第195話:先ほどまではお楽しみでしたね
……ふぅ。
さすがに箱で買っておいて全部使い切る、ということにはならなかったが、二回戦で今日のところは満足、というところ。俺が先に気持ちよくさせてもらって一回、彩花が満足するまでで二回、というところ。
この先またこうして二人抱きしめ合う機会はあるのだ、そうはやばやとレスになることはないだろうし、彩花も気持ちよくさせてあげたいという思いが強い。俺だけが気持ちいいのではなく、二人とも気持ちよくなるにはさすがに昨日の今日、というわけにはいかないだろうし、しばし時間がかかりそうだな。
「動けそうか? 」
布団にくるまっているままの彩花に声をかける。部屋の暖房の温度は高めにしておいたので、今の俺は興奮もあってかあまり寒さを感じずにいられている。本当に寒かったら二人で布団に潜って密着して、もう一回……と行きたいところだが、初めては痛いしそうそうすぐに慣れるわけでもないらしいからな。俺の一方的な理由で何度もするのは良くないだろう。
「探索者の体力があるから何の問題もなく。ただ、今はちょっと……歩きづらいかも」
初めての証がシーツに残っているのを見る。後でしっかり洗って落としておこう。何かの雑誌で読んだが、証が付いたシーツを切り取って集めておくような特異な趣味をしている人物もいるというし、そういう人物に渡さないためにもちゃんと洗って干しておかないとな。
「ごめんね、シーツを汚してしまって」
「汚してくれたのが彩花で良かったよ。しかし、下世話な話なんだが……俺じゃなかったらその血は付かなかったかもしれないな。レベルで強くなってることを考えるといわゆる怪我にあたるんだろうからそれをさせるにもレベルの高い相手じゃないと満足に入れることもできないんじゃないか? 」
ちょっとシモい話だが、実際問題レベルが高すぎて貫通出来ない、となった場合、男の側のダメージは計り知れないか、よほど粗末なものをお持ちかの二択になるのだろう。どっちでもなくてよかった、と少しほっとしている。
「だとしたら、体力面も含めて今後も幹也じゃないとダメかもね。しっかり頼むわよ、旦那様? 」
「そこまでもうお決まりなのか……でも、大事にしなきゃいけないという気持ちはより一層高まったな」
「そう……じゃあ、大事にしてください」
にへらっと笑って頭を下げる彩花に頭を撫でてやってそのまままたキスをする。そしてそのまま頭を撫でながら、またベッドに横になって、同じ布団に入り裸のまま抱きしめ合う。
「ふー……まだ痛い」
「大丈夫か? でも、高レベル探索者でも痛いんだな」
「それだけ大事な経験だってことよ。それに、優しくしてくれたし。だから……よし! 」
今度は逆に頭を撫でられる。人に頭を撫でられるのは中々気持ちがいいもんだな。さて……アカネはそろそろ帰ってくるか? さすがに2時間ほど経つし、ご休憩には程よい時間ではあるが、そっと入り込んできてそっと覗きこんで、そっとフィーバーしてるなんてことは……
部屋をあちこち見回すが、幸せオーラを吸収しているような様子はない。どうやら部屋の中にはいないようだ。もしアカネが物を持てるなら、壁越しにコップを当てて音を聞いているところだろうが……そもそもあれ、本当に効果あるのかな。
「さて、痛いのはともかくとして、もう一回シャワー浴びて汗とか幹也の匂い……名残惜しいけど流してから帰るわ。家に帰ったらシャワー浴びて帰ってきたのバレバレになっちゃうだろうけど」
「雨に濡れたわけでもないのに何でシャワー浴びて帰ってきたんだ? と鈍い人なら質問しそうなところだな」
「あー、お父さんならあり得るかも。お母さんは多分気づくわね。でも、幹也のことは家族に話してあるし、元々合格したら派手に付き合うって伝えてあるから大丈夫じゃないかしら。その内幹也にも家に来てもらうことになるかもね」
彼氏紹介ってところか。確かに、彩花の家のことは何も知らないし、出来るだけ聞かないようにはしてきたが、今後は色々と聞きに回ることになるんだろう。
彩花がシャワーを浴びに部屋から出ていく。さて、俺もシーツを洗って、早めに血を落としておかないとシミになって残るし、シミを思い出して悶々とするのも御免被るからな。彩花がシャワーを浴びに行くと同時にシーツの交換だ。掛け布団のシーツも交換してしまおう。彩花の香りで多分寝付けそうにないからな。
「あら、お楽しみは終わったようね」
リビングに行くと、ちょうどアカネが玄関から律義に帰ってきたところだった。
「おかげさまでつつがなく、な。これでもう一段階恋人として踏み出せたのは間違いないな」
「おめでとうと言っておくわ。それで今後のことだけど、引っ越すのよね? いつ頃になるのかしら」
アカネとしても、ダンジョンを移動させる手間がある以上新しい部屋をさっさと決めて動かしておいてくれ、ぐらいの話はしておかないといけないし、実際にアカネを連れていって新しい部屋に住むことも了解してもらわなくてはならない。
あと、アカネの実家……つまり俺の実家からも結構離れることになるので、そう頻繁に帰ることもない、ということも了承してもらわなきゃいけないからな。やることはこれから多いぞ。
