顔色と意見を取り入れることにする。
「では、一発でかいのを頼むよ。しばらく消えなくていいから、ダンジョン内でも見られないほどの大きさの魔法が打てるなら是非それを……ああ、勿論録画もしておこう」
「私は幹也が打ちたいほうでいいわ。その気になればまた見せてもらえるだろうし」
「僕は……小さいほうがいいかな。小さくて丸っこくてかわいいのが複数個あると幸せだね」
こいつは……まあいい、多数決の結果とにかくでかいやつを一発お見舞いする、ということになった。すまんな朝日奈、今度またリクエストに応える。
魔石にイメージを集中させ、魔石から魔力を吸い取るような気持ちで持って、最大出力のマジックミサイルを出現させる。
人一人分より大きいマジックミサイルが飛んでいき、さきほど試し打ちのマジックミサイルが飛んでいったところに、ザクっという音と共に刺さり、地面を抉った。
手元の魔石は綺麗に空っぽになり、また綺麗なガラス細工が一個増えた、というところである。実際はガラスではないんだろうが、そういうイメージが残ることになった。これ、売りに出したりして研究費の足しになったりしないかな。元々タダ同然で仕入れてきたものだろうし、このきれいな石細工を研究の一環で作りました、となればそれもまたありなんじゃないだろうか。
俺が生み出したマジックミサイルはしばらく残り続け、五分ほど眺めたところで全員が飽き、俺も研究室の中に戻って大泉先生の講義を聞く。
講義を聞き続けている間に、マジックミサイルは少しばかりの人だかりを見せたらしく、何が落ちているんだという騒ぎが聞こえている間はまだ残り続けているんだろう、ということになった。
「というわけで、魔石の中のエネルギーが使える以上、スキルにおけるエネルギー行使もまた可能ということになり、スキルを介して発電にも利用できるのではないか、というのが今のところの自動化と手動の折衷案ではある。自己保持回路の中にエネルギーボルトや雷魔法を流して、スタート起電力として用意している間に魔石くずをどんどん発電炉に流し込んでいって、利用していくことが可能なのではないか、というのが現状での話だ……っと、そろそろ時間だな。今日の講義はここまでにする。また次回よろしく」
講義が終わったあと、十五分ほどマジックミサイルは残り続け、大学内にできた謎のオブジェクトとして噂がたったが、探索者がスキルを行使したのではないか? 誰だ学内で使った奴は! と早速ダンジョン学部の関与が疑われることになった。
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