とあるプロフェッサーの考察
私は、人間の体組織の研究をする中で、『あなこん太郎』と言う日本において最もポピュラーな神話との恐ろしい関連性を発見してしまった。
この恐ろしい考えが頭から離れない。私はもはや、正気ではないのかもしれない。私が私として行動できるうちに、『あなこん太郎』に関する恐ろしい考察をここに書き残しておくことにする。
願わくば、これが私の妄想であることを切に願う。
ミトコンドリア。我々の体細胞の中に存在する、エネルギーの合成を行う重要な器官である。私は何時ものように、ヒトの体細胞を観察していた。そして、ある事実に気がついた。
ヒトの細胞には一定の割合でミトコンドリアと非常によく似た、似て非なる細胞小器官が存在していたのだ。通常のミトコンドリアと異なり、この細胞小器官はヒダが黒いのだ。さらに、そのヒダには蛇のようなウロコ状の模様があり、まるでのたうち回るかのような煽動運動を繰り返していた。
わたしはこの器官を『アナコンドリア』と命名した。
様々な生物のサンプルを観察したが、アナコンドリアは人間の細胞にしか存在していなかった。私は、アナコンドリアの謎を解明するべく、ありとあらゆる実験を繰り返した。そして、アナコンドリアの持つ特性の発見に成功した。以下がその特性である。
●宿主が極限の興奮状態になると活性化する。
●活性状態になると、宿主は知能、身体能力が飛躍的に向上する。
●活性状態の宿主は、残虐性が増し、強い破壊衝動に襲われる。
●アナコンドリアの保有率が高い程、上記の傾向が強くなる。
●アナコンドリアの保有率が高い宿主は、同じく保有率の高い異性に強く惹かれる。
この実験結果を見た私は、『あなこん太郎』の神話を思い出さずにはいられなかった。村人に食べられた蛇の細胞は、彼らの体内でミトコンドリアに寄生してアナコンドリアとなったのではなかろうか。
そう考えると全ての辻褄が合ってしまうのだ。
保有率が高い者同士が惹かれ合い、子を成せば、その子のアナコンドリア保有率はより高いものとなる。世代を経るごとに、人は力と凶暴性を増していく事になる。
ここで思い出してほしい。第一回タナトス大会談以降、世界政府はゴミのポイ捨てや分別、食料の備蓄を呼びかけたが、全く効果が出なかった。
これはあまりに不自然だ。偉い人が言っているのだから、言うことを聞くはずである。
ここまで読んだならば、もう気付いただろう。人類のアナコンドリア保有率が増加した事により、ゴミを平気で捨てる残虐性を持つ人間が増えたのだ。
食料など備蓄するわけがない。食べ物があれば、即座に口に入れ、数口かじったらその場に投げ捨てる。全てアナコンドリアの仕業であったのだ。あなこん太郎を食らった日より、人類には時限式の自爆機構が取り付けられたのである。
そして、私が最も恐れるのは、あなこん太郎の復活である。代を重ねるごとにアナコンドリアの保有率は増加する。まるで、世界に散らばった、あなこん太郎の肉片が一所に集まっているみたいではないか。
アナコンドリア100%の人間がこの世に生まれ落ちた時が、この世の終わりの始まりかもしれない。
ああ、私は私が恐ろしい。最近イライラする。どうしようもなくイライラするのだ。助手が私の事を、プロフェッサー・アナコンダと呼ぶようになった。身に覚えがない。身に覚えがないのだ!!
記憶が途切れる頻度が増えてきた。私はどうなってしまうのか。
どうか、これら全てが私の取るに足らない、妄想であることを願わずにはいられない。




