表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
かりそめ家族、妖精の国へ ~寂しがり姫を偽母として甘やかしていたらカタブツ学者さまに愛されました~  作者: 山田あとり
外堀だけが埋められる

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/48

第2話 春を告げる妖精って、私が?

 この家に応接間なんてものはない。なので仕方なく、台所に招いてお茶を出すことにした。クリフトが食事していた器をマルーシャはあわてて片づける。

 椅子を勧められたダニールはミュシカをぎこちなく膝に座らせた。その謹厳実直な雰囲気と、にこにこ愛らしい幼女が絶妙に似合わなかった。


 あらためて自己紹介される。

 ダニール・ジートキフ、三十歳。妖精族の歴史や習俗、能力について研究する、ファロン侯爵のお抱え学者だそうだ。

 まずその「妖精族」という存在そのものにマルーシャは頭を抱えているのだが、クリフトは五歳のミュシカとダニールの関係に声をあげた。


「え、伯父さんなのかい?」

「僕は独り身でして……ミュシカは弟の娘なんですが、一時的に預かっています」

「いや、いやなの! お父さまでいてよう」

「ああ大丈夫、わかってるよミュシカ」


 ダニールは膝に抱いたミュシカを不器用な手つきでなだめる。


「弟夫婦は今、行方不明なんです。それでこの子は少し不安定で……僕が父親がわりというか」

「おや。穏やかじゃないねえ」

「そうですね、手は尽くしていますが。その弟の妻というのがリージヤ……アレーシャさんとはやや年が離れた妹です」


 アレーシャ。それはクリフトの死んだ妻の名。マルーシャが九歳の頃に亡くなった母のことだ。ということは。


「リージヤ叔母さんの娘が、ミュシカ……なら私たち、いとこなの?」

「お母さま、いとこ?」


 ミュシカはがんとしてマルーシャを「お母さま」呼びする。ダニールの膝から飛び降りると、今度はマルーシャによじ登ろうとした。


「ミュシカやめなさい」

「あら、いいんです。おいでミュシカ」


 マルーシャは子どもが好きだ。町のちびっこたちともいつも仲良し。

 ミュシカをひょいと膝に座らせてやると、甘えて見上げるミュシカと笑い合う。それをクリフトとダニールはしみじみ見つめた。


「……やはり似ています」

「従姉妹同士だしな……あのお姉さんっ子のリージヤが、結婚して母親になったのかぁ」


 クリフトはバツが悪そうにつぶやいた。

 ファロニア侯国を訪れアレーシャと恋をした頃を思い出すと懐かしい。だがその末に、アレーシャは故郷との縁を断つはめになってしまったのだ。


 ダニールとミュシカが暮らす妖精族の秘密の国、ファロニア侯国。

 人族と変わらぬふりでその地を治めるのはファロン侯爵、つまりマルーシャの祖父だそう。


「お母さん、領主さまの娘だったのね……なのに親と縁を切ってここで暮らしてたの? 信じられない、お父さん何しでかしたのよ!」

「ちゃんと結婚の申し込みはしたよ! そしたら侯爵閣下とアレーシャが喧嘩しちゃったんだ。それきり物別れでさ……」

「侯爵閣下は今、自分も意固地になっていたと後悔していらっしゃいます。アレーシャさんとの再会はならずとも、忘れ形見に気持ちを伝えたいと。それでお迎えに来ました」


 ダニールは淡々と用件を伝える。それをフーンとながめながら、クリフトはブツブツ言った。


「だけどどうしてミュシカときみが使者なんだい? 子連れでそんなの変だと思うんだが」

「……実は、弟夫婦の失踪事件の調査も兼ねた旅なので」

「ミュシカのご両親か」

「弟は実家の古物商を継いでくれていました。商談のためにバルテリス王国へ旅行に出た時の事件だったんです。僕らも同行していたのですが、街で別行動の間に……こちらに来るにもバルテリスは道すじにあたりますので、聞き込みをしながら」


 そこでミュシカがイヤイヤしながらマルーシャの胸に顔をうずめる。五歳の子にはつらい話だろう。マルーシャはきゅ、と幼女を抱きしめた。


「悲しいのねミュシカ……それ、いつのことですか?」

「二十日ほど経ちます。この子も家にいるより気がまぎれますし」


 孫娘を気づかった侯爵から、連れて行くよう指示されたのだそう。

 だがダニールが指名されたのには他にも理由があった。妖精学者としての用件なのだという。


「ファロニアで新しい〈春告(はるつ)げの姫〉が生まれていないのです」

「え、アレーシャが亡くなってもかい?」

「はい。なのでもしや、アレーシャさんの娘が祝福を継いでいるのではと」

「マルーシャの半分は人なんだが」


 またわからないことを言われてマルーシャは眉間を押さえた。


「春告げ……?」

「ファロニアには〈四季を告げる姫〉というのがいて。アレーシャさんは、その〈春〉の後継者でした」


 ダニールはかみ砕くように話してくれた。


「妖精は自然の力とつながる存在なんです。僕らは季節とも絆を結ぶ。四季の姫たちは季節の始まりを告げ、それにより季節はそのあるべき姿でやってきます」


 春告げの姫が呼ぶことで春は、なお春らしくなる。

 薫る風と光に満ち、やわらかな雨をもたらし、新しい命の誕生をことほぎ。

 そうあれかし、と春の力を引き出すのが春告げの姫なのだ。


「――すてき」


 マルーシャはつぶやいた。

 そう聞いただけで春の喜びが体によみがえる気がした。これから秋という今なのに。


「今の春告げ姫はもうお歳で引退を考えています。でも跡を継ぐべき者が見つからなくて」


 妖精族の伝統を守るべく、ダニールは力を尽くしているらしい。


「本来これは血筋に左右されるものではないはずですが、ファロニアに後継者たる春の(いと)し子が現れない。なのでもしかしたらアレーシャさんの娘がそうなんじゃないかと」

「愛し子――」


 自分がそんなものだとは思えなくて、マルーシャは目を伏せた。その様子を観察しながらダニールは訴えた。


「あなたが春の姫なのかどうか。その力を見きわめるためにも、ファロニアへ招きたいのです」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