パチンコはやめた。でも俺は今日も「当たり」を待っている
今日、会社から配車依頼が入った。
お客様を乗せて、行き先を聞く。
「DSGメガワールドまで」
パチンコ屋である。
車を走らせながら、何となく聞いてみた。
「最近、出ますか?」
タクシードライバーらしい雑談である。
お客様は、
「日によりますね」
と答えた。
そりゃそうだ。
毎日出るなら、パチンコ屋ではなく銀行と呼ばれている。
俺は続けた。
「僕、昔かなりハマってたんですよ。ギャンブル依存症みたいになってて。三年くらい前にやめることができました」
するとお客様が言った。
「絶対、やらない方がいいですよね」
おい。
今からパチンコ屋へ行く人が言うセリフではない。
心の中で笑った。
でも俺も素直に、
「そうですね」
と答えた。
すると、ふと思いついて、こんな話をした。
「でも僕、タクシーやってて思うんですよ」
「はい?」
「お客様が次から次へ乗ってくださる時が、たまにあるんです」
一本終わる。
ピコン。
GOが鳴る。
それを降ろす。
ピコン。
Uberが鳴る。
また降ろす。
道路へ出た瞬間、
「タクシー!」
手が上がる。
さらに会社から配車。
気がつけば、休む暇もない。
そんな日がある。
俺は言った。
「その時、昔パチンコが掛かってる時と同じような興奮があるんですよ」
お客様が、
「本当ですか?」
と笑った。
本当である。
むしろ、かなり似ている。
タクシーという仕事。
冷静に考えると、結構ギャンブル性が高い。
もちろん、金を賭けるわけではない。
ただし、
「次に何が来るか分からない」
という点では、相当なものだ。
GOが鳴る。
画面を見る。
迎車先が出る。
まず、ここで一回期待する。
「どこ行くんやろ」
お客様を乗せる。
そして目的地を聞く。
ここがタクシードライバーにとっての、
ボーナス確定演出である。
「金沢駅まで」
千円前後。
通常演出。
「野々市まで」
おっ。
ちょっと熱い。
「白山市まで」
おお。
来た来た。
「小松空港お願いします」
脳内で、
キュインキュインキュイン!
である。
もちろん、表情には出さない。
「かしこまりました」
プロなのである。
だが心の中では、
完全に確変に入っている。
そして怖いのは、
一本いい仕事が来ると、
「今日は来る日なんじゃないか?」
と思い始めること。
これも昔と一緒である。
パチンコで一万円勝つ。
すると、
「今日の俺、持っとる」
と思う。
タクシーで五千円の仕事を一本取る。
すると、
「今日、あるぞ」
と思う。
何が「ある」のかは分からない。
でも、ある。
タクシードライバーにしか分からない、
謎の「今日はある感」。
逆もある。
一時間、何もない。
GOも鳴らない。
Uberも鳴らない。
手も上がらない。
会社依頼も来ない。
そんな時は、
「この台、死んどるな」
と思う。
いや。
台ではない。
金沢市である。
そこで場所を変える。
武蔵へ行く。
鳴らない。
東山へ行く。
鳴らない。
広岡へ行く。
鳴らない。
片町へ行く。
鳴らない。
完全に、昔パチンコ屋で店内をカニ歩きしていた頃と一緒である。
「あの台、ダメや」
「こっち行くか」
「いや、あそこが怪しい」
俺はパチンコをやめたはずなのに、
金沢市全体を巨大なパチンコホールとして立ち回っている。
しかもタクシーの場合、
時間帯によって「島」が変わる。
朝はホテル。
昼は観光地。
夕方は駅。
夜は東山。
深夜は片町。
イベントがあれば会場。
雨が降れば住宅街。
完全に釘を読んでいる。
……いや。
今の俺が読んでいるのは、釘ではなく人流である。
さらに、
「昨日ここで鳴った」
という記憶が、また厄介だ。
昨日、東山で三連チャンした。
すると今日も行きたくなる。
パチンコで昨日出ていた台が気になるのと、
何が違うのだろう。
たぶん、
かなり違う。
でも俺の脳みそは、
そこまで細かく区別していない気がする。
「昨日、ここで当たったぞ」
それだけである。
ただし。
決定的に違うことが一つある。
パチンコは、
当たるまで金を入れる。
タクシーは、
当たったら金をもらえる。
これはデカい。
ものすごくデカい。
昔の俺は一万円札を機械に吸い込ませ、
「頼む。返してくれ」
と祈っていた。
今の俺はお客様を目的地まで送り、
「ありがとうございました」
と言って売上を積み上げる。
同じ「当たり」を追いかけるにしても、
ずいぶん健全になった。
しかも、タクシーは経験まで残る。
この時間はここが強い。
このホテルは朝が動く。
この曜日は弱い。
このイベント終了後はここへ行く。
失敗しても、
「次はやめとこう」
というデータになる。
パチンコで負けた時も、
「この店はやめとこう」
と思っていた気がする。
しかし、なぜか翌週には行っていた。
人間とは不思議なものである。
DSGメガワールドに到着した。
料金をいただき、
お客様が降りる。
「ありがとうございました」
ドアを閉めた。
お客様は店内へ向かって歩いていく。
三年前までの俺なら、
あっち側だった。
今の俺は車を走らせる。
GO、オン。
Uber、オン。
無線、オン。
そして思う。
鳴らんかな。
……。
俺、
パチンコはやめたけど、
「次の当たりを待つ」
という行為そのものは、
全然やめてない。
ただ、
台がハンドルに変わった。
液晶画面が金沢の街に変わった。
そして大当たりした時、
今度は俺が金をもらえる。
考えてみれば、
最高の機種変更だったのかもしれない。




