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ランクアップについて…

 「で、ランクアップの話ですね?」


 そう口にしたリリスさんは、平然としていた。


 ギルド入会の時に、ちゃんと説明してなかったくせに…

 なのに…


 でもこれ以上はツッコまない。

 絶対に…

 だって、話が進まないから…


 「はい…」

 

 「ランクアップ…。どの階級でも、多少違えど2つのノルマが必要になります。」

 「ノルマ、ですか…?」

 「そうです。1つは、クエストの達成回数。もしくは日数ですね。」

 「回数と日数…、どう違うんですか…?」

 「それはですね、ランクでの差ですね。」

 「差ですか…」

 「はい、低ランク…。特にEランクだと、受けれるクエストが基本常時クエストだけになります。」

 「そうですね。でもそれも、回数じゃダメなんですか?」

 「 そうですね…、例えば、制限を回数のみにしてしまった場合、ゴブリン1体を狩ってギルドにという方が現れます。というか、いました。」


 いたのか…


 「ですので、こちら側で一々細かく管理するのも面倒なので、常時クエストの達成度は日数換算になります。

 いえ、なりました。」

 「な、なるほど…」


 そのとき…

 きっと、大変だったんだな。


 「もちろん、ランクが上がって討伐クエストを受けてもらえるようになったら、それは回数でのカウントになります。

 少し遠回りになったかもしれませんね。

 Eランクの方々の1つ目のノルマは、とりあえずは1月分の常時クエストです。」

 「1月分ですか…」

 「そうです。簡単に言うと、常時クエストを30日ですね。」

 「なるほど…。でもとりあえず…?」

 「そうですねー…、それはまた後でお話しましょう。」

 「あっ、はい…」

 

 「それで1つ目のノルマをこなしてもらった後は、もう一つのノルマをこなしてもらいます。」

 「はい…」

 「もう一つというのが、一つ上のランク…

 お二人でしたら、Dランクの魔物の討伐ですね。」


 なるほど…

 でも…


 「俺とクーロは、もうDランクのホブゴブリンを討伐してますけど…」

 「そうですね。でも、関係ないです。」

 「関係ないんですか…」

 「ないですね。」

 

 それはまた、お厳しい…


 「運が良い日だってあります。魔物同士が争った後、他の冒険者の収集忘れなど…

 実際に狩ったというお話も当然あるのでしょうが、そういうのを拾って自分がヤッタと嘘をつく人もいます。

 まぁ、そんな人は勝手に死ねばいいとも思いますが…」


 口悪いな…

 

 「なので1つ目を達成した後に、ギルドの方から証人をつけた上で討伐を行ってもらいます。」

 「なるほどです…」

 「そしてそこで力不足だとギルド側が判断した場合は、また一つ目のノルマをこなしてもらいます。」

 「えっ!?」


 それ…

 少しえぐくないか…

 いや…


 「力不足の基準は…?」

 「Dランクを狩れるかは当然で…

 1対相手に多少の余裕をもって倒すことですね。

 一々、1体に満身創痍だと、すぐに死んじゃいますからね。」

 「はは…」


 リリスさんは、ニコッと笑顔を向けてきた。

 でもちょっとそれ、しゃれになってないような…


 「まぁそうな感じですね。」

 「なるほど、です…」


 簡単に言うと…

 30日、常時クエストをやってから、Dランクを狩れよという話か…

 そして力不足なら、また30日頑張れ、か…

 

 なるほど…


 「ちなみに、俺たちはあとどれくらい常時クエストをこなしたらいいんですか?」

 「そうですね…」

 リリスさんは、手元の書類を少しめくってから…

 「たけしさんは、あと20日…

 クーロさんは1つ目に関しては問題ないです、けど…」

 「「けど…?」」


 俺とクーロは、声が重なった。


 「たぶんクーロさんは、このままだと難しいですね…」

 「ど、どうして…?」

 

 リリスさんは、尋ねたクーロの方に顔を向けた。


 「魔法の種類…

 あと何と言っても射程…、ですね…」

 「あっ…」


 クーロの口から、抜けたような声が飛び出た。


 確かに、射程3メートル…

 今はそれが、Eランクだからそこまで問題になってないのかもしれない。

 でも、ここから先はどうなるかは分からない。

 

 ただそれでも…


 「リリ…」

 「リリスさん、”また”講習受けてもいい?」


 俺の言葉と少し重なる形で、クーロがそう宣言した。

 したけど…

 また…?

