第198話:合法ロリ出没注意
その声にハッと気がついて思わずカウンターの方に目をやるが、どうやら物影になってしまって見えない様子。だが、それだけで充分誰が現れたのかを察することができた。この距離とこの角度で見えないということは確実に小さく、そして俺の【聞き耳】は確実にその音紋の正体を確定させていた。
奴だ、奴が何故かこの食堂にいるのだ。そして、こっちの食堂にも結構通い慣れているらしい。いつもの、という注文でおばちゃんもあいよ! と返事をしている。いつもの、で通じる程度に通い詰めている証拠だ。おばちゃんのほうも、ちっこい先生が毎回同じものを注文していく、として覚えられているのだろう。
「なんでここに大泉先生がいるのかしら? 入学式にはいなかったと思うんだけど」
「さあなあ。ともかく絡まれると厄介だから小さくなってこっそり食べて、食べ終わったら撤収を……」
少し食べるスピードを上げつつ気付かれないように食事をしていたが、着慣れないスーツ姿である俺と彩花の姿を見かけたのか、馴れ馴れしく話しかけてきた。
「まだ真新しいスーツで袖を通した回数もそんなに多くないように見える。さては君ら新入生だね? 早速校内の施設を使い倒そうという姿勢は非常にい……なんだ、誰かと思えばみき太君じゃないか。それに結城さんだったかな? 二人揃って入ってきたということはやはりダンジョン学部生になったのかな? 入学おめでとう。あ、となり失礼するよ」
断る前に座られてしまった。そして、ここの食堂でこの合法ロリのいつものは天津飯らしい。これもなかなか旨そうだな。今度注文してみるか。
「こっちの食堂ではいつものメニューが違うんですね。向こうではソースカツ定食だったと記憶していますが」
彩花が無理に話題をねじ曲げようと、メニューの話に持っていこうとする。
「私ぐらいの学内知名度をほこれば、全ての食堂でいつものを頼むと、定常メニューの中から私のお気に入りが自然に出てこようとするものなのさ。教師としても顔の広さは大事だからねぇ。そんなわけで今日の私は天津飯の気分なのだよ。良かったら一口要るかね? お姉さんが食べさせてあげなくもないぞ? 」
やはり、受験生でなくともこの人のウザカワさは健在のようだ。可愛いのは間違いないのでそこを否定してあげるのはさすがに可哀想。なのでそのまま素通ししながらちゃんとした挨拶だけは通し切っておく。
「大泉先生、正式に学生になりましたので、どうぞこれからよろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
彩花もつられて挨拶。いきなり正面から飛んできたまともな挨拶にあたふたするかと思いきや、それはそれできちんと受け止める、ということになったのだろう。食器を置き、こちらに向かって大泉先生も頭を下げる。
「こちらこそ、君らには入学前から色々と迷惑をかけているが、できるだけ君らの知識の宝箱になれるように努力する。できれば一緒に研究できればより良いとも思っているので、これからよろしく頼むよ」
珍しくキリっとした顔つきでこちらに挨拶を返す。キリっとしてたら普通に年相応……体つきはともかくとして、年齢相応の美人に見えなくもないんだがな。そして挨拶が終わったところで、ハムハムと天津飯を食べにかかって、美味しさにとろけていく。この人、真面目モードはどうやらそう長くはもたないらしい。
「美味しいねえここの食堂は。ちゃんと働く教師と勉学に励む学生のことを考えて献立を作られているから、食べた後も満足感がそこそこ。もし最高に美味しかったら余韻に浸って講義どころではなくなるだろうから、そこの間を抜けていくようにほどほどに美味しい、というところがまたいい。落としどころをちゃんと考えてくれてある良い学食といえるだろうね」
そこまで考えて食事をすることなんてまずないが、なる程言われてみればそうだな。腹八分の良いラインを攻めてきている気はする。体育会系のサークルやダンジョン探索で体力を使うならまた別でもう一品選べば良い、という話にもなるし、最低限という意味では丁度良い量であることはたしか。
その中でいかにコストを下げて運営が続けられるように努力していくか、なんてのも考えられているんだろう。
「さて、どうせ発表されてしまうからあらかじめ君らには伝えておこうと思うんだけどね。 現在君らがダンジョン学部最高学年であるのは誰の目にも明らかだ。そして、我々教師陣にとっても、それは死活問題でもある。」
「と、仰いますと」
「有り体に言ってしまえば、研究を手伝ってくれるゼミ生がいないということだ。君らがオープンキャンパスにくるまではまだ前の大学や企業に在籍されていた先生方だが、この先二年間もゼミ生無しで個人研究のかたちで進めるのは無理があるし無駄が多い、という結論に大学側も、そして教師側も達した」
まぁ、馬車馬のように、とまではいかなくとも研究に必要な人手をそう簡単に確保するのは難しいだろう。かといってよその学部から臨時で引っ張ってくることもできないだろうし、そのへんはどうするんだろうな。
