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かりそめ家族、妖精の国へ ~寂しがり姫を偽母として甘やかしていたらカタブツ学者さまに愛されました~  作者: 山田あとり
あなたのためのおまじない

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第48話(終) そして春を告げる

 ファロン侯爵邸の庭園に、あまり使われない一角がある。

 (つた)のからまる四阿(あずまや)と、それを囲む花壇や生け垣。今は紅葉が美しい。

 ここは四季の庭。季節に呼びかける時、姫たちはここで歌うのだった。


 今日はマルーシャがその中心に立っていた。

 ここで愛し子として春の力を借りることができるか試す。春告げの姫にふさわしければ、深まる秋の中でもこの庭に春を呼べるはず。

 見守るのはダニール、そして侯爵。ザラエから戻った実務家バーベリや、ミュシカとルスラン夫婦もいた。


「おまじないは覚えてるね、マルーシャ」


 確認するダニールを振り向き、マルーシャは小さく笑う。

 そのおまじないは、ザラエの街でさんざんミュシカが練習していたものだ。それを〈冬〉ではなく〈春〉にして語りかける。


「それでは、やってみなさい」


 侯爵が力強く孫娘をうながした。マルーシャはうなずく。


 大地に根をおろす草花。

 降りそそぐ光。

 ファロニアの空をゆく風。

 マルーシャの体に、土も水も光も風も、何もかもがあふれるような気がした。


ヴェーナ(春よ)クムディ(力を) メ サイルース(貸せ)


 マルーシャは春に告げた。すぐそこに話しかけるように――だって春はもう、マルーシャを囲んでうずうずしている。

 すぐにミュシカが楽しげな声をあげた。


「うわあ!」


 四季の庭にやわらかい春が満ちた。

 うずまく風とともに木々が黄緑に萌える。

 どこからか花びらが舞い降り、蜜が香る。

 それは春の、祝福――。


 空に手を伸べたマルーシャは、春が嬉しそうに自分を迎えてくれたのを感じた。そして春に応えるようにマルーシャの内側で何かがトクンと息づく。

 それ(・・)は懐かしげにささやいて――。


 ――ただいま、春。


 マルーシャの目に涙があふれた。

 お母さん。


 やはりそうか。母アレーシャの想いはマルーシャの中に伝えられている。だからマルーシャも春に愛されるのだ。


 アレーシャはずっと願っていた。

 娘がファロニアにつながり、妖精の故郷を知り、アレーシャの手からこぼれてしまった幸せを受け継いでくれるようにと。

 今、それが叶えられる。アレーシャの心は春の風に乗って舞い、ファロニアへ、父のもとへ帰ってきた。


「――アレーシャ。すまなんだな」


 侯爵がつぶやくと、春風は笑った。お互いさまね、と。


 そして春はマルーシャを包む。この春にこめられた願いは消えはしない。ずっとマルーシャのもの。

 それがわかって、マルーシャは春とうなずき合った。


ヴェーナ(春よ)プラツミルテ(力を) サイルース(抑えよ)


 告げられた春は、微笑みを残すようにして去った。


 たちまち庭に秋が戻る。緑の蔦が再び赤く染まり、空気は乾いて香ばしく澄む。


「マルーシャ」


 歩みよったダニールがハンカチを差し出した。マルーシャは泣いていた。


「――アレーシャさんなのか」

「そう。お母さん」


 ハンカチで目を押さえ、マルーシャは笑う。


「だいじょうぶ、お母さんの力も心も私がもらったの。一緒にいられるから寂しくない」

「うむ――素晴らしい春だった」


 声を掛けた侯爵の目も、わずかに濡れていた。でもマルーシャを見る顔は誇らしく輝いている。


「マルーシャ・アヴェリンを春告げの姫として認めよう。異論はないか」


 ダニールもバーベリも、黙って頭を下げた。ミュシカが踊るように駆けてくる。


「マルーシャお母さま! これでわたしといっしょね!」


 マルーシャは抱きついてきた少女を受けとめた。これから二人は正式に〈春〉と〈冬〉として並ぶのだ。


「うん。ミュシカの方が先輩よ? よろしくお願いします」

「せんぱい?」


 首をかしげるミュシカとともに辺りを見回した。

 よろしく、春。

 よろしく、ファロニア。


「――本当に、すごい〈春〉だった。記録を調べた限りでは一番濃厚に手応えのある儀式だったな。でも書き記すなら冷静にと考えると同等なことが過去にあった可能性もあるし確かに僕が今日の儀式を記述するとしていかに客観的に書けるかというと微妙に自信がなくなるんだが」


 しゃべり始めはマルーシャのことを愛おしげに見つめていたのに、考えながらダニールはどんどん学者の顔の早口になっていく。マルーシャはがっくりした。


「また私のこと研究対象にしてる」

「え、ああ。そうだね」


 素でそれを肯定する。侯爵はわざと難しい顔をしてつぶやいた。


「……その前に妻とするべきなのだが。こんな男に嫁にやってよいものか……」

「あ、その」


 やっと理解して慌てるダニールを、皆で笑う。

 いつか落ち着いたら結婚をとダニールがたどたどしく申し込み、マルーシャがうなずいたのは昨日のこと。でもそれはまだ誰にも言っていない。なのに皆はとっくに二人を婚約者のように扱うのが不思議だ。


 来たばかりのファロニアだが、不思議とマルーシャはしっくりとなじんでいた。

 妖精の血を濃く継いでいるからか。アレーシャの想いのおかげか――それとも、マルーシャがファロニアを愛そうと決めたからかもしれない。

 ここでマルーシャは生きていく。ダニールと並んで。

 マルーシャは愛おしい世界を見遥かし、大きく息を吸った。なんて幸せなんだろう。

 この日マルーシャは春と重なった。そしてこれからは毎年、春を招く。

 愛すべきファロニアのために。

 愛した人のために。




   了

最後までお読みいただきありがとうございます!

面白かったと思っていただけたなら、★★★★★でお伝え下さると嬉しいです。

よろしくお願いいたしますー!

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