肉だという自覚を持ってくれ
今度は俺が涼の肩に顎を乗せる。涼のもこもこパジャマの中に腕突っ込んで。
「……ちょっ! 啓、それダメ、ストップ、ストップ! 良い子だから止めよう!?」
あぁ良かった、起きてくれたみたい。いや良くはない。まだ涼は分かってなさそうだから。ちょっと警告。胸を両手で包むように持ち上げる。服をめくってなければセーフでしょ。
叫び続ける涼。
「グリンピース、グリンピース!」
グリンピースが魔法の呪文のようになってしまった。やっぱり可哀そうかな。腕を下ろす。
その隙をついて、涼は俺から少し距離を取った。 それでも三十センチ離れたレベル。まだ近いよ。もっと警戒して。
「涼、俺はとっても言いたい事があります」
「えっ、あ、うん」
俺は涼の前に正座。冷静に見せかけて俺自身の心と体も落ち着かせている。
「あのね、俺はとても我慢しているんです」
「うん?」
「涼は今ライオンの前に肉を置いている状態です」
「食べさせてあげれば良いじゃん」
「ところがどっこい。肉が食べちゃダメって言うんだ。勿論肉は食べて良い状態になっている」
「お肉は喋らないよ」
「喋る肉も存在すると思って」
まぁ肉体とも言いますし。
「よく分からないけど、あたしが何かしたって事かな。どうすれば良い?」
何かしたって言うか、色々やらかしているって言うか。無防備過ぎるんだ。
いっそ卑猥な妄想を語って涼が出て行ってくれるのが一番安全な世界なんじゃなかろうか。それはそれで悲しいし、あんまり嫌われたくないんだけど。どういうのが正しいかな。
「涼はもっと、自分の可愛さを自覚して」
ちょっと論点がズレた発言をしたような気もする。
「可愛さって……別にそんな可愛いと思わないし。兄貴とほとんど同じ顔だよ」
「良牙についてはムカつくけど、二人とも顔は良いんだよ。でも奴の行動だけは男というより雄だし。まずおっぱいがあるか無いかで全然違う」
間違いなくセクハラ発言だけど、これは理解してほしい。
「でも胸は消しようが無いもん」
別に俺は胸消失を望んでいる訳ではないよ。むしろ消えたら泣くよ。
「それは分かってるよ。というか消されても困る。まぁ何が言いたいかと言うと、危機感を持って欲しい」
「危機感?」
「どんなライオンでも時に我慢の限界を迎えるもんで。肉が泣こうが叫ぼうが肉食いたい以外何も考えられなくなる訳だ。そうならないように、まず肉に自衛しろって言いたい」
「もしかして、あたしがお肉?」
「イエス」
良かった、段々会話が繋がって来た。
でも涼はまだ納得していない様子だった。
「でもあたしだよ? 世の中もっと可愛い子いっぱいいるよ」
いや涼並みに可愛い子は中々居ないと思うがな。
「高かろうが安かろうが肉は肉。大丈夫、涼は高級肉だよ」
自分で言っておいて何だけど、その褒め方はどうなんだろう。
「そ、そう……?」
何で照れてるの涼。あ、そうか。この子かなり金銭に敏感だった。バカの口説きも時には成功するもんなのか。
「うん。だからもう安易に男の目に入る所で寝ないように。というかまずね、いくらお金が勿体ないからって男の部屋に泊まって、男にエロい事すんなって言うのは酷だと思う」
「……そうだよね。ごめん」
「良いよ。でも、とりあえず今日は一緒に寝ようか」
「それはちょっと」
「うん。そう断られて留まれるのも今だけかもしれないから。今日は互いに早く寝よう。本音を言うなら、俺は風呂上りの女の子に抱きつきたいと思っている」
「……啓、あたしがここに居るのも、あとちょっとだから」
そうか、良牙が帰ってきたら帰る気はちゃんとあるんだな。
「でも自分のために今すぐ帰っても良いんだよ」
「それは勿体ないからさ」
「そこまで言うなら良牙と交代してずっとここに居て良いんだよ」
「さすがに親に怒られるからダメ」
バレたら今すぐ怒られる可能性があると思うんだけど。本当に大丈夫?
まぁ、実際はもっと短い期間の可能性が高いしな。
「仕方ない。あとちょっと、頑張って耐える」
それ以上はもう知らない。
「それなんだけど」
「ん?」
「啓が頑張って残り時間あたしに何もしないでいてくれたら……去年友達と海行った時に撮ったあたしの水着写真をあげよう」
「何も分かってないじゃないか」
全く、何考えてんだ涼は! 欲しい、くれ!
「だって酷だっていうから。直接見られる訳じゃないならまだ……水着だし。あたしなんかので良いのなら」
「なんかじゃないよ!」
「それは、喜ぶべき?」
「誇っていい」
俺は高校どころか中学小学幼稚園ですらモテていないから。本当に女の子に飢えてる。けど水着写真で満足できる奴だからその条件で喜べる。
でも中には水着写真じゃ物足りないって奴も居るだろうし。やっぱり安易にそんな攻撃はすべきではないと思うんだよ。
「ちなみにエロい事したら水着写真はあげないよ」
「本人に手を出せるのに、本人の水着写真渡されても」
「あたし写真写りめちゃくちゃ良いから、写真貰った方がお得だよ!」
「直接触れない水着と、直接触れる全裸じゃ比べるまでもないじゃないか。でも涼、見くびらないでほしい。俺は写真無しにでも手を出さないよう頑張るから」
「でもさっき」
「あれは不可抗力。まぁ頑張って耐えるから。涼は涼でガード固めて。あといくらお金が勿体なくとも、俺以外の男の所にはもう二度と行くんじゃない。俺より力の強い男相手じゃ、多分涼は食われるから。まずは二段ベッド上段に避難して」
「う、うん。おやすみ」
言われるがままに上段ベッドに行った涼。それはそれで不安。俺は大人しくベッド下段へ入り、また布団に潜り込む。手を出したいのは本当に本気。でもそれで嫌われたくもないから。
油に遊んでもらおう。




