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dear…  作者: 平平方
終章Ⅲ
79/81

079

 白夜をモロに喰らったハデスは、兜を押さえて呻き声を上げる。


「GUAAAA!」


 その声はイタリア全土を揺るがすほどの絶叫。

 大気を割くような轟音のように、この世のものとは思えない叫び声が響く。


 ハデスの後ろに居たユディットは耳を抑え、真正面にいた悠馬は、威圧的なオーラと風圧に襲われ、数メートル転がっていく。


「おいおい…!白夜喰らったくらいでキレんなよ…!所詮異能だろ!?」


 ハデスならば、権能で攻撃されることくらい慣れてるだろう。


 怒っているのか痛みで叫んでいるのかはわからないが、正直今の叫び的に前者だと思う。


 人の身で我が身に傷をつけるのかと言いたげだ。


 完全に身動きが取れていないユディットは置いておいて、もう相手はハデスのみと考えていいだろう。


 脳の処理限界を迎えているユディットは、ろくに異能を使えない状態と見た。


 さっきから目を瞑り、ハデスと悠馬の戦いを見ていないあたり、ハデスのオーラと悠馬のオーラ、つまり気の流れを見て、完全に目がやられているのだろう。


 悠馬がセラフ化を発動させたこと、そして神格を持つハデスの顕現に、彼の身体が耐えられるわけがない。


 複数人の凡人のオーラとは言え、その程度で体調を崩す人間が、数百、数千の凡人を集めたようなオーラを放つ悠馬と、それよりも強いオーラを放つハデスには耐えられない。


「早めに冥界に帰還願おうか…!ニブルヘイム!」


 白夜に続いて、氷系統の最上位異能、ニブルヘイムを放つ。


 悠馬の放ったニブルヘイムは、周囲を一瞬にして氷壁に変え、気温を氷点下にまで下げる。


 激昂するハデスは、回避する間もなく氷漬けにされる。


「こんなんじゃ足りねえだろ?」


 氷漬けになったハデスに問う。


 すると凍りついたハデスの顔の氷にヒビが入り、一瞬にして砕け散る。


「AAAA!」


 この程度の異能は効かないと言いたげだ。


 一瞬ハデスの背後に青色の炎のようなものが現れたが、それはすぐに何処かへと消えていく。


 ハデスは背後から消えていく炎のことなど気にせず、変わらず仁王立ちのまま悠馬を見つめた。


「何回見ても怖い兜だな…」


 これが肝試しだったら失神してるぞ。


 イタリア全土が闇に染まり夜の状態の中、悪魔のような、魔王のような兜を被るハデスと鉢合わせたら、恐怖のあまり失神してしまうこと間違いなし。


 正直言って、冥界の王というより悪魔王と言われた方が納得してしまう禍々しさだ。


 悠馬が怖いと呟くと、ハデスはその言葉が聞こえたのか、ピクッと反応し拳を振るう。


「っ…!」


 耳をつんざくような轟音と共に、倒壊する建物。


 悠馬の挑発めいた発言に反応したハデスは、片手でイタリアの街を半壊させていた。


「オイオイ…!それはマズイだろ…!」


 ここにきて初めて、神格を得たものと戦うとはどういうことなのか理解し始める。


 さっきまでのハデスはただお遊び感覚で立っていただけで、それが攻撃に転じた瞬間、この有様だ。


 〝とか言いながら、貴方もしっかり住民を逃してるじゃない〟


「…逃すのと建物壊されるのとは別の話だろ。建物の修理費、いくらかかると思ってんだ」


 ハデスが攻撃を放った瞬間、悠馬は被害範囲になるであろうハデスの正面から直線2キロメートルの住民を、ゲートで緊急避難させていた。


 半ば強引なゲート展開だったから、転移先で怪我を負っている人もいるかもしれないが、命に比べたら安いものだ。


 被害範囲の命を救ったからこそ、建物の被害を気にしていられる悠馬は、イタリア支部の被害額を想像し、頭が痛くなるような感覚に襲われる。


「イタリアに使う予算捻出しないといけなくなったじゃねえか…!」


 〝そこじゃないでしょ!?早くハデスをなんとかしないと!〟


「どうにかできるなら早くしたいんだけどな…!」


 周りの被害を気にするなら、ハデスを早くなんとかしろ。


 クラミツハの意見はごもっともだ。


 しかしどうにかできるなら、悠馬だってすでにどうにかしている。


 どうにもできないから、ハデスは野放しになっているわけで、悠馬としても早くどうにかしたい気持ちもある。


 しかし白夜で傷が入っている気配がない以上、あとはシャドウ・レイに賭けるしかないだろう。それとも今ここで、使()()()()()()()