 いや、講習っていうのも気になるんだけど…


 「そうですねー…」

 

 リリスさんは、少し悩まし気な表情をしている。


 どっちだ…

 どっちから聞けば…

 とりあえずは、講習からか…


 「講習って…?」

 「「へっ…?」」

 

 なんか、二人から驚く声が上がった。


 「えっと、講習って、そんなのあるの…?」


 クーロはグギギという音をさせながらリリスさんの方に顔を向けて…

 そしてそんなリリスさんは、あらぬ方向に視線を向けている。

 

 またか、こいつ…


 俺がじとーっとした目つきで、全く視線の合うことのないリリスさんを見つめていたら、クーロの方からため息が上がった。

 そして…


 「冒険者での基礎を教えてくれるやつだよ。」

 「基礎…?」

 「うん。普通の剣と槍と弓と盾、あとは魔法の使い方を教えてくれるやつ。」

 「なるほど…」


 めっちゃ、大事なやつじゃん。

 でも俺…


 「そんなの知らないんだけど…」


 ビクッ…

 俺とはずっと視線のあってないリリスさんが、分かりやすく跳ねた。


 「えー、おかしいですね。ちゃんと、説明したはずなんですけど…」


 顔だけは、こっちを向けてきた。

 だけど視線は暴れまわっていて、全く合う気配がない。

 だから俺は、そんなリリスさんを責めるように見つめる。

 見つめ続ける。


 肩にかからないくらいの長さの茶色い髪…

 ふんわりとした髪質…

 いわゆる、ゆるふわなボブヘアー…

 そしてパッチリとした大きい目と長いまつげ…

 小顔で猫みたいな顔…


 今は目が乱心状態だけど…

 普通に、顔が良…


 バシーーッン!!!

 クーロにしばかれた…


 「痛ーーーっ!!!」

 「何、見惚れてるんだよー!!!」

 

 あっ、ばれてた…


 「いや、気の…」

 「嘘はいいから…」

 「はい…」


 黙らされた…


 「ほんとこれだから、おと…」

 「リリスさん?」

 「はい…」


 ドスの利いた声で、リリスさんも…

 クーロ、お強い…


 そしてそんなクーロが…


 「で、リリスさん、

  魔法の講習…、また受けたいんだけどいいかな?」

 「いいですけど…、いいんですけど…」

 

 何故か、リリスさんの言葉がぎこちない…

 なんでだ…?

 というか、やっぱり気になるのは…


 「また…?」


 その言葉に…

 クーロは下を向いて、リリスさんは顔をしかめた。


 これは、きっと何かあったんだな…


 そして二人の反応的に、きっと何かやらかしたのはクーロ…

 おそらく、そうに違いない。


 魔法で何か壊した…?

 その可能性は十分にあり得る…

 でも射程3メートルぽっちなんだから、そこまで被害は大きくない…

 なんというか、そんな気がする。


 ならなんだ…?

 いったい何が…


 基本は常識人。

 そんなクーロがやらかしそうなこと…

 それは…

 それは…


 「子供…?」


 ビクッ…

 クーロの身体が分かりやすく大きく跳ね、そしてリリスさんの顔はよりしかめっ面に…


 どうやら、俺の予想は当たってしまったらしい。

 クーロのショタ好きが問題であると…


 「リリスさん…、俺も付いて行った方がいいですか…?」

 

 そんな俺の言葉に、リリスさんは…


 「ぜひ…、

 いえ、どうか…、

 いえ、絶対に必ずお願いします。」

 「は、はい…」


 リリスさんの声色は、すごく真剣…

 いや、深刻だった。


 な、何が…

 いやこれはたぶん、知らぬが仏なやつだな…


 そして当のクーロは、気まずそうにずっと下を向いていた。


 うん。

 絶対、付いて行こ…

 

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