第一話
ヘルマン率いる特務小隊は、重苦しい空気が立ち込める作戦会議室に召集されていた。
長机を挟んで対峙するのは、軍の上層部と、国防の舵取りを担う政治家たち。その冷ややかな視線は、兵士を人間としてではなく、国家の「資産」として値踏みしている。
「あなた方を呼び出したのは、現時点で把握している帝国軍の魔導戦装の情報を共有するためです」
国防政策局長ヘレナ・スターリングが、整列する八人に鋭い視線を向ける。その傍らで、ルイーズ・ハルバートが手元の端末を操作し、秘匿資料を各員のデバイスへ転送した。
「それが、命を賭して持ち帰らせた最新のデータだ。全員、頭に叩き込んでおけ」
ルイーズの声には、隠しきれない棘があった。
「手間と……多くの『命』をコストにしたわりには、いささか情報の解像度が低い気もするがな」
ルイーズの皮肉を無視し、官僚的な口調で進行役の男が告げる。
「データが示す通り、ガルド帝国の魔導戦装の戦闘能力はいまだヴァルキュリアを凌駕しています。アリア・フィオルは引き続き直接戦闘を回避し、実戦を通じて機体との同調を深めてください」
形式的なブリーフィングが終わり、解散が命じられる。ヘルマンが早々に部屋を去る一方、残された七人は、磁石に吸い寄せられる砂鉄のように、いつもの待機室へと集まった。
ソフィアが、憔悴しきったアリアを支えて椅子に座らせる。
「アリア、大丈夫? 何か飲みたいもの、ある?」
「……お水を、お願いします」
俯いたまま、アリアが掠れた声で答える。ソフィアは優しく頷き、水の入ったグラスを手渡すと彼女の隣に腰を下ろした。
「リサ・フェルナー、情報担当のお前の意見を聞かせてもらおう。さっきのデータ、お前はどう見る?」
ダリルの問いに、リサは待機室のモニターに解析図を映し出した。
「局長の言い分は半分正解、半分は『現場知らず』ね。確かにヤツの瞬間最大出力は異常よ。でも見て、出力の波がガタガタ。何らかの理由で魔導核が悲鳴を上げてるのね」
リサが端末を叩き、二つのグラフを重ねる。
「逆に、ヴァルキュリアは安定している。アリアが戦闘を重ねるごとに、機体が彼女の精神に……まぁ、いい言い方をすれば「馴染んできている」わね。純粋な出力勝負なら分が悪いけど、作戦や連携次第ってとこ」
「だが、あの『黒曜三刃隊』がそれを許さんだろう」
ヴォルフが太い腕を組み、唸るように言った。
「前衛の二機がこちらの陣形をかき乱し、あの死神のような狙撃手が後方から心臓を狙ってくる。ヤツを単体として落とすのは、現状じゃ不可能に近い」
「狙撃の牽制なら、僕がやりますけど……随伴機まで含めると、今の僕らじゃ手が足りませんね」
アーヴァインが貼り付けたような微笑を崩さず、冷徹に戦況を分析する。
「話し合いがハイレベルすぎて、頭が痛くなっちまうよ……」
カイルが顔を覆う。そんな彼の手を、ソフィアが優しく叩いた。
「大丈夫よ、カイル。私たちがやることは変わらないわ。……アリアとヴァルキュリアを、絶対に守り抜くこと」
会議室の冷たい空気とは違う、確かな熱量を持った決意。
導き出された結論は「特務小隊としての連携は向上しているが、未知の要因が多すぎるため、依然として決戦は時期尚早」という、苦渋の据え置きだった。