 ジェットストリームは片手で弾かれたし、セラフ化状態の白夜とニブルヘイムも通用しないと来た。


「まぁ、有効策を考えるしかないよな…!」


 そう結論漬け、白銀のオーラを纏った悠馬はハデスに斬り込む。


 鳴神と身体強化を使用し、混沌が使用していた闇を纏い、右手に構える神器から炎を、左手から氷の異能を発動させる。


「ソードプロミネンス…とコキュートス!」


「KA KA KA!」


 どうやら炎と氷の攻撃はお気に召したようだ。


 程よい温度感だとでも言いたいのか、高笑いするハデスに対し、悠馬は左手の人差し指を挙げる。


「グランシャリオ」


「FUk…」


 悠馬が放ったグランシャリオが、ハデスに届く。


 彼の赤黒い上半身から、7つの青く煌めく輝きを見た悠馬は、凍っていくハデスの身体を見て、神器に雷を纏わせる。


「雷切白夜っ…!」


 身動きを封じたあとは、グランシャリオごと粉砕するに限る。


 神を氷漬けにして粉砕したことなんてないからどうなるかはわからないが、多分問題ないだろう。


 白夜を喰らっても外傷を負っていないことから、これだけ異能を使っても、殺すことは難しいはず。


 懐に入った悠馬の最大火力が、ハデスに突き刺さる。


 ハデスは悠馬が放った雷切白夜を真正面から受け、兜の内側で初めて紫色の瞳が動く。


「Σύντομα θα πεθάνεις. Περιμένοντας στον κάτω κόσμο」


「あ?」


 なんつった?


 何語だった?ギリシャ語か?


 悠馬が懐に入ってから何かを呟いたハデスの言葉は、残念なことに聞き取れなかった。


 突然言語を話し始めた驚きと、瞬時に何語かを理解できなかった悠馬は、黒い灰になって消えていくハデスを見守る。


「クラミツハ…」


 〝ええ。単純なタイムリミットよ。貴方の異能が届いたわけじゃない〟


「…だろうな」


 これで神が殺せるなら、苦労していないだろう。


 単純にデスカウントのタイムリミット、神が異能の力で顕現できる時間が数分だったというだけだ。


 時間にすれば、5分にも満たない時間。


 その間ハデスは、まともな攻撃を繰り出さなかった。


 明確な敵意や悪意はなく、ただユディットが悪神から授かった力で、召喚に応じただけ。


 そう、召喚に応じただけでこの破壊力なのだ。


 悠馬は振り返り、数キロに渡り倒壊した建物を確認する。


「……」


 ハデスが右拳を放っただけだぞ?


 それだけでこんなに被害が出るなんて、悪神と本気で殺し合った時、この世界はどうなる?


「イカれてるだろ」


 こんな奴と今後戦わなくちゃいけないのか?


 悠馬は自身の胸中に、得体の知れない不安を抱きながら呟く。


 〝今考えても仕方ないでしょ。それよりも悪神の手先をどうにかしないと〟


「…そうだな」


 タイムリミットで消滅したハデスのことは一旦置いておいて、目の前に残っているユディットをどうにかすることに意識を向けよう。


「…クソ…俺は…俺は暁悠馬を…悪羅百鬼の夢を…!」


「なぁ、ユディット・オルランド」


「…なんだ?」


 悠馬が名前を呼ぶと、ビクッと反応を見せたユディット。


 血を流す瞳で、ボヤける視界で悠馬を見る彼からは、強い警戒心と殺意が感じられた。


 ここに来て初めて感じ取れる、ユディットの殺意。


「もう殺意を隠す余裕もないみたいだな」


「だからどうした?何が言いたい!」


「いやさ。なんで俺を恨んでるのか、イマイチ理解できないんだよ。悪羅を殺したからか?」


 悠馬は問う。


 なぜ自分を恨むのか。


 彼が悪羅になんらかの執着を持っているのはわかる。


 自分で悪羅を名乗り、異能王に攻撃を仕掛けるくらいだ。


 常軌を逸しているし、並々ならぬ恨みを抱いているのはわかった。


 その恨みの原因は、暁悠馬が悪羅を殺したからか生じているのだろうか?


