第182話:バブルフロッグとトレント
十三層は十二層までと違い、騒音に満ちた階層だった。十二層と十三層の間の空間のつなぎ目を越えた瞬間から耳に入ってくるゲコゲコの大合唱。どうやら階層と階層の間には音を遮断する空間壁のようなものがあるらしい。まあ、サラマンダー生息域の熱も遮断するぐらいなんだから音も遮断されるんだろうな。
「うるさいわね」
「うるさいな……数匹でこのうるささなのか、それだけ数が多いのかは解らないがとにかく早めに突破したいところであるのは確かだな。迂闊に【聞き耳】でも立てたら鼓膜が破壊されかねん」
この階層では【聞き耳】は使えないと思った方がいいだろう。しかし……鳴き声が反響していてどこにモンスターがいるかも判別しづらいな。これは目をしっかり使って確認していかないとな。
「駅前ダンジョンもこんな感じなのかな。それともこっちのほうが狭いからより反響して聞こえているのか……いずれにせよ、まずは数を減らしながらいかないとな。どこに……あ、いた」
前方を見ると、早速目の前でゲコゲコと大声で鳴き散らすバブルフロッグの姿。どの辺がバブルなのかは解らないが、黄色い肉体にしっかりと膨らませた顎の下を動かし、更に鳴き続ける。うるさいな……と思いながらエネルギーボルトを発射してバブルフロッグに当てると、それに反応して舌を伸ばしてきた。バブルフロッグ自体の体が相当大きいため、舌も長くのびるようだ。
舌をかろうじて避けて、舌の戻り際にエネルギーボルトを再度発射。少しでも体力を削ってから少しふらついたバブルフロッグに斬りこみをかける。バブルフロッグはさっきのエネルギーボルトで舌をやられたからか、口を開いて舌を出さずに、噛みつきだけで応戦してきた。口を開いてる間に口の中に魔法を撃ちこむのは良い手なのかもしれないな。
そのまま山賊刀で斬り伏せると、意外とするっと刃が入った。見た目どおり、柔らかい肉体で構成されているようだ。
倒して黒い霧に変えてやると、耳に入っていたゲコゲコの音の元が一つ減ったのが感じ取れる。バブルフロッグがもしも貴重なドロップ品や使い出のあるドロップ品があるならば喜んで音源を探しに行くところだが、バブルフロッグにはそういったものもないので、このダンジョンでは魔石を確実にくれることだけが取り柄となっている。
他のダンジョンでも魔石は落ちやすい部類に入っているらしいので、そう収入には困らない相手ではあるのだろうが、こちらとしてはそれほど嬉しい収入とは言えない様子だ。
「早く次へ行きたいな、耳がどうにかなりそうだ」
「【聞き耳】にも弱点はあるのねえ。できるだけ使わないようにするしかなさそう」
彩花の心配も尤もだが、十四層への道がどっちにあるかもわからない現状、うろついて音源を探して減らしながら進むしかない。何より、音で圧迫されると人間屈んで行動をしてしまうというケースがある。フラッシュバンほどの威力はないにせよ、ちょっと眩暈を起こしたり方向感覚を失ったりするのがこのマップの特徴なのかもしれない。そういう意味では環境で攻めてきている階層なのだろう。
「とりあえず数を減らして、多少耳がまともになったところで探索を始めよう。うるさすぎてなんか目もチカチカしてきた」
「それについては同感ね。落ち着いて探索出来ないと面倒くさいったらありゃしないわ」
彩花がファイヤボール! と叫びながらバブルフロッグに向かって火魔法を撃ち始めたのでもうファイヤボールで良いんだろうな。それをバブルフロッグにうまく当てると、そのまま斬りこんでバブルフロッグを倒す。
舌を伸ばしてきたバブルフロッグには、舌を縮める前にファイヤボールを打ちこみ、口の中に直接仕込むことでバブルフロッグの口内で暴発させた。その後バブルフロッグは口を開けられなくなったので、多分弱点は口の中なのだろう。もしくは属性の相性がいいのかもしれないな。
とにかくうるさい音源の数を減らして、一匹二匹ぐらいが鳴いているかな? ぐらいまで数を減らすと、ようやく地図作りに入る。静かな所を歩いている間はモンスターは出ないと断定できるので、マップ作りはシンプルに進み、予想より早めに十四層への道へたどり着くことが出来た。うるさい分だけマップが狭いのかもしれないな。
バブルフロッグの合唱が再開し始める辺りで十四層に突入し、途端に静かになったマップと、ほのかに聞こえるカサカサ……という音だけが響く。十四層はトレントエリアのようだ。二メートルを軽く超えた背丈のある、そして幹の太さも充分にあるトレントが道を塞ぐように目の前に湧き出している。
早速目の前に現れたトレント相手に二人でそれぞれ戦いの準備を始める。彩花はファイヤボールを打ちこむが、トレントにそれほど効果はないらしい。多分、水分をしっかり含んでいるからトレントイコール燃えやすい、という方程式には当てはまらないんだろう。もしかしたら【雷魔法】のほうがよく効くかもしれないな。
ファイヤボールが効かないとすぐに判断した彩花と俺が斬りこみに入るが、レッサートレントよりも蔓の数が多く、太く立派な蔓が邪魔をしてなかなか近づけさせてくれない。蔓を切り落としながら近づこうとするものの、しばらくすると蔓はまた伸び始めるため、短期決戦を要求されることまではわかっている。
