無防備総攻撃
「啓、出たよ」
湯上がり直後の、火照った頬の破壊力よ。
そして黄色とピンクのボーダー柄の、もこもこパジャマも可愛らしい。
これはマズいですってば。逃げよう。
「じゃ、俺も入ってくるから」
「うん。あ、出る時ちゃんと髪の毛乾かしなよ。昨日乾かさないで寝てたでしょ。ドライヤー無いなら、あたしが持って来たの使って良いよ。光熱費はちょっとかかるけど、風邪を引いちゃった時の病院代を考えれば問題ないから。あたしもさっき使わせてもらっちゃった」
「涼は先の計算までちゃんとしてるから偉いな。じゃ、入ってくる」
「いってらっしゃい」
いってらっしゃいって言われるのも何か良いなぁ。行くの風呂場だけど。
心を静めながら、脱衣所で服を脱ぐ。そして風呂場の扉を開ける。いざ。
いつも通りの風呂場だ。強いていうなら、まだ床が乾いてないから濡れている。それだけ。
それだけのはずなのに、何故だろう。使用感あるだけでちょっとドキドキする!
ドキドキはしたけど、いつも通りに入って。ドライヤーも使って、ちゃんと乾かした。
さてと、今日も頑張って我慢しますか。
「涼、お風呂上がったよ」
脱衣所の扉を開けて、涼のいる部屋へと戻った。
開けた瞬間、寝息が聞こえてきた。見れば涼が机にうつ伏せて寝ている。
間違いない、これは危険なやつだ。
右から見ても無防備、左から見ても無防備。さらに上から見ても無防備。
下からは見えないけどきっと無防備だ!
俺が放っておく訳ないね!
いや、耐えよう。俺は涼に触れずに声をかける。
「涼、起きて。寝るならお布団で寝ないと風邪引くよ。風邪引いて悪化して入院なんて事になったらお金かかるよ」
「……うん……」
起きない!
いや出来る事なら寝かせてあげたいんだよ。ここに来てから家事と俺の世話しかしてないから疲れてると思うんだ。今日は子供達と走り回ってたから余計に疲れてるだろうし。正直想像以上に走り回ってた。風呂に入った事で、その疲れが一気に出たのかもしれない。
こんな所に来てしまった涼の自業自得でもあるんだけど。だけど!
このままにしておいて俺を犯罪者にする訳にはいかない!
「涼!」
わりと大き目で呼んでみたけど、全く起きない。 俺これ知ってる。詰んだって言うんだ。じゃなけりゃ何て言えば良いんだ!
耐えかねて、耐えかねて。ついに手を伸ばす。
気づいたら、涼のほっぺを突いていた。むにぅ。
あぁダメダメ。それ位で終わらせておきなさい。今ならまだ間に合うよ。
でもちょっと感動。涼のほっぺを突いた指を眺める。
普段自分が使っているものを持ってきたのか、彼女の髪からは俺が普段使用しているシャンプーとは違う匂いがする。
うんうんドキドキするね、でもここで留めておこうね。自分にそう言い聞かせて。
「涼子ちゃーん」
涼の肩を軽く叩く。手は出したがきっとまだセーフの領域。
少しだけ目を開けた涼が、ゆっくり上半身を起こす。良かった、まだ半分寝てるっぽいけど、寝て無ければ俺だって留まる事が出来る。
「うん……啓……?」
そう言えば涼、俺よりも早起きだったから。寝顔・寝起き顔なんて見た事なかったよなぁ。可愛い顔してるわぁ。
だが落ち着け俺!
気持ちは分かるが無理矢理ダメ絶対。その若干震えてる体どうにかして!
「ここで寝たら風邪引くよ。俺と違ってバカじゃないんだから」
まだ人に優しくする余裕を見せる。
でも多分内心は動揺しまくり。下唇めっちゃ噛んでる。
涼が寝ていた机を、部屋の端に押し出した。これで涼がまた机にうつ伏せる事もないだろう。よしよし。
まだ少しボーっとしている涼。
もしかして涼って、一回寝たら起きるのに時間かかっちゃうタイプなんじゃないだろうか。だとしたら凄いなぁ。それでも毎朝早起きしてるんだもん。
「りょーう」
早くどうにか動いて欲しくて。机が置いてあったスペースに移動し、涼の真正面に座る。
「……うん……」
うんとしか言ってないな、さっきから。ウトウトしているのかこれ、首がこっくりこっくりしてる。
「はいもう起きて。寝るなら寝るで俺の手の届かない所で寝て」
俺は涼の顎の下に右手を出した。こっくり防止。涼の顎が、俺の手の上に乗っかった。
昔、油相手にアゴって芸してたんだけど。その時は犬だから可愛い芸だよなぁとか思ってた訳だ。
今分かった。女の子相手でもクッソかわいい。
なんというかもう、相当……相当俺の体が震えてらっしゃる!
そりゃそうだよね、かわいいもんね。でも抑えよう。抑えて。
「涼、あのね、っもうね、理性のね、限度がね」
正直に言おう。マジで余裕が無い。
「うんうん……」
涼は口を動かしているものの、目は閉じている。多分今ならキスくらい出来る。
あぁ、これはもう。
きっと俺は今、本当に余裕無さそうな顔してる。
気づいたら涼の体に両腕をまわした。




