戦斧の咆哮(戦斧編)
## 光雷卿のトラウマ
ダリオは倒れた光雷卿に向き直った。
すぐに火をおこし皮袋から金属棒取り出し赤熱したそれを確認して
「閣下、まずはこれを取り除かねば」
ダリオの手が素早く動き、光雷卿の大腿部に深く刺さったままの黒豹の短刀に触れた。
「待て……」
光雷卿の言葉は途中で途切れた。ダリオの容赦ない手つきが短刀を掴み、一気に引き抜いた。
「があああっ!」
光雷卿の全身が跳ね上がる。血が噴水のように迸った。
「動くな!」
ダリオは叱責し、腰の袋から赤熱した金属棒を取り出した。
「……それは?」
光雷卿の目が恐怖で見開かれる。
「焼灼術だ。感染予防には一番確実で……一番痛い方法だ」
ダリオの少し笑み浮かべながら。「でも閣下には耐えてもらわねば」
「やめろ……それは……」
光雷卿の懇願も虚しく、ダリオは躊躇なく赤熱した金属棒を傷口に押し当てた。
「うわあああああああああ!!」
絶叫が雷霆砦に響き渡った。
血が沸騰し肉の焦げる臭いが立ち込める。光雷卿の全身が痙攣し、汗と涙が混じり合って滴り落ちた。
「これで終わりだ」
ダリオが満足げに血と肉汁のこびりついた金属棒を引くと。傷口からは白煙が立ち昇り、かろうじて止血されていた。
光雷卿の全身が激しく震え、ついには意識を失いぐったりと倒れ伏した。顔面蒼白で泡を吹いている。
ダリオは自分の行いを反省することもなく涼しげな表情で言った。
「これで生き延びられるだろう」
光雷卿のトラウマが生まれた瞬間だった。
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ロレンソが担架を持って現れた。血まみれの光雷卿を慎重に乗せる。
「ダリオ殿、閣下は?」
「大丈夫だ」
ダリオは短く答え、なお激しい攻撃をしてくるデリア軍していくる眺めた。
## 撤退の決断
戦場の奥からロレンソ(時渡)の冷静な声が響き渡る。
「光雷卿が負傷された!全軍撤退を命じる!」
彼の判断は早かった。ベルガー家で最も重要なものは怪我をした光雷卿の治療と告げていた——今のベルガー家は光雷卿がすべて、戦闘継続ではないと。
「撤退だ!南西の隘路を通って後退せよ!」
パベル軍全体に動揺が走る。雷霆砦で優位に戦っていたのに撤退とは。
「光雷卿は?」
アイリの(戦斧)しかっりした声で尋ねた。
「彼がいなければベルガー家は終わる」ロレンソ(時渡)の目に覚悟の色が浮かんだ。「だからこそ撤退する!」
## 殿軍の使命
「アイリ!(戦斧)おまえに重要な任務がある!」
ロレンソの厳しい視線にアイリ(戦斧)は既に察していた。巨大な戦斧を地面に叩きつけて答える。
「承知した!全軍が撤退するま持ち堪やろう!」
彼の逞しい体が緊張に包まれる。殿軍は最も危険な任務だった。
「デリア軍は必ず追ってくる。黒豹部隊も半数は健在だ」
ロレンソ(時渡)の表情が曇る。「最低でも三時間は保たせてくれ」
「分かった、何時間でも防いでやろう」
アイリ(戦斧)が巨大な戦斧を肩に担ぎ上げた。「我が武名にかけて!!」
## 戦斧の咆哮
パベル軍の撤退が始まると同時にデリア軍が怒涛の勢いで押し寄せてきた。デリアの本隊はラウテル山の西側から回り込み、黒豹部隊の生き残りと合流しようとしている。
「戦斧だ!戦斧が立ちはだかっているぞ!」
デリア兵の叫びが戦場に響く。一人戦斧が撤退路の要所に立ち塞がっていた。巨漢の体が戦斧を構えているだけで威圧感が凄まじい。
「そこをどけ!」
デリア兵十人が一度に襲いかかる。弓兵が矢を射かけ、投石兵が岩を投げつける。しかしアイリは巨大な戦斧を振り回し、そのすべてを薙ぎ払った。
「どかぬ!」
彼の叫びがラウテルの山に木霊する。
戦斧が閃くたびに血煙が上がり、黒豹兵の体が吹き飛んでいく。その姿はまるで鬼神のようだった。
「進めぇ!」
黒豹副官の命令で精鋭部隊が左右から包囲する。だがアイリは動じることなく右に左に戦斧を振るい続けた。
「ラウテルの山を血で染めるがよい!」
彼の咆哮が天を突き、岩肌に反響して無数の声になる。まるで百人の戦士が同時に叫んでいるかのようだ。
「怯むな!」
デリア本隊の将軍が叫ぶ。数百人の兵士が波のように押し寄せる。戦斧の体には無数の傷が刻まれていた。腕から肩から血が流れている。しかし彼の戦斧は衰えることなく振り回され続けた。
「ここでデリア軍を通す道はない!!」
再び彼の咆哮が山に轟いた。その声は山を越え、撤退するパベル軍の耳にも届いたという。
## 英雄の孤独
時間は残酷に過ぎていく。
二時間が経過した頃には戦斧の周りに死屍累々のデリア兵の山が築かれていた。だが彼自身も限界を超えていた。
「まだか……」
歯を食いしばりながらアイリは戦斧を地面に突き立てた。片膝をつき、荒い息を整える。その隙を逃すはずもなくデリア兵が殺到する。
「今だ!」
戦斧は最後の力を振り絞って戦斧を水平に薙ぎ払った。血しぶきと共に五人のデリアが吹き飛ぶ。
「アイリ隊長!」
一緒に付き合っている兵が戦斧の兵が心配そうな声を上げる。
「心配するな!」
彼は振り返りもせず怒鳴った。
「お前たちも引け!ここは俺一人で十分だ!」
再びデリア兵の大群が押し寄せてくる。戦斧は不敵な笑みを浮かべながら戦斧を掲げた。
「ラウテルの山を……墓標としよう!」
彼の咆哮がまたしても山に響き渡る。
戦斧が夜空に銀色の軌跡を描きながら振り下ろされる。そこにはもはや英雄の姿ではなく、一つの伝説の誕生が刻まれていた。
# 撤退完了 - パベル軍の悲壮な凱旋
パベル軍本隊が南西の隘路に辿り着いた時、ちょうど三時間の制限時間が過ぎていた。
「アイリ殿は?」
遠目の問いにロレンソが首を横に振る。
「おそらく……」
言葉を濁したロレンソの目に涙が浮かんでいた。だがそれを拭うことなく前方を指さした。
「我々の帰るべき道はまだ遠い。進軍を続けよ!」
兵士たちの間に沈黙が落ちる。だが誰も後ろを振り返ることはなかった。彼らの胸にはラウテルの山に響き渡った咆哮が深く刻まれていたからだ。
「アイリ殿の犠牲を無駄にするな!」
遠目の怒号に兵士たちが一斉に頷く。疲労困憊の体を引きずりながらも、パベル軍は確かな足取りで南西への道を進み始めた。
「アイリ殿……御武運を」
ロレンソの小さな呟きだけが山風に運ばれていく。