「そこで、今年に限って一回生からゼミへの所属と研究への参加、共同研究成果の分かち合いの特別許可がおりた。君らは他の同期よりも早く、最先端研究に手が届くところからスタートできるってことだな。本来ならGPA評価基準を基にしてそれぞれのゼミにふさわしいかどうかの判断が下されて、半年ぐらいかけて綿密に決めたり本人の意思を確認したりするところなのだが、今年に限ってはそれも不要、ということで共通テストと二次試験の得点を基準にして行うことになった。君らの得点までは把握してないが、まあある程度自由も効くだろうし、好きなゼミに参加すると良いよ。まぁ……私の研究についてこれるだけの実力があるかどうかはわからないところだけどね! 」
天津飯のたれを頬っぺたにつけながら合法ロリが高らかに宣言する。大学としても、専門講義があるとはいえ貴重な知的財産を遊ばせておくよりも、より早く専門性のある知識に触れさせることを優先した結果、ということらしい。
「なるほど。てっきりお守りをさせられるのかもと思いましたがそういうわけでもない、ということですか。それは一安心ですね」
「お守りとは失敬な。このコンパクトボディに秘められた最先端知識を学びたくはないのかね? 今なら私もオマケで一晩ぐらいはついてくるかもしれないぞっ」
「いえ、彩花がいるので結構です。それはともかく、一回生からゼミに入るのはちょっと予想外だったな。どこか早めに住む場所を確定させないと」
三回生までに進路を決めてくれ……と言われた合法ロリの言葉も二年ほど前倒しになってしまったことになるな。まさか一回生からゼミに入ることになるとは思わなかった。そうなると、ゼミの中での課題や研究をするためにも近くに居を構える必要が出てきたな。
「夏休みぐらいには、って言ってたの、もっと前倒しにする必要があるわね。ゼミの研究で帰れないなんてことになったら確実に次の日に響くし、早めに選ばなきゃいけないところかしら」
「そうだな……入学式と健康診断と即時テストが終わったら、早速大学の生協で相談しなきゃいけないな」
「なんだい、みき太君は合格すると思ってなくて事前調べを怠っていた口かい? いかんね手抜きは」
「その逆ですよ。受からなかったらそのまま高卒探索者になる予定でしたし、今の距離ならギリギリ通えないこともないので後回しにしてたんです。ただ、一回生からゼミに入れと言われるなら話は別になりますからね。早いところ移住先を探して引っ越ししてしまわないと、電車での往復通学時間分だけでいくらか研究が進められるでしょうに」
実際これはかなり問題だ。早く通学時間を短くできるように調整しないと、せっかく出してもらった学費分だけ存分に知識を仕入れてそして世の中のためになるかまではまだ解らないが、成果を残して卒業し、その後探索者として知識を生かしていけるのかどうか、という部分まで考えて生活をしていく必要がある。どうしたもんかな。
「なるほどね。ちゃんとその辺まで考えていた、ということか。だとしたらゴールデンウィークあたりになるのかなあ。ちょうどゼミも休みで空き時間で、入学式ギリギリの今のごたごたを解消してということになる。ただ、最近はゴールデンウィークにずらして引っ越しする人も増えてるそうだから、相場も忙しさもそれ相応にかかる、と思っておいたほうがいいね。まあ、みき太君の財布との相談にもなるが、最速を目指すならそのあたりになるんじゃないかね。いきなりゼミのほうもじゃあ明日からギリギリまで残って頑張って研究していってね♪ なんてことにはならないだろうし、最初のほうは座学で基礎知識の詰め込みから始まる。その間に近くまで引っ越してしまえば十分間に合う、ということにもなる。ぜひそうしたまえよ。この後生協へ行くのも付き合ってやろう。これも何かの縁という奴だ。早速ゼミ生を確保したのだし、初回特典ぐらいは満足にしてやらないと私もゼミの主催者として立つ瀬がないからね」
「そうですか、ありがとうござ……ってちょっと待った。俺大泉先生のゼミに入るなんてまだ言ってませんよ」
「ちぃっ、せっかくの学生確保のチャンスだったのに惜しいことをしたな」
この人、さりげなく自分の手駒を増やそうとしていたぞ。さすがにまだ授業もオリエンテーリングも学部生全体講義も始まっていないのにゼミ生として所属が決まるというのはいくらなんでも早すぎる。
「せめて、その話が公になってみんながどこのゼミにするか探し始めてからにしてほしいですね。それまでに興味があるゼミが見つからない場合……入ってあげないこともないんだからねっ、勘違いしないでよね」
「その構文、男がやるとひたすらにキモいぞ。君ぐらいビジュアルが整っていてもキモい。なんか冷めたわ。普通につきあってやるからご飯を食べたら生協に行こうじゃないか」
そういうと、天津飯をモッモッというような擬音を立てているかのように食べ始めると、急いで食事を終わらせた。流石研究者、省略するべき時間についてはちゃんとわかっているというべきか、食事はシンプルに美味しく手早く、ということを身に付けているようだ。
作者からのお願い
皆さんのご意見、ご感想、いいね、評価、ブックマークなどから燃料があふれ出てきます。
続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。
後毎度の誤字修正、感謝しております。




