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かりそめ家族、妖精の国へ ~寂しがり姫を偽母として甘やかしていたらカタブツ学者さまに愛されました~  作者: 山田あとり
内堀までも埋まってく

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第16話 行方不明の理由

 休憩を終え、馬車を走らせているのはダニールだった。隣にはマルーシャ。外の景色を見ていたいとお願いして馭者台に席を手に入れた。ここは狭いのでミュシカは車内に残っている。これで話ができる。


「ミュシカは、冬告げの姫なんです」


 ダニールは小声で告白した。あまりにあっさり言われてきょとんとするが、その意味を理解してマルーシャは思わずダニールの顔をのぞきこんだ。


「だってまだ、五歳でしょう?」

「半年前、継いだ時には四歳でした」


 ダニールは苦笑いする。まあ異例のことではあったのだ。


「春の姫と似たような事情です。継ぐはずだった人が亡くなってしまって。元の冬告げの姫は高齢。それで早いけど、仕方なく」

「……そうですか」

「ミュシカは強い力を持っているし、きちんと導くためには早くから教育した方がいいという思惑もありました。さっきみたいに暴発すると困る」

「あれは、ミュシカの力?」


 自分は何をやらかしたのかと恐れたのだが、原因はミュシカの方だったのか。


「いえ。ミュシカとは相性の悪い術ですが、あんなことにはならないはずです。マルーシャさんの力とぶつかったからかと」

「う……」


 あっさり否定されてへこんだマルーシャだが、ダニールがとりなしてくれる。


「マルーシャさんからも力がほとばしるのを感じました。初めてにしては上出来だと思います」

「はあ……」

「制御できるようになればいいだけですよ」

「簡単に言わないで下さい」


 むくれてしまったマルーシャを、ダニールは不思議そうに見た。本当に他人の気持ちがわからない人だなと少し苛立つ。

 野原はまだ続いていた。森が少し近い。その木々を回り込んでいった先に次の町があるのだそうだ。

 木や草や、風の息吹。そんなものに包まれてマルーシャは、ふう、と息を吸った。落ち着く。


「――僕の弟、ルスランたちの失踪事件なんですが」


 ダニールは淡々と続けた。実はここからが本題だった。


「新しい冬告げの姫はルスランの家族で、とても力が強い。そうどこからか漏れたんだと思います」

「え? 誰が四季の姫なのかは内緒なんですか?」

「はい」

「そうなんだ……」

「すみません。ファロニアでは当たり前なので言い忘れてました」


 そうなのか。

 この人に普通の会話力を求めてはいけないということをマルーシャは思い出した。妖精についての知識を得るのはなかなか難しいかもしれない。


「四季を告げる姫というのは影響力が大きいですから。季節をあるべき姿で招く、ということは、あるべからざる季節をもたらすこともできますね? 冬ではない時に冬を呼べば農業に打撃を与えてしまう。あるいは冬を強めても、いっそ呼ばなくても」

「……なんてこと」

「それでルスランとリージヤは連れ去られたんだと思います」


 ミュシカの母リージヤは、勘違いされたのだろう。本当の標的は、冬告げの姫ミュシカ。

 まさかそれが幼すぎる娘の方だとは思わずにリージヤが狙われた。妻を守ろうとしてルスランも巻き込まれたのだとダニールは考えている。ルスラン自身の仕事では目立った問題は起きていなかったのだ。


「冬告げ姫だと思われているのだからリージヤは絶対に無事です。でもルスランは……わからない」

「だいじょうぶよ」


 弟の安否を思って言葉を詰まらせるダニールを、マルーシャは励ました。根拠はないけれど、言わないわけにはいかない。


「夫に何かあったら言うことをきかせられないもの。丁重にもてなされてますって」

「……だといいのですが」


 なるべくのんきにマルーシャが言ってみせたのがわかってダニールは小さく笑い返した。


「こんなことミュシカは知らなくていい。内緒にしていて下さい」

「自分のせいだって思わせたくないんですね」


 幼い子にその罪の意識は酷だろう。絶対に秘密にするとマルーシャは約束した。


「ファロニアでミュシカを保護しておく手もありますが、どこから情報が漏れたのかわからないんです――弟たちには追跡のおまじないが効かなかったんですよ」


 迷子のユーリィを連れ戻した、あれだ。それが阻害されたらしい。ということは。


「妖精族の誰かがかんでいます。それが国内の者か、国外在住の者かもわからなくて。どこも安全じゃないなら、いっそ旅にと」

「大胆なことを……」

「僕はそこそこおまじないが使えますし、イグナートもわりと強いんですよ。万一の事があってもミュシカには特別なお守り(・・・)を持たせているので今度は追ってみせます」


 淡々と言う裏に決意が感じられた。弟夫婦の時にしてやられたことで、専門家としての誇りが傷ついたのだろう。


「はああ……」

「マルーシャさん?」


 大きなため息をついたマルーシャを、ダニールは心配そうに見た。


「あの……いろいろ事情を話さないままお連れしたのは申し訳なく」

「ほんとですよ」


 むー、としてダニールをにらむ。


「ますますミュシカを甘やかしたくなっちゃったじゃないですか! 私も事件の解決に協力します」

「マルーシャさん……いや、あなたには無事にファロニアへ到着してもらわないと」

「あ、まあそうですけど。途中で手がかりがあったら、てことです。だって私、ミュシカのこと大好きですもん」


 ふふ、と笑い、マルーシャは空を見上げた。

 これまでの町での暮らしが嘘のよう。世界は広くて、いろいろなことが起こっているのだ!


「ありがとうございます」


 やや困惑気味にダニールが礼を言う。この人とも、もう少しわかり合えたらいいんだけど。マルーシャは不器用な学者さまを横目でながめた。

 もうすぐそこに次の町、ラーツが見えてきていた。



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