もはや色々諦めた
「だろ。だから可愛い女の子が自分の好きな料理作ってくれれば一番嬉しい。でも両方は流石に高望み過ぎる気がするから。作ってもらえるだけで十分だ。よって、お昼の残りでも文句言いません」
自分の身分はわきまえているつもり。
「まぁ作ってる側からすれば助かるから、それで良いなら良いんだけどね。むしろありがたいや」
「むしろありがとうはこっちだけど……じゃあお礼に帰ってくれる?」
「まだ諦めてなかったの?」
「こっちのセリフなんだが」
「あと三回寝れば帰るってば」
「やめなさい違う意味に聞こえる!」
「違う意味って何さ。とにかくまだ帰らないっ」
なんて頑固なんだ。あと三回もこんな……いや待て。
涼は五日って言ってるけど、神様パワーにお願いしたのって三日だな。だとしたら今夜を過ぎれば峠は越す……?
「じゃあ仕方ない。良牙が帰って来るまでな! アイツいつ帰って来るか分からないけど!」
「あたしが言うのも何だけど、突然どうした? 急にテンション上がったね?」
「希望の光が見えてな」
「よく分かんないけど泊めてくれんなら別にいいや!」
「そうだ、今までの感謝を込めて明日のお昼は俺が作ろう」
「えっ」
表情が強張る涼。そりゃ怖いよね、バカが作る料理だもんね。
でも俺はバカなので気にせず笑顔で質問する。
「何食べたい? 難しいものは作れないけど、簡単なやつなら俺出来るよ」
「いや、作るのって大変じゃん。あたしは半分趣味みたいなもんだから苦じゃないけど。啓だって食べる方が好きでしょ」
「そりゃそうだけど。俺が他にお礼出来るとすれば涼の性欲を満たしてあげる位しか出来ないと思うから。あ、そっちの方が良」
「よし、お昼作ってもらおう」
バカの発言に被せたね。でも実際問題、俺に出来るお礼って本当にそれ位だと思う。肩揉みだって途中で手が胸の方に行きかねない。
「じゃあ何食べたい?」
「えーと。そう、だねぇ」
涼は頭を抱えて考えている。そうだよね、考えるよね、命に係わる事だもんね。
あ、そうだ。重要な事を考えていなかった。
「材料あるものでじゃないと作れないから。冷蔵庫と相談して決めるのでも良いよ」
その方が金銭的にも良いし、涼も決めやすいだろう。
涼は冷蔵庫の中を少しだけ覗いて、答えを見つける。
「……卵かけごはん」
火も包丁も使わないやつ!
最悪卵のカラ入っても自分で取れば良いもんね。なるほど、良い考えだ。
でもそれじゃ俺は納得しない!
「俺が料理出来ないと思ってるでしょ。大丈夫、ばーちゃんの手伝いしてたりしたし。学校でも色々習ったよ」
「……じゃあ、目玉焼き」
涼は俺に包丁を握らせたくないのだろうか。確かに危なっかしいかもしれないけど、使えない訳じゃあないよ。
「昨日食べたじゃん。もっと違うのにしよ。そうだ、そんなに卵食べたいならオムライス作ろうか。俺にも作れるし」
きっと涼は卵が食べたいんじゃなくて、何を作らせたら台所が流血沙汰にならずに済むかを考えて言ってるだけなんだろうな。
「ほ、本当に作れるの?」
「任せて」
自信満々。流石に涼も、その自信を受け入れてくれるようだ。
「……分かった。期待して待ってる。とりあえず夕飯食べようか」
そう言えばまだだったね。俺達よくご飯の前にご飯の話するなぁ。
お弁当の残りを食べて。
涼が食器片づけて、俺が風呂の掃除をしてから入浴する。分担作業。だけど本当にそれでいいのだろうか。風呂掃除を終えた俺は、濡れた手足を拭いてから涼の元へ戻る。
「涼。やっぱり風呂先入った方がいいと思う」
「えっ、何で。もしかしてあたし臭い?」
「そんな訳ない。そうじゃないけど、女の子が俺のようなモサ男が出た後の風呂に浸かるっていかがなものかと思うんだ」
「何で啓はそこまで自分を下に見るの。そんな事ないのに」
「そうでもないよ。さ、気にせず入るといい」
「そこまで言うならお言葉には甘えるけどさぁ」
彼女はまだ納得はしてないようだったが、俺が無理やり彼女の背中を押す。
「ほら行った行った」
「待って待って。着替え持って行くから」
涼は二段ベッドの上段に乗せてある持参のカバンから、着替え一式の入ったビニール袋を取り出した。
「の、覗いちゃダメだからね」
一緒に暮らしておいて随分と酷な事を言う。
「分かったから」
分かったと言っておかないと信頼度がすごく下がる。覗かないけどさ。
涼は脱衣所の扉を閉める。一人部屋に残されたが、何だか落ち着かない。今度精神を落ち着けるように良牙の写真でも貰っておこうかな。いや、逆にイライラしそう。




