第186話:新年から暇を持て余す
年が終わり、新しい年が始まる。かろうじて海が見えるこの実家では、海そばのアミューズメントパークから見えて、微かな音も聞こえる午前0時のカウントダウン花火が唯一の楽しみと言えばそう。
あとは、近所のお寺で一つずつ吹き飛ばしては次の瞬間にはもう増えている煩悩を打ち払うごとにお菓子をもらえることぐらいか。子供のころから毎年通っているのでお互い、寺にも顔が通じるし、同級生も居るので毎年行う小さな同窓会みたいなことになっている。
久しぶりの中学の同級生に挨拶をしつつ、毎年通り煩悩の鐘を突く列に並ぶと、自分の番を待つ間に、彩花からメールが来ていた。
「ちょっと早いけどあけましておめでとう。今年もよろしく。私は眠いのでもう寝ちゃいます」
「あけましておめでとう。俺はお参りが終わってから帰って寝るよ」
やり取りを短く終えて、スマホから目を離すと、前に並んでいた爺ちゃんがにやにやと話しかけ始めた。
「なんだ、頬が緩んでるぞ。彼女か? 」
爺ちゃんのこういう時の勘は鋭い。隠すようなものでもないし、ハッキリ話してしまってもいいか。
「ああ、彼女だよ。彼女も同じ方面に進もうとしてるけどね」
「それは大事な彼女だな。受験だなんだで忙しいからと言ってほっといて、それでそっぽ向かれないように気をつけろよ」
「一緒の学部を目指してるからそこは大丈夫かな。お互いに教え合いもできるし、彼女も俺も、今年一年で随分賢くなったんだぞ、成績表見せただろ? 」
爺ちゃんにはちゃんと保護者としての身分を全うできるように、成績の類はきちんと報告している。なので今学期も引き続き成績が上がってびっくりしていた。ずるをしたんじゃないかとも思うほどの成績上昇っぷりなので試しに何問か質問をされたりもしたが、全て答えていたので自力でそれだけの点数が取れている、というのは確認できたらしく、手離しで喜んでいた。
「しかし、お前がここまで賢くなるとはなあ。去年までは中の中ぐらいの何ともない成績だったろうに、何か奮起する出来事でもあったのか? 」
「そうだね……あった、かな。少なくとも導かれるように道筋をつけてくれた人……人? はいたかな」
「まあ、何にせよ俺の孫の出来がいいのは死んだ婆さんにも自慢できるし良いことだ。先に逝ってしまった雄介と和美や恵子にもちゃんと報告できるしな」
そろそろ顔を思い出せなくなりそうな祖母と、日々思い出す回数が少なくなっていく両親のことを考え少ししんみりするが、なくなってしまったものを思い返しても仕方がない。贅沢なことは考えずに、今できること、今いる人たち、これからできることを考えていくことにしよう。
爺ちゃんの番が終わり次は俺の番だ。吹き飛ばしたい煩悩は……ここは一つ、これからの自分に対しての煩悩を払う、ということで疑蓋に対して一つ吹き飛ばす、ということで、思い切り鐘を突いた。ゴーン、とかなり大きめの音が鳴り響き、次の順番の人がびっくりしていた。
そうだ、俺かなり力強くなってたんだった。衝撃で鐘が壊れたりしないよね? 大丈夫だよね?
◇◆◇◆◇◆◇
寺から神社へ移動し、神社で手を清め口を清め、そして心を清めんとして賽銭とお参りの列に並ぶ。今年は受験だし、学業成就のお守りも買っていこう。お守りのバリアは枚数制というわけではないらしいが、ある程度は枚数を張ってるほうが効果があるらしい。
お参りを済ませた後でお守りの列に並び、自分の分の学業成就と爺ちゃんの分の健康祈願、そして財布の小銭入れに入れておく小さなお守りを買い求めると、買った健康祈願のお守りを爺ちゃんに渡そうとすると、逆に押し付けられる。
「試験まで日がないとはいえ、その間に何かがあっても困るからな。それは自分用に持っとけ。わしは自分の分を別で買うことにするからな」
そういうと自分の分をさっさと買いに行ったため、自分のためにお守りバリアを二枚装着することになった。まあ、健康は大事だしな。試験当日に腹壊したり、途中で列車が止まったり、交通機関がマヒしたり……あれ、そうなると交通安全祈願ももう一枚バリアを張っておくほうがいいのか? 俺は訝しんだ。
まあ、考え始めるとキリがないし、それこそ大きな神社へ行ってそこで買い求めないと本格的なご利益を得られないかもしれないなんて言う話にもなりかねないからな。大宰府まで行って学業成就旅行をする、なんてことにくらべたら、そこまでする元気があるならきっと学業も成就するだろうし健康でもあろうし、道中何事もなければ交通安全もかなっているだろう。だから俺のお守り探しはここまででケリをつけておくことにする。
家に帰って年越しのお笑い番組を見ることなく、そのまま眠る。休みだからって生活リズムを崩すのは一番良くないからな。今日はちょっと夜更かしをしたが、いつも通りに起きてご飯を食べて、そして実家暮らしを満喫しよう。
◇◆◇◆◇◆◇
正月休みも二日目に入り、暇。暇である。参考書も二冊ほど持ってきてはいるものの、早々と解いてしまったためスマホ片手に共通テストの過去問を解きはじめた。流石にスマホでは画面が小さくてスライドを駆使しながら画面を見続けているが、やはり勉強道具としては小さなスマホでは少し不便である。
