第193話:二次試験
共通テストからの緊張感を維持し続け、いろんな我慢をし続けて一カ月。ついに二次試験の日まで到達することができた。二次試験会場へ行くのは言うなれば通学の練習みたいなものだ。二次試験は通う大学の学部そのもので行うため、毎日この距離を通学していくのはしんどいなー……と思うなら、引っ越しを考えたほうがいい、ということだろう。
実際問題として……しんどいなこの距離は。片道一時間半として、その間に何かが出来るというのを考えると、せめて片道三十分以内には納めたい。その往復二時間の時間を使って俺専用ダンジョンに潜ればそれなりの金を稼げるのは間違いないので、その分だけ確実に損をすることになる、という勘定はできるだろう。
実際に通ってみて思ったが、やはり一時間半は遠い。実家から一時間半というなら考える所ではあるが、一人暮らしをしている中での一時間半なので、同じぐらいの家賃でより近くに暮らせるならそちらの方が都合がいい。
もう入学する気満々ではあるのだが、実際問題として結果が出るまではわからない。あと一週間ほど待つ必要があるが、その間はさすがに暇すぎる。彩花は他の大学や他の学部を受けたりしているようだが、俺は一校しか受けていない。
それについては学校側から強い要望というか、せっかく成績優秀になった学生に対して他の大学の滑り止めを受けてほしいとか、何か宗教的な理由があって大学を受験しないのか、とか色々聞かれたが単純に他のことには興味がないと言って断っておいた。
しかし、今考えれば地元を離れて一人暮らしして、関東か関西のダンジョン学部系の学校を受けるという選択肢もあったな、と思うところではある。まあ、今更考えても詮なきことだ。地元から離れないという選択をした以上、そこに今更何かしらの作用を起こすことはないし、定員割れを起こして追加募集をする可能性というものもないだろう。
どうやら新設のダンジョン学部も倍率は無事に二倍を超えたらしいので、成績の悪いほうから半分が落とされる、ということになる。しかし、ダンジョン学部は今年はみんな様子見だったのか、それとも他の大学の学部に流れていったのかは悩ましいところではある。この学部のできる前の人口はどこでどういう学生に配分されていたんだろうな。
「全大学全学部、試験終わった。明日そっち行っていい? 」
彩花からのメールに「いいぞ」と返信。向こうはひとしきり終わったらしい。俺は一足先に休憩をしている立場なので彩花には一人でプレッシャーを受け続けてもらう役目になってもらっていたが、これでお互い肩の荷が半分下りたってところだろう。後は合格発表を待つのみだ。
合格発表までもう少し……ということは、彩花とそういう関係になるまでの時間ももう少し、ということになる。ここで俺だけ落ちて探索者の道……というのもありえなくはないが、どのぐらいのレベルの人間がダンジョン学部を目指してきているのか、にもよるよな。もしかしたら俺の想像とは逆で、それほど点数の高くないレベルの人間が集まっていて、俺と彩花が平均点を大きく押し上げて偏差値を高くしている可能性もある。
どちらとも言えないのが現状だが、平均偏差値60ほどである他の地域のダンジョン学部から察するに、レベルが低いというわけではないようだし、新規だからそこまで上がらないという可能性もある。
うむむ……試験はほぼほぼ解答を埋め込み終わって見直す時間まであったのだが、本当にそれが正しかったのか怪しくなってきた。そうなると、本当に自分が正しい解答を答えられたのかわからなくなってきたぞ。一応自己採点はしたが、その点数で合ってるかどうかはまだわからないし。彩花は自分の塾でその解答を教えてもらってたりするんだろうか。
こういう時、塾通ってないのはデメリットだな。俺より賢いであろう人達の知恵を拝借できないのはなかなかに辛いものがある。
考えすぎなんだろうか……とは思うものの、この不安に耐える時間もまた、受験生が通り抜ける道としてご用意されているんだと思うとちょっとメンタルに来るな。
「だいぶ参ってるみたいね。そこまで心配する必要はないと思うのだけれど」
アカネが見かねて声をかけてくれるが、半分は頭に入ってないぐらいの緊張感を保ち続けている。
「こういう時は最悪中の最悪を予想しておいて、それを回避する自分の様子を想像する方がダメージは少なくて済む。少なくとも後からそれ以上の最悪を受け付けなくて済むからな……ぐむぅ」
「それで自分が作り出したプレッシャーに潰されてたら意味ないと思うのだけれど。まぁ、好きでやってるんだろうし、本当の最悪というのはその最悪中の最悪のなかでさらに発生するものだから、回避しようがないし、ダメージもそれ以上のものになるわよ、とだけは言っておくわ」
アカネがさらにプレッシャーをマシマシにしてくるのでそれに耐える。が、おなかがすいたら普通にご飯を食べられるし、それをリバースしたりもしてないので、少なくとも胃が痛い程度で済んでる辺り、俺もかなり楽天家の部類に入っているのは間違いないらしい。
つわりかと思うぐらい胃袋に直撃を喰らって合格発表までのストレスで数キロ痩せるやつもいると言うからな。それに比べれば俺も充分に手応えは感じているし、結果は期待している、と言うのが本音だ。