「そうだ。お前は悪で、悪羅は正義だった。この目がそれを証明している!」


「…その目で見ても、悪羅百鬼が何者であるか気づいてないのか?」


 さっきの動き、気やオーラで人を感知することができるなら、暁悠馬と悪羅百鬼が同一人物であることに、気づいているのではないだろうか。


 いくら2人の本質が違うと言えど、元を辿れば同じ人間。


 同じ遺伝子で、同じ力を保有していた以上、彼の目ならば共通点が見えていても、なんらおかしくはない。


「…何が言いたい?」


 ユディットは、悠馬の言いたいことが分からずに強く尋ねる。


 思い当たる節があるのか、動揺を見せるユディット。


 悠馬は小さく息を吐くと、自身の顔の右半分を隠した。


「俺が悪羅百鬼だって話だよ」


「っ…な…にを…」


 ユディットは目を見開き、壁に背を預ける。


 違和感はあった。


 暁悠馬と悪羅百鬼の肉体の構造、オーラ量。

 本質は違えど、それ以外は全く同じだったと断言できるほどだ。


 しかし人間の基盤となるのは、本質の部分。


 暁悠馬は人格形成のベースの部分を闇堕ちで迎えているから本質に黒が混ざっているが、悪羅百鬼は人格形成のベースの部分が成人に近かったため、本質は純白だった。


 たったそれだけの違い。


 人の本質がオーラとしてハッキリ見えるからこそ、それに邪魔をされて暁悠馬と悪羅百鬼がイコールであることを認知できなかったユディットは、地面に膝をつく。


「しかし本質が…!お前には漆黒が混ざっている…!」


「そりゃあ、悪羅百鬼が望んで作り上げた人格…つまり成功体が俺だったってだけの話だからな。人間真っ白じゃいられないってコトだよ」


 悪羅百鬼は自分では、ティナの特異点を乗り越えられないと考え、序盤で暁悠馬を闇堕ちさせる選択をした。


 そうすることによって、暁悠馬は容赦のない人間になった。


 邪魔するものは殲滅、他人の心をへし折ってでも、自身の求めるものを手に入れられる人間となった。


 だから漆黒が混ざっているのは当然のことだ。


「どうだ?満足したか?自称悪羅」


「ふざ…ふざけるな!そんな戯言…!」


 頭では理解しても、心では理解したくない。


 自身の求める輝きだった悪羅百鬼が、自身の最も嫌う人物と同一人物だったなんて、分かっていても理解したくないだろう。


 到底現実が受け入れられないユディットは、悠馬に向けて拳を振るおうとするが、寸前のところで闇の槍がユディットの動きを中断させる。


「っ…!」


「あら。いけませんよ、私の旦那に何をするつもりですか?」


 背後から聞こえる声。


 悠馬が振り返ると、そこには禍々しい鎌のようなものを持った黒髪の女性、朱理と、疲れ果てた様子のアルデナの姿があった。


 ユディットは悠馬の背後に立っていた朱理を見ると、狂ったように目を見開いた。


「なんてコトを…!暁悠馬!オマエ…オマエそのお…」


「戯言はそこまでですよ」


「ぐ…!」


 朱理を見た瞬間目から大量の血を吹き出し、何かを訴えかけようとしたユディットを黙らせた朱理。


 彼が何かを言い切る前に、瞬時に距離を詰めて腹部へと膝蹴りを入れて気絶させた朱理は、肩に携えた禍々しい鎌を振り回し、楽しそうにしている。


 なんなんだ?その鎌は。


 見たことのない武器。


 いや、オーラ量からして神器だろう。


 放つオーラが神々しく、それでいて禍々しい鎌。


 悠馬がじっと朱理の持っている神器を見つめていると、彼女はその視線に気付いたのか、口に手を当てて微笑む。


「ソコに落ちてましたので、戦利品としていただこうかと。…いいですよね?アルデナさん」


 朱理はギョロッとアルデナを睨みつける。


 オマエ、分かってんだろうな?と言いたげに詰める朱理に対し、アルデナはもう好きにしてくれと言わんばかりに小さく頷く。


「プレゼントということで…」


「……」


 一体どういう関係になってるんだ?


 ユディットを気絶させ、アルデナを脅したように見える朱理は、屈託のない笑みを浮かべながら、崩れ落ちたユディットを見下ろす。


「自称なり損ないは後で取り調べるとして、一旦お開きにしましょうか?」


 ユディットが気絶したことにより、徐々に崩れ始める、イタリア支部全土を覆っていた闇のドーム。


 分身体を倒し、ユディットを無力化し、ハデスが去った今、この国に脅威はない。


 あとはユディットをきちんと取り調べし、然るべき処罰を与えることができれば、今回の一件は万事解決だ。


 …そしておそらく、朱理が今片手に携えているのは、ハデスハデスの神器だろう。


 いつ神器がドロップしたのかなんてわからないが、デスカウントがタイムリミットになる直前に、置いて行ったのだと思われる。


 神器が発生するタイミングなんてわからないが、貴重な瞬間に立ち会えたのかもしれない。


 気づけば落ちていたハデスの神器。


 そんなハデスの神器を片手に携える朱理を見守る悠馬は、徐々に夕暮れの明るさを取り戻す世界の中、爽やかな風を一身に浴びた。

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