「その辺まだはっきり決めてないんだよな。一人暮らしでそれぞれ男子寮女子寮に入るのか、それとも外で広めの物件を借りて二人で暮らすのか、それとも俺だけ外で借りるのか。どれにしてもまずはどんな物件があるのか、から探さないといけないしな」
「結城さんは……いえ、彩花はその辺どう考えているのかしら。二人のことなんだからちゃんと相談しなきゃダメよ? ダンジョンについては私が何とかするから、そこは心配しなくていいわ」
どうやら、結ばれて初めて身内……という認識で改めて行くようだ。アカネが結城さん呼びを止めた。
ダンジョンの出入り口が自由に動かせるのは最初に設置した時もそうだし、この間も教えてもらったところなので問題なく動かせるし、動かしたからと言ってダンジョンの内部構造まで変化する、というわけではないらしいというのも理解している。結局どこに出入り口があるのか、というのが世の中では問題なのだ。
山奥であったり交通の要所だったり繁華街だったりすると、ダンジョンからモンスターが溢れ出す可能性が出てくることから早めに対処したりする必要がある。
ダンジョンの活性度……つまりどのぐらいダンジョンで頻繁にモンスターが湧いては移動を繰り返し、やがてダンジョンから出てくるようになるのかというパラメーターが設定されている限り、ダンジョンを放棄することはできないためダンジョンを攻略する人員が必要であり、そのための探索者、ということに表向きはなっている。
駅前ダンジョンぐらい栄えてるのならともかく、大学内ダンジョンのほうはどのぐらいの頻度で人が出入りしているんだろう。一般開放もしているんだろうか。大学内で探索者サークルがあるのかどうか。これはオープンキャンパスの時に調べておいたほうがよかったな。
あとは……ああ、考えることが多すぎてなかなか厳しいな。とりあえず大学にきちんと入るのが第一、今月中に新しい住居を決めてそこに入居する、それが第二か。それ以外は三番目以降に……うむ、忙しいな。
「これならもっと早めに業者とか物件を探しておくべきだったか。間に合うかな、入学までに」
「間に合わなかったら、最悪ここからしばらく通学ってことになるんでしょうね。いいんじゃない、それでも。いきなりがっつり一回生からゼミに缶詰めになって、家が近くじゃないと帰れないなんて話になる可能性は低いんだし、入学のごたごたが落ち着いてから夏休みに入ってから本格的に引っ越しを考える、でも充分ありなんじゃないかしら。通えないわけではないのだし、何とかなるわよきっと」
「睡眠時間がさらに短くなりそうな話だ……夜はゆっくり寝たいのになあ」
「ま、自分で決めた道なのだから自分できちんとけじめはつけなさい。もう十八で成人しているのだし、人より早く一人暮らしと自己流とはいえ家事もこなしてきたんだからその経験を活かしていれば何とかなるわよ、きっと」
引っ越しは二の次でも最悪よし……うん、順番が見えてきた。とりあえず入学通知書が届くのと、届いたら学校行ってどうすればいいか聞けば大体教えてくれるだろ。毎年のことだし、まごまごしていて入学手続きやり切れなくて進学できなかった生徒、というのは数年に一人ぐらいは出てくることだろうし、そうならないように学校側も充分注意しているはずだ。
とりあえずは……ああ、爺ちゃんに真っ先に連絡しないといけないんだよな、こういう時。本来なら彩花と致す前に連絡しないといけないのに、いかんな、早速合格ボケが出始めている。今が本当に大事な時期だ。入学手続きとか初年度の授業料とか必要な払い込みとか、後は卒業見込み証明書とか色々発行手続きしないといけないな。
とりあえず……彩花がシャワーから出てくる前に爺ちゃんに連絡するか。スマホを手に取り、慣れた操作で爺ちゃんのスマホに電話。数コール後に、電話口に出る音と、騒がしさが聞こえる。さてはパチンコ行ってるな?
「おう、どうした幹也。急ぎか? 今連チャンかかってるからできれば後にしてほしいんだけどな」
「んー、分かった。じゃあ手短に言うけど、大学受かったから入学費用とかその辺よろしくって伝えとかないといけなくて」
「おー、受かったか。今から稼ぐからちょっと待っとれよ。今日中に今年分の授業料一気に稼ぐつもりで巻き返すからな! 」
そして、電話は切れた。大丈夫だろうか。まあ、大丈夫だろう、いつものことだ。
「誰に合格報告してたの? ちょっと声が大きくてこっちまで響いてきてたけど」
彩花がバスタオル一枚で風呂から上がってくる。一度……いや、二度もすれば恥ずかしさもないと来たのか、それとも三回戦へのお知らせなのか、本人が気にしてないのかはわからないが、とにかく目の保養にはなるしもう一回ぐらい頑張ろうかなと思うところではあるが、冷静に対処しよう。
「爺ちゃんに報告してたが、丁度パチンコ行ってたらしい。学費稼いで帰ってくるってさ」
「大丈夫なの? 逆に学費なくしたりしない? 」
「そっちのほうは信頼できる腕だから大丈夫だとは思う。パチンコ行くだけの金があるってことは、爺ちゃん最近大勝ちしてる証拠だから」
「そう……ならいいけど」
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