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転生したけど魔法が使えないので薬師を目指していたら幼馴染み魔術師が私を溺愛してきます  作者: みゆり


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157/158

157.王城の式典と独り言

 王城で行われる式典の列席者はラルフェリア王国の高位貴族、周辺諸国、友好国の貴族、各方面の有力者らである。


 毎年の恒例行事という事もあり、列席者の顔ぶれは殆ど変わらない。だが今年は珍しく遠い海の向こうの国、ジャブィードの王が遥々訪れるとあって、皆が何処か色めきたっていた。


 海を越え遥か南東にあるジャブィード国はラルフェリアのある大陸とは異質な独自の文化を築き、最近は王が代替わりした事も要因か稀少なジャブィード産の食物や工芸品等が入り、ラルフェリアの港町に並ぶようになっていた。


 式典を滞りなく終え国賓らに用意された特別なゲストルームにはジャブィード王の周りに次から次へひっきりなしに人が挨拶へ向かう。


 さらに彼らの注目を浴びた要因は齢二十一歳の若き王ハーデス・エビ・ジャブィードの容姿がひどく美しい事でもあった。艶めかしい青みがかった茶の髪を後ろに束ね、凛とした佇まいはまるで至高の彫像物のようである。


 さらに彼はいまだ婚約者も定めていない未婚の男というのだから、あわよくば自分の娘を妃にと望む貴族は数えきれぬ程いた。


 「此度は遠方よりご足労いただき感謝します。ジャブィード王陛下」


 以前耳にした事がある声を思いだし、王が顔をあげる。視線の先は金髪緑瞳の青年で、彼もジャブィードと並び立つに相応しく麗しい容姿であった為、周囲の関心を惹き付けた。


 「ああ、戴冠式以来か、ウィリアム殿下。ラルフェリアは暖かく過ごしやすくて良い国だな。さて殿下には向こうで約束した通り、この地の案内を頼むぞ」

 「ええ、勿論」


 数ヵ月前、ウィリアムはラルフェリア国王代理の任を負い、ジャブィード王の戴冠式に参列した。その際、多忙にもかかわらず王と直属の配下達が滞在中のウィリアムを手厚くもてなしてくれた。


 今回ジャブィード王は国内の政務があるため明後日にはラルフェリアを出立する予定だ。実際はほぼ時間が取れないので近隣にある国立施設を巡る事になるだろう。


 それと、と王が微笑んだ。


 「あと夕刻頃、もう一人ジャブィードの者がここに到着する予定なのだが、部屋を一つ用意してもらえるか?」

 「わかりました。ですがその方はどういった方ですか?」


 王は独身のため親族か懇意の者が来るのかと考え、ウィリアムは尋ねたのだが王の答えは意外なものだった。


 「私の妹だ。体が弱く普段は王家の避暑地で過ごしているんだが、最近体調が良くてな。今は遠出もできるほどに回復した」

 「! 妹姫がこちらに? それは大変だ、すぐに部屋の準備を」


 側仕えが背後に控える使用人に指示を出した。妹姫はこれまで殆ど国外に出た事がない、王にとっては目に入れても痛くない程可愛がり大切にしていると周囲では噂されている位だ。そんな姫がやって来る、王共々、丁重にもてなさねばならない。他の国賓も宿泊する為、今夜から忙しくなるだろう。


 ジャブィード王とウィリアムがソファーに座り話していると、豪奢な司祭服に身を包んだ老人がやって来た。その姿に気づいたウィリアムが表情を一瞬消した。彼は大司祭ガルシア、ラルフェリアにおける女神教全信徒を統べる男だ。


 彼は寛ぐジャブィード王の前に跪き頭を垂れた。例え大司祭であれ王より先に声をかける事は許されていない。沈黙する大司祭を見下ろし、ジャブィード王は鷹揚に「何用か、申してみよ」と呟いた。


 「恐れながら――」


 姿勢はそのままでゆっくりと顔をあげたガルシアはジャブィード国で働く信徒達の状況や希望を話し始めた。やがて話は大司祭が真に求める内容へと繋がる。


 だがいよいよ大聖堂造営の許可をと口にする所で突如地面が揺らいだ。これは地震だ、そこで彼の話は中断された。この揺れは何事かとゲストルーム内の貴族達がざわめき、そのうちの一人が窓を開け空を見上げて指差した。


 「なんだあれは、黒い雲があんなに沢山集まってきている!」


 次第に他の者達も窓から外を確認し声をあげた。


 「本当だ。これは一体なんだ……?」


 感謝祭だというのにこの異常な事態は只事ではない。即座に現れた魔術師団の者が王城一帯に配備された結界起動魔道具を発動させた。


 動揺する人々を静かに横目で見据え、ジャブィード王が徐に立ち上がる。話を中断され焦ったガルシアが王の足元に縋るように近寄り手を伸ばす。


 「お待ちください! まだお話がっ――」

 「下がれ大司祭、控えよ! 王の御前である」


 俊敏な動きで近衛騎士がガルシアの前に立ち塞がり、ジャブィード王から引き離した。


 王の瞳は窓の向こうのテラスにあり、彼の関心は既に他に移っていた。テラスに移動する王の後をウィリアムがそっとついていく。


 テラスに出た王は空を見上げ、不吉な色合いの雲に目を見張りほの暗い笑みを浮かべた。


 「――まるで世界を塗り替える混沌とした闇色の雲か、これは……面白くなってきた」

 「陛下?」


 「……ああ、気にせずともよい。とるに足らぬ独り言だ」


 独り言。それはウィリアムにしっかり聞こえていたが、特に追及はしなかった。


 「王陛下、城の結界は強固ですが風も強くなっておりますので、今は中へお戻りください。すぐに客室へご案内いたします」


 既に魔術師達がこの状況になった原因を突き止めるため動き出している。状況、報告次第では賓客らを安全確実に母国へ送る手筈を整えねばならない。


 異様に速く流れる闇色の雲を見つめ、ウィリアムは一抹の不安を抱きつつも、ジャブィード王に部屋に戻るよう促し脇に控える側近に命じた。


 「魔術師を呼べ。急ぎ賢者ソルソフィア・マーラムに魔術伝令を送る。その後すぐ陛下にお会いする、取り次ぎの準備をせよ」

 



 

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