エネルギーボルトと山賊刀で弾いて切って、とトレントの攻め手を削りながら攻撃に入る。一匹当たりの戦闘時間は過去最高のものになりそうだな、と長期戦を覚悟で戦い始める。こんなことなら【雷魔法】を覚えてから来るか、それとももっとスキルスクロールの枚数を重ねてから挑戦するべきだったな、と今更ながら反省をするが、ここまで来て引き下がれるわけではないので、全力を出してトレントと向き合うことにする。
最高速度で最高の切れ味と体重を乗せて、トレントの蔓を一気に二本斬り飛ばすと、そのまま顔部分まで深く差し込んでトレントに悲鳴を上げさせる。相変わらず弱点は顔、ということでいいんだろう。山賊刀を抜いて刺し直し、蔓が再生するまでにできるだけズタズタにしてトレントの体力を削っていく。
トレントが蔓を再生し始めたが、どうやらダメージを受けていると蔓の再生にも時間がかかるようになるらしい。これは一つ、便利なネタを掴めたようだ。エネルギーボルトは胴体に向けて撃って、スタミナを削りつつ蔓に対応、今はこのやり方がまだまともに戦える方法らしい。
同じステップを三度ほど踏んで、ようやくトレントは倒れた。かなりしぶとかったが、初戦でノーダメージでキッチリ戦えたのはかなりの経験になったらしく、俺もレベルアップをして、彩花もレベルアップをしたらしい。
「しんどいわね」
「でも、その分経験値は多めらしい。あと、数は少ないかな。それに……ドロップ品もしっかりくれた。これがトレントの樹液らしい。ゼロカロリーでも甘いと噂らしいから、今度パンケーキでも焼いて味見してみるか」
「それは楽しみね。もう一本ぐらい落としてくれると私も家で味見が出来て好都合なんだけど」
「行き帰りがあるからな。それぞれで一本ずつぐらい出してくれればいいな、ぐらいに思っておこう。さあ、次に絡まれないうちに道を探していこうか」
その後もトレントと時々戦いながら十四層を回る。やはり、トレントは大きい分だけ細い道や行き止まりなんかには配置されておらず、幅広の道をメインとして湧き出てきているらしい。毎回それなりの時間をかけて戦うことにはなっているが、魔石を必ずくれるのと、その魔石が結構な大きさをしているのを含めて、時間がかかる割に充分美味しさのあるモンスターではあるようだ。
「流石に階層がまだ浅いとはいえ、魔石が多くなってきたわね」
「真っ直ぐ下りてきてこれだからな。二十層まで行くときのことを考えると、本当に最短距離で行くか、大き目のバッグを背負って持てるだけ持ち歩くしかなさそうだ。直接収入に響く分悩みどころだな」
魔石も持ち歩く量には限界がある。魔石集め用の登山用の大きいバッグを仕入れておくのもいいかもしれないな。
次のトレントも、魔法で顔に向けてファイヤボールとエネルギーボルトをぶつけている間に近づいて、蔓を切って攻撃手段をなくしている間に顔に向かって攻撃……と多少の短縮が出来た。もう少しスキルなりレベルなりが追いついてきたら楽に戦う方法は増えてくるだろう。
「経験値が美味しい分なのかどうかはわからないが、一匹ずつしか出てこないのはありがたいな。これで二匹同時に出てきたならさすがに撤退するしかなかっただろう」
数匹目のトレントを倒しながらぼやく。どうせならもう1レベルぐらい上がってくれないかな。ケットシーならそれは叶えてくれるんだろうか。
「そうね。どちらにせよ一匹に集中できる分にはありがたいのはたしかね。後はドロップだけが気がかり…と、出たわよ二本目の樹液。これで帰りは急ぎ足でいけるわね」
樹液を拾って嬉しそうにバッグにいれていく彩花。まだおたがいにバッグの中身に余裕はある。トレントの数がもっと多ければ問題だったがバブルフロッグも含めてそれなりに数が少ないのが功を奏した形になる。
そしてトレントを十四層に入ってから合計で十体ほど倒したところで、十五層への道っぽいものが現れた。十五層から先は足元が草地になり、どうやら洞窟っぽいものから少し離れた、空のある草原、という形に変わるらしい。事前情報で知ってはいたものの、不思議な光景が広がっていた。
太陽がないのに天井が明るい。そして、眼前にそれなりの広さで広がる草原と、そして草原の中にある謎の岩に囲われた空間。どうやら、あの中が中ボスの居場所、ということらしい。アカネなりに頭をひねって作ったのだろうが、違和感がバリバリにある。
あの中央に十五層の中ボスであるケンタウロスが存在するんだろうな、という予測は付く。あの円形巨石群の真ん中に鎮座しているのか、それとも巨石群の中を適当に動き回っては近づく探索者相手に勝負を挑みに来るのかもしれないが、出来るだけ近寄らないようにしておいたほうがいいのは間違いないらしい。道中のトレントやバブルフロッグに苦戦するような、現段階では中ボスに挑むのは時期尚早だと言えよう。
もしかしたらアカネの心配事ってのは無理に中ボスに挑まないように、という部分も込みだったのかもしれないな。そういう意味ならアカネの心配はちゃんと受け取ったことになる。
まあ、実際に戦ってその中ボスの強さを確かめる前に目の前のモンスターに尽力しなくてはならないだろう。尻尾を垂らし、空中に浮遊している猫型のモンスター、ケットシーがそこかしこに存在している。さあ、ここが今日のメインディッシュだ。
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