「よし、そろそろうじうじ考えるのをやめるか。いつも通り行こう。受験ストレスというものも一通り味わったし、もういいかな」
「あら、意外とスパッと切り替えるのね。もう少しグネグネしてるのかと思ったわ」
「悩んだところで結果は変わらんからな。後は合格発表をまつしかないんだ、だったらもう少し建設的なことをしよう。久々にダンジョンでも潜ろうかという気分になってきた」
「明日に響かない程度にするのよ。後、久しぶりに潜るんだから充分注意することね」
アカネに注意をされつつも、いつもの服装に着替えて専用ダンジョンに入り込む。威圧をかけながら小走り気味に三層まで進み、オークとオークチーフを狩って二時間ほどかけてオーク肉とスキルスクロールを集めて帰る。簡単だが、リハビリとしては程よい。
ついでにオークチーフにマジックミサイルの実践運用をしてみたが、マジックミサイル自体の威力なのか、それともレベル5の恩恵なのか、マジックミサイルを受けたオークチーフはそのまま吹き飛ばされていき、ボス部屋の隅っこで既に瀕死になっていた。どうやらマジックミサイルはかなり威力の高い魔法らしい。マジックミサイルの二発目を当てると、オークチーフは黒い霧になって消滅していった。
これは意外と使い勝手がいいな。全力投球で魔法を投げるようなものだ。魔法の飛んでいくスピードもかなりのものであるし、ここまでのモンスターでこのマジックミサイルのスピードより速いのはおそらくシャドウウルフの全力移動ぐらいのものだが、シャドウウルフは威圧で完封できているので問題にならない。
あと気にするのは燃費か。どのぐらい連射すれば打てなくなるのか、疲れてヘトヘトになるのか。そのあたりを確かめないといけないな。入口まで戻って中に向かってひたすら連射して、何か体に異常が発生次第そのカウントまでが最大発射数としてカウントされるように考えておけばいいだろう。
スキルについては……それ以上のことは正直自分の体で調べるよりも、他人が調べていることを参考にさせてもらうほうがいいだろう。俺以外にもそういう自分の限界と、スキルを行使する力がどこまで時間をかければ回復するのか、もしくは早く回復する手段があるのかどうか。
そのあたりは……多分日本語でも英語でも調べれば存在するだろうから、それを探しておくことにしよう。スマホで……と、そういえばタブレットを彩花に返却しないといけないな。明日来ると言っていたし、その時に返せるようにしておこう。
さて、二時間ほどオークチーフと戯れて、戦った回数5回。スキルスクロールのドロップ3回。どうやら見比べたところ三枚とも同じスクロールらしいので、多分【威圧】のほうだろう。これでホブゴブリンも便利に倒すことができるようになるかな。
オーク肉も冷凍庫に入るギリギリぐらいまでの量を確保できたし、これなら卒業してもまだ肉が残るという事態になるわけだ。冷蔵庫を空っぽにするのに悪戦苦闘しそうだが、出来れば引っ越しするまでに消化し切りたいところ。ポークステーキか肉じゃがか豚丼か、その辺のメニューがしばらく続きそうで栄養満点で安心だな。
部屋に帰り、早速お世話になっている鑑定サイトにアクセスすると、三枚とも撮影して画像を送信、しばらくして、三枚とも威圧であることが確認されたので一気に覚える。この【威圧】を覚える分も、スキルの行使にかかる力の増量分になってくれるかは不明だが、その辺も調べておく必要があるな。
さて、早速覚えて……と。スキルスクロールの文字を三枚分体内に取り込んで、威圧のレベルを更に上げる。安心安全の探索ライフのためとはいえ、一番高いスキルが威圧ってのもどうなんだろう。田舎のヤンキーじゃあるまいし、威圧してメンチ切って相手がビビってる間に倒すなんてのはあまりお行儀のよい探索とは言えないのではないか。そもそもお行儀の良い探索というものがどうなのかはわからないが。
あと、海外サイトに立ち寄ったついでに日本語と英語でそれぞれ、スキルの最大使用回数やそれに関わるパラメーターなんかが存在するのかどうか、という検証をしていそうな単語でブログを漁ってみると、スキルスクロールの使用枚数によって個々人のスキルの連続使用回数が変わる、という実験を終えて結論を出しているサイトがあったので参考にさせてもらうことにした。
そこによれば、枚数は基本的にアクティブスキルに限定される。つまり、【盾術】とか【剣術】などは判定に入らないが、【エネルギーボルト】や【X魔法】なんかの類は覚えれば覚えるほど持久力の強化に効果があり、回復の速度も回復量も覚えた枚数と相関関係にある、というところまではわかっているらしい。
と、サイトを見て気づいたが、これ関西の大学のダンジョン学科のフィールドワーク同好会の成果発表だった。あっちはちゃんと活動しているらしい。こっちでも同好会が開けるかどうかはわからないが、せっかく大学構内にダンジョンがあるのだから使わない手はないだろう。楽しみが増えたぞ。
作者からのお願い
皆さんのご意見、ご感想、いいね、評価、ブックマークなどから燃料があふれ出てきます。
続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。
後毎度の誤字修正、感謝しております。




