第15話 クヴェモ公とイーデンディオス
エールエイデ伯がエドヴァルドの権威を認めた事でエッセネ地方の諸侯も全てそれに倣い、ようやく落ち着きを取り戻した。
クヴェモ公はそれを確認してから王都に帰る前にエドヴァルドと二人で話をする場を設けた。
「あまり騒動を起こされては困りますぞ」
「僕は降りかかった火の粉を振り払っているだけだ。皆が自分の義務に忠実であれば何の面倒も無い筈」
「政治とはそんな簡単なものではありませぬ。あのままエールエイデ伯と対決し勝利した所でその後どうなるか考えましたか?勝てば勝つほどより強力な敵が目の前に立ちふさがって来るだけです。次はアイラクリオ公を倒さなければならない羽目に陥り、その次は兄君ですよ」
今はエドヴァルドを辺境においやって安心しているアイラクリオ公も、エドヴァルドが力を持つようになれば、自分の子飼いの部下を打ち倒せば警戒する。
エドヴァルドの下に諸侯が集う前に手を打ってくる、クヴェモ公はそう指摘した。
「そんな事くらい分かってる!兄上と敵対するつもりなんかない」
「で、あればご自重ください」
「・・・僕は民を富ませ旗下の諸侯を導く事も、争いを鎮めて秩序をもたらす事も許されないのか」
「何事もやり過ぎてはならぬ、ということです」
エドヴァルドは不快気な顔をしたまま小姓を連れて城下町の見回りに出て行った。
執務室にはクヴェモ公と助言者として同席していたイーデンディオスが残された。
「正直過ぎますね」
「美点といえるでしょう」
「個人としてはそうですが、立場ある貴族としては如何なものかと。今回も貴方達の助けが無ければ乗り切れなかったでしょう」
「いえいえ、案外うまく乗り切ったかもしれません」
おや、とクヴェモ公は眉を釣りあげた。
以前はあまり評価していなかった筈だ。
「自力でこの地をまとめあげる器量がおありだと?」
「我々はいくらか助言はしましたが、ナイアス家の遺臣を自力でよくまとめておいでです。エッセネ人を味方につけたことで民衆の支持も上々。時間をかければもっと多くの諸侯が靡くでしょう」
「中央ではギュスターヴ殿下が唯一の後継者と決まったも同然で、ようやく落ち着いてきたのにそれでは困りますな」
クヴェモ公はエッセネ人の中立穏健派だが、ザカル人とエッセネ人はもともと同じ民族なので外国人扱いされている訳ではない。
「貴方は以前国王陛下にエドヴァルド様の帝都留学を勧められたとか」
「ええ。当時はスーリヤ様が手放したがらないだろうと断られましたが・・・。今ならばどうでしょうか。スーリヤ様の御意識は戻られましたか?」
いいえ、とイーデンディオスは首を横に振った。
「で、あれば」
「そうですね。今ならばいいでしょう。エールエイデ伯も形式上忠誠は誓っても面従腹背を続けるでしょうし、いずれまた対決することになるかもしれません」
長年この地方の雄として君臨し続けてきた貴族がそうあっさりと引き下がる筈も無い。
「イーデンディオス殿から手配は可能ですか?」
「私が?正規の留学ではないのですか?」
各国の王族の直系であれば帝国から学費の補助がでるが、それ以外の留学では物価も違うし入学金もかなり高額になってしまう。
「国王陛下からのご沙汰ではまた何かと勘繰る者が出てくるでしょう」
「今からでは来年の留学も間に合いません」
「終わりが見えていて軽挙を起こすようなエールエイデ伯ではありません」
短期間であれば伯も大人しくエドヴァルドに従うとクヴェモ公は踏んだ。
「そんなにエドヴァルド様の財力を削ぎたいのですか?」
「平和が長く続けば元は取れるかと思いますが」
イーデンディオスはもうこの国にエドヴァルドの味方をしてくれる大貴族がいない事を痛感した。
「国王からの命令ではないとなると、ご本人が行く気になるよう説得しなければなりません」
「説得にかかる時間くらいはアイラクリオ公が抑えて下さる事を期待しましょう」