かといって、タッチパッド式のパソコンやタブレットを買うのも去年の資金状態では厳しいものがあった。今年は何かしら金を稼いでそういう便利な道具も入手できるようにするべきだろうな。
爺ちゃんはそれほどパソコン関係に詳しいわけではないが、一般的なスマホ周りの問題で扱えないとか不便だとか、何をすればいいのかわからない、というほど機械音痴ではないので、俺のほうが逆に教わることもある程度には精通している。その点、下手な親や祖父祖母より苦労がかからなくていいな、と思うところでもある。
そして、ネットに強いのでその辺の動画サイトに上がっている陰謀論とかスピリチュアルにハマることなく、自分は自分、他人は他人を貫いているので、家族にも迷惑がかからない人物としてまだまだしっかりやってくれていることは確か。この爺さんいくつまで生きる気なんだろうと時々思うこともあるが、まあ元気なのはいいことだ。それより俺の暇つぶしのほうが限界に近い。
さすがにスマホの画面で過去問を見ながら解くのは時間がかかりすぎる。何かいい方法はないものか。【精力絶倫】を一枚売り払って現金にして、それでパソコンの安いのを買う、というのも方法の一つだが、ネット回線をどうするかだな。今更契約しても四月には立ち去るかもしれないので、テザリングでなんとか誤魔化せるようにしたいところだが……とりあえず、不便ではあるがスマホで我慢するか。
多少見づらさや使いづらさがあるとはいえ、使えないわけではないんだ。ただ少々面倒くさい手順を踏んだり広告を見ないと扱えないだけで……うん、時間を計りながらの模擬テストなんかには向かないが、それ以外については何とかなる所だな。さて、今一番力を入れておくべきはやはり現国。作者の気持ちを答えよ系の問題が相変わらず苦手である。そこをうまく攻略していくのが問題だ。
実際のところはそういう意味ではないんだろうが、多分締め切りが近すぎるとか、これさえ書き終われば原稿料が出るからそれでうまいもん食って綺麗な姉ちゃん抱いて派手に遊びまわってやるぜとか、そんなことを考えてたかもしれない。
そういう意味ではないとわかっていても、そこは周りの夢を背負って何かしら語る部分がある、と見せかけられる文章だからこそ例題に選ばれ、そしてこうして問題の例文として扱われるんだろう。そういう問題になりたくて文章を書くなら、もっと上達して滑らかな、そして例題にしたいような文章を書け、ということなんだろう。その為には文筆力や想像力、表現力を鍛えなければいけないな。
おっと、俺は別に文筆家になるつもりはないのだった。さあ、続き続き。何日まで実家にいるかも考えないとな。
「幹也、爺ちゃん釣りに誘われたから明日の朝から早速行ってくるわ」
「んー……なら、俺も今日中に帰ったほうがいいかな? そろそろ勉強する課題が無くなってきたのもあるし、勉強するだけで家にいるなら自宅のほうが設備も問題も揃ってるし、その方がいい気がする」
「追い出すような格好になるからワシとしてはあんまり好きに言える立場じゃないんだが……確かに、明日早朝から半日戻ってこないのを考えると、完全に空っぽにしてるほうがまだ安全かもしれんし、食事の問題もあるしな。そうしてくれるか? 」
申し訳なさそうに頼み込んでくる爺ちゃんの言葉に反論するわけもなく。爺ちゃんには悪いが、丁度早めに帰っていく理由探しに戸惑っていたところ。それを向こうから用意してくれるなんて気前のいいことだ。実に都合がいい。
着替えやら荷物を一通り集めると、じゃあ帰るから、と退散することにした。ちゃんとアカネも拾って帰らないとな。おはぎはさすがに持ち合わせていないが、それっぽいお菓子はあるので供えていくことにしよう。
新しいお菓子を供えて両手でパンパンと音をたててお祈りすると、なにもないところからアカネが出てきた。祠の中にいた、と表現するのが丁度いいんだろうな。
「あれ、もう帰るの? 実家でのんびりするんじゃなかったのかしら」
「ちょっと事情ありでな。予定より早く帰ることになった。ちゃんと連絡しておこうと思ってな」
「ふうん……私はもう一日こっちで仕事をしてから帰るから、明日帰るわ。先に戻っていてちょうだい。わざわざ伝えてくれてありがとう」
「大事な同居人だからな。報連相はしっかりしておかないと」
「じゃあ、また後でね。気を付けて帰るのよ? 田舎のこの時期はペーパーゴールド免許が多いんだから、うっかり轢かれないようにね」
アカネに心配されながらも、帰り道を一人で帰る。そういえば、明確に一人で居るのは久しぶりではないかな。アカネがいない時期というものもあったが、あれ以来ということになるだろう。帰り道の電車内で一人であることが寂しく思っているのか、一瞬背中が寒い気持ちになったが、今晩は爆発させ放題、ということに気づいた俺は、一人静かに闘志をみなぎらせていた。
作者からのお願い
皆さんのご意見、ご感想、いいね、評価、ブックマークなどから燃料があふれ出てきます。
続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。
後毎度の誤字修正、感謝しております